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Fate/黄金の従者#19.穂群原学園!

 ──── 聖杯戦争!!!

 それは歴史上の偉人や神話・伝承にうたわれる英雄を魔術によって召喚し戦わせる、たった七組の大戦争。
 そうこれは、超常の英霊たちやそれを使役する魔術師たちの闘争を……。



 全く描かないスクールデイズ編です。

遠坂凛(とおさか・りん)2-A.成績優秀・スポーツ万能。文化祭のミスコンで優勝した完璧超人。両親と死別し洋館に一人で暮らす。懸命に猫を被るのを友人達は暖かく見守っている。「ミス・パーフェクト」「言峰薫のお姉さま」「二人でいるとボケとツッコミ」
言峰薫(ことみね・かおる)2-A.冬木ではそこそこ有名な現役女子高生社長。仕事で月曜午前は必ず休む補習の常連。幼少からの無理がたたって精神安定剤を常飲しており情緒不安定になることも。「教会の花嫁」「王様の愛人」「遠坂の嫁」(アイコンは浅上藤乃を流用しております)
美綴綾子(みつづり・あやこ)2-A.武道全般を得意とする武闘派。実力を買われ2年の春に弓道部部長に任命された女傑。可愛いというより美人、美人というより男前な姉御肌。可愛い物が好きでTVゲームも嗜む。遠坂凛と打ち解けた稀有な人物。
氷室鐘(ひむろ・かね)2-A.陸上部三人娘の頭脳。冷静沈着な眼鏡っ子。冬木市長、氷室道雪の娘。美術部志望だったが陸上部に入部した走り高跳びの有力選手。軍師的性格で表に出ないで暗躍する策士タイプ「クラスの長老」「困ったときの氷室女史」
蒔寺楓(まきでら・かえで)2-A.三人娘の特攻隊長。陸上部で活躍するスプリンター。「冬木の黒豹」を自称する明るく元気な暴れん坊。がさつで荒っぽいが内面は純情派。勉強は苦手だが歴史の達人。家は老舗の呉服屋で先祖は海賊・長宗我部?
三枝由紀香(さえぐさ・ゆきか)2-A.三人娘の良心。容姿から幼く見えるがしっかり者。実は影の実力者。料理同好会に入るつもりが陸上部のマネージャーになった運動音痴。歳の離れた弟が数人いる、ぽややん系のお姉さん。
柳洞一成(りゅうどう・いっせい)2-C.冬木市深山町の古刹、柳洞寺の小坊主。成績優秀・文武両道。生徒会書記で次の生徒会長と噂される優等生。真面目で古風だが怒りん坊。空手の黒帯。寺に伝わる柔術の腕前でも一目置かれている。
衛宮士郎(えみや・しろう)2-C.お手伝い妖精の異名を取る奇人。困った人を助けるのは当たり前だと宣う善人。秘めた想いもあるらしいがそれを口にすることはない。柳洞一成と間桐慎二の親友。武家屋敷で一人暮らしをしている。弓道部員。
間桐慎二(まとう・しんじ)2-C.成績優秀、気配り万全、女子に優しく男子に厳しいモテ男。言峰薫が親しくする数少ない男子の一人。しかし付き合ってるのかと聞かれると本気で否定する。後の弓道部副部長。妹の桜とは複雑な関係であるらしい。
間桐桜(まとう・さくら)1年生。間桐慎二の妹。控え目で温和で女らしいと評判の赤丸急上昇な新入生。兄の後ろを追いかける健気な妹として恐怖を与えている。弓道部員。遠坂凛・言峰薫とも仲良くしている姿が目撃されている。
藤村大河(ふじむら・たいが)2-C.担任、英語教諭。教師生活三年目の25歳(だと思う)剣道五段の腕前で「冬木の虎」と異名をとった剣道家。しかし体育教諭ではなく剣道部の顧問もしていない。弓道部顧問。親のいない衛宮士郎の保護者的存在。
葛木宗一郎(くずき・そういちろう)2-A.担任、現代社会と倫理の担当教諭。堅物の生活指導として恐れられている。しかし上位学年になるほど信頼されていく実直な教師。とある生徒にムッツリ疑惑をかけられているとかいないとか。謎拳法の使い手。
言峰綺礼(ことみね・きれい)冬木教会、通称「言峰教会」の専任司祭。薫の養父にして遠坂凛の後見人。真面目で面倒見のいい聖職者だが、人の苦悩を楽しむ悪癖がある。真っ赤な麻婆豆腐が好物。養女の会社の顧問だが、普段は神父として生活している。
ギルバート・キング(ぎるがめっしゅ)十年前に薫を助け、綺礼に託した命の恩人。資産家。日本&欧州で百を超える事業所を持つ「百国の王(代表取締役会長)」かなり金ピカ。子供たちと遊んでいる姿が目撃される。ギルフォードという弟がいるらしいが……。
知得留(しえる)2-A.フランスからの留学生。月に数日しか出席しないが何故か誰も気にしない。修学旅行を楽しみにしている。「歳を考えてください」「せめて教師で」などと言う女生徒にチョップを食らわせる。カレーが好きで麻婆豆腐と戦っている。
ななこ(セブン)2-A.知得留を「マスター」と呼ぶ明るく元気な女の子? かなり正体不明。遠くにボーイフレンドがいる。いつも知得留と一緒にいる。何故か言峰薫に恐れられており、時々追いかけてきゃあきゃあ言わせている。
(注意:上記のキャラ紹介は当サイト限定で有効なのだとご了承ください。念のため)


 遅咲きの桜が最後の花びらを散らす四月の上旬。冬木市深山町の丘へと向かう坂道を、制服姿の少年少女が登り行く。
 男子生徒はライトブラウンの詰襟姿。女子生徒は白のブラウスにブラウンのベストを羽織り黒のスカート、胸元に赤のリボンタイを結んでいる。
 登校途中の生徒の中に、目を引く生徒が一人いた。
 緩く波打つ輝く髪をリボンで止めたロング&ツーテール。凛とした青い瞳が受けた光を反射する。日本人らしからぬ尖った顎と華奢な胴、それに反して手足は長い。
 ハーフならぬクォーターで異国の血を引く遠坂凛は、背筋を伸ばして坂道をしずしず進む。子供たちの中にあって妖精の様に可憐な姿は一際目立ち、儚げだ。
「凛ーん」
 その声に彼女は振り向く。坂の下から自転車が、お尻を左右にフリフリしながらグイグイ車道を駆けて来る。
「おはようございまーす」
 元気いっぱいな声と一緒に、言峰薫が弾けるような笑顔を振りまいた。
 腰まで伸びた髪に赤い樹脂のスポーツヘルム、足に履くのは学校指定の革靴だったが、手には指ぬきグローブなんかを当てている。
 制服姿で跨る自転車は、トニ〇ノ・ランボルギ〇ニの折りたたみ式マウンテンバイク。
 真っ赤でピカピカのメインフレーム、黒のパイプと銀のパーツも磨かれて、角を振り上げた雄牛のエンブレムがハンドル下で誇らしげだ。
 イタリアン? な友人に、遠坂凛はくすりと笑う。
「おはようございます。言峰さん」
 遠坂凛はスキル「猫被り」を発動した! 判定成功、周囲に与える印象値に+修正!! ターンエンド(かなりうそ)
 薫はアハハと笑い手を振った。
「四日目にして二年生初登校です。しかし無理をしてでも桜ちゃんの入学式には出るべきだったかもですね。まぁ、仕事してた訳ですが」
 言って彼女はため息ひとつ。登る速さも少々落ちる。
「それは仕方がないわよ」
 遠坂凛は苦笑した。
 言峰薫はグループ企業の社長さん、日本と欧州で事業展開をしているが、事業所と支社の数が併せて百をとうとう超えた。記念セレモニーで色々仕切り、この子はかなりお疲れだ。
 今後は拡大路線を抑えておいて、事業の整理縮小と新規展開のバランスを取るという。
「そして私自身は引退し、最大株主&創業者一族として影から支配するのです! ああ、もう少しで普通の女の子に戻れます」
 がんばるぞー。彼女の横で、凛は薫の保護者を思い出す。養父にして企業の顧問、言峰綺礼。薫の王様、取締役会長のキング氏。
 凛は無言で空を見上げた。そこには青く高く、白い雲とのコントラストが美しい春の空。
(無理ね、きっと)
 普通って、こんなに虚しい言葉だったかしら。目尻に浮かんだ涙を凛は素早くぬぐった。薫、貴女に幸あれ。

Fate/黄金の従者#19.穂群原学園!

 丘の上に辿り着く。丘と言っても住宅地だが、ここまで来ると山の緑が目立ち出す。
 コンクリート塀のプレートに『私立穂群原学園』と読み取れた。
 正門をくぐると煉瓦の歩道が校舎へと伸びている。左手に、市民も利用出来る立派な造りの弓道場。右手には別の入口から入る駐車場と、塀沿いに高い杉の木が並ぶ。
 正面にはまだ新しい四階建ての校舎が二棟あり、その向こうにあるのが体育館(二階)&武道場(一階)なかなか広い校庭と、プールなんかも向こう側だ。
 自転車から颯爽と飛び降りて、薫は凛の横を行く。
「バイク通学ができると楽なんですけどね。教会からだと微妙な距離です。もう、おばさん疲れちゃうわ」
 朝からボケる友人に、おいおいと苦笑する。
「もうこの子は、何処の世界にサイドカー付きのバイクで登校する女子高生がいるのよ」
「ならSRではなくてGSの方で」
「ごめん、何が違うのか判らない」
 ダークグリーンに金のラインを入れたクラシカルな馬車テイストのバイクが、単気筒エンジンのサイドカー付きSR。
 ガンメタリックで鋭角なデザインのバイクが、四気筒エンジンのGSレーサーネイキッド。
 なのだそうだが、機械音痴な凛の耳には、それはまるで異界の言語。綺礼のハーレーなら何とか識別できるのだが、あれは大型免許なので乗れないそうだ。
 しかしレーサーとかクルーザーとかトライアルとか判らない。バイクはバイクじゃだめなのかしら。頭痛のネタを回避するべくこの子に一言物申す。
「スカートなんだから、無理にバイクに乗らなくてもいいんじゃない?」
 しかし薫はフフンと笑う。
「大丈夫です。ストッキングは伊達じゃない。貴女のニーソックスより私のストッキングのほうがACは上なのです!」
 意味が分からない。ACとはアーマークラスの略だそうだが、やはり訳がわからない。
「絶対領域の最終防御、黒ストッキングはまさにイージス(不破の盾)!」

 ……取り敢えず、おバカの頭にスリッパの一撃を入れておくことにした。

「クラス替えはないんですよね。あ、慎二くんと桜ちゃん」
 弓道場から出てきたのは、弓道衣な間桐慎二と間桐桜だ。
「おはようございます。薫先輩、遠坂先輩」
 手を振る薫に、白い上着と黒い袴の間桐桜が頭を下げる。
「桜ちゃん、もう弓道部に入部して朝練ですか」
「はい。兄さんがいる部活ですから、前から入部するつもりでした」
 えへへとはにかむ桜の横で、慎二がハハハと乾いた笑いなのは気にしてはいけません。
「慎二君もご苦労様。弓の方はどうですか?」
 薫の問いに、彼は軽く髪をかき上げる。
「悪くないね。一番とは言わないけどさ、上級生でも下手なヤツに射(シャ)では負けないよ。弓道っていうのは儀礼的でさ、僕には合ってるんだ」
 彼は笑い、薫もまた頬を緩める。しかし桜が静かに慎二の背中に急接近、お兄ちゃんは額に汗を浮かべます。そんな桜に遠坂凛は苦笑した。
「間桐くん、お大事に」
「おい遠坂、どういう意味だよソレ」
「大丈夫です。兄さんの体は私が護ります」
「いやいや、慎二君の閉じた所(回路)は、私が優しく(霊媒治療で)開いてあげますよ?」
「ダメです。兄さんの閉じた所は私が必ず(蟲で)開きます!」
 桜と薫は部分的にひそひそさせて言葉を交わす。
「頼む遠坂、僕を助けてくれ」
「間桐君、なんて不憫な。……助けないけど」
 げっそりしている慎二だが、端から見れば三人の女子に囲まれたモテ男である。周囲から攻撃的な視線が投げかけられている。
 しかし間桐慎二はそんなものには動じない。
 遠坂凛と付き合いがあるとアピールし、間桐桜は妹だからと警告し、だが言峰薫は彼女じゃないと断言するのも忘れない。でないと家で桜が怖い。お兄ちゃんは大変なのだ。
「おーい」
 彼を肴に女の子たちがじゃれていると、弓道部らしき生徒が寄ってきた。
 道着と袴の弓道衣、目元凛々しい女生徒だ。可愛いというより美人、美人というより男前なその女子は美綴綾子。凛や薫の友人だ。
「おはようございます。美綴さん」
「美綴さん、おはよう」
 凛と薫が返事をすると、彼女はニッとハンサムな笑顔になった。だがしかし、言峰薫の視線が自分の横を通り過ぎているのに気が付くと、ハァとため息を付いて遠坂凛に目を向けた。
(おい遠坂)
(ごめん、無理)
 二人して、同時に大きく息を吐く。向こうで桜が苦笑して、慎二はニヤニヤしながらこちらを見ている。
「おはようございます。士郎君。朝練ご苦労様です」
 まずは薫が先手をとった。放たれたジャブの間合いはまだ遠い。
「今日は登校できたんだな。言峰、おはよう」
「はぅっ?!」
 様子見の一撃にKYなカウンターを極めたのは弓道部員の衛宮士郎。しかし彼に悪気はないらしく、晴れやかな表情だ。
 薫は胸に手をやり大きくよろけ、危ないわよと凛が自転車を素早く押さえる。
「ひ、人が気にしていることを。どうせ私は補習の常連、夕日に染まる教室の住人ですよ。ほっといて下さい」
「俺、何か悪いこと言ったか?」
 ぐぬぬとうめく言峰薫に、衛宮士郎はポリポリと頬をかく。
「む、ムカつく。真実や事実というものは時に人を傷つけると貴男は学ぶべきなのです。くそう、こうなったら貴男を今日から「しろりん」と呼びます」
「やめてくれ」
 ぷっと笑う凛や桜、慎二を見て衛宮士郎は慌てた。
 何でも修理する天才工兵(バカ・スパナ)ボランティアが趣味じゃないかと言われる衛宮士郎。
 彼の評判は悪くない。しかし人を助ける衛宮士郎を冷笑する輩も多く、奇人呼ばわりされている。
 そんな彼をお手伝い妖精(ブラウニー)と呼ぶのは、黙っていればお嬢様だが補習の常連。大暴れして停学になったこともある問題児、言峰薫。
だが彼女はむしろ衛宮士郎を高く評価し、時には手伝っていたりする。
 しかしである。
 二人は反りが合わない様で、衝突することも多かった。喧嘩をしているわけではないが、冷たい視線で睨んだり、大声でふざけるなと怒鳴ったりは日常茶飯事。机をバンバン叩きながら違う違うと言い争うこともあり、犬猿の仲かと心配されていたりする。
 だが当人たちはそうでもないのだ。
 士郎は話が終われば後に引きずることはなく。薫も、ああもうあの男はと頭を抱える程度である。
 立てば白ユリ・怒ると鬼百合・遠坂さんと百合百合などと言われる品行方正な問題児、言峰薫。
 善人過ぎて何を考えているのか解らない。ボランティア好きな奇人、衛宮士郎。
 それぞれが割と有名人だった。
「ははは。今日も元気だね言峰。どうだい弓道部に入らないか」
 腕を組み、笑う美綴綾子はやはり男前だ。
 薫は「うーん」とこちらも腕を組む。
「弓道ですか。欧米でも弓道の精神性は知識層を中心に高く評価されているんですよねぇ。ヘリゲルの『弓と禅』とか名著ですし」
「へぇ、そうなのか」
 綾子はカラカラ笑う。
「やはり日本人としては黒帯(ブラックベルト)の一つもあると、箔が付くし」
「お、いいね」
 しかし薫はムムムと眉を寄せた。
「でもですね。アーチェリーならミリ単位で優劣を競う時代に、手首を返さないと真っ直ぐにも飛ばない和弓で的に当たった当たらないとやるのは……」
「言峰、お前は弓道家に謝れ」
「ごめんなさい」
 言峰薫は頭を下げた。
「そもそもだな、弓道ってのは世界で唯一“敵がいない”武道だぞ。
 競技としては射場から二十八メートル先にある直径三36センチの的を狙って矢を射るけどさ、和弓で矢を射て的に中(あ)てる。その一連の所作を通して心身を鍛錬するのが弓道なんだ。
 射(しゃ)の決まり『射法八節』の作法を忠実に守る。足踏み・胴造り・弓構え・打起し・引分け・会・離れ、最後に残心。
 正射必中。コレが弓道において求められる境地だよ。中てる事を求めるだけじゃない。誠心誠意を尽くした結果は、射の的中と型の正確さでしか判らない。
 だから、的に当てる事と同じくらい、射る時の八節が重視されるようになったんだ。実際、大会によっては的中率よりも型の正確さの方が重要視されることだっけあるんだぞ」
「そうなんですか?」
 おおー。と薫は感心する。
「弓道家は雑念をはらって射に集中する。この境地が禅に等しいってのが剣禅一如と同じく弓の禅だ。それが上手くいってるかを判断するのに型を見るのさ」
「なるほど、心の迷いが拳に出るとは、私も実感できるところです」
 うむうむと薫は頷き、美綴綾子はふふんと笑う。しかし薫は眉をひそめる。
「でもですね、もう一度言いますけど精神性は評価されても技術は全然評価されてないですよ。むしろ原始的(プリミティブ)でエキゾチック(異国風)というのが弓道の欧米における評価です。
 それが悪いとは言いませんが、弓道は儀礼化が進み過ぎて何ですかねぇ。人を狙わず、無と言うばかりで武術ヅラしてるのは……」
「おい言峰! お前、言って良い事と悪い事があるぞ!」
 美綴綾子がいきり立つが、言峰薫は涼しい顔だ。
「武道とは、茶道や華道と同じく技術を通して心を磨くもの。武術とは、敵を傷付け時には殺すことで身を守る護身術。
 私は嫌ですよ。身を守るのに笑って誤魔化すとか、相手の靴を舐めるとか、悪くもないのに金を払うなんていうのは。
 大体、人殺しを追求しないなんちゃってスポーツ武術が、武道として正常に機能するんですか? 合気道とか弓道とか。ああ、合気道は護身術で武術じゃないんでしたっけ?」
 美綴綾子が拳を握った。
「あたしの前でいい度胸だ。一年前の決着付けるか?」
 言峰薫が両腕から力を抜いた。
「やりますか?」
 両者から気が放たれて渦を巻くのを幻視する。
「二人とも、女の子同士が喧嘩とかするのは駄目だ」
 空気を読まない衛宮士郎が割りこむが、二人は睨み合いを止めたりしない。
「衛宮は黙ってろ」
「女だからという理由で喧嘩をするわけではありません。士郎くん、貴男の物言いは酷く男女差別だバカヤロウ」
 まるで取り付く島もない。特に言峰薫の物言いは、衛宮士郎に対していつものコトだがきつかった。
「私の通う道場来るか?」
「教会裏ではどうですか? 私のホームですけど」
「いいね。ついでに神父さんにも稽古を付けてもらうかな」
「おじさまは最近体調が良くありません。やめてください。凛の家にでも行きますか?」
「遠坂の家か、行ってみたいな」
「士郎くんの家という選択もありですね。道場あるし、立会人は藤村先生ということで」
「いいだろう」
 フフフフフ。笑いながら睨み合う。
「待ってくれ」
 凛はアチャーと顔に手をやり、桜は目を丸くしてる。慎二は面白そうにニヤニヤ笑い、そして衛宮士郎は空気のように無視された。
「一年前と同様に、ボコボコにしてあげますよ」
 薫が哂う。うっふっふ。
「八極と槍の対策は考えてあるんだ。前と同じと思うなよ」
 綾子が哂う。うっふっふ。
「上等です。鎧の上から突き殺し、叩き殺す。戦争用の拳法をもう一度味合わせてあげましょう。去年みたいに三本勝負とか言うつもりじゃないですよね」
「知ったことかとルール無用の一本勝負(デスマッチ)に、無理やり変えたあんたにそんなことは言わないよ。KOされるか、ギブアップをするまでかだ」
「いいでしょう。今度は去年のような邪魔が入らないようにして、決着を付けようぢゃないですか、美綴綾子!」
「ああ、神武不殺を目指す日本武道の心意気を見せてやる。殺すことしか頭にないお前の武術になんか負けてたまるか、言峰薫!」
「フン。自在に殺せるからこそ殺さないという選択も自在にできるようになるのです。修行が足りなんじゃないですか?」
「言ってろ。殺すことなんか無くていいんだ。戦いを制すればそれでいいんだ。それだって本物だ。偽物だなんて言わせないよ」
 真っ直ぐに言い切る美綴綾子の強い瞳に周囲の者は圧倒される。学園で敵に回してはいけないベスト3に入ると言われる、これが彼女の強さと輝きだ。
 美人は武道を修めなければいけない。それが彼女のモットーだとか。
 それで言うなら、彼女は会った時から美人だった。言峰薫は微笑んだ。しかし、
「ほぅ、では俺が立会人を務めようか」
「ひいっ?!」
 ドスの利いた声を聞き、薫は素早く逃げて凛に抱きつき背中に回り身を隠す。
「俺は悪魔か」
 眼鏡の奥で目を細め、男子生徒が立っていた。背筋を伸ばし腕を組み、胡乱気に見るのは柳洞一成。二年生にして貫禄ある次期生徒会長の最有力候補とされる男子生徒だ。
「い、一成きゅん。お、おはようございます。ハハハ」
 腰砕けで凛に抱き着く姿を見下ろして、彼はキレのある流し目で薫を見やる。
「おはよう薫くん。ところで君は何の話をしていたのかな」
「あっはっは。一年間よろしくね、たくさん思い出を作りましょうとストロベリーな話をしてたのですよ」
「そうかそうか良き哉良き哉」
 甘楽甘楽と一成は笑う。言峰薫は嘘付きだった。
「などとごまかせると思ったのか。──── 喝!」
 しかし騙せなかった。柳洞一成が踏み込むと、言峰薫は遠坂シールドを展開して身を隠す。
「ちょっと、薫」
「ごめんなさいゴメンナサイ、投げないで怒らないで」
 怯える様子に一成は、ムスッとしつつも近付くのを停止した。
 一年前、体験入部で空手部の練習に言峰薫は参加した。そこで調子よく組み手をしていたところ「女のくせに」となじられたらしい。
 彼女は激怒し前蹴り(踏脚)と上げ突き(通天砲)で三年生に怪我をさせ、顧問の体育教諭に出入り禁止をくらってしまう。
 これに気を悪くした彼女はこの教師が顧問を務める他の部活、柔道部にも顔を出して肩車(飛行機投げ)と裏投げ(バックドロップ)を打ちまくってここでも出入り禁止になり、更に剣道部にまで乗り込んだ。
 彼女を心配した弓道部顧問の藤村が、対戦者として用意したのが武道に通じた同級生の美綴綾子。中でも得意は合気道と薙刀。言峰薫を導こうと思ったらしい。
 しかし薫は大暴れ。
 ペチペチ当てて一本(有効打)とか付き合ってられない。戦闘不能にしたら勝ちでお願いしますと言い放ち、問答無用と美綴綾子をぶちのめした。
 これに美綴も激昂し、あわや乱闘になろうかというところに柳洞一成が割り込んだ。
 美綴綾子は藤村大河に任せる。彼は言峰薫を諭そうとしたのだが、薫はむくれて話を聞かない。これに怒った彼は掴みかかり、問答無用ならさもありなんと言峰薫を投げ飛ばした。
 兄は全国大会まで進んだ柔道の猛者であり、龍神から伝授されたという柔術を伝える柳洞寺に暮らす一成の技は鋭く、体格と体重で劣る言峰薫を釣り上げ浮かし、見事に崩して高く跳ね上げブン投げた。
 そして彼女を袈裟固めで押え込む。
「離してください。離れてください。顔が近いです、顔が」
 泣きそうな声でジタバタする彼女を押さえ、武の道を説き、人の道を解き、仏の道を説き、更に聖書を引用して神の道を説いて言峰薫を完全に言い負かした。
 そして薫は涙を浮かべて「ごめんなさい」と謝罪した。その後はものすごく落ち込んでいたものだ。
 失礼をしたと教会に謝りに来たのだが、保護者たちに気に入られて「よろしく」と頼まれたらしい。
 お姉さん役の遠坂凛、幼馴染の間桐慎二にも言峰薫は従うが、柳洞一成には逆らえないと噂されることとなる。
 大人しくしている時ならどうということもないのだが、調子に乗った言峰薫を止めるのは遠坂凛でも大変だ。それを諌める柳洞一成。一年生が終わる頃には言峰薫はボランティアとして生徒会の仕事を時折手伝うようになっていた。衛宮士郎ともその辺りでの付き合いである。
 それはともかく。
「言峰さん、先に行きますね」
「薫先輩、先に行きます」
「じゃあな薫、僕達は先に行くから」
「あはは言峰、お先」
「一成、ほどほどにな」
「ひどいっ、皆んな置いて行かないでください?!」
「待て」
 登校中の生徒たちが多数見る中、一人残された薫はお説教を受けました。
 信念と強い自我を持つ人は薫の好み。実直な衛宮士郎や柳洞一成は嫌いではなくむしろ好き。
「くそぅ、全力でやれば絶対負けないのに……」
 魔術と魔術礼装の使用を前提とした鍛え方をしている言峰薫。素の状態では達人にいささか及ばない。相手を下に引いて組むレスリングもどきのスポーツ柔道ならともかく、相手を浮かせて崩す古流の柔術とは相性が悪かった。ああ、もっと体重が欲しい……。
「何か言ったかな」
「いえっ、何でもありませんっ!」
 入学してから好きな人がたくさん増えた。ちょびっとMな薫だった。

 解放されて、薫は2年A組に辿り着く。ああ、C組じゃなくて良かった。衛宮士郎、柳洞一成、そして担任が藤村大河の2−Cでは心のオアシスは間桐慎二しか無い。
 以前そう言ったら逃げられた。慎二はもっとデレてもいいと思う。
 言峰薫はSでもあるのだ。この辺り、養父と師匠の影響だと薫は固く信じている。
「薫嬢、おはよう」
「よー、言峰おはよう」
「言峰さん、おはようございます」
 三人の女子生徒が、声をかけてくれました。
 前髪を切りそろえ、後ろは腰までしっとり長く。しかし深窓の嬢様と言うには眼鏡の奥の瞳が理知的すぎる氷室鐘。
 健康的に日焼けして、しなやかに引き締まって少年のような雰囲気なのが蒔寺楓。
 まばらに切りそろえたおかっぱ頭で、少々とろんとした柔らかな笑顔でいるのが三枝由紀香。
 親しくさせてもらっているクラスメートだ。
「薫嬢、朝から元気そうじゃないか。フフフ」
 氷室鐘が不敵に笑う。
「今度は柳洞の奴とリベンジマッチか」
 うひょー。おかしなポーズで蒔寺楓が冷やかしてくる。
「薫ちゃん、喧嘩とかしちゃダメだよ」
 心配そうに言う三枝由紀香。
 薫は「うっ」と一声上げ、がくっとその場で肩を落とした。反省している様子です。
「薫は三枝さんの言うことは聞くのよねぇ」
 遠坂凛が呆れた声を出す。視線の先で、三枝さんが薫をよしよしと撫でている。
「だって三枝さんは小さな王様のお気に入りだし」
「そういうこと言うのカナ?!」
 三枝由紀香は顔を引き攣らせて叫んだが、普段ぽややんとしている人なのでまるで似合っていなかった。

「席に付け」
 2-A.担任の教師、葛木宗一郎が現れる。
 痩せた男で眼鏡の奥の目付きは鋭い。現代社会と倫理を受け持ち、生徒指導にも携わる堅物教師だ。
 しかしその実直さは上位学年になるほど信頼を集めている。
 彼はチラリと言峰薫を確認し、視線を上げて口を開いた。
「今日は転校生を紹介する。海外からの留学生だ。言峰、お前は外国語が堪能と聞いた。面倒をみてやるように」
「あー、はい」
 突然の申し付けに薫は目をパチパチさせた。級友たちもひそひそ騒ぐ。
「入れ」
「失礼します」
「失礼しまーっす」
 バリバリの日本語だった。そして教室の二箇所で生徒がコケた。
「大丈夫ですか遠坂さん」
「言峰ー、大丈夫か」
 二人は椅子に、よじ登る。

「フランスから来ましたシエルです。皆さん、仲良くしてくださいね」
「ななこです。よろしくおねがいしまーす」
 黒い髪で、しかし眼鏡の奥の瞳は青い大人びた女生徒シエル。
 金髪碧眼。ピンクの肌の子供っぽい女生徒ななこ。
 シエルは遠坂凛にニコリと笑い。ななこは言峰薫にうふふと人の悪そうな笑みをぶつけた。
(薫! 薫!! かー、おー、るー!!!)
(私のせいぢゃありません! 違うのです! 世界の修正力です!)
(何わけの分からないこと言ってるのよ! 間違いなくアンタの監視でしょう?!)
(そうかもですが、このような強硬手段に出るとは予想外です。くそっ)
 二人の留学生は窓際の一番後、所謂『不良の特等席』に腰を下ろした。一つ前が言峰さんちの薫ちゃんです。
 平和な? 学園生活二年生が始まった。

 ──── 運命(Fate)の聖杯戦争開始まで、あと9ヶ月 ────

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あとがき
 スクールデイズ編は「氷室の天地Fate/school life」をモチーフにしていますがかなりデタラメです。
 キャラ紹介をアイコン+テキストで行ったのは表現の試行錯誤の一環であり、手抜きがしたかったからではありませぬ(本当デスよ)
 沙条綾香の紹介がないのはアイコンがなかったからです。残念。シエル&ななこがいますが気にしたら負けです。氷室の天地にはいるのです。
 けいおん〇、らき〇すた、みたいな『何でもない日常だけのお話』がコンセプトです。……これでも(苦笑)
2011.2/28th

次回予告
 三枝由紀香、蒔寺楓、氷室鐘。三人娘のお宅拝見、言峰薫がそれぞれに、彼女達のおうちに遊びに行きます。
 三者三様の暮らしに触れて、薫は何を思うのか?
次回「クラスメート」

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