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リリカル2・後編。

前の話へ

 ふん、ふん、ふん・ふ・ふん・ふふーん。

 一反木綿にまたがって、夜空を朝まで小旅行。海に出てから見えるのは、ただひたすらに水平線なのであったが、時々は船の灯りが見えました。
 自力で飛ぶとはまた違う。乗せてもらって嬉しいな。薫は割と御機嫌だった。鼻歌なんかも出てきます。
 横を見るとカラスの群が、荷物を運んでくれている。ありがとうカラスさん達。公園にパン屑なんかを用意させていただきます。ピーナツバターをサービスしよう。口に合えばいいのだが。
「目玉の親父、薫ちゃん、見えてきたばい」
 一反木綿の声に遠くを見れば、水平線にやっと見える島の影。朝日を浴びて輝く海に、浮かぶ島には緑が見える。小さな島と聞いてはいたが、それでも直径数キロはあるようだ。
「……目玉親父さん、儀式はまだ行われていないのですよね?」
 薫の顔から笑みが消え、その視線は冷たく鋭い。
「うむ、薫ちゃんや。ワシらが気付いてからまだ七日もたっておらん。鬼太郎達もおる。儀式などやらせはせんよ」
「ならいいのですが」
 薫は微妙に顔をしかめた。朝日が差しているのに水精の妖気が満ちている。自分が火属性のせいかもしれないが、まだ遠くなのに気持ちが悪い。
(今度から、川の上でも魔術を練習しておこう)
 都合の悪い環境でも修行をしておくべきだろう。うんうんと薫が頷く内にも、どんどん島へと飛んでいく。
「ここが因須磨有珠島じゃ。さて、鬼太郎達はどこかのぉ」
「親父、あれを見んしゃい」
 一反木綿の指した先を見ると、ずた袋あるいはボロ布を着た男がぴょんぴょん跳ねて、こちらに手を振っている。
「おお、ねずみ男か」

 —— うぉぉおお! ねずみ男ぉぉおお!!! ——

 薫、一人静かにガッツポーズ。
 おーい、おーい。と聞こえるほどに近づいた。やっと空から陸に上がれる。やはり人間、地に足を付けるのが大切だ。
 そんなことを思いつつ、薫は下を見る。
 磯枯れを起こしているのか白く見える海の底。透けて見える海の中に、黒い影が動いて見えた。
「一反木綿さん! 下!!!」
 言って飛び退き翼を広げる。海面を突き破り、水の柱が飛び出した。
「水鉄砲?!」
 うわっと言いつつ身を捻り、薫とそして一反木綿はそれをかわした。改めて下を覗くと、未遠川でも見た海魔が十匹ほど頭を出している。海魔の頭が微妙に膨らみ、そして水が噴き上がる。
 薫はかわして高度を取るが、狙われたのは自分たちだけではない。
 水鉄砲はカラスの群にも襲いかかった。驚いたカラスたちは散っていき、運んでいたトランクが墜ちていく。
「ちょっと待って! それはダメです!!!」
 冗談ではない。アレを落としてなるものか! 急降下して手を伸ばしたが、届くかというところで奔流に襲われる。
「がっ?!」
 無理したせいでよけ損なった。水の流れは直撃し、薫を上に吹き飛ばす。
「薫ちゃん、やめるんじゃ」
 静止の声を無視をして、再び降りるがまた喰らう。その間にトランクは海に墜ち、海魔にたかられ沈んでいった。
「返せぇぇぇえええ!!!」
 目の色を変えた薫が突撃するも、やはり水を喰らってしまう。三度上に飛ばされた薫の脇腹で、ボキッと嫌な音がした。
 肋骨が折れた。そして体が重くなる。
「くっ、黒鍵・顕現!」
 薫は腕を振って袖から紙片を出そうとしたが、想いに紙片が応えない。
 え? と思うと体が重い。気が付くと、懐の魔術礼装「聖典の書」の魔力炉が動いていない。
 なぜ? と思う内にも高度が下がる。
 リアルタイムで持ち主に魔力を送る小型魔力炉。これがなければ浮いてるだけでギリギリだ。飛行魔術「火の鳥」も周囲の大源(マナ)を吸い上げる。しかしそれは飛ぶのに使えるだけである。
 焦る気持ちを無理矢理無視し、己の体(現状)を把握する。

 —— 水精の妖気が服に染み込み、書と紙片が侵された ——

 しまったと思うがもう遅い。二百枚もの聖典紙片が全てやられた。聖典の書も動かない。
 海魔を相手に接近戦など自殺行為。そう思って剣や槍は置いてきた。海を見るがトランクは何処にあるかも判らない。
 歯がみするがどうにもならない。悔しさを押し殺し、薫は岸の岩場に引き下がる。
「おぉーい、親父ぃ! 一反木綿ーん!」
 ねずみ男の傍らに薫は着地し、膝を着いて翼をたたむ。
「帰って来るの遅せぇじゃねぇか?! えーと、お嬢ちゃん大丈夫かい? ていうか誰だよこの子」
「ねずみ男! 今はそんな話をしている場合ではない! 鬼太郎はどうした?!」
「うわぁぁああ!! そうだ! やべぇよ! みんなタコ共に捕まっちまったよー!!!」
「何ですって?! ぐっ」
 思わず見上げた薫だが、脇腹に痛みが走ってうずくまる。
「ねずみ男、お前は一人で逃げたとか?」
 一反木綿が首に巻き付き、ねずみ男を締め上げる。
「ぐぇぇええ。違うって! 大群で襲ってきてどうしようもなかったんだって! 本当だよぉ!!」
「こりゃ。お前達! そんなことしとる場合か!?」
 目玉親父に叱りつけられ、一反木綿がほどけて離れ、ねずみ男が咳をする。
「ゲホ、ゲホ。ところでよぉ。この子は誰だよ?」
「おお、そうじゃ。薫ちゃん大丈夫か」
 目玉頭に心配されて、薫はちょっと苦笑する。あまり余裕がありません。水から離れ、霊媒治療を使いたいところです。
「親父どん!」
 一反木綿がひらひら揺れる。海魔達が上陸してきた。その数はどうやら九体。正直、相手にしたくない。
 うわぁああ。悲鳴と共に薫の体は持ち上げられた。
 ねずみ男が薫を抱え、えっちらおっちら逃げ出した。噂通りに臭うのですが、薫も濡れているのでお互い様だ。
 しかしここは足場が悪く、大きな石がゴロゴロしている。こんな場所では海魔の方が足が速い。一反木綿も濡れたのかフラフラしている。
 これは拙い。薫は懐の宝石を手で探る。念のためにと持ってきたのは在庫の多いアルマンディン・ガーネット。治療に使える赤い石、呪えばエグイ効果の魔弾にもなる石だ。
 ならば自分が足止めをするべきだろう。
「そういう訳ですので、降ろしてください」
「何言ってんだぁぁああ! 逃げるんだよ! まかしとけ、このねずみ男様がすぐに安全な場所まで連れて行ってやるからな! ぬぉぉおお」
 鼻息を荒くして、どりゃぁぁああ! と岩を飛び越える。だが後ろには海魔が近づいてきた。
 ……気持ちだけいただいて、ここは私が行きましょう。
 ごめんなさいと呟いて、薫は腕から飛び降りる。痛みに堪えて岩を跳び、海魔の前に立ち塞がった。 
 手にしているのは十字軍の兵士が血止めの護符としたアルマンディン・ガーネット。血・生命・加護を象徴する。赤黒い血の色をしたその石を、薫は摘んで捧げ持つ。
「ちょっとお嬢ちゃん、なにやってんだ! あだっ」
 ねずみ男が足を滑らせ転んでいた。
「戻って来ちゃったんですか?」
 あちゃー。と薫は顔をしかめた。
 だってよー、と言うねずみ男。目玉の親父が、薫はエクソシストの卵だと紹介する。
「でええー、早く言ってよそういうことは。うわぁぁああ! 囲まれたぁ?!」
 薫は岩の上に立つ。右手に宝石、左手は肋骨の上に当てて痛みを誤魔化す。ねずみ男と一反木綿は岩の下で身をかがめ、目玉親父は一反木綿の上にいる。
 さて、一人で逃げるわけにもいきません。なんとかして見せましょう。こんな所で喰われて終わるつもりもない。薫は石を身構える。

 その時、天空に桜色の星が輝いた。

 雲の上から、高町なのはは落ちていく。
 次元航行艦アースラから転送装置で大気圏に送ってもらった。大ダコさんに襲われて、ことみねさんと妖怪さんが大ピンチ。
 だから行く。だから間に合え。
 彼女は首から提げた紅玉のペンダントを握る。
「行くよ、レイジングハート」
 自分の周囲で風が渦巻く。仰向けになった自分の視界は、どこまでも広がる青い空。
「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に。不屈の心はこの胸に! レイジングハート、」
 高町なのはの呼びかけに、インテリジェント・デバイス「レイジングハート」が輝いた。
「セーット・アーップ!!!」
 次元世界に繁栄するミッドチルダ。その魔法文明が作り出した魔導の杖(デバイス)が目を覚ます。
(( Stand by ready. "Set up" ))
 紅玉を支えるように黄金の穂先が形成される。そこに連結される放熱機関。ピンク色の柄が伸びて、魔導士の杖たる祈祷型インテリジェント・デバイス「レイジングハート」が起動した。
 更に光は彼女を包み、少女の小さな体を守る。
 光の中で、パーカーとスカートが分解されて消えていき、変わって白いインナースーツとジャケット、そしてスカートとブーツが形成された。
 魔法少女に姿を変えて、高町なのはは足首から羽を広げる。そして彼女は風を蹴る。

 天空から、魔法少女が降臨した。

「ディバインシューター、シュート!」
 天より降り注いだ桜色の魔力の光。三条の砲撃が海魔に落ちて、岩ごと魔物を吹き飛ばす。
 なんだと驚く薫と妖怪。その頭上に、高町なのはが舞い降りた。
「大丈夫ですか?!」
「貴女は?! 高町、えーと、」
「なのはです。高町なのは」
「そうでした、なのはさん。いつぞやはお世話になりました。私、言峰薫です」
「はい、覚えています。あの時は、こちらこそお世話になりました。薫さん」
 え? お? と挙動不審なねずみ男や一反木綿を置き去りに、少女二人は頭を下げた。
「おぉい! 挨拶なんか後にしてよ! そっちの女の子も知り合いか? なら何とかしてよ?」
 ねずみ男さんっ?!
 高町なのはが仰け反りつつも瞳をキラキラさせている。なのはと薫の目があった。

—— あなたもですか? ——

—— 当然です! ——

(( 同志よ!!! ))

 この時、高町なのはと言峰薫は、心の中でガッチリと握手した。

「助太刀します!」
 杖先を海魔に向けて、なのはの瞳が闘志に輝く。
「高町さん! こいつら水を吹きます。出来るなら高度を取ってそこから射撃を!!」
 はいと応えて魔法少女は舞い上がり、桜色の光を放つ。あっという間に形勢逆転、海魔の数は半減した。
 あ、陸に上がれば水がない。なら水鉄砲は撃てないか? しまったと思いつつもこれは好機。薫は右手を振り上げる。
「告げる(セット)一番、二番、連続解放。血獄神音(カノン・アルマンディン)」
 パキンと乾いた音を立て、石は砕けて霧となる。赤い霧は海魔に届いて次の瞬間「ボン!」と音を立てて海魔が弾けた。
 それを何度か繰り返し、全ての海魔は仕留められた。目の前に血溜まりが出来上がる。
 視線を感じて見上げると、高町なのはが驚いた顔で薫を見ている。
「なんですか、今の魔法? じゃなくて、魔術。……ですか?」
 魔法? 世界に五つしかない「魔法」がこんなものの訳がない。
 時計塔(魔術協会)に属していない家の子か? それとも単に子供なだけか?
 いや、そんなことを気にしている時でもないか。
「これですか? これはアルマンディン・ガーネット。血・生命・加護の象意があり、今のは「血液の溶解作用」を概念強化して作用させた物で……」
 妖怪作用? なのはは首を傾げている。
「いえ、妖怪じゃなくて「溶解」作用です」
 血液の役割には、カサブタを作り出血を止める。酸素や栄養を運ぶ。体温を伝える。などがあるがその他にもある。
「溶解作用」は傷を負ったり寿命を迎えた体内の細胞を溶かして除き、再生や新陳代謝のお膳立てをするものだ。
 つまり、この魔弾は肉や骨を溶かすのだ。
 高町さんが嫌そうな顔になるのも判る。術式を構成したが、これはダメだと使わなかったものなのです。
 まぁ、人間一体を溶かしきるには数がいるが、そういう問題ではないだろう。
「そちらのお嬢さん、なのはちゃんじゃったかな? 薫ちゃんの知り合いのようじゃ。ちょっと話をさせてもらえるかの」
 目玉親父に声を掛けられ、なのはの瞳がキラキラ光る。再びなのはと薫の目があった。

 —— 判りますか? ——

 —— もちろんです! ——

 (( 同志よ! ))

 今度はしっかり握手した。

「判りました。手伝います!」
 目玉の親父に話を聞いて、高町なのはは頷いた。
 妖怪「海の九頭竜」呼び方は違うが、クスルゥのことに違いない。復活阻止に動いていたとは、さすが日本の鬼太郎さんだ。高町なのは、助けます!!!
「ふぅ」
 うずくまっていた言峰薫が大きく息を吐いている。折れた骨をくっつけると言っていたのだが、もう治してしまったらしい。自分もユーノに治療魔法(ヒーリング)を掛けてもらったことがあるのだが、それとは違うと薫が言った。
 霊媒治療。ユーノに聞けば知ってるだろうか?
 なんとはなしに、なのはは空に視線を向けた。上(アースラ)ではエイミィがバックアップをしてくれる。

 しかし、次元世界のことは話せない。

 起こした焚き火をグルリと囲み、妖怪&人間で作戦会議が始まった。
 聞けば薫の魔導書が、壊れて使えなくなったのだとか。別に武器を持ってはきたが、襲われ海に落としたらしい。薫が頭を抱えている。
「ねずみ男、つまり鬼太郎達は連れて行かれたのじゃな?」
「あー、そうだぜ。何度も言ってるじゃねぇかよぉ。なぁ、逃げようぜ。山の方にはさっきの奴がウジャウジャいんだ。親父、無理だって、うげぇぇええ」
 一反木綿が巻き付いた。
「このねずみ男、お前それでも日本男児か? 妖怪の風上にも置けんばい」
 首を絞められ、ねずみ男の顔色が変になる。それを無視して目玉親父はうーむと唸る。
「どうしたんですか?」
 なのはが尋ねると、目玉親父は「生け贄にするつもりかもしれん」と悔しそうな声を出した。
 させるか。という声にそちらを見れば、拳を握った言峰薫が、怖い顔で焚き火の炎を見つめている。
 この人はデバイスが無くても魔法を使う。でもそれは大して強くないと聞かされた。空を飛ぶのは良いとして、さっきの魔法は七回くらいで打ち止めになるらしい。
 ならば私が頑張ろう。奉仕種族をやっつけて、石の塔を破壊する。大ダコさんはいっぱいいるけど、ディバインバスターを使えば大丈夫。
 ……でも鬼太郎さん達どうしよう? 失敗して吹き飛ばしたらダメだよね。後になって「クラッシャー高町」とか「キャノンガールなのは」とか「白い悪魔」とか言われたらどうしよう。やだやだやだ。
「なのはちゃん?」
「……やだやだ。あ、はい! すみません」
 薫に声を掛けられて、なのはは背筋を伸ばした。鬼太郎の救出と海魔殲滅の大作戦、その策を考える。

 まず、高町なのはが上空より攻撃する。
 海魔の注意を引いた所に一反木綿が突入して混乱させる。
 そして言峰薫が高速突撃、鬼太郎達を解放する。
 その後、全員で総力戦。

「こんな感じでしょうか? 正直、高町さんを初手にするのは心苦しいのですが」
 うーん、と薫が唸っている。
「平気です! それより薫さんは平気ですか? デ、じゃなくて魔導書が使えないんですよね」
 なのはの問いに薫は肩をすくめて見せた。
「大丈夫です。危なくなれば空に逃げます。それにこう見えても私、のたうち回るのには慣れてますから。でも捕まってる鬼太郎さん達をこれで解放できるかどうかが……」
 眉を寄せた薫が持つのはルビーを飾った黄金の短剣だ。不思議な光を放っているが、ビームが飛んだりしないのだとか。
 これで海魔を切っても喰われそう。槍か処刑鎌(デスサイズ)を持ってくれば良かった。などと言ってため息を付いている。

 です・さいず? ……そういえば。なのははアースラに念話を飛ばした。

「インテリジェント・デバイス、ねぇ。……愉快型ではないですよね?」
 薫は手にした金色のプレートを光にかざす。
 武器ならある。そう言って、なのはが貸してくれた金属板は「バルディッシュ」という名の魔術礼装。
 起動すれば斧となり、変じて大鎌(サイズ)となるらしい。
 魔力は感じ取れるのだが、いつぞやのジュエルシードと同じく「神秘」を感じない。どうもこの子が使う魔術というのは、概念や神秘に染めずに魔力を操作し、物理力として作用させるものらしい。
 錬金術(アトラス系)に近いのかな。そんな風に考える。
 まぁ、門外不出の魔術工芸品(アーティファクト)を貸すというのだ。余計な詮索はやめておく。
「なのはちゃん、つまりこの金属片は、精霊が宿る変化系(トランスフォーマー)魔術武器(マジカル・ウェポン)ってことでいいのですか?」
「はい?! ええと、そんな感じです!」
 彼女の挙動が微妙に妖しいのが気になるが、他人が作った礼装には興味もある。バルディッシュに宿る精霊は、人工で天然ではないようなので良しとする。
「薫さん、使う前に魔力のはちょーちょーさをした方が良いそうです。ええと、手に載せてもらって。バルディッシュ?」
 何故か時々、空を見上げる彼女に従い、薫はその手にバルディッシュを載せてみる。そして魔力を集めてみた。
((I do analyze and adjust a magic-power-wavelength. Start a tuning. Wait a moment.))
 ピコンピコンと金属板が光り出す。おお、チューニング機能付きとはなかなか賢い。そして洗脳されないあたり、控えめで実によい。
(( ……Complete. On record a temporary user. Mode-set. ……clear. OK. You "Kotomine KAWORU" can do cast POWER-ART.))

(大丈夫みたいですね)
 なのはは念話を天に飛ばした。思いついて相談したら、リンディから許可が出た。フェイトが管理局に協力的と評価され、裁判での減刑材料にも出来るとか。よく判らないが良いことだ。
 それにこの世界の「魔術」について、情報が欲しいのだとか。バルディッシュに協力させるため、フェイトもモニタで見ているらしい。
 見ていてねフェイトちゃん。なのははググッと拳を握った。見れば薫がピコピコ光るバルディッシュに話しかけ、何が出来ると聞いている。
(( Condition , all green. " Device form" get set. ))
 おおっ! と薫が驚いている。バルディッシュが金属片からデバイス形態、黄金の宝玉を持つ黒い斧へと姿を変えた。
 へー、と感心しつつ振り回している。違和感があまりない。使い慣れているっぽい。
「バルディッシュさん、次はサイズでお願いします」
(( OK. "Scythe form" get set. ))
 宝玉を支点に刃が回転、先端を横に向けたそこから魔力が伸びて、刀身を作り出す。
 大鎌に変じたバルディッシュも、薫は軽々振り回す。刃が少々赤いのはフェイトと薫の波長の違いか? 一振りするたび火の粉が舞って、周囲の空気に消えていく。
「なんとかなりそうです。ではサイズを基本にします。え? 魔法使える? サイズスラッシュ、アークセイバー、ディフェンサー? 何ですかそれ? ほうほう、防具もあるのですか? バリアジャケット? ええ、では試しにそれを」
 さすがこの世界の魔法使い。デバイス相手に平然とコミュニケーションを取っている。
 凄いなー。と思っていたのだが。
(( " Barrier jacket " Get set. ))
「ぎゃぁぁぁあああ!!!」
 赤みがかった金の光が言峰薫を包み込み、突然、彼女は悲鳴を上げた。
 黒いレオタード型ボディスーツにロングブーツとグローブ、それにマント着用。つまりフェイト・テスタロッサのバリアジャケットを装着した薫が、マントを体に巻き付け涙目になっていた。
 ミッドチルダ式の魔法使い「魔導士」の身を守る。これがバリアジャケットなのであるが。
「なんで防具がレオタードなんですかっ?! なのはちゃん! どういう事ですっ?! お兄さん許しませんよっ?!」
「えええっ?!」
 とりあえず、お姉さんではないかと思う。
 薫はバリアジャケットの腰の辺りを見ているようだ。白いフリルをベルトで固定、体の前に黒い垂れ。薫は顔を赤くして、わなわな震えている様子。
「くっ。絶対領域を放棄して機動力を上げるとは何て攻撃的なスタイルだ!」
(……絶対領域ってなんだろう?)
 あとでみんなに聞いてみよう。

 雲一つ無い空の下、因須磨有珠島の中央にある小高い丘は岩石地帯。そこには無数の海魔が蠢き、石を積み上げ多くの塔を築き上げている。
 光が差しているのだが、妖気が満ちて空気が重い。所々に水溜まりも出来ており、浸かる海魔の体を濡らす。

 —— ふんぐるぃ・むぐるなふぅ・くとぅる・るるぃえ・うがぅなぐぅ…… ——

 海魔の群、その蠢きが音となって周囲の空気を振るわせる。ごぽりごぽりと聞こえる声は、海魔が漏らす呼吸なのかそれともあるいはゲップの音か。
 石塔群の一角に何かが海草で縛り付けられている。それは子供のようであり、小柄な老人、老婆、そして大きな壁のようなものまで見て取れた。

 学ランに虎縞のちゃんちゃんこ、足に下駄を履いた少年がゲゲゲの鬼太郎。
 一見すると子供だが、ヒゲを生やしている小柄な老人が子泣き爺。
 和服を着た白髪の老婆が砂かけ婆。
 そして、でっかい壁がこれも妖怪「塗り壁」である。

 鬼太郎は周囲の海魔を睨み付ける。
 自分たちは捕まった。海魔が何やら妖しい動きをしている。九頭竜を召喚するのか、それとも自分たちが生け贄にされるのか。どちらにしても危機である。強引にでも脱出をするべきか、しかしここは敵の真っ只中だ。下手をうてば仲間達が喰われてしまう。とはいえ何もしないでもいられない。
(父さん)
 小さな父をふと思う。ここで喰われでもしたら、父がどんなに悲しむだろう。そんなことには断じてさせない。ならばやるかと力を込めたその時に、空飛ぶ何かに気が付いた。
「あれは?」
 見上げた空に光芒が煌めいた。

「高町なのは、いっきまーす! ディバイーン・バスター!!!」
 レイジングハートを振り下ろし、そこから吹き出す大火力。それは彼女の主砲たる、砲撃魔法「ディバインバスター」収束された彼女の魔力は、光り輝き突き進む。
 攻撃開始、1番手。鬼太郎さん達を確認し、離れたところを狙います。

「なんじゃぁぁあああ?!」
「うぉお、何ごとじゃ?!」
「ぬりかべー」
 空飛ぶ少女が撃ってきた。離れた場所に着弾した輝きは、轟音を立てて石塔ごと海魔の群を吹き飛ばす。どうやら人間であるらしい。いやしかし、この威力はひょっとして人ではなくて魔人かも。
「突撃ばーい」
 知ってる声にそちらを見ると、一反木綿が飛んできた。そして上には目玉の親父。仲間達が叫んで呼ぶが、しかし二人はこちらに来ない。海魔を横切り気を逸らす。
 攪乱している? 海魔の群が自分たちから離れていくと、森から少女が飛び出した。

 薫は自身に強化を掛けて、マントに魔力を流し込む。このマントは「空飛ぶマント」これは使ったことがある。しかし慣れてはいないので、空を飛ばずに地上を走る。
 身体強化と魔力放出をメインとし、飛行魔術はブースター。このスタイルなら慣れている!
「バルディッシュさん! サイズスラッシュ・スタンバイ!!」
(( "Scythe-slash" get set. ))
 サイズフォームのバルディッシュ、その刀身を形成する魔力の刃が輝きを強くする。大鎌を振りかぶり、囚われの妖怪達に突撃する!
「だぁぁあああ!!!」
 駆け抜けながら光る大鎌を振り回し、海草を岩ごと叩ききる。一閃、二閃、三閃、四閃。鬼太郎達は解放された。
「君達は?」
 鬼太郎に問いかけられた。
「私と空のあの子は味方です。九頭竜召喚阻止のため、皆さんに協力します」
 おお! と声を上げる妖怪達。それにしてもだ……。
(ゲゲゲの鬼太郎、子無き爺、砂かけ婆、そして塗り壁! ステキすぎる!!!)
 思わず顔がにやけます。
「あのっ!」
 なのはが空から降りてきた。
「君は……、さっきの光は凄かったね。ありがとう、手を貸してくれて」
「は、はいっ!」
 なのはは顔を少し赤くし、もじもじしている。その気持ち、日本人として良く判る。そんな彼女と目があった。
(判りますか?)
(判ります)
(そうですよね、鬼太郎さんだもん、そうですよね)
(鬼太郎さん、ちょっと大人じゃないですか?)
(本当だ。それに少し白髪なの)
(まさかウ〇ンツ?!)
(そうだ! ウェ〇ツだよ!)
(何ということだ! まさかウェン〇鬼太郎とはっ?!)
(でも薫さん、〇ェンツ鬼太郎さんも格好いい!)
((きゃぁぁあああ! ウ〇ンツー!!!))
「こりゃ! お嬢ちゃん達、何をしておる」
「「ごめんなさい」」
 やってきた目玉親父に怒られました。
「父さん!」
「おお、鬼太郎。無事じゃったか。よいか鬼太郎、この子達は味方じゃよ。なのはちゃんは上から、薫ちゃんも後は上から塔を破壊してもらう。ワシらは海魔どもの相手じゃ。判ったか?」
「判りました父さん、みんな、行くぞ!」
「「「「おーっ!!!」」」」

 その頃、ねずみ男は海にいた。
 突撃なんて冗談じゃない。俺は行かない。そうごねたら薫という子に「ならいいです」とあっさり言われた。
 その代わり、落としたトランクを探してくれと頼まれた。宝石を一粒くれて、発見できたら後でお金をくれると約束してくれた。
 あんな子供に戦わせ、自分はこうして後ろにいる。
 いやいやと首を振る。自分は戦い向きじゃない。腕っ節も強くない。何かあったら頭を使い、口先だけで乗り越える。そうやって生きている。
 それでも彼は左右を見渡す。騒ぎが起こって海魔は山へと上がっていった。こうしてざぶざぶ泳いでいても、別段なにも起こらない。
「あーもうトランクなんかねぇじゃねぇかよぉ」
 探したフリで充分か? 遠くから爆音なんかが聞こえてくる。
「あーもぅ、しかたねぇなぁ」
 トランク、トランク、どこにある。沖の岩礁に這い上がり、上から海を見渡した。
 ……キラリと光るものがある。
「あったぁーっ!!!」
 ねずみ男は再び海へと飛び込んだ。

「ディバインバスター!」
 (( Divine - buster ))
「バルディッシュさん、アークセイバー・スタンバイ!」
 (( " Arc - saber " get set. ))
「でりゃぁぁああ!!!」
 高町なのはのレイジングハートが桜色の主砲を放ち、言峰薫のバルディッシュが赤く染まった三日月刃を撃ち放つ。
 ディバインバスターが石塔を吹き飛ばし、アークセイバーが石塔を斜めに切り裂き倒壊させる。
「ええいっ! 数が多い!!!」
 薫はいらだち声を上げた。魔力の運用が少々苦しい。マントで浮くのは平気だが、刃を飛ばすと力が抜ける。ときどき海魔が石を投げてくるのが避けられない。自動展開する「ディフェンサー」が守ってくれるが、勝手に魔力が抜かれると落ちそうになる時がある。
 なのはちゃんは魔力容量が大きいらしく、大砲も撃ってもケロリとしている。色々な意味で年上の自分が情けない。
 ……せめて紙片と炉があれば、……王様に許可をもらって持ち込んだ法典礼装さえあれば。
「言ってもしょうがないですけどねっ! アークセイバーッ!!」
 薫は魔力の刃を飛ばす。

 地上を監視するアースラでは、顔を紅潮させたエイミィがコンソールに指を踊らせる。
「バルディッシュからのデータ転送、正常に稼働中。言峰薫の魔力パターン解析できます。魔力変換資質「炎熱」に相当すると思われますが、魔力そのものが火炎変換の途中位相に状態が類似。魔力の動きが自律的で体外の魔力も制御している模様です。魔力量はランクC相当。しかし魔力の回復速度が異常。自然回復ではなく、周囲の残留魔力を吸い上げていると思われます」
 次元世界の魔法技術と違う神秘の魔術。とれたデータが興味深い。エイミィは興奮を覚えつつ次々とデータを整理する。
 リンディも艦長席で身を乗り出し、モニタに目が釘付けだ。そこには鬼太郎が映し出されている。
 少年の髪の毛が針となって飛ばされる。
 蹴れば下駄が飛んでいく。
 上着が意志あるように敵を打つ。
 それよりも何よりも、
「ああ、魔法生物が半ズボンだなんて! ファンタスティック!!!」
 その目をウルウルさせていた。

「ディバインバスター!」「アークセイバー!」
 なのはと薫の魔法によって、次から次へと石塔が倒れて崩れる。蠢く海魔に妖怪達が攻撃し、徐々に数を減らしていく。
 しかしきつくなってきた。薫は肩で息をする。
「薫さん、大丈夫ですか?」
 なのはも額の汗を拭っている。お互い空から撃ちまくり、崩した塔は三十ほどか? それでも塔は残っている。点在しているせいもあり、どうにも効率が悪いのだ。
 ここにきて、なのはの砲撃ペースが鈍ってきたのはしょうがない。むしろ頑張りすぎと言えるだろう。
 それにしてもこの子はどこかアンバランスだ。
 魔力は薫の何倍もあるし、魔力砲も凄まじい。攻撃魔術への適性は、自分や凛より上だろう。なのに魔力をぶつけるだけで、呪いも属性も帯びてないのが納得いかない。魔術というより気功のようで、やっているのはカメハメ波?
 そして魔力も自然回復しかしていない? まさか儀式魔術の素養がないとか言わないよな。
(( Defenser ))
「おっと!」
 地上から石が飛んできて、バルディッシュが弾いてくれた。魔力が抜かれるのにも慣れてきた。
 これはとても便利だが、ギリギリの戦いには使えないなと薫は思う。恐らく魔力量に自信がある魔術師のためのものなのだろう。道具使いの自分だが、相性がよろしくない。
 でも変形するのはいいなと思う。
「アークセイバー!」
 刃が飛ぶのも格好いい。

「ディバインバスター!」
 だんだん苦しくなってきた。これほど多くの攻撃魔法を、続けて使ったことはない。
 一方的に攻撃できて、戦いとしては楽なのだけど、絞り出すような魔法行使に身が軋む。
「アークセイバー!」
 向こうで薫が魔法を放つ。
 始めはフラフラしていたが、既に動きがなめらかになっている。バルディッシュが使う自動防御に魔力を吸われ、落ちそうになっていたのだが。
 ユーノがいつか言っていた。インテリジェントデバイスに振り回されることもあると。
 それを心配したのだが、器用に空を動いている。そして動きが武術っぽい。家が剣術家のせいもあり、なのはは目だけは肥えている。
 きっとあの人は鍛えているのだ。自分ももっと頑張ろう。
 よし、と自分に気合いを入れて、レイジングハートを振り上げた時、薫が真っ逆さまに降下した。
「薫さん?!」
 慌てて追おうとしたのだが、違う。あれは落ちているんじゃない。薫の行くその先に、ねずみ男が荷物を掲げて立っていた。

「良く見つけてくれました!!!」
 薫はトランクを引ったくり、叩き付けるように地面に置いた。
「解錠(アンロック)コードK103NK00」
 薫の魔力に反応し、ダイヤルがぎゅるぎゅる回転する。そしてがちんと停止して、トランクが開かれた。
 ラピスラズリの蒼い握り柄。黄金のギアボックスと紅玉あしらいのナックルガード。三本ある黒金の円筒には血の色をした碑文が刻まれて、それが法典の本体だ。そして螺旋階段を思わせる銀色のシャフトが並んでいる。
「ねずみ男さん! 17秒守ってください!!」
 でぇぇええ。悲鳴が上がるが無視をする。
 柄を取って、ギアボックスを取り付けひねる。護拳を載せて固定する。第一シャフトを差し込んで「地の法典」を取り付ける。第二シャフトを絡ませて「王の法典」にシャフトを通す。そして「天の法典」の歯を咬ませ、切り込み先が刻まれた第三シャフトをねじ込んだ。
 全体がぎしりと音を立て、がちがちがちと、中で繫がる音がした。
 薫の目が優しく緩み、しかし口がぱっくりと左右に広がる。
「出番ですよ、起動しなさい。—— フレア ——」

 ねずみ男は薫を庇い、海魔の群と向き合った。やはりこんな所に来なきゃよかった。逃げたくても逃げられない。
「ケツでも喰らいやがれ!」
 ぷぅと屁を喰らわせる。二体の海魔がひっくり返った。おっしゃ、効いてるザマァミロ。こうなればヤケクソだ。腕まくりでもしてやるぜ。
 かぁーっ、と臭い息で威嚇したとき、背中に風を感じて鳥肌が立つ。半妖怪たる自分の体が震えている。何かヤバイものがある。
「ねずみ男さん、ありがとうございました。後は任せてください」
 笑顔の薫がゆっくりと前に出た。服がシスター風に戻っている。
 そして手には三メートル程の突撃槍(ランス)を持っていた。二メートル位の刀身は三つの円筒から出来ており、一メートル程の青い柄と、金の護拳が目に眩しい。
「あはは、そうかい。じゃ、俺は応援してるから」
「はい。後でお礼いたしますので」
 ニッコリ笑う、この子が怖い。

 —— 突貫!(ランス・チャージ)——

 三連円筒刀身が順・逆・順に回転して唸りを上げる。ドリルランスは火を噴いて、周囲に火の粉を撒き散らす。
 ランスを掲げる言峰薫は翼を広げ、地上に蠢く海魔の群を突っ切った。海魔の体は千切れ飛び、近い海魔も風に当たって切り裂かれる。

 フレア。それは「炎上」揺らめく炎。輝く火であり閃光を生み出すもの。怒りの激発と閃熱の放射を意味する言葉。

 右手のドリルが熱風を起こして周囲を切り裂き、左手の黒い戦斧が盾の魔法で彼女を守る。赤い翼を大きく広げ、言峰薫が突撃する。
 石塔にドリルを突き立てた。
「回れ! 回れ!! 切り裂けぇぇええ!!!」
 ランスを上に振り抜くと、塔は砕けて石が吹き飛び、小石は風に当たって砂と化す。予想以上に調子が良い。やはり自分専用に作ったこれ(ドリル)は格別だ!
「じゃんじゃん行きます!」
 次の塔に突撃します。

「父さん!」
「いかん、下がるんじゃ鬼太郎。みんなも下がれ」
「なんじゃあれは?! 羽が生えとらんか?」
「目玉の親父! あの子らは何者じゃ?!」
「ぬりかべー」
「あっちが教会のエクソシストの娘さんで薫ちゃん、あっちが薫ちゃんの知り合いで魔法使いのなのはちゃんじゃ」
 目玉の親父にしてみれば、英霊の従者である薫より、高町なのはの力に驚いているのだが。
「あんな女の子がいるなんて、人間は凄いですね。父さん」
 人間じゃないかもしれない。それは言わない親父であった。

 薫がランスで突撃し、それを見て気合を入れ直したなのはが砲撃を繰り返す。
「もう少しだよ。レイジングハート、頑張って!」
 ぎゅっと杖を握り直す。疲れているけど大丈夫、あと少しで全部無くなる。だけど嫌な匂いが鼻につく。血の臭いなど好きじゃない。
 口を開け、金魚みたいに息をする。これだと少しは臭わない。苦しいけれど我慢する。しかし……。
「うっ?!」
 吐きそうになって口を押さえた。
 丘の上に蜃気楼が揺らいでいる。揺らぐ空気のベールの向こう、大きな何かがこちらを見てる。巨大で不吉で恐ろしい。異界の魔怪がこちらを見てる。
 気持ちが悪い。目が回る。あれれ? 周りが暗くなる。レイジングハートが光ってるけど、ダメだ。意識が遠くなる。落ちる。ダメだ。でももう消える。心が落ちる。落ちていく。
「なのはちゃん、それは気のせいです。————」
 耳元で、言峰薫の声がした。
 気が付けば、彼女が自分を支えてくれていた。赤い翼がキレイに輝き、手にしたランスが黄金色。そして見つめる薫の瞳が、紅玉のようで美しい。
「———— なのはちゃん」
「あ、はいっ!」
 いけない、こんな所で寝ちゃダメだ。
 鳶色の目で薫がこちらを見ている。……赤く光っていたのは錯覚だろうか?
「どうやら倒した海魔が生け贄になってしまったようですね」
 薫があっちを向いている。その空に淀んだ空気が吹きだまり、巨大な何かの目玉が見えた。
「あれが海の九頭竜ですか」
「……くするぅ?」
 蜃気楼の向こう側、そこに巨大な何かがいる。
「なのはちゃん、気持ちをしっかりもって下さい。異界にいるとはいえ、あれだけ巨大な存在に「見られる」と、魂が軋みます」
「はいっ!」
「エーテルを固定する石塔が、あらかた崩れているのでじきに消えると思いますが、早々に消えてもらおうと思うのですがどうでしょう?」
「どうすればいいんですか?」
 尋ねるなのはに薫は微笑む。
「なぁに、あの辺を思い切り吹っ飛ばせばいいんですよ。あっはっは」
「判りました。全力全開で大っきいの撃てばいいんですね?」
「そうですね。なのはちゃん、大丈夫ですか?」
「大丈夫です!」
 そういうのは得意です。そんななのはに薫はクスリと笑った。
「じゃあやっちゃいましょう。すいませんがなのはちゃん、鬼太郎さん達に下がってくれって言ってきてもらえますか? 私の術はちょっと時間が掛かるので」
「判りました。じゃあ言ってきます」
 妖怪さんにはどいてもらって、向こうの方から最大砲撃やっちゃおう。

 なのはが降りていくのを見送って、薫は丘の上を睨み付けた。透けた空気の向こう側、巨大な影が動いている。
 ……相手に出来るかあんなもんっ!
 ギルガメッシュの視線に慣れていなけりゃ発狂しているところだった。待ってなどいられない。あの歪みを吹き飛ばす!!!
 薫はランスを天にかざした。
「我が主にして神たる王に、黄金の林檎酒を捧げよう。そして今、法典を開帳し、以て王の裁きをもたらさん」
 薫の体が仄かに光り、林檎の香りがまき散らされた。魔力を帯びた空気がランスの起こした風に乗る。
「真なる力をここに示せ。我が礼装、乖離法典フレア(デミ・エア)!!!」
 三連円筒法典が、炎を吹きだし唸りを上げた。

「時空震の発生を確認しました!」
 アースラではエイミィが緊張した面持ちでコンソールを操作していた。
「クスルゥがこの次元に近づいたのかしら?」
 リンディも真面目な顔で問うが、エイミィは違うと叫ぶ。
「時空震の発生源は「言峰薫」です。時空震、増大していきます。31、43、56、おかしいです! この魔力値で時空震が起きるはずがありません! 範囲は極小、でも時空断層の発生危険域に届きます。こんなのおかしいです!」

 モニタに映る言峰薫はランスを大きく振りかぶる。それは斬擊姿勢でなく、突撃刺突の振り下ろし。
 そして薫は歌うように呪文をつむぐ。

 ———— エ・ヌ・マ、エ・リシュ。ラ、ナ・ブ・ウ。シャ・マ・ム ————
      (上にある、天には未だ、名前無く、)

 ———— シャプ・リシュ。アム・マ・トゥム。シュ・マ。ラ、ザク・ラト ————
      (下にある、地にもまだ、名がなかった時のこと、)

 ———— ギ・パ・ラ。ラ、キ・イス・ス・ル。ス・サァ。ラ、シェ・ウー ————
      (世界には、形なく、水も大地も見あたらず、)

 ———— エ・ヌ・マ、ラ・エア。シュ・プ・ウ。マ・ナ・マ ————
      (ただ風が吹くのみで、まだ何も存在しなかった、)

「データベースにヒット。この世界の文明起源、四大文明最古メソポタミアの天地開闢叙事詩「エヌマ・エリシュ」と判明、詠唱テキストは古代アッカド語です」
「……天地開闢? まさか儀式魔法で世界の誕生を再現するの?!」
 エイミィとリンディはモニタを見上げる。炎と風が渦を巻くその中心、少女が手に持つ螺旋の祭器が熱風を生んでいる。
 リンディが拳を握ったその時、モニタに桜色の光が差した。
「スターライト・ブレイカー!!!」
 周囲の魔力が流星のように収束し、輝く光が力となる。高町なのはの最大火力「スターライトブレイカー」が放たれた。
 光の奔流は丘の地面を薙ぎ払い、あらゆる物が吹き飛ばされる。ずごごごご。巻き上がる土煙、これぞなのはの真骨頂。
「うわー、さすがなのはちゃん。あ、時空震、低下していきます。49、33、19、……時空震、数値ロスト。消えました」
「どういうこと? あら?」
 モニタに映る言峰薫は構えを解いていた。ふよふよ飛んでなのはに近づき、よっと手を挙げ笑顔になった。
 リンディとエイミィは注視する。
「なのはちゃん凄いですね。私の出番なくなっちゃいました。あっはっは」

 全てが吹き飛ばされていた。

 コケたエイミィが椅子へと這い上がり、突っ伏したリンディが姿勢を立て直す。
「ああ、もうっ! なのはさんの砲撃王っ!!!」
 続きが見たかったらしい。
 
 ぶえーくしゅっ。ねずみ男が盛大にくしゃみをする。
「こら、ねずみ男! 薫ちゃんに宝石を返すんだ!」
「いいんですよ鬼太郎さん。ねずみ男さん、これ約束の後払い金です」
 言って薫は財布から、全部のお札を手渡した。
「いいのかい? えっへっへ。悪いね?」
「ねずみ男!」
「まあまあ鬼太郎さん、これは正当な報酬ですよ。なんなら皆さんで美味しいものでも食べてください」
「よーし、俺様がおごってやるぜ。感謝しなー」
「「調子に乗るな!」」
 ねずみ男が子泣き爺と砂かけ婆にツッコミを入れられる。
「君たち、どうもありがとう」
((……鬼太郎さんだ(はぁと)……))
 なのはと薫、ある意味メロメロです。
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったぞ。鬼太郎、この二人に良く礼を言うのじゃ」
「はい父さん、なのはちゃんに薫ちゃん。本当にありがとう。何かお礼が出来ると良いんだけど」
「お礼だなんてそんな! 私はク、く、九頭竜が来なかっただけで充分です」
「そーですねー。あー、でも良かったらお願いがあるのですがどうでしょう?」
「えーっ?! 薫さんズルイよ!」
「ふっふっふ。なのはちゃん、大人の世界は厳しいのです」

 そして。

「あははは。塗られるー、塗り込まれるー。あはははははは」
 薫が塗り壁の体にべったりと張り付いて、頬ずりなどをしています。薫、実は塗り壁ファン。
「なのはちゃん、どげんですか」
「うわーっ(はぁと)」
 高町なのはは一反木綿の上に乗り、ステキな笑顔になっている。彼女はどうやら、一反木綿がお気に入り。
「面白い子たちですね、父さん」
「そうじゃな」
 鬼太郎の呟きに、目玉の親父は頷いた。塗り壁が困った顔をしている気がするが、彼は壁なので判らない。そういうことにしておこう。

「なのはちゃん、薫ちゃん、気を付けて帰るんじゃぞ」
「「はい」」
 妖怪達に見送られ、なのはと薫はそれぞれの世界に帰還する。

 高町なのははアースラに回収してもらうべく、天空に舞い上がり、

 言峰薫は半分溶けた突撃槍を手にして翼を広げ、地平の向こうの冬木市へ。

 妖怪達は、草葉の陰の向こう側へと消えていく。

 そして、誰もいなくなった島にはただ風が吹くのみだった。

前の話へ

あとがき
 ギガ・ドリル・(自主規制)!!! 失礼しました。長い。しかも微妙(苦笑)
 関係ないですが、昔の「ぬりかべー」としか言わない彼が好きだった。それと猫娘は無理でした(残念)
 これはもはや「Fate/stay night」の二次創作ではないですね。切嗣を……いや、無理w
 書いていて楽しかったです。ゲテモノ過ぎると判ってたんで、書くのしぶってたのですが。あはは。でもファンフィクションならではの面白みがあると思います。黒歴史または東〇まんが祭と思ってくださいませ
(でもこれはやり過ぎた)
2008.11/24th

おまけのおまけ
・バルディッシュについて
 欧州における中世(5〜15世紀)が終わった16世紀頃、ロシアを中心とした東欧で使用されたポールアックス(長柄の斧)の一種。ただし「バルディッシュ」は英語読み。
 全長2メートル少々と、ポールウェポンとしてはやや短め。ただし通常の数倍はある巨大な斧頭が付いており、一撃で人間の胴を両断したという。
 その非人道的な殺傷力のため、教会から使用禁止令が出たというエピソードをもつ。
 ……という記述を入れて、薫が嫌がるようにしようかと思ったのですが、やめました。


カヲル:こんにちわ「薫ちゃんのミニミニ王様講座・プチねた版」いい加減にしろと自分で思わないこともありません。私、言峰薫と。
ギル:ハハハハハ。押し通す。それが王道だ。
カヲル:その辞書に「後悔」の文字はないかも知れないサーヴァント・アーチャー、ギルガメッシュがお送りいたします。
ギル:色々と言いたいことはあるが、まぁ良い。……出たな。
カヲル:ええ、少しずつヤバイものが顔を出しつつあるようです。ということで今回は「エヌマ・エリシュ」です。
ギル:とは言え、伝説・史実の「ギルガメシュ」とは関係ないのだがな。
カヲル:そうなんですよね。「エヌマ・エリシュ」はバビロニア神話の創世記であり叙事詩です。
ギル:この文献は、バビロニア人の世界観を理解する上で重要とされているぞ。
カヲル:まず、オリジナル(あるいは最古のもの)は七つの粘土板にアッカド語で刻まれており、その文章は合計で千行以上もあります。
ギル:テキストはほぼ完全に残っている。トルコのハラン遺跡、バビロニアやアッシリアの遺跡において、多くの複製や翻訳が発見されている。
カヲル:バビロニア王ハンムラビがメソポタミアを統一し、都市国家バビロンの主神「マルドゥク」が神としての地位を高めた紀元前十八世紀に成立したと考えられています。
ギル:他説はあるが「ギルガメッシュ叙事詩」より数百年は新しいものなのだ。
カヲル:書かれた目的なのですが「バビロンの都市国家神マルドゥクが、他の都市国家の神より優れていることを示すため」であったようです。つまりプロパガンダ(政治的宣伝広告)用の創作神話みたいです。
ギル:ちなみに「エヌマ・エリシュ」は文書冒頭、書き出しの数単語であり、文書のタイトルではないのだぞ。本にタイトルを付ける習慣というのは実はそう古くはないのだ。
カヲル:旧約聖書なども、元は書名がありませんでした。書き出しの単語「いかに」である「エイカー(ヘブライ語)」などと呼ばれていたそうです。
ギル:東洋でも同様に書名がなかったようだな。論語の各編は書き出し二文字がタイトルになり、孫子などは著書名が後世に書名代わりになった。つまり元の書は名無しなのだ。おっと話が逸れたな。
カヲル:では内容について述べていきます。まず冒頭で、真水を司るアプスー、塩水を司るティアマト、そしてその息子で霧を司るムンムといった原初の神が登場します。間違っても風が天地を切り裂いたりしません(笑)
ギル:続き、エアとその兄弟たちなど、多くの神がティアマトの巨大な体から生まれる。
カヲル:彼らは非常に騒がしかったため、アプスーとムンムは不愉快に思い、彼らを滅ぼそうと企てます。ティアマトはこれに反対します。
ギル:ティアマトは計画を阻止するよう、当時神々の中で最強であったエアに命じた。エアは魔法でアプスーを眠らせて殺し、ムンムを追放する。
カヲル:エアは後に神々の王となり、妃ダムキナとの間にマルドゥクが生れます。マルドゥクはエアよりはるかに強大な力を持っており、彼が起こした嵐によりティアマトの塩水の体はかき乱され、ティアマトの中に棲む神々は眠ることができなくなります。
ギル:ティアマトは塩水に住む神々の進言により、アプスーを殺したエア達への復讐を企てた。ティアマトは己の力を強め、仲間の神々も力を合わせた。
カヲル:ティアマトは戦いに勝利するため、11体の怪物を創り出します。本文では長い戦いの描写が続きます。
ギル:最終的にマルドゥクがティアマトを倒し、ティアマトの遺骸を用いて世界を形成するのだ。
カヲル:お話は続きます。ティアマトに味方した神々はマルドゥク側の神々のために働くことを強いられます。
ギル:後にマルドゥクが人間を創造することにより、敵方の神々は労働から解放される。これは人間が神(王)に仕えるための存在であることを知らしめているものだ。
カヲル:支配者たる神々の住み家「バビロン」の建設には人間がたずさわっています。神々はマルドゥクに王の権威を与え、50の名で彼を讃えます。
ギル:ここにおいてマルドゥクが、初期メソポタミア文明における神々の王エンリル(バビロニア系ではエア)の地位を超える。過去の神々と他の都市国家の王の権威を、マルドゥックとバビロニアが集権したのだ。
カヲル:この「エヌマ・エリシュ」はバビロニアにおいては季節の神事において、一番始めに朗読された重要なものだったと言われています。
ギル:つまり「世界とはこういうものだ」ということを、神(王)が人間(国民)に示すものであったということだ。
カヲル:ちなみにメソポタミアの支配民族がシュメール人からアッカド人に変わっていますが、文明的には連続しているとされます。
ギル:まぁなんだ。我(オレ)という存在は、色々なところからの良い所取りだと言えるわけだな。
カヲル:歴史的真実や資料的真実と、それをモチーフとして生み出される作品は違うものですからね。あ、それと作中の呪文詠唱(エヌマ・エリシュ)は古代アッカド語の発音と日本語訳をモチーフにしています。しかし作品用に改編されていますので、引用などはしないで下さいね。では今回はこの辺で。

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