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SP50B.リリカル2:ゲゲゲのリリカル黄金の共同作戦! 九頭竜復活を阻止せよ!!!

「ただいま帰りましたーっ」
 冬木市郊外に建つ冬木教会、通称「言峰教会」に、言峰薫が帰宅した。開いたままの大扉をのぞいてみるが、礼拝堂には誰もおらず静かであった。中を通って待機室も見てみるが、そこにも人気はありません。
 むむむと薫は眉を寄せ、意識を凝らして気配を探る。
 ごくごく初歩の解析探知。目に映るモノの構造などを自分の知識と比較する。
 魔術回路の起動はしない、世界の魔術基盤にもつながらない。多分、衛宮士郎が普段使う解析魔術もこのタイプ。そうは言っても薫の場合、細かな所は判らない。大雑把に見て取って、魔力を探る程度がやっとです。
 ざっと見渡してみたのだが、何処にもおかしなものはない。いつもならいる綺礼とギルガメッシュの魔力も感じない。
 おかしいな?
 何も予定はなかったはずだ。だが教会の雑務はあったはず。だから綺礼はいるはずなのだ。ギルガメッシュは知らないが。
 ちょっと考えた薫だが、ならあそこかなと歩き出す。向かったのは中庭だ。その一角には地下へと降りる階段が口を開けている。灯りのない暗がりに、薫は進み降りていく。

 —— 来るな・帰れ・引き返せ ——

 人除けの結界が拒絶の念を湧き上がらせる。しかし薫はそれを無視する。もう慣れた。毎日通るこの階段、掃除をするのは彼女である。
 降りると地下は礼拝堂。僅かな光が差し込むそこは、荘厳な空気に満ちていた。
 薫はそこも通り過ぎ、地底の奥へと歩を進める。奥の分厚い扉は僅かに開いて、中から光が差している。失礼しますと断って、扉を開くと全身を照らすほどの光が漏れた。

 言峰教会、地下礼拝堂の奥にある、ここは運命(Fate)とは違う場所。

 足下の赤絨毯は真っ直ぐ伸び、堅牢な玉座まで続いている。天井には光り輝くシャンデリア。左右には調度品が飾られて、その全てが美麗にして絢爛だった。
 だがしかし、その輝きの全てよりもなおも目映い一人の男が、黄金の鎧を着込んで樫の玉座に腰掛ける。
 男、すなわち王であるギルガメッシュは足を組み、肘掛けに寄りかかって拳に顎を乗せている。その表情は気だるげで、どうしたものかと思案しているようだった。そのかたわらに言峰綺礼が立っていた。綺礼にしては珍しく眉を寄せて困惑気味か?
 それにしてもコレは一体何ごとだろう。ギルガメッシュの黄金スタイルなど、年に一回くらいしか見ないのですが。
「王様、おじさま。薫、只今帰りました」
 スカートの端を摘んで貴婦人の礼をする。王にかしずく者として失礼のないように。しかし決して媚びた感じにならないように。あくまで優雅に流れるように。ふっふっふ。完璧だ。
 などと薫は思ったのだがだがしかし、ギルガメッシュは呆れた顔だ。
 あれ? と薫が首を傾げると、横の綺礼が口を開いた。
「薫、挨拶は良いのだがな。客人の前だ。それを無視するのは頂けん」
 は? 客人? 薫はきょろきょろ見渡すが、どこにもどなたもおりません。つうか、ここに来れるのは、王様、綺礼、そして自分の3人だけでしょう?
 薫が目をパチパチしていると、ギルガメッシュが珍しく苦笑を浮かべた。
「カヲル、下を見よ。珍客であるぞ」
 下? 目線を下げて見てみると、そこには小さなキューピー人形。しかし、その頭の部分にピンポン球ほどの目玉が付いている。

 えーと、……考え中。……考え中。

「め、目玉の親父ィィィイイイーーー?!」
 言峰薫は絶叫した。

黄金のプチねた50回記念スペシャル!
ゲゲゲのリリカル黄金の共同作戦!! 九頭竜復活を阻止せよ!!! 


「ど、どうぞ」
 薫はちゃぶ台を用意した。そしてハンカチを折りたたみ、座布団代わりに座ってもらう。急須と湯飲みとお猪口なども用意して、お客様にお茶などを淹れてみた。
「おお、すまんのぉ、お嬢さん」
 言ってお猪口を手にして飲んでます。

 ……目玉が。

 向こうで綺礼がこめかみを揉んでいる。ああお父さん、お父さん。貴男の気持ちが良く判る。言峰綺礼、あなたも常識というものの価値をかみ締めているのでしょうね。
 目の前では目玉が、ではなく「目玉の親父」さんがお茶を飲んでいる。お願いだ。目玉のどこでお茶を飲んでいるのか教えて欲しい。
 思わず薫は綺礼を見るが、視線を合わせてくれません。頬を引きつらせていると、玉座のギルガメッシュがため息などを付きました。
「やれやれ、我(オレ)も多くのモノを見てきたが、貴様のような珍妙なる妖(あやかし)は初めてだ。綺礼、この国にはこのような精霊が多いのか?」
「私に聞くな」
 言ってそっぽを向く言峰綺礼。彼はイタリア育ちかスペイン育ち? とりあえず神学校はスペイン・マンサーレにあるイグナチオ神学校を飛び級かつ主席で卒業している。日本の妖怪のことは詳しくないのだろう。……そういう問題じゃないとは思います。
「うむ、ワシは幽霊族最後の生き残りになるのじゃろうな。息子の鬼太郎は幽霊族であるワシと人間であったあれの母と両方の血を引いておるし」
 目玉親父の物言いに、げっ。と薫は身を引いた。ギルガメッシュは鼻白み、詰まらなそうに頬杖を付いてみせる。
「その幽霊族とやらがこの我(オレ)に何の用だ。急に現れたかと思えばこの我に跪き、英霊たる我に話を聞いて欲しいと目玉を地に擦り付けて懇願した故、謁見の場を設けてやったのだ。我の慈悲が尽きる前に申してみよ」
 言われて目玉親父はハンカチ座布団から降りた。そしてちゃぶ台の上でギルガメッシュに向かって土下座する。
「英霊よ、どうか力を貸しては下さらないじゃろうか? この地より遥か南の島で強大な妖怪が動きだそうとしておりますのじゃ。ワシと息子や仲間達が何とかそれを防ごうとしておるのですが、かの妖怪はあまりに大きく、そして異質。ワシらだけでは復活を止められるか判らんのです」
 なにとぞお願いいたします。そう言って目玉、ではなく頭。いや目玉頭? を下げる全長10センチほどのキューピー人形、ではなくて目玉親父さん。
 綺礼と薫が必死になって「どうするよ? これ?」とアイコンタクトを交わしているのだが、さすがの言峰ーズもどうすればいいのか途方に暮れる。見ればギルガメッシュは興味がないのか、あさっての方に視線を向けている。まぁ「雑種か」などと口にしないだけ良かったのかも知れないが、日本人の薫としては、話を聞いて欲しいところです。
「あの、王様」
「なんだ」
 まるっきり、どーでもよさそうに応える黄金のサーヴァント。
「私がお客様のお話をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「許す。カヲル、貴様がこの我に代わってこの謁見を収めるがいい。目玉とやら。この者は我(オレ)に仕える従者カヲルだ。我の代わりに貴様の話を聞かせるがいいぞ」
 ギルガメッシュは立ち上がり、ちゃぶ台の横をすり抜けて歩み去る。目玉親父は呼び止めようとしたのだが、薫がそれを止めさせる。興味を無くしたギルガメッシュに追い縋るなど自殺行為に他ならない。日本人の端くれとして親父さんを守らねば。
 しょぼくれて俯く目玉頭の小人さん。シュールな絵柄に目まいを覚える。さりげなく逃げようとする綺礼のズボンは掴んだままで、親父さんに話を聞いてみる。

「お嬢さんや、九頭竜という妖怪を知っておるかな?」
 知ってます。九頭竜とは土砂崩れが神格化・妖怪化したもので、崖のある深い山などに顕現する多頭竜とされているはずだ。日本の竜としては珍しく、特に水と関連づけをされてなかったような気が。あれ? 土石流だと水なのか?
「おお、お嬢さんは妖怪に詳しいのぉ。じゃがな、ワシらが相手にしているのは山の九頭竜ではないんじゃよ」
 ちゃぶ台の上では親父さんがあぐらを組んで腕を組む。そしてうーむと唸っているが、見ているこちらの頭が痛くなりそうです。
「山の九頭竜ではなく海の九頭竜。どうじゃな? お嬢さんは知っておるかな?」
 海の九頭竜? 知りません。海底山脈の山崩れだとでもいうのだろうか? しかしそれはきっと違うだろう。下から綺礼を見上げるが、私に聞くなとばかりにそっぽを向かれた。
「実はな、海の九頭竜というのは山の九頭竜のような妖怪ではないんじゃよ」
「はぁ、妖怪じゃないんですか? あれ? でも」
 首を傾げる薫に、目玉親父は小さくパチンと膝を叩いて身を乗り出す。
「そもそも海の九頭竜はこの世のものではない。それどころかこの世界のモノですらないのじゃ。あれは異世界か異次元に本体がある怪物でな、その僕(しもべ)が行う儀式によって呼び出される魔物じゃよ」
「なんですかそれはっ?!」
 思わず薫は立ち上がり、そして綺礼と顔を見合わせる。今度は綺礼も眉を寄せ、その表情が事態の深刻さを告げている。すると綺礼はしゃがみ込み、親父さんに高さを近づけ尋ねます。
「それで今はどういう状況になっている? まさか既に儀式は行われ、召喚されるのは時間の問題というのではあるまいな」
「神父さん、そこまで逼迫してはおらんよ。下僕どもが集う島では鬼太郎達が阻止しようと動いておる。ワシと一反木綿はその僕が何処から来るのか調べて、この冬木市に辿り着いたんじゃ」
「ちょっと待ってください! それじゃその僕とかいうのはこの冬木から、その島に流れていったということですか?」
「うむ、そう言うことになるな。そこでじゃ、ワシはかねてから妖怪の間で噂になっていたこの地の英霊に助力を頼もうとしたんじゃが、トホホ」
「あ、いやいや。大丈夫ですよ! 王様はピンチになったらきっと助けてくれますから。って、妖怪世界では有名なんですか?! いやいや、それはともかくこの地から湧き出てるって本当ですか?! 私はこれでも都市伝説(クロウリング・レジェンド)とかは浄化してますよ?!」
 口裂け女、人面犬、ゴーストライダーなど人の噂に存在を依存する怪現象「都市伝説」が、歪芯霊脈の影響下にある霊地冬木ではまま起こる。管理者代行・言峰として、薫はそれの排除をしているのだ。
「待て、ひょっとすると……」
 綺礼が何か思い当たるのか、顎に手を当て考え込んでいる。心当たりがあるのかと尋ねると、綺礼は小さく頷いた。
「今頃、一反木綿が調べておるよ。おお、夜には落ち合う約束になっておった。すまないがお嬢さん、神父さん、ワシをこの町の中心を流れる川まで連れて行ってくれんかの」

 冬木市を二つに分ける未遠川。河口近くのその河原に綺礼と薫と目玉の親父は移動した。
 それなりに広い河原と川幅だ。見ると一隻の船が半分以上沈んでいる。あれは今より四年前にセイバーのエクスカリバーを受けて沈んだ船のはずである。
 そんな物を見ていると、空から布が降ってきた。
「おお、一反木綿」
 薫が肩に乗せた目玉親父を見つけたか、古めかしい白い木綿地が、ひらひら揺れて舞い降りる。

 —— 妖怪、一反木綿(いったん・もめん) ——
 長さ一反(10.6m)幅一尺(30cm)の白い布の姿をした妖怪で、空を飛んで人に巻き付き、首を絞めたりするという。土地によっては「一反木綿が来るよ」と遅くまで遊ぶ子供を戒めたとか。

 そんな布地がくるりとうねり、薫の横に浮遊する。
「目玉の親父どん、英霊しゃんには会えたとですか? あら、この女の子とこっちの神父さんはどうしたかとです?」
 ずっこけそうになるのを気力で耐える! 言峰綺礼、気持ちは判るが十字を切るな!! 効果があったらマズイだろ!!!
 一反木綿の彼が言うには、九頭竜の下僕の匂いがこの辺りからするのだとか。手伝ってくれたという妖怪クラゲや妖怪サザエ、シーマンにしか見えない人面魚などについては全力で見なかったことにする。
 情報をまとめると、川底に小さな空間の歪みがあって、異界の波動が漏れているとか。そこから時折、化け物が沸き出してくるらしい。以上、シーマン(人面魚)からの情報である。彼は去った。願わくば冬木市で泳いでいないことを祈ります。

 薫は河原にあぐらを組んで、半分目を閉じ意識を凝らす。指輪に魔力を集中し、使い魔と己の視覚を「共有」させる。
 火属性の他は感度の鈍い薫や、四年前より魔術を磨いていない綺礼では、水精の気が強い川の底など探知できない。
 だから薫は潜らせる。探らせる。水の流れを感じ取り、魔力の匂いをかぎ分ける。あるはずの「歪曲」という異質なものを感じ取れ。
「……ありました。結構おっきいです。ん? 何かいますね。何ですかこれ?! どわっ! こっち来る?! 喰われる! ぎゃーっ、ぎゃーっ! 逃げてーっ!!!」
 薫は川岸に駆け寄りしゃがみ込む。少しすると川の中からヒキガエルが飛び出した。それを掴んで引き下がる。綺礼の後ろに隠れた頃に、水面が盛り上がって大きく弾けた。
 そして中から異形なるものが飛ぶ、タコのようなものが地に落ちた。
 うずくまったその高さが人の腰ほどもある巨大なタコだ。手足は太く、そして長い。触手の表面にサメの牙のような鱗が、びっしりと生えている。匂いはとても生臭い。全身が藻のような、コケのような、緑の粘液で濡れていた。
「やはりそうか」
「おじさま?! これを知っているのですか?」
「ああ、これは四年前にキャスターが使役した魔物だな。セイバーの剣によりまとめて焼かれたはずだが、そうか、あれほどの海魔だ。川底に僅かな歪曲を残していても不思議ではない」
「あれですかっ!!!」
 薫はZEROは知らないが、報告書は読んでいる。当事者二人+1(王様)から色々話も聞いている。
 前回のキャスターは召喚魔術師タイプ、その宝具は魔導書だったとか。真名から考えて、その魔導書は「ルルイエ異本」だろうと推測されていた。
 邪神崇拝という異端の極み。異界の海魔の崇拝祭祀と、その下僕の召喚使役法が記されているのだとか。
 こんなものが湧き出る穴を、これまで見落としていたとはなんたる不覚っ! 薫は歯を食いしばる。
 大ダコ海魔はウネウネ動き、こちらに向かって跳ねてきた。しかしここは陸の上、しかもいるのは言峰綺礼とその娘。
「フン!」
 綺礼は手にした白銀の短槍(スピア)を振りかぶり、一直線に振り下ろして海魔の体を叩き落とした。薫は袖から紙片を引き抜き、剣に変じて投げつける。細身剣たる黒鍵は、たやすく海魔に突き刺さる。
「炎上!」
 薫の声に剣は火を噴き、そこに綺礼が槍を突き入れる。海魔は激しく脚をうねらせたが、動きをすぐに小さくし、そして止まって溶け出した。
 溶けたそこには臭い何かがドロリと残るのみである。
「目玉親父さんっ! 九頭竜の僕とは、今ので間違いないですか?」
 薫の問いに目玉親父は、うむ。と頷く。
 まずい。
 四年前の折にはキャスターは暴走し、数百の海魔を束ねて大怪獣と化したらしい。F15戦闘機を叩き落とし、ランサー・ライダー・セイバー、そしてアーチャー、つまりギルガメッシュまでもが手を貸して、やっと仕留めたのだと聞いている。
 召喚はキャスターの宝具に頼ったものであったため、キャスターの消滅と共に魔物達も消えたはずだった。だが、その異常な波動が川底に刻まれていたらしい。それにより海魔は顕現し、海流に乗って南の島まで流れていったということか。
 くそっ。こんな話はなかったはずだ。薫は内心臍をかむ。自分がいなければ早期に発見されたのだろう。しかし、そんな思考に意味はない。
「おじさま、どうしますか?」
「まだ大物の召喚準備は整っていないのだな? ならばこの「歪曲」は私が封じる。薫、お前はその島に行って様子を探れ。妖怪達に手を貸して邪魔が出来ればそれで良し、無理なら帰還し報告しろ。場合によっては騎士団あるいは魔術兵団に出動を要請する」
「判りました。ではすぐに準備を」
「待て、凛にはどう話をする?」
「それは私に聞かれても困るのですが、そうですね。私が行ってダメそうだったら相談する。そういうことでどうでしょう?」
「そんなところか。ふむ、では衛宮切嗣を連れて行ってはどうだ? ククク。あの男も自慢話のネタが出来て喜ぶだろう」
「……おじさま、人様の家庭の平和をぶち壊していけないのです。王様にランスの持ち出しをお願いしますので、それでなんとかしますから」
「ほぅ、良かろう。では私はすぐに祭祀の準備に取りかかる。薫、お前は準備ができ次第、現地に向かえ」
「判りました。目玉親父さん、そういうことで私が行きます。一反木綿さん、付いてきてください! 教会に戻って荷造りします。24時までには出ますから!!」
 頭に目玉親父を乗せて、言峰薫は走り出す。一反木綿がそれを追う。綺礼は笑みを浮かべて見送って、祭壇の設置箇所を考えるため周囲の地形に視線を飛ばした。

「高町なのは、到着しましたっ!」
 地球の衛星軌道上、宇宙空間に浮かぶ次元航行艦アースラのブリッジに、元気な声が木霊した。
 笑顔の少女は只今初等部三年生。栗色の髪を頭の左右でツーテールにしてリボンで結び、アイボリーのパーカーとオレンジのスカートを着て、元気に腕を振っている。
「こくろうさま、朝早くにごめんなさいね。なのはさん」
 はい。と元気な少女の笑顔、それに微笑む女性はリンディ・ハラオウン。多元世界の監視・管理を仕事とする時空管理局に所属の次元航行艦アースラの艦長だ。
 緑の髪の美人だが一児の母で、永遠のギリギリ二十代であるらしい。ちなみに真実を知ろうとするのは危険である。
 高町なのははブリッジを見渡した。下の方でオペレーターのエイミィが手を振っている。それに手を振る高町なのは。しかし人が少ないようだ。
 ジュエル・シードに端をなすPT事件の解決から数ヶ月。今日はもうアースラが次元世界ミッドチルダに帰還すると聞いていた。出来た友達と別れをしたのが昨日のことだ。
 さびしーなー。などと思っていると、来て欲しいとコールがかかった。何が起きたか知らないけれど、ちょっと嬉しいなのはちゃん。朝ご飯はしっかり食べて、家を抜け出しやってきた。
「リンディさん、エイミィさん、おはようございます。あの、他のみんなはどうしたんですか?」
「はい。おはようございます。残念ですが、クロノもユーノさんも既にミッドチルダに帰ってしまったの」
 PT事件においてジュエルシードは次元間に時空の乱れを生み出した。これによりアースラはミッドチルダに帰還不能となったのだが、数ヶ月経ちやっと空間が安定した。
 人員の転送移動も可能となり、武装隊数十人、執務官のクロノ、民間協力者だったユーノなどは一足早く転送器によりミッドチルダに帰還していた。
 ここに残っているのは次元航行艦アースラの運行スタッフ最小限であるのだとか。
「そうなんですか」
 ユーノやクロノに会えると思っていたが残念だ。
「そんな顔しないで、なのはさん。もう二度と会えない訳じゃないですよ」
「はい!」
 なのはは赤い宝玉のペンダントを握りしめた。色んな人と繫がる力がここにある。

「エイミィ、モニターに出して」
「はい、艦長」
 まず日本列島の映像が浮かび、それを拡大。南の方の海の一点、一つの島を映し出す。
「この島がどうかしたんですか?」
 尋ねる少女にリンディは真面目な顔になる。
「本日未明のことですが、この島の近辺で次元震が観測されました」
「次元震、ですか?」
 高町なのはは思い出す。願いを叶える力を持つロストロギア「ジュエルシード」に、二人がかりで魔力をぶつけた時、空間が悲鳴を上げるように激しく震えた。たしかあれが次元震。
 そして事件の最後に次元間に浮かぶ城を崩壊させて、アースラが戻れなくなったのも次元震のせいのはず。次元震が暴走して次元断層が生み出されると、次元世界は切り裂かれ、崩壊すると聞かされた。
「ジュエルシードのせいですか?」
 真顔になった高町なのは、しかしリンディはそんな彼女に優しく微笑む。
「いいえ、そうではありませんよ。エイミィ、拡大して」
 モニタが切り替わり、そこに映ったモノを見る。
 触手にサメの歯みたいな鱗を生やした大きなタコが、石を積み上げ幾つも塔を建てていた。
「か、火星人ーっ?!」
 どうしよう?! ついに火星人が攻めてきたんだ! あの石塔はきっと電波塔なの。びびびと妖しい電波を出して、それを浴びると地球人の脳が火星人になっちゃうんだ!! ああ、地球が大ピンチ!!!
「なのはちゃーん、違うよー」
 オペレーターのエイミィがあははと笑い、リンディもクスクスと口元を抑えている。
「火星人じゃないんですか?」
「残念ながら異星人ではないようですよ。エイミィ」
「はい、艦長」
 モニタが切り替わり、怪物の絵が映し出された。なのははそれを見て目を見開く。

 頭はタコだ。ぷっくらとした丸い頭とヒゲのような触手がたくさん。しかしそれが「頭部」であって、そこにイカの頭部が上下逆で「胴体」として付いてるみたい。イカの頭のひらひらが、シッポの先になっている。そしてイカの頭の胴体からこれまた触手がたくさん生えて、全体を見るとアメフラシとかウミウシを思わせる。でも背中? から枯れたサンゴみたいな枝っぽいものが複雑に広がって、翼みたいになっていた。体の色は青緑だが、虹色の光沢があちこちに見て取れる。首の付け根の辺りに金色の目玉がいっぱいあって、いくつかこっちを見てるみたいで何だか怖い。

「これ何ですか?」
 キング火星人だろうか。
「多次元生命体クスルゥ、またはク・リルイル。他にいくつも呼び名があります。次元の狭間に太古の昔から住む魔法生物、あるいは化け物、または失われた魔法文明アルハザードの生物兵器とも言われているけど、本当のことは判らない。エイミィ、戻して」
 モニタは島で石を積み上げるタコの映像に戻った。
「そしてこの生物は、……生物なのか良く判らないのですが、クスルゥによって様々な世界に産み落とされる「奉仕種族」と呼ばれる者です。簡単に言うと子分さんですね」
 子分さん。頭の中で、半纏を着た大ダコが、め組ののぼりを手にして子ダコと共に火消しに行くのを想像する。わっしょいわっしょい。
「奉仕種族は枯れた世界では滅びますが、命溢れる豊かな世界では繁殖します。そして親であるクスルゥを呼んでしまうのです」
「親分さんが来るんですか?」
 真顔で尋ねるなのはにリンディは苦笑した。
「ええ、しかしそれが問題なんです。多次元生物クスルゥは巨大であり、強力な魔力を持っています。何と言っても多次元世界を移動するくらいですからね。そして困ったことに、この生物は奉仕種族に呼ばれた先で、その世界のあらゆる生命を食い尽くすんです」
「えええええーっ?!」
 地球人ピンチ! やっぱりあれは火星人だ!!!
「大丈夫ですよ、なのはさん」
「リンディさん、大丈夫って、でもそんな?!」
「なのはちゃーん、落ち着いてー」
 あわてるなのはと対照的に、リンディとエイミィは涼しげだ。
「あのね、なのはちゃん。クスルゥは本当に凄い化け物だけど、ここ数百年は眠っているの。それでね、この先も数百年か数千年は眠ったままだって言われているの」
「眠ってるんですか?」
「そうだよー。だからね、奉仕種族に召喚されてもその世界に降りて食い尽くしたりしないんだ」
「あ、そうなんですか。良かったー」
 ほぅ、と胸をなで下ろす。しかしリンディとエイミィは微妙に顔をしかめてしまう。あれ? と、なのはは首を傾げる。
「そう、眠っているんですけれどね。それでも奉仕種族に召喚されると、寝ぼけて触手を伸ばしてきたり、寝返りを打ったりする場合があります。ちなみに触手一本で、さっきの島ぐらいは押しつぶされる大きさがあります」
「えええええーっ?!」
 日本沈没! メイデー! メイデー!!! 違う! ゴジラ! ゴジラを呼ぶんだ!!! 助けてモスラ! ウルトラマン!!!

 数分が経過しました。

「と、言うわけですから、なのはさん。あそこに行って奉仕種族をやっつけちゃってください。そして石の塔を破壊してください。そうすれば万事オッケーです」
「判りました!」
 なのはは拳に力を込める。地球の平和は私が守る! 撃退すべし火星人!!
「なのはちゃん、奉仕種族はクスルゥのイボみたいな物で、風船みたいにパンと割れると跡には血とか水しか残らないって記録があるよ。多分、クスルゥの魔力で生まれた人工の魔法生物で、ロボットみたいなものだからね」
 そうか、大ダコさんはやっつけないといけないのだと理解する。
「なのはさん、いえ、第97管理外世界の民間協力者、高町なのはさん」
「は、はい」
 リンディの真面目な声に、なのはは体を硬くする。
「貴女は本来、魔法技術を知らない管理外世界の一般人です。しかしPT事件において我々、時空管理局に協力すると宣言しました。そうですね」
「は、はい」
「事件は終結。ですが貴女は我々に協力した見返りとして魔法技術の習得を希望。魔導士として登録されました。我々は貴女に対し、管理責任を持っています」
「はい」
「よってこの緊急事態に我々は、魔導士「高町なのは」に協力を要請。奉仕種族の一掃とクスルゥ召喚儀式の妨害を命じます。……どうしますか? なのはさん」
「いきます!」
 間髪入れずに彼女は答え、リンディは表情を弛めて微笑んだ。

「そうなんだ。なのは、気を付けてね」
 そう言って彼女を気遣うのはフェイト・テスタロッサという名の少女、腰より長い金の髪を白いリボンで左右で括り流している。身に付けている飾り気のない白い服は囚人服だ。
 彼女はPT事件において高町なのはの敵だった。結局は彼女自身も半ば被害者として保護観察扱いとなったのだが、それでも次元世界崩壊の危機があった重大犯罪の関係者。ミッドチルダに戻れば裁判が待っている。
 とはいえ利用された立場と証明する証拠はあるので重い罪にはならない予定。裁判が終わったら、また会おうと約束している。
「うん。じゃあフェイトちゃん、行ってくるね」
「待って、なのは」
 フェイトは彼女を呼び止めて、金色の金属片を手渡した。お守りだから預かって。そして返しに戻ってきて。そう言い彼女ははにかんだ。
「うん。うん!」
 なのはとフェイトは少しだけ、頬を赤くし見つめ合う。友達のことを心配する。友達だから思いやる。そんなことが少し嬉しい。
 そうこうしているところに声が聞こえた。何か変化があったのか、ブリッジに戻ってこいとのことだ。

「リンディさん、どうかしたんですか」
 戻ったなのはが見たのはモニタを見つめて厳しい顔のリンディ艦長。エイミィに指示を出し、何やらピコピコやらせている。
 聞けば魔導士反応があったのだとか。本土から離れた海の上に魔導士反応、これは件の島に向かっていると考えるべきだろう。
「映像、出ます」
 エイミィがキーを叩くと、モニタに画像が映し出された。
 朝日が照らす海の上、まず鳥の群が目に入る。あれはカラスだ。百を超えるカラスの群が、ヒモで括られ何か荷物を運んでいる。
 そしてその横、すぐ近く。長い髪のシスターみたいな少女が白い布にまたがり飛んでいた。
「あの時のお姉さん?!」
「なのはさん、知っているんですか?」
「はい! ジュエルシードを集めていたときに会った、この世界の魔法使い! たしか「ことみね・かおる」さん!」
「エイミィ、情報を」
 モニタに薫のバストアップ映像とプロフィール、その他のデータが映し出された」
「リンディさん。これは?」
 驚くなのはにリンディは、腰に手を当て先生モードだ。
「この世界は私たちが言う「魔法技術」が存在しない「管理外世界」ではありますが、それでも私たち時空管理局、そして多元世界は「この世界」を知っています。時には法を犯した悪い人が逃げ込んだりすることもありました」
 そうなんだ。なのはは頷く。
「ですから私たち時空管理局は、この世界の魔法、いえ、この世界では「魔術」になるようなのですが、魔術を扱う組織とコンタクトを取っていたんです。とはいえ、私もそれは知らなかったんですけれどね。この世界出身で管理局の提督になった人もいるんですよ」
 へー。と、なのはは感心する。提督さん。よく判らないが偉い人に違いない。
「その提督の出身地イギリスには「魔術協会」という秘密の組織があります。そこで私たちは上層部に掛け合って連絡を取り、日本の魔術師「ことみね・かおる」さんについて調べておいたんです。エイミィ」
「ハイ。言峰薫。xx県、冬木市に在住の初等部六年生、なのはちゃんの三つ年上だね。冬木市は魔力の強い土地で、魔術協会がセカンドオーナーと呼ぶ管理者がいるんだって。トオサカって言うんだけど、この薫って子は遠坂の弟子で、宝石を使う魔術師ってことみたいだよ」
「……宝石魔術」
 そういえば、ジュエルシードの暴走体に、宝石を投げて魔法を掛けていたと思い出す。
「でもねー、この子なんか複雑みたい。お父さんが魔術協会と対立する聖堂教会ってとこの聖職者で、魔術師狩りの専門家なのに「遠坂」の弟子になって魔術協会に転向してるよ。なんか二つの「キョーカイ」の橋渡し役をしてるみたいなんだけどさ」
「はぁ、そうなんですか」
 そこまでくると判りません。
「この薫さんという子は、どちらかというと魔術を取り締まる立場に近いみたいなの」
「そうなんですか? じゃあリンディさんやクロノ君と同じですね」
 なんだー、と笑顔のなのはにリンディは苦笑する。
 この世界では魔術は隠され、その使い手は異端の烙印を押されている。それを取り締まるとはつまり抹殺。あるいは殲滅。自分たちが言えた義理ではないけれど、あんな子供に何をやらせているのだろうか。
「エイミィ、対象を拡大して」
 海上の「言峰薫」をアップにする。カラスの群が運んでいるのは大きなトランクだ。白い布にまたがる少女はご機嫌のようで、何やら歌っている様子。見ると肩に、頭が目玉で小人の体という使い魔らしきものがいる。
 あんまり趣味はよくないみたい。リンディは眉を寄せてみた。
「どうですかなのはさん、言峰薫さんに間違いないみたいですけれど。なのはさん?」
 ふと見ると、彼女は両目を見開いて、口も開いて食い入るようにモニタを見ていた。グッと拳を握りしめ、それがプルプル震えている。
 ????? リンディとエイミィが見つめて7秒経過。
「め、め、め。い、い、い、」
「「め? い?」」
「目玉親父さんだぁぁぁあああ!!! それに一反木綿さん?! いいな! いいな! いいなぁぁぁあああ!!!」
 かぶりつかんばかりにモニタに近づく少女の瞳が、キラキラと輝いていた。


 後半へ続く。

 後半へのプチ予告。
 上陸と同時に窮地に陥る薫と親父と一反木綿。絶体絶命のピンチに魔砲少女が降臨する!
 ねずみ男、砂かけ婆、子泣き爺、塗り壁、そして鬼太郎がついに登場! 果たして書き上げて公開してもいいものか非常に悩む今日この頃。
 しかし物語は加速する。全てを砕く星の光と世界を切り裂く螺旋の風が、邪悪な祭壇に炸裂するか?!
 自分でもツッコミが止まりません(おい)
2008.10/30th
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