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黄金のおまけ#19.5クラスメート

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三枝由紀香。身長:155cm。体重:39kg。スリーサイズ:75/57/78。イメージカラー:赤茶。特技:家事全般・家計のやりくり・地道な作業。好きな物:応援・家族・友達。苦手な物:物理の授業。天敵:いない。
蒔寺楓。身長:163cm。体重:49kg。スリーサイズ:72/56/78。イメージカラー:褐色。特技:短距離走・歴史・日本舞踊。好きな物:ゴージャスな物。苦手な物:ホラー全般。天敵:美綴綾子。
氷室鐘。身長:157cm。体重:48kg。スリーサイズ:84/56/85。イメージカラー:ねずみ色。特技:これといってなし(本人談)。好きな物:人間観察・写生・油絵。苦手な物:猫・蒔寺楓。天敵:蒔寺楓。
美綴綾子。身長:162cm。体重:50kg。スリーサイズ:83/58/83。イメージカラー:オレンジ。特技:武芸全般・大量生産料理。好きな物:かわいい物・ゲーム。苦手な物:囲碁・将棋。天敵:藤村大河。
遠坂凛。身長:159cm。体重:47kg。スリーサイズ:77/57/80。イメージカラー:赤。特技:あらゆる事をそつ無くこなし、ここ一番で失敗する。好きな物:宝石磨き・好きな子いじり。苦手な物:電子機器・突発的なアクシデント。天敵:言峰綺礼・カレイドステッキ
言峰薫。身長:164cm。体重:53kg。スリーサイズ:少し大きい/引き締まってる/安産型。イメージカラー:炎・闇。特技:会社経営・賛美歌。好きな物:養父・叔父貴・幼馴染・その他いっぱい。苦手な物:自己肯定。天敵:猫系キャラ・カレン・第七聖典
柳洞一成。身長:170cm。体重:58kg。イメージカラー:鉄紺。特技:坐禅・空手。好きな物:詰め碁・クロスワード。苦手な物:女性・流行もの。天敵:遠坂凛。
衛宮士郎。身長:167cm。体重:58kg。イメージカラー:赤銅。特技:ガラクタいじり・家庭料理。好きな物:家事全般。苦手な物:言峰親子。天敵:梅昆布茶
間桐慎二。身長:167cm。体重:57kg イメージカラー:群青。特技:名推理・捜し物。好きな物:子犬・特権。苦手な物:幸せな空気。天敵:美綴綾子・言峰薫
間桐桜。身長:156cm。体重:46kg。スリーサイズ:85/56/87。イメージカラー:桜。特技:家事全般・マッサージ。好きな物:甘いもの・怪談。苦手な物:体育・体重計。天敵:遠坂凛
間桐臓硯。身長:145cm。体重:43kg。イメージカラー:灰色。特技:虫や鳥の飼育・株式投資。好きな物:出来の悪い孫達・悪だくみ。苦手な物:太陽光。天敵:教会の代行者。
藤村大河。身長:165cm。体重:53kg。スリーサイズ:?/?/?。イメージカラー:虎。特技:剣道・自堕落・不思議空間。好きな物:万物全て。苦手な物:ライオン。天敵:???
葛木宗一郎。身長:180cm。体重:70kg。イメージカラー:無色。特技:謎拳法。好きな物:静謐。苦手な物:特になし。天敵:不幸な女性
言峰綺礼。身長:193cm。体重:82kg。イメージカラー:黒。特技:特に無し。好きな物:悲運。苦手な物:信頼。天敵:衛宮切嗣・言峰薫
ギルガメッシュ。身長:182cm。体重:68kg。イメージカラー:金。特技:お金持ち。好きな物:自分・権力。苦手な物:自分・蛇。天敵:現時点では無し
シエル。身長:165cm。体重:52kg。スリーサイズ:85/56/88。イメージカラー:空色。特技:お菓子作り・飛び道具。好きな物:カレー・日本茶。苦手な物:吸血鬼映画・秘密の同僚。天敵:アルクェイド・謎のホウキ少女
セブン(第七聖典)身長:145cm。体重:38kg。スリーサイズ:67/53/74。イメージカラー:青。特技:転生批判・幽体離脱? 好きな物:にんじん・マスター。苦手な物:孤独。天敵:マスター
(上記データは一部このサイト用に改竄されております。ご注意を)


 地図で見ると、冬木市の上(北)には海がある。
 東西に伸びる海岸線に、下(南)から注いでいるのが未遠川。川を挟んで左右に分かれ、右(東)にあるのが冬木市新都。川沿いに国道と鉄道が入り込み、駅があってそこから東へ海沿いに抜けていく。
 駅が出来たせいもあり、新都は冬木の開発地区だ。駅前にはビルが建ち並び、マンションなどがそれを囲んで開発地域を広げていった。
 新都の海岸沿いは護岸整備されている。冬木港があり工場が集まった。
 十年前、火災に見舞われた中心地は公園となり、管理されてキレイな花が咲いている。慰霊碑のある新都中央公園は開けた造りになっており、まだ新しい冬木総合芸術ホールが隣り合うが人影まばらな静かな場所だ。
 新都の下(南)には森があり、教会と墓地があって開発は進まなかった。結果、この森が下(南)と右(東)の隣の市から、冬木を見えなくさせている。
 国道から道は別れて未遠川に突き当たり、そこにあるのは冬木大橋。鉄骨造りの立派な橋が、新都と深山町をしっかり繋ぐ。
 未遠川を挟んで左(西)側は深山町。古くからある町であり、新都の開発が行われるまで、冬木市の中心はこちらであった。そのため旧家・邸宅が多くあり、味わいのある町並みだ。
 冬木大橋から続く大通りは西に伸び、山中の柳洞寺にまで続いている。この大通りが谷となって深山町を南北に分けていて、南・山側の町はかつて外国人が多く住み、洋風建築が多くモダンな町並みを楽しめる。中には石造りで城と見紛う家もある。
 北・海側の街は更に古くからあり、日本建築が多く海のそばには田畑も広がる。武家屋敷も存在し、どことなく懐かしい町並みだ。
 未遠川に沿って海浜公園が造られたりもしているが、深山町は落ち着きのある街だった。
 そんな冬木市深山町の一角に、教会の尼僧服を着た一人の少女が立っている。
 視線の先には一戸建て。
 小さなお庭の二階建て。土地幅ギリギリの一階に、ちょっと小ぶりな二階が乗ってるお宅です。
 少女、言峰薫はお菓子の箱を両手で持って、体を傾け覗き込み、それから一言くちにした。
「……普通だ」

 ── ぴんぽーん ──

 表札には『三枝』とあった。

黄金のおまけ#19.5.クラスメート

「言峰さん。いらっしゃい」
 出てきたのは三枝由紀香。控え目な笑みを浮かべて今日も空気が柔らかい。
 チノパンに白のポロシャツ、うすいピンクのカーディガンを上に着て、落ち着きのある色調だ。
 今日はとある日曜日。クラスメートのおウチに遊びに来たのです。
 玄関で靴を脱ぎ、狭い廊下をすぐに抜け、案内されたそこはリビングだ。カーペットが敷いてあったりするのだが、ブラウン管テレビや塗った壁、天井から下げた蛍光灯の行灯がどことなく昭和風。居間と呼ぶのがベストマッチだ。
「苺のタルトとチーズケーキを持ってきました。食べませんか?」
「うわっ! 薫ちゃん、ありがとう。お茶を淹れるね」
 由紀香は台所へと駆けて行く。
 ちょっと覗くと流し台とガスコンロ、ダイニングテーブルが見て取れる。ダイニングキッチンというより台所テイストである。
 これぞ古き良き昭和の生活だ。
 などと薫がウムウムと納得していると、お盆にお茶とケーキとタルトをのせて、三枝由紀香が戻ってきた。
 彼女はお盆を絨毯の上に降ろし、やおらローテブルを取り出した。
(これはっ?!)
 言峰薫は驚愕する。脚が折りたたみ式のテーブルは、高さは低く丸かった。木目を生かしたシンプルな風合いが、日本人の魂を揺さぶりやまない。
「チーズケーキは切ってきたけど良いよね。アレ? なんで目をキラキラさせているのかな」
 湯呑みとお皿を置いた彼女の前で、お客様が手を組んで瞳をウルウルさせていた。
 ちゃぶ台だった。
「三枝さん! 由紀香さん! やってられるかーって、ひっくり返しちゃダメですか?!」
「ダメだよ?! 薫ちゃん何でそんな笑顔で嬉しそうなの?!」
「ちゃぶ台ですよ! 日本人のマストアイテム! くそぅ、こんなところで実物が生きていたとは、日本人の血が騒ぐのです!」
「えええーっ?! ちゃぶ台なんて何処の家にもあるよね?」
 困った顔の三枝由紀香。しかし薫は何を馬鹿なと目を剥いた。
「何を言っているのですか?! 我が教会には卓袱台はおろか畳も玄関の段差も風呂桶もないのですよ!」
「お風呂はあるよね?」
「違うのです! バスタブは風呂ではないのです。泡は立てても肩までお湯には浸かれない。そういうものなのです!!!」
「えぇと、それはそれで素敵だなぁって思うんですけど」
「では来週、教会居住棟に泊まりに来てください。王様に伝えておきます」
 ブッと由紀香は気を吐いた。
「なんでギル君が出てくるのカナ?!」
「えー、いいじゃないですか。無駄な抵抗はよしましょうよ」
「違うよ! 何か違うよ薫ちゃん?!」
 しかし薫は、ずずずいっと顔を前に出す。その迫力に、由紀香は少し、たじろいだ。
「由紀香さん」
「な、なんでしょう」
「玉の輿とかどうですか?」
「だから薫ちゃん、そういうのって違うよね? 私たちまだ高等部二年だし」
「何を言っているのですかっ?!」
 薫はくわっと目を開く。
「私など、二十歳前にお婿さんを貰うつもりデスよ。教会住まいとは言え、父とは違い私は正式な修道女ではありません。修道院入りをするには仏教の出家と同じく『私財の放棄』が必要ですが、私の我侭を聞いてもらって出来た会社が大きくなって、もはや手放すことも出来ません。専任司祭の父は若い頃の無理がたたってどんどん体が悪くなってるし、おじさまにもしもの事があれば、なんちゃって見習い修道女の私は教会から出ていかないとダメなのです。ああ、どうしよう」
「えぇえっ?! 大丈夫だよ。薫ちゃん泣かないで」
 鼻を啜り、涙を滲ませる言峰薫を三枝由紀香は慰める。
「由紀香さん」
「うん。薫ちゃん、大丈夫だからね」
 三枝由紀香の腕の中、薫はくすんと小さく鼻をすすった。
「そうい言う訳ですので、小さな王様をお願いします」
「だからそれ違うよネ! ギル君まだ子供だしー!!!」
 仰け反る由紀香。しかし薫は腕を掴んで逃がさない。
「年上の女房は金の草鞋を履いてでも探せ。日本の諺ですよ?」
「でもでも私もまだそういうの早いと思うし」
「つまり脈はあると。そういうことですね?」
 薫の口元はニヤリと歪み、由紀香の顔は赤くなる。
「ち、違う。違うよ。本当だヨ?!」
「オーケー。任せてください三枝由紀香。……グレイト!!!」
「ワケワカラナイヨ!!!」
 由紀香は薫の首を締めて揺さぶった。
「ぐぇえ。しかし由紀香さん」
「はぁはぁ。何?」
 いい加減疲れてきました。
「おじさまがいなくなれば、王様はこの街から消えてしまうかも知れません。冬木に居続けてもらうために、王様には冬木にいっぱい好きな物を作って欲しいのです。そのためにはこの言峰薫。手段は選びません!!!」
「そこは手段選ぼうよ!」
「えー」
 駄目だこの子。真面目な振りしてフリーダムだ。
 由紀香が戦慄していると、玄関がガチャリと開いて「ただいま」の声が数度した。
「お姉ちゃんただいま。あーっ、薫だ!」
「ただいま。薫さん。こんにちは」
「ただいま姉ちゃん。ギルの子分じゃん、いらっしゃい」
 弟たちが帰ってきた。歳の離れた弟たち全部で五人。長男でも中等部入学前だ。彼らは外で元気に遊び、クラスメートが『小さな王様』と呼ぶギル君ことギルフォード・キングと友達だ。
 ケーキとタルトに弟たちは大喜び。言峰薫もニコニコ笑う。
「ねー、かおるー」
 タルトをパクつく弟だが、食べながらは少々はしたないのでたしなめる。
「いいじゃーん。ねぇ薫さん。薫さんは大きいギルの子分でアイジンなの?」
「そうとも言います」
 ぶぶっ。由紀香は茶を吹いた。
 え? え? 混乱していると「アイジンって何?」「仲の良い女の人のことですよ」「ケッコンするの?」「そうなるとベストですね」などとレッドゾーンな話をしています。
「薫さん。お姉ちゃんもギルのアイジンなの?」
「そうです」
「何言ってるのーっ?! 薫ちゃん! 弟たちに変なこと教えないでお願いだから!!!」
「えーっ」
 ダメです。反省の欠片もありません。
「いーじゃん。お姉ちゃん、ギルお金持ちだよ」
「お姉ちゃん。ギル、カッコイイよ」
「玉の輿だよ。姉ちゃん」
「よし」
 薫がガッツポーズなんかをしていたり。
「みんなそこに正座しなさいーっ!!!」
 由紀香はぎゅっと拳を握り、真っ赤な顔で言うのです。三人の弟+1(お客様)を正座させ、珍しくお説教タイムとなりました。

******************************

 ある日の冬木市深山町。和風な町とモダンな町を二分する大通りを、二人の少女が並んで歩く。
 下校途中であるらしく、白のブラウスにオレンジのベストを羽織り、黒のスカートを履いている。リボンタイと袖には赤いラインが入る華やかな制服だ。
 私立穂群原学園の制服姿の女子生徒。一人の髪は腰まで長く、もう一人は少年のようなショートカットだ。
 一人の顔は血色は良いが色白で、もう一人は日焼けしていて元気そう。
 一人は帰宅部。兼・時々生徒会お手伝いの言峰薫。もう一人は陸上部の短距離走者(スプリンター)蒔寺楓。
「でさ、あたしとしちゃあ『穂群の黒豹』と呼ばれたい訳ヨ」
 悪ガキのように笑う蒔寺楓。言峰薫は今日は徒歩であるらしく、そんな彼女にニコニコしながら隣を歩く。
「やはり二つ名もあるとカッコ良いですよね。中二病とならない程度での話ですが」
「中二病はイタイよなー。でもあれって男ジャン。あたしらにはカンケイなくね?」
「いやいや、腐の付く女子は増殖するらしいですから気を付けないと」
「マジ?!」
「あっはっは。どうでしょうね。それより私は乙女フィールドの発生源との濡れ衣を何とかしたいのですがどうでしょう」
 薫の言葉に楓は「えっ?!」と素早く身を引いた。
「お前と遠坂って百合の花咲く関係でファイナルアンサーじゃなかったの?!」
「アハハハハ、蒔寺サン。……ブッ飛ばしますよ?」
 ヒィ、ゴメンナサイ。彼女は飛び上がって体を小さく縮める。蒔寺楓。やんちゃな割には攻めに弱くて気弱であった。
「言峰オマエ、格闘武侠みつづりんを倒せる拳を一般人に向けるなよな」
「いやいや、百メートルを十二秒台で走る貴女も十分超人の域だと思いますが」
 薫の言葉に楓は薄い胸を反り返す。
「そりゃああたしは『穂群の黒豹』だからな!」
 よく解らないが蒔寺楓は今日も元気だ。

「着いたぜぇ」
 和風エリアの老舗通り。問屋が幾つか並んでいる。古くからある深山町にはこんな場所もあるのである。商店街とは違うけど、お店が並んで賑やかだ。
 二人が来たのは呉服屋であるらしい。白の漆喰塗りの壁、古い木目の格子戸に、重厚な屋根瓦。そして引き戸の玄関前には大きなのれんが斜めに張られ、まるでテントの屋根のよう。
 その暖簾には『呉服屋・詠鳥庵』とあり、蒔寺楓の実家であった。彼女はくるりと振り返る。
「いらっしゃいませ言峰社長」
 見事な営業用スマイルで、クラスメートを店へと招く。
 暖簾をくぐり、敷居をまたぐとそこは土間。横に長くてお客は腰掛け歓談できる。板の間には立派な座卓が幾つも置かれ、着物姿のお店の人が、上がったお客に反物などを見せている。奥の棚には様々な、織物・反物が置かれてきらびやか。着物に袖を通して合わせるお客も何人かいるようだ。
「ささ、お上がり下さい言峰社長」
「あっはっは。調子狂いますね。普段どおりじゃダメですか?」
 キリリと顔を引き締めた蒔寺楓に、言峰薫はププッと笑う。しかし彼女は頭を振った。
「店の中でお客様に失礼はできません。父上に叱られます。ささ、どうぞこちらに」
「ぷぷぷ。お邪魔します」
 店員さんに挨拶しつつ、二人は奥へと移動する。お店の奥の戸を抜けて、長い廊下を突き進み、ふすまを開けて和室に入る。畳の八畳、立派な座卓に桐箪笥。鳥居のような大きな衣桁(着物用の衣紋掛け)には絹織物の紬(つむぎ)が掛けてあり、これが普段着なのだとか。
 さすが老舗の呉服屋・詠鳥庵の一人娘。体は和服で出来ているとは実話であったようである。
 薫が感心していると、蒔寺楓がグニャリと倒れた。
「あー、ダリィ」
 しかし色々と台無しだった。
 とりあえず、鞄を置いて座布団なんかに正座する。薫が顔をしかめます。
「ん? ひょっとして正座ダメ?」
 眉を寄せた部屋の主に、薫は小さく苦笑を見せる。
「教会じゃ椅子とソファーとベッドとカウチの生活ですからね。でも柳洞寺で月に一度、坐禅をさせてもらってますから、畳の上がダメな訳ではないですよ」
 むしろ畳は大好きです。そう言い薫は畳の上に寝そべった。
「クロール〜」
「泳ぐな。子供かお前は。それとカウチって何だ」
 カウチ・ソファー。寝そべるスペースが始めからあるソファーで、一部または全部に背もたれや肘掛けのない奴です。などと言いつつ薫のクロールが止まらない。
「制服がシワになるぞ。じゃあアタシは着替えるから待っててくれ」
 楓は胸のリボンをほどき、スカートのホックを外す。
「ちゃんちゃら・ちゃんちゃん、ちゃんちゃんちゃん。ふぁー・ふぁふぁふぁー、ふぎゃっ?!」
「変な音楽流すんじゃねぇ!!!」
 スカートを抑えながら楓は薫を踏んづけた。
 ウグイス色の単衣(ひとえ)の着物に帯を締め、そして足には足袋を履く。光る絹地に花が咲き、小鳥がさえずり詩を奏でる。季節に合わせて選ぶとか。
 それから彼女は髪留めで、前髪を抑えて整えた。裾を押さえて正座をすれば、まごう事無き和服美人がそこにいた。
 おおー。薫は感心の声を上げ、彼女に小さく頭を下げる。
「はじめまして。言峰薫と申します。お姉さんとは仲良くさせていただいております。よく出来た妹さんですね」
「妹なんかいねぇ! あたしは一人娘だ」
 中身は楓のままだった。
「えー。お淑やかな妹がいるとか礼儀正しい妹がいるとか着物の似合う妹がいるって聞きましたよ?」
「全部アタシだ! ウチの父上(オヤジ)は厳しいから店ではちゃんとしてるんだ。でも別に、騙しているとか二重人格とか遠坂(猫かぶり)ってる訳じゃないぞ」
 なるほど。さすが遠坂凛に惹かれた女。タイプは逆だが同類なのかもしれません。
 着替えが終わり店へと向かう。長い廊下は薄暗く、歩くたびに床が鳴る。
「おお、おしゃもじ様が怒っておられる。なんまんだぶ・なんまんだぶ」
「ヤメロ。ウチの廊下にはそんなの居ないんだよぉ。オマエ教会だろぉ、ヤメロよぉ。廊下で怪談するなよなぁ。霊はプラズマで説明できるんだぞ非科学民め」
 彼女は怖い話が駄目だった。蒔寺楓は振り向かない(怖いから)

 棚(みせ)に戻って商いの品を拝見する。
・浴衣:元は「ゆかたびら(湯帷子)」だった。木綿の単(ひとえ)の着物。夏の普段着、または湯上がりに着るのが現代のお約束。
・紬(つむぎ):紬糸で織った平織りの絹織物。大島紬•結城紬が有名か。
・訪問着:女性の略式礼装用の和服。背や脇、襟などにも模様が続く反物の長着で、社交や訪問などに用いる。
・振袖:丈の長い袖。また、その袖のついた未婚女性の礼装用長着。お正月に着るヤツだ。
・小袖:袖口の小さく縫いつまっている上着の事。文様も華麗で様々、打ち掛けの小袖などもある。割烹着の原型と言えば判りやすいか。
・打ち掛け:着物用の上着で、女性用の正装かつ礼装。花嫁衣裳の一番外側に着るアレである。普段着(着物)の上に羽織ると略式正装となる便利な上着だ。

 言峰薫は国際企業の社長さん。外国人と接する機会も数多い。そんな時には和服を着るとウケが良い。織りの綺麗な袖を振り、描かれた絵柄を優雅に語る。クルリと回れば花鳥風月が舞い踊り、さながら動く絵巻物。まったく優雅な装束なのだ。
 チラリ薫が楓を見ると、普段の彼女と全く違う。背筋を伸ばし、キリリと頬を絞めている。花びらのような唇はまさに可憐で、日焼けした肌も極め細かく滑らかだ。ガサツでズボラな友よ。貴女は何処に行ったのだ。薫は友を思って目を伏せた。
「言峰、お前また変なこと考えてるだろ」
 睨まれました。Oh,ジーザス。現実とは残酷だ。
「シバくぞ」
「ごめんなさい。えーと、春夏秋冬の絵柄は前にいただきましたので、今日は二十四節気か何か風物詩にちなんだものを見たいのですが」
「外人に見せるんだろ? 富士山と忍者と芸者ガールとかどうだ?」
「あるんですか?!」
「あるわけないだろ。呉服屋バカにすんなゴルアァァアア!!」
「ええっ?! ノリツッコミギレですか?!」
 ぎゃいぎゃい騒いでいると、二人の上に影が差す。
「ゲェッ、父上(オヤジ)?!」
 藍染めの着流しを着崩して、独楽と升の絵柄の羽織りを引っ掛けた男だった。
 のぞく胸元はたくましく。上に乗った顔は精悍だ。髪を逆立て撫で付けたその様は瀬戸内の海賊かとお聞きしたい。
「よぉ、楓てめぇ。こっち来いや」
「ヒィィイイ。父上(オヤジ)待ってくれ! こいつは同じクラスの友達なんだ」
「だから何でぇ。お客様相手にハシャギやがって、跳ねてっと承知しねぇぞ」
「あたしは短距離(スプリント)だから跳ねてない、それは氷室の奴が……」

 ── ぎゃぁぁぁぁああああ ──

 暖簾の向こうで悲鳴が遠ざかっていく。薫は反物を持ったまま冷や汗をかくのだが、他のお客は「あらあら、楓ちゃんも店主も元気ね」などと笑っていた。

******************************

 冬木市新都の駅から離れ、オフィス街から少々抜けたマンション地帯。
 まだ新しい十二階建てマンションのエントランス(入り口)に、頭巾(ウィンプル)を被らぬシスター姿の言峰薫が入り込む。
 呼び出し機器のところに行って『12*1』とプッシュする。待つことしばし……。
((はい。十二階、一号室))
「こんにちは鐘さん。薫です。今から上がっていきますね」
((承知した薫嬢。エレベータを出て右だ。鍵は開けておこう))
「はぁい」
 エレベーターに乗り込んで『12』のボタンをプッシュした。

 冬木市新都玄木坂四番地、蝉菜マンション12-1
 そこには眼鏡が住んでいる。

 このマンションはエレベータホールを挟んでL字型。一つの階に二つの世帯の設計だ。L字と言っても形は四角、欠けた部分がエレベータと階段である。
 二つの世帯は造りが異なり、広い物件と手頃な物件の大小セットで一つの階であるようだ。
 まだ新しいマンションであるのだが、一部の人には有名だ。

 ──あかずきん──

 虐待を受けた顔のアザを隠すため、少女は赤い頭巾をかぶる。
 少女の肩はねじられ壊れて上がらない。ボタンに指が届かない。だから人に頼むのだ。

 ──ねえ、ボタン押して──

 ある日とうとう家庭は崩壊。一家惨殺・心中事件、夢の新居は血の海だ。
 だがしかし、少女の遺体は見当たらない。少しして、冬木に都市伝説が新たに生まれた。
 人呼んで『赤ずきん』
 エレベータに乗り込むと、赤い頭巾の少女が笑う。ぱっくり割れた三日月みたいな裂けた口。ぐっしょり濡れた赤ずきん。赤い口を左右に広げ、貴方を見上げて頼むのだ。

 ──ねぇ、ボタン、押・し・てぇぇえぇえぇぇぇえぇえぇぇえぇ──

 押すとどうなってしまうのかは定かではない。だが同じ階に住んでいた青年は行方不明になったそうな。
 そろそろ安く買い叩き、社宅の名目で要塞化しようと考えているのは秘密である。

「まあ、上がってくれ!」
「おじゃましまーす」
 ドアを引き開け踏み込めば、お洒落で明るい玄関だ。観葉植物も置いてあり、壁には絵画が飾られる。続く廊下も壁には幾つも絵が置かれ、なかなかモダンでハイセンス。遠坂凛が警戒するだけのことはある。氷室一族、オシャレである。
「あら、キンググループの薫ちゃん。いらっしゃい」
 奥から顔を出したのは、市長夫人の氷室鈴。氷室鐘の母親だ。
 常に笑みを浮かべて目を細め、テーラード(紳士服仕立ての婦人服)を着て長い髪を後ろに流した品のあるご婦人だ。
「お邪魔します。おばさま、市長はご在宅ですか?」
「あの人はちょっと出かけているわ。もう帰ってきてもいい頃だけど、なにか伝えておきましょうか?」
 ご挨拶しようかと思っただけですのでお気になさらず。そう言いその場を後にする。
 見知った部屋に案内されて、薫はぐるりと辺りを見渡す。
 三脚にキャンパスが置かれて布が絵柄を隠している。壁際の棚に画材が多くあり、描き上げられた油絵などが、幾つも並べられている。石膏の胸像も幾つもあって、ここはまるで美術室。
 小ぶりな樽にフルーツ盛り合わせが置いてあるのはおやつじゃなくてモチーフ(題材)だ。摘んで食べてはいけません。
 亜麻仁油なんかの匂いもするが、不快なものとは感じない。
「さて、絵のことなのだが」
 鐘はスケッチブックをパラパラめくる。描いてある絵は薫がモデル。様々な図案が見て取れる。ラフな構図をめくり続けて、彼女はやっと手を止めた。
「これで描こうと考えたのだがありきたりでな。腕の形を少々いじりながら確かめてみようと思う」
 見ると女が横になり、腕で枕をするポーズ。幾つか候補があるらしく、後ろで組んだり肘枕なり腕を伸ばしている図もあった。
 それらは全て裸婦像だ。
 フムと頷く薫をよそに、鐘はスラスラ言葉を続ける。
「私が書くのは油絵で塗り重ねができるのだが、まず背景は暗くしようと思っている。塗ったような黒にして、薫嬢の肌の白さを輝かせたい。白と言っても赤を活かして薔薇のような色を出してだな、これから咲こうという生命力と色気を妖しく表現したいのだ。そういう感じでいいのだろう?」
「はい。そんな風でお願いします」
 薫は花のように微笑んだ。
「しかし本当に私でいいのか薫嬢。たしかに絵も嗜むが、美術部員かプロの絵描きに頼んだ方がいいんじゃないか?」
「あっはっは。描いた絵は王様に献上します。乙女の体であるうちに、一枚くらい描いてもらうのもいいだろうと思ったわけですが、知らない人に裸を見せる気にはならないですよ。そういう訳ですので鐘さん。お願いします」
 うーむと鐘は腕を組む。
「君がそう言うなら構わないが。なんだ、薫嬢とキング会長というのは、その、どうなんだ?」
 氷室の問いに、言峰薫は目をパチパチさせた。それから少し眉を寄せ、妖しく静かにクスクス笑う。
「男女の関係ではありませんね。王様は子育てを楽しんでいるといったところでしょうか。まぁ、父とも最初は教会の司祭と見習い修道女の関係でしたからねぇ。おかげで呼び方は“おじさま”で固定です。お父さんとか呼ぶと笑っちゃいますから」
 微妙なネタふりに氷室鐘は硬直するが、薫はアハハと頭をかいた。
「アハハハハ。でも血が繋がらない分、心がつながるようにスキンシップは心がけている訳です。私は性同一性障害だったせいで教会に引き取られた変わり種ですからね。女性として生きると納得してますが、女らしさが足りないと叱られているのです」
「男の魂がどうとか言ってるのをよく聞くが?」
「いいじゃないですか! 魂(ソウル)に秘めた漢(おとこ)の心、それが日本人の魂!! ヒート!!!」
「ふ、ふぅん。ま、好きにしてくれ」
 気にしないことにしようと鐘は思った。

「それじゃあちょっと脱ぎますか?」
 頼む。言って鐘はクッションとシーツを用意する。
 薫は着ているなんちゃって尼僧服のケープカラー(肩掛け)を翻す。両手を後ろに差し込んで、首の後のボタンを外す。腕を下ろして腰にやり、目立たぬ布帯の結びをほどく。
 シュルリと帯は床に落ち、ワンピースのスカートが、腰から下でフワリと広がった。
 薫は手を上げ背中をつかみ、服を引き上げ頭を中に引っ込める。上下つなぎの尼僧服は裏返り、腕にまとまりバサリと降ろす。
 言峰薫は頭を振って、乱れた髪を後ろに流した。
「む、今日は黒かね薫嬢」
 なぜか軍師風の羽扇を手に取って、氷室鐘はフフフと笑う。
 上は白で、下は黒。
 腰から下はストッキングの黒で隠される。反して上はホワイトシャツだ。普通のワイシャツとはカラー(襟)が異なり、首を守るように立つスタンド・カラーのシャツである。
 薫はしゃがみ、ストッキングから足を抜く。少々太めで、しかし引き締まった太腿があらわになった。黒のショーツはスポーティー。ストッキングを被せるのだからフリルの下着はつけません。
 素足で薫は立ちがり、シャツのボタンに手をかける。
 一つ、二つとボタンを外すと、膨らむ胸も顕になった。鍛えた胸の上に膨らむその丘は、大きいとは言わないまでもぷるぷるだ。
 当然ブラは付けている。
 貴様、何を想像した? 鐘は意味不明なツッコミを心中で入れてみた。
 上下でデザインを統一したか、ブラも黒のシンプルデザイン。鍛えられた彼女の体によく似合う。
「そうですか? ウチの保護者は凛も含めて『もっと可愛いのを着ろ』と煩いのですが」
「それはそれは、遠坂嬢もかっ?!」
「養女になった始めから十年の付き合いですからねぇ、凛には迷惑を掛けました」
「いや、遠坂嬢も薫嬢も大したものだと思うぞ、私は」
 ありがとうございます。言峰薫はアハハと笑った。ホワイトシャツもパサリと落とす。
 シーツをかぶせたクッションに、薫はその身を横たえた。
「こんな感じですかね」
 足はそろえて真っすぐ伸ばし、両手を上げて肘を張る。頭の後ろで手を組んだ。
「うーむ。絵にはなるが構図がありきたりだな。薫嬢はどう思う?」
 薫は下着姿のそのままで、うーんと少し考えた。
「出来れば有名どころとは、違う構図がいいですね。せっかく描いてもらっても贋作だの模倣だの言われると悲しいですし、王様はオリジナリティーがある作品を好むのです」
 うぬぬと鐘は腕を組んで床を睨んだ。難しい。
「女性の体を美しく見せるポーズはもはや研究しつくされていると言っていい。その上でオリジナリティーを見せるとなるとどうすれば? 背景、光、衣服も描くか? いや、これは裸婦像だ。余計な物をごちゃごちゃ書けば、一糸まとわぬモデルの神秘性がゲスに堕ちる。使えて光と闇と輝きがいいところだな。やはりポーズで勝負か」
「頭を下にするとかどうですか?」
「それもアリだが打ち揚げられた水死体になりかねないのだ。表情を活かせば下卑にはならぬが、セックスアピールが強くなる」
「うつ伏せはどうでしょう」
「今度は色気が弱すぎる。健康的な面を強調してもいいが会長さんはそういうの好きかね」
「あー、王様はエロティックな方がいいかもです。いっそ押し倒される図とかどうです? 相手は凛とかで」
「ふむ。上げた両手を押さえられ、恥じらう顔の薫嬢。腕を抑える遠坂嬢。そして触れ合う二人の乳(こころ)と乳(こころ)後ろに咲き乱れる百合の花。……いいじゃないか!」
「いや、脱線始まってます。鐘さん」
「いいだろう。この私にお〇ぱいを描けと言うのだろう。描いてやろうじゃないか! 最高の乳を! 輝くような美しき乳をだ! 漲ってきたじゃないか、ハハハハハ」
「鐘さーん。帰ってきてー。残念ですが凛はきっと脱がないですよ」
「しまった! 遠坂嬢を脱がすのは不可能に近いぞ!」
「いや、脱がすんじゃなくて絵を描いて欲しいのです」
 そうだった。鐘はショックを受けたように我に返った。しかし何かを思いついたようだ。
「ふむ。では誰かに押し倒されるのではなく、両手を上げて微睡む様はどうだろう? 夜を暗示する黒を厚くして、それが伸し掛るような構図にしよう。上から覆いかぶさる深い闇、無防備に寝そべる少女の裸体を輝くように描けば……。いいじゃないか」
 キラリと光る氷室の眼鏡。広がる笑みが得意気だ。
 薫もシーツの上で身をよじり、しなを作ってふぅんと甘い息を吐く。
「なるほど。何かが起こりそうな不安感。闇と対比する輝きで神秘性と純潔を表現すると、そして何も気づかず微睡む少女(わたし)は現時点ではまだ乙女(こども)な訳ですね」
「どうだろう?」
 いいんじゃないですか。白いシーツに肘を立て、薫は嫣然と微笑んだ。
 それは未だ女にならぬ少女の魔性。いつか熟して収穫の時を迎えたときに、手折り食する男に捧げる秘密の果実。言峰薫はそれでいい。
「じゃあどうします? 脱ぎます?」
「ああ、せっかくだから薫嬢の肌の色と乳を見ておくか。役得というべきか。フフフ」
「あっはっは。鐘さん、視線が微妙にオッサンですよ」
 失礼な。氷室鐘は棚から絵の具を出して、パレットの上に盛る。肌色を混ぜてみるようだ。
 それじゃと薫は後ろに手をやり、ブラのホックをぱちんと外す。肩紐を緩めて腕を──

 その時、ドアが開いた。

「鐘、薫社長が来ていると聞いたのだ、が……」
 ゴルフにでも行ってきたのかポロシャツにストレッチパンツの大人の男、氷室鐘のお父さん。冬木の市長、氷室道雪がそこにいた。
 髪をかきあげ、鼻の下に蓄えられたボリュームのあるおヒゲがダンディーだ。理知的な開いた目と輝く眼鏡はお父さん似だね、氷室さん。
「父ィィイイ────!!!」
 鐘が猛然と掴みかかり、父親に後ろを向かせる。
「ええと、きゃー」
 薫の悲鳴が棒読みだった。
「す、すまん! だが鐘、お前たちは何をしていたのだ?!」
 お父さんは慌てています。
「彼女はモデルになっていただけです! それより父! 見損ないました!!!」
「待ってくれ! このアトリエは私も使うのだぞ。それに市も協賛で勧めている冬木アクアリゾート(仮)と遠坂神社の再興計画、深山町のヨットハーバーと海水浴場整備の話をしたいと、」
「母! 母────!!!」
「なぜ母さんを呼ぶ?! 待ってくれ! 鐘、話をしようじゃないか!!」
「あらあら、なんだか賑やかね」
 やってきた微笑の女、氷室鈴。そして母は見た。
 踏み込んだ部屋の中、シーツを引き寄せ半裸の少女が恥ずかしそうに身をよじる。娘が必死に押さえているのは愛する夫。あらアナタ。どうしてこんなトコロにいらっしゃるのかしら、ウフフフフ。
「違うぞオマエ。お前が考えているようなことは何も無い。鐘が彼女をモデルのヌードデッサンをしていただけで、私は気が付かないで入ってしまった。それだけだ」
 ウフフフフ。糸のように細い彼女の目が少しだけ開かれた。只今危険度上昇中。
「薫社長、失礼したね。キング会長と綺礼顧問、いや言峰神父は元気かね」
「あ、はい。おじさまは少し体調が崩れがちなのですが、大したことはありません。王様は元気に遊んでますね。あっはっは」
 あらー。アナタ、話を逸らそうとなさっているようですが、そうはいかない。いかせない。やはり夫も男であるか、狼だったりしたわね、そうね、そういえば。
 市長の額に汗が光る。働く男はステキです。
「父、そんなことはどうでもいいです! 早く出ていってください!」
 娘が必死に父を押す。
「鐘、誤解するな。私は市長として有力企業のトップである薫社長と話がしたいと思っただけであってだな」
 男、氷室道雪は懸命に弁解するのだが、娘は聞く耳持ちません。
 お母さん、氷室鈴の目が開く。そして『怒りの日(デイエス・イレ)』は訪れた。
 判決を取ります。
「ギルティ(有罪)!」
「ギルティ(有罪)!」
「いや、私は別に気にしてないですよ?」
 氷室鈴と氷室鐘、母娘がグルンと父に向かって首を振る。
「待ってくれ! これは何かの間違いだ!!!」
 お父さん、結構ノリがいいかも知れません。
 夫は妻と娘に連行されて、部屋の外へと連れていかれる。
「話し合いが必要だ! 私は市長という民主主義を代表する立場にあるものである以上、対話を求める! 話を、話をしようじゃないか!!!」
 しかしドアは閉じられた。
 すぐに再びドアは開き、氷室鐘が覗き込む。
「父が失礼をした。薫嬢、すまないが服を着てくれ。……早くな」
 ぱたんとドアは閉じられる。
「市、……市長!」
 ダンディーな市長を想い、薫ちゃんは泣くのです。
(今度飲みに行きましょう。オゴリますから)

 薫は後ろに手をやって、ブラのホックをパチンと留めた。

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あとがき
注:この作品の登場人物は18歳以上です(かなりうそ)ちなみにお酒は二十歳から(はぁと)
 公式の「氷室の天地 Fate/school life」、テイストはそれほど変わりません。……違うかな?
2011.5/30th

次回予告
 学園行事「球技大会」が開催される。抽選で選ばれた珍競技に抗議する言峰薫。その結果、ポピュラー競技二つにマイナー競技一つに変更されて球技大会は始まった。
 唸る魔球?! 轟く豪腕?!
 2-A.の精鋭は勝利の道を突き進む。しかし強敵は立ち塞がった。
 柳洞一成が率いる2-Cチーム、衛宮士郎と間桐慎二までもが敵となる。負けるな2-A.ピンチを迎えたその時に、軍師ヒムロの眼鏡が光る(かもしれない)
次回「球技大会」

黄金のぷちバレ
 スクールデイズ編は、聖杯戦争へのカウントダウンを兼ねてます。
 本編はひと月ずつ進んで十二で終り。聖杯戦争開始です。平和な時間が終わりに近づく無常観を出したいところです。
 おまけはわざと時間をぼかし『ある日』の話として書いてるつもり。季語もなるべく除いてますが、無理と思えば描いちゃう予定。
 だって紫陽花(梅雨)梅ホトトギス(初春)紅葉(秋)とか書かないって逆に難しいのです。
 色々やってみます<(__)>
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