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09カレイドツインズ・セカンドライヴ

 朝日が差し込む教室の片隅で、一人の少女が物憂げに肘をついている。緩やかなウェーブのかかった長い髪と青い目は、少女に異国の血が混じる証であった。この少女、即ち遠坂凛は、やっと登校してきたクラスメートをちらりと見やり、眉を寄せて顔をしかめた。
「凛、おはようございます」
 ニコニコ顔でやってきたのは長い髪の女の子、切りそろえた前髪の下で両目を笑みで丸くしている。だがしかし、凛はそんな彼女に対し、深くため息をしてみせた。
 あははと苦笑する少女、言峰薫をジト目で見つめ、凛はあきれたように言葉を投げかける。
「今回はまた派手にやられたわね、大丈夫なの? それ?」
 凛の問いかけに苦笑する薫の頭には包帯が巻かれており、左頬に大きなガーゼをテープで貼り付け、更に左腕を包帯で釣っていた。
 よいしょと鞄を机に載せて、薫は小声でささやいた。
「調子に乗ってたら、蹴りを食らって折れちゃいました。もうくっつけましたけどね」
 えへへとはにかみ、薫は左手をブラブラさせる。そんな薫に凛は頭が痛くなる。
「……で、その顔は?」
「はい、やっぱり調子に乗ってたら槍を避け損ねまして、口裂け女になるところでした。あっはっは」
「あっはっは、じゃないでしょう?! 本当に大丈夫なの?」
 まったくもって何をやっているのか言峰親子、この少女、薫とその養父である言峰綺礼は教会に住んでいるのだが、毎日のように教会に伝わる騎士の剣術を訓練しているらしい。
 教会の神父である言峰綺礼は表向き魔術協会の所属だが、同時に霊地冬木の管理者(セカンドオーナー)である遠坂の門弟でもあり、薫などは凛の弟子として遠坂の秘術たる宝石魔術を学ぶ魔術師だ。
 しかしこの二人は親子そろってやりたい放題。養父の綺礼は聖堂教会の仕事である異端審問に出かけていくし、養女の薫は聖堂教会の基本武装である「摂理の鍵」を組み込んだ礼装で魔術を使う。
 そして薫曰く言峰の仕事は「こうもりさん」だそうで、作った会社も魔術協会と聖堂教会の交渉に使われているらしい。
 この辺りは遠坂の家が持っていたネットワークも活用されており、調停書には遠坂の家紋が描かれていたりする。凛の知らないところで遠坂の名前が言峰の師匠筋として評価されているのだが、それが凛に複雑な感情を抱かせる。

 本来、魔術師とは神秘の探究者であるべきだ。

 しかし遠坂の家は聖堂教会にツテがあり、両者の交渉つまり外交のパイプ役としての評価によって、霊地の管理者となった一面があるのも否定できない。
 人の世に生きる以上は、人との関わりを拒絶するのも無理であるということか。
 しかしである。凛が弟子とした薫は子供のクセに、すでに社長で「こうもりさん」で、綺礼を操りフランス、パリに会社の支店を設け、魔術協会と聖堂教会の穏健派を取り込もうと画策しているとか。
 何者デスか? 私の弟子は? 凛の胸中は複雑だ。
 それはともかくこの親子、月に一度あるいは二度ほど本気で手合わせするらしい。
 非公式とはいえ聖堂教会の代行者(エクスキューター)として活動する綺礼と手合わせするのだ。戦闘魔術師を志す薫といえどまだ子供。派手に怪我して教室に現れるのにももう慣れた。とはいえ見ていて痛々しいのは変わらない。
「大丈夫ですよ、私もおじさまも霊媒治療が使えます。この身に霊体のある限り、復元できない傷はないのです!」
 周りを気にして小声で言いつつ、えっへんと薫は胸を張り、そんな彼女に遠坂凛は苦笑する。
 魔力を作用させて肉体を修復するのが治療魔術であるのだが、それもピンからキリまでで、魔力で回復力を刺激する低レベル回復魔術から、魔力で臓器や損傷した肉体の一部を再現する高レベル治療魔術まであり色々だ。
 そして綺礼や薫が使うのは霊媒治療と呼ばれる治療魔術。これは本来、未開地での外法ともされるのだが、治療限界の高さから薫が習得に励んだ術だ。
 人体は、肉体、霊体、魂などから出来ている。
 霊媒治療はこのうち「霊体」から肉体の構成(データ)を読み取り、霊体情報から肉体を「復元」する奇跡(呪術)なのだとか。
 一般の治療魔術が単純に肉体を扱うのに対し、霊媒治療は霊体から肉体に干渉するので、死体であっても霊体が妄念としてでも残っていれば、生きた死体にまでは復元可能と薫は言う。
 綺礼は神への祈りと信仰心で、薫は魔術回路による魔術基盤とのアクセスで、世界からの加護を受けて術を発動させているはずだ。
 祈れば傷は、癒される。つまりそういうことらしい。
 言峰綺礼が使う治療魔術のランクは高く、聖堂教会でも司祭クラスに匹敵すると聞いている。
 それと比べれば数段劣るが、霊媒治療を使う者などそうはいないはずなので、薫の未来は有望だ。
 それなのに薫といえば戦う道をまっしぐら、綺礼と本気に近い対戦訓練を繰り返し、その度にケガをするのだ。主に薫が。
 しかも親子そろって治療魔術を得意とするので、止めろといっても聞く耳持たない。
 おまけに凛には訓練の見学拒否を出している。黒鍵の使用法や洗礼詠唱は聖堂教会の秘技なので、見せるわけにはいかないなどとほざくのだ。
 薫は凛の弟子であり、綺礼だって兄弟子だろう。そう言ってやるのだが、綺礼も薫も笑って誤魔化すばかり。まったくもって度し難い。今に見ていろこの親子。
「ところで凛、話しておきたいことがあるのですが」
 なんだろう? 薫が微妙に下手に出ている気がします。
「実はですね」
 えへっと可愛く笑う薫に対し、凛は冷たい視線を向ける。この娘がこういう態度の時は、大抵ろくなことなどないのである。
 そして。
「なんですってぇぇぇえええ!!!」
「ちょっと凛、落ち着いてください。痛いです、苦しいです、許してー」
 怒号と鳴きそうな声にクラスメートが振り向くと、涙目になった言峰薫の胸ぐらを遠坂凛がつかんでねじり上げていた。

Fate/黄金の従者#09カレイドツインズ・セカンドライヴ

 授業が始まり、生徒達は教師の講義をノートに写す。ここは私立の進学校、意欲のない子は切られます。
 それはともかく教室の後ろの方で、二人の少女が額に汗を浮かべていた。
 凜は握ったシャーペンをみしみしとしならせ、薫は手にした消しゴムに爪を立てている。
(どうしてくれるのよ薫! 授業参観のプリントは処分しなさいって、あれほど言っておいたじゃない?!)
(いや、そんなこと言われてもですね、どうやらかなり前からチェックしていたらしくて、どーにも隠しきれなかったのです)
 授業中にもかかわらず、ひそひそ話す二人です。といっても言葉を交わしている訳ではなく、念話(ポルター)で話しているのだ。全くもって魔術の無駄遣いであるのだが、今の二人に余裕はない。
(薫、あなた体育会のことを忘れたんじゃないでしょうね?!)
(あはははは、凛、あれはもう、忘れようにも忘れられません)
 しばしの沈黙が訪れ、教師が黒板に書き込む音が静かに響く。
((あああっ!!!))
 凜と薫は同時に頭を抱えた。
 学校の体育会に言峰綺礼と大きな王様ギルガメッシュが現れた。あの日を二人は忘れない。
 父兄の席に高級絨毯を敷いて笑顔で手を振る綺礼とギルガメッシュに、凛と薫は顔面を引き攣らせた。クラスメートと教師から受ける視線が、あれほど痛く感じたことはない。
 父兄参加の徒競走、言峰綺礼は教会の僧衣のままで校庭をぶっちぎりで突っ走り、ギルガメッシュは三台の大型カメラを引き連れて撮影をしたりした。
 他人のふりをしようとする凛を捕まえ、お昼を摂りに合流すれば中華飯店・泰山から出前が届いた。青空の下でいただく麻婆豆腐は一生もののトラウマになりそうでした。
 おかげで凜と薫はアイドル(さらし者)です。
 あの二人が再びやってくる。ハルマゲドン。そんな言葉が脳裏に浮かぶ。世界よ、いっそ滅びて欲しかった。

 そうするうちに授業は終わり、凜と薫は作戦会議。
「くっ、一体どうすれば?!」
「薫、落ち着きなさい。まだ時間はあるわ。とにかく予防線は張らないとね。会社のほうで抑えてもらうのはどうかしら?」
「ええ、それは私も考えました。ちょうど半期決算と来期の融資交渉の時期なので、おじさまと王様にはよく言っておいたのですが……」
 言って薫は顔をしかめた。何? と凛が尋ねると、薫は髪をかき乱して仰け反った。
「あぁんもう! こんな時ばっかりあの二人は真面目に仕事をしてるのです!! おじさまも王様もどーして普段からきちんと働いてくれないのですか!!!」
「あー、キングさんは知らないけど、綺礼はそういう奴だわ」
 机の上に倒れ込んでシクシクと泣き出した薫の肩に、凛はやさしく手を置いた。あの二人の身内は大変そうだが、薫に頑張ってもらう他はない。少なくとも自分には無理だと凛は思っていたりする。
「うっく、ひっく、普段はちっとも仕事しないクセにこんな時ばっかりバリバリ仕事をこなすのです。しかもです! きっとイベントが済んだら後のことはこっちに回すに決まってます。ああぁんもぉう!!!」
 なぜだかとても納得できる薫の予想に、凛はちょびっと涙ぐむ。頑張るのよ薫。私が見ているわ。見ているだけだけど。
 遠坂凛は決意した。
「決めたわ! 私、この日は休むことにする!!」
 力強く宣言する凛であったが、目線があさっての方に飛んでいた。
「何言ってるのですか凛?! 私を一人にするのですか?!」
「ごめんなさい薫、女同士の友情って、所詮はかないものなのね。ふぅ」
「ふぅじゃないでしょ、ふぅじゃ?! 凛、それでも貴女は霊地冬木の管理者なのですか?!」
「そっ、それは関係ないでしょう?! そうだ! 管理者の仕事は言峰さんに委託してたのよね。よしっ」
「何がよしですか何が?! そんなこと言うならもう宝石はあげませんよ?!」
「なんですって?! 薫! それは卑怯よ!!!」
「凛、貴女どの口でそれを言いますか!!!」
 凛にも薫にも策はなかった。

 そして夜の言峰教会、ここは居住棟の応接間。柔らかな灯りにワインをかざし、綺礼とギルガメッシュがグラスを傾ける。
「「クックックックック」」
 ご機嫌な二人の視線の先にはカレンダーがあり、日付がXで消されている。そして数日後の数字が一つ、〇で囲まれ書き込みがされていた。

 ーー 授業参観(はぁと) ーー

 いっそ二人をワインボトルで殴ってやるのはどうだろう? 目尻をピクピクさせる薫は思うのです。
 ご機嫌の二人にワインを注ぎつつ、薫は控えめに訊いてみる。
「ええと、おじさま?」
「何だ? 仕事は順調だぞ。問題など何もないな。ククククク」
 言峰綺礼、貴方の笑顔に私はパンチを差し上げたい。出来ませんが、畜生。
「ええと、王様?」
 ちょっと涙目です。
「何だカヲル、仕事はとても順調だ。我(オレ)が本気を出せばこんなものよ! ハハハハハハ」
 王様、お願いですから普段から本気で仕事してください。一応、私は初等部五年で大人を使うのは大変なのです。
「何を言うか?! カヲル、貴様は小娘といえど我(オレ)の従者、有象無象の雑種など、顎で使うが当然だ」
「うーん、それは厳しいです。確かに歳をとれば有能という訳ではないですし、社会に出てれば大人でもないとは思うのですが、やはり誰にもプライドというものがありますから、私のような子供に命令されれば面白くないと思う人もいるのではと……」
 薫の物言いにギルガメッシュは詰まらなそうに鼻を鳴らす。
「ふん、愚かなことだ。誇りなどというものはな、本来は強き者のみが持つことを許されるものなのだ。国を建て、民を導く者は心強くあり、威力と威光を示してこれを治める。それが即ち統治であり法をしくということだ。人はおろか自身を導くことも出来ない家畜の如き雑種風情が、誇りなどと口にするとはお笑い種だ。立場を弁え、ひれ伏すことを憶えよと言いたいところであるが、まぁ許そう。この世は我(オレ)の時世とは異なる法にて動いているからな」
 口では色々と言ってはいるが、ギルガメッシュは今の時代を楽しんでいるはずだ。
 少なくとも薫の知る限り一人も殺していないはずであり、ストレス貯まると小さな王様に入れ替わる。だがそれほど小さな王様になることもなく、大人のままで暮らしているように思うのだ。
 まぁ仕事はサボるし、どこに遊びに行ってるか判らないことも多いが、ふと見つけると子供達と一緒に遊んでいたりするので薫としては良しである。
 ささやかではあるが、運命(Fate)の流れは変わっているはずだ。
 しかしである。
「という訳でカヲルよ。貴様の授業参観には我(オレ)と綺礼が行ってやるから楽しみにするがいい」
 言ってハハハと笑うギルガメッシュと言峰綺礼。なんでそうなるのかが納得出来ず、渇いた笑顔でアハハと笑う薫だった。

 時の流れは止まらない。その日はとうとうやってきた。
「……打つべき手は打ちました。何度もお願いしましたし、スーツだってプレゼントしたのです」
 ブツブツと言いつつ沈痛な顔の薫である。
「ううっ、綺礼の奴、綺礼の奴……」
 何を言われたのか、きっちり出席している遠坂凛。綺礼のことだ、恐らく遠坂時臣氏を引き合いにでも出したのだろう。
「そうよっ! 綺礼の奴、お父様の名前を出すなんて狡いのよ!! やっぱりあなた達は親子だわ!!!」
「待ちなさい凛、そーゆー言い方はさすがにちょびっと傷付きます」
「そんなのささいな問題よ」
「待てやコラ」
 凜も薫も心がささくれ立っているのです。そして奴らがやってくる。彼方から、聞き覚えのある音がする。

 ーー てってけ・てってけ・てってけ、てけ・てけ・てけ・てけ・てけ・てけ ーー

 ストロークの長い大排気量エンジンが生み出すリズミカルな鼓動が響き、薫の顔色が悪くなる。
「この音はおじさまのハーレー、ウルトラクラシック・エレクトラグライド! あああ、授業参観にハーレーはやめてとあんなに言っておいたのにぃぃいい!!」
 言峰薫、すでに音でハーレーが判る娘であった。
 窓際に身を乗り出す子供達が、すげー、バイクー、サイドカー、外車大きいー、ベンツェでけー、金ピカー、等と歓声を上げる。
 その内容に、凛と薫が頭を抱える。
 そう、あの二人が来たのだと理解する。地味に、目立たず、落ち着いて。およそ無理だと判っていたが、お願いせずにはいられなかった。ええ、無駄とは判っていましたが。
「ああ、おじさま、王様。私は信じています。二人ともきっと私がプレゼントしたスーツで来ますよね? 僧衣やエナメル塗りコートで来たりしませんよね?」
 朝っぱらから半泣きで神様に祈るかわいそうな薫。凛は思わずもらい泣きして涙ぐみ、そっと薫の背中を撫でてやる。
「ねぇ薫? 諦めましょう?」
 悲しげな凛の言葉に薫はしかし、くわっと目を見開いて噛み付くように言い返す。
「何を言っているのですか凛?! 貴女はそんな素直な性格ではなかったはずだ! さてはお前、偽物だな!!!」
「誰が偽物よ誰が。とにかく落ち着くのよ、もう私たちに出来ることは何もない。ならば後は耐えるしかないわ」
「くっ、し、しかし、いや凛の言うとおりです。おじさまと王様の常識を信じるしかないのですね、よよよ」
「あるの? 常識? あの二人に?」
「……おじさまは神父として有能ですし、王様だって経営者として有能です。二人とも本気出せば常識くらい出てくるはずなのです。しくしく」
 無情なる凛の問いかけに涙する薫である。
 本気出さねば常識が出てこない、とんでもねー保護者と暮らす君に幸あれと凛は思った。

 教室の後ろに保護者達が集まった。教師が現れ、教壇に立って教室を見渡す頃になっても、綺礼とギルガメッシュは姿を見せない。
 顔色が悪くなった遠坂凛と、必死にお祈りしている言峰薫は気が気でない。いっそトドメを刺してくれ、それともここには来ないのか?
 いや、そんなはずはない。希望を持たせて地獄行き。それが言峰教会クォリティだと薫は身を以て知っている。
 来るな。来るんじゃねぇ! お願い来ないで!! いやー、やめてぇー!!! などと思いつつ、祈りの姿勢を崩せない。
「〇〇さーん、XXさーん、」
 教師が名前を読んでいる。生徒がそれに応えている。親御さんが微笑みながらそれを見守る。
 そして奴らがやってきた。

 ーー かつーん、かかつーん、かつーん ーー

 静かに響く、靴の音。

 ーー かつーん、かかつーん、かつーん ーー

 二人分の足音が近づき、止まり、教室の後ろのドアに映る影。
「失礼」
 よく通る低い声で挨拶しつつ入ってきた二人の男は共に背が高く逞しい。
 一人は教会の神父で僧衣を着込み、一人は金髪の外人でエナメル塗りの豪奢な上着を羽織り、いくつもの金の装身具でその身を飾って現れた。
 異様かつ絢爛な二人組に教室は沈黙し、静寂に包まれる。
 そして一人の生徒が机におでこをぶつけ、ゴンと音を立ててからシクシクと泣き出した。
「えぇと、あの、」
 机に突っ伏し、さめざめと泣く言峰薫を気にしつつ、担任教師は神父と金髪外人に声を掛けずにいられない。
 そんな教師に言峰綺礼は黙礼し、笑みを浮かべて声を出す。
「このような格好で申し訳ない。私は新都郊外の冬木教会で神父を務める言峰綺礼、このクラスの言峰薫の父親で、遠坂凛の後見人をしている者です。この男は私と娘と共にキング・グループという会社組織を経営している。薫にとってこの男は叔父のようなもの、先生には娘のことで迷惑を掛けております。許可は取っておりますが、授業参観に立ち会うことを許していただきたい」
 やけに存在感のある二人だが、丁寧な挨拶を受けて教師の顔に笑顔が浮かぶ。
「そうですか、言峰さんと遠坂さんの事情は心得ております。どうぞご参観下さい。言峰さん、大丈夫ですか?」
「……。大丈夫れす。……くすん」
 ハンカチで涙を拭きました。どういうことだと目線で問うが、イカス笑顔の保護者達は薫と目線をあわせない。
 薫の忍耐(対石化セービングスロー)がレッドゾーンに突入するが叫ぶわけにもいきません。じっとガマンのしどころだ。
 そして凛、さりげなく他人の振りしないでください。
 歯がみする薫を余所に、授業参観が始まった。
 授業科目は国語であった。
 教科書を数人で朗読して保護者に聞かせ、生徒が疑問点をノートに書き出し、教師が選んで黒板にそれを書かせる。
 そして生徒に手を挙げさせやりとりしながら、疑問点を解説していく。そんな授業の様子に綺礼が、ほぅ、と小さく感心の声を上げた。おとなしく佇む二人に薫は内心ホッとしていた。だがしかし、

 あはー。

 額にぶわっと汗をかく、聞こえなかった。俺には何も聞こえなかった。引き攣る頬を揉んでから、薫は斜め後ろに振り向いた。
 教室の隅で笑顔を浮かべる綺礼の肩から、羽の生えた可愛いステッキがニョキッと頭を出していた。

 あはー。

 ーー ああ、恨みで人(アレ)が殺せたら ーー (薫は呪いが苦手です)

 朱色のスティック、白い輪っかのステッキヘッド、そこから翼が左右に広がって、輪っかの中には光り輝くお星様。
 これこそは「魔法使い」キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが作り出した究極にして悪夢のリリカルアイテム。
 割烹着姿の乙女の魂が宿る(と思われる)魔女っ子変身アイテム「カレイドステッキ」に他ならない。
 綺礼の肩から生えたカレイドステッキは、可愛い翼をぴこぴこ振っている。

(薫さーん、お義母さん見に来ちゃいました。あはー)

 聞こえない聞こえない聞こえない聞こえない。何も見てない何も見てない、何も見てなどいないのだ。

 ……血涙流して良いですか? どうしてアレが、ここにいる?

 他人の振りを決め込む凛は、前を向いたまま微動だにしない。よし、君は絶対に後ろを向いてはいけない。犠牲になるのは私一人で充分だ。
 濡れるハンカチを握りしめ、なんとか気持ちを立て直す。
 視界の端では、やっほーと言わんばかりに踊り狂う不思議ステッキがぴこぴこ動く。可能な限り気にしないことにする。
 保護者や教師が騒がないのはカレイドステッキのステキパワーに違いない。
 ああ、現実逃避とはこんなに素晴らしいものだとは。お外の景色に薫の心は釘付けです。今日の天気は曇り空、午後から雨が降りそうです。

 なんとか時間は過ぎていき、何ごともなく授業は終わる。
 しかし数名の生徒は名前を呼ばれて居残りし、面談をすることになっていた。その中には凜と薫の姿もあった。なにせ二人とも特殊な生徒と言えるのだ。成績優秀だが両親がおらず、屋敷に一人で暮らす遠坂凛。お飾りとはいえグループ企業の社長となり、学校を休みがちな言峰薫。薫は更に、武術の鍛錬とかで包帯を巻いて登校することもしばしばで、学校側としても気に病んでいるようだ。
「おじさま、ちょっと話がありますから来てください。ていうか来い」
 片目をピクピクさせて、薫は綺礼の袖を引く。
「ちょっと薫、すぐにあなたの番じゃない」
 凛の注意も今の薫には届かない。何せ綺礼の後ろには、超弩級の危険物が隠れているのだ。
「凛、先にあなたの面談をやってくれと先生には伝えてください」
「あのね薫、私だって綺礼に来てもらわないといけないんだから、それは無理」
 嫌そうに言う凛に綺礼が苦笑していると、ギルバート・キングこと大きな王様ギルガメッシュが前に出た。
「よし、では我(オレ)が凛の面談に出てやろうではないか」
「キングさんがですか?!」
「お願いします王様、では凛、そういうことで」
 あわてふためく凛を置き去りにして、薫は綺礼の手を取り廊下を進む。凛とギルガメッシュ。かなりデンジャラスではあるが、水爆級の危険物処理を優先しよう。許せ凛。そして王様、薫は貴方を信じます。

 適当な空き教室に侵入し言峰綺礼を睨み付けると、背後からカレイドステッキがその姿を現した。
「出たな妖怪」
「まぁ、何て冷たいご挨拶なのでしょう?! ルビーちゃんは悲しいです。よよよ」
 心に響く、とてもキュートな乙女ボイスはカレイドステッキに宿る人工なのに天然とのたまう精霊のルビーちゃん。
 綺礼の肩の上でくにゃりと曲がり、腰掛けるようにしながら翼でヘッドを隠して泣いてる素振りの不思議ステッキ、見ているだけでワンダーランドにご招待されそうです。
「おじさま、どうしてコレを連れてきたのです?!」
 血走った目で見つめても、言峰綺礼は涼しい顔を崩さない。
「なに、楽しみは分かち合おうと思っただけだ」
「何の楽しみですかそれは?!」
 拳を握る薫の前でも、言峰綺礼は涼しい顔だ。
「うむ、悲しみは分かち合うことで半減し、喜びは分かち合うことで倍増する。昔の人は良いことを言った」
「そして増えた分だけ私が苦労するのはどーゆーことですか!!!」
 紅潮した薫に綺礼はやさしく答える。
「薫、それは神の試練だ」
「この世に神はいねぇぇええ!!! 半分以上神様なのは王様ですが、それだと私の人生は試練と絶壁のスタジアムになってしまいます!!!」
「なんだ、判っているではないか」
「さすがです薫さん! ちゃんと判ってるんですね。ルビーちゃん感心です」
「……お願い、誰か助けて。しくしく」
 薫は目まいを起こすが、なんとか気を取り直して背筋を伸ばし、不穏分子を問い質す。
「で、本当に見に来たかっただけなのですか? ルビーちゃん?」
「だって薫さん! お義母さんは薫さんのことが心配で!!」
「だからお義母さんじゃないから本当に。それにいい加減、活動限界時間を超えているにも程があると思うのですがどうでしょう?」
「いやですよぉ薫さん、そんな細かいこと、きっと誰も憶えてないし気にしてなんかいませんよ?」
 言って翼であっはーっと薫を小さくはたく不思議ステッキ。
「俺は憶えてるんだよ!!! 気にするんだよこの俺はぁぁああ!!!」
 血管切れそうだった。
「んもう、薫さんカルシウムが足りないんじゃないですか? 知っていますか? カルシウム摂取には乳製品よりワカメの味噌汁の方がいいんですよ。秘密は大豆のイソフラボン。女性ホルモンに似た働きで、カルシウムを骨から逃がさない。素晴らしい! ルビーちゃんも逃がしません!!!」
「いや、それ関係ないと思います」
「それだけではありません! 乳製品を摂らない日本のご老人の方が、ミルクとチーズ好きの欧米人より骨粗鬆になる割合が遥かに低い! 骨は丈夫でコレステロールも健康値! イソフラボンは偉大です! 薫さんももっと大豆を食べましょう。温暖化が叫ばれる昨今、肉よりも豆ですよ薫さん!! 豆は畑のお肉です! ルビーちゃんは地球の未来をちゃんと考えているんです!!」
 シャキーンと翼を広げ、地球の未来に思いをはせるカレイドステッキ、いい加減にしてくれないと、ぶっ倒れてしまいます。

 ーー かおるー、かおるー ーー

 廊下の方から凛の声がする。気が付けば十分以上たっていた。どうやら彼女の面談は終わったようで、すなわちこれでタイムアップだ。綺礼の後ろに、さっと隠れるカレイドステッキ。
「もう、こんな所にいたのね、探したじゃない」
「すみません凛、あれ? 王様はどうしましたか?」
 大きな王様ギルガメッシュが見あたらない。
「はぁ、あの人って本当に王様なのね。正直ちょっと疲れたわ」
 言って凛は顔を押さえてため息一つ。
 聞けばギルガメッシュは面談の席でも当然のようにふんぞり返り、時臣の娘である凛が優秀なのは当然だ。むしろ遊興を憶え視野を広げて悦楽を人生の嗜好品として楽しめるようになるのが肝要だ。などと教師に演説したらしい。
 すまない凛、でも私だって色々と頑張っているのですから、苦労と喜びを分かち合って欲しいのです。
 凛の面談で充分楽しんだと判断したのか、ギルガメッシュは先に帰ってしまったとか。酷薄な王様だが薫は胸をなで下ろす。
 何だかんだと言っても言峰綺礼はTPOをわきまえている。問題なく保護者の役をこなしてくれるだろうと思っていたし、今までも良くしてくれている。
 しかしギルガメッシュが共にいると何故か綺礼も暴走していくので、薫は密かに心配していたのです。
「じゃあ行きましょう、おじさまよろしくお願いします」
「ああ、では行こうか」
 薫は綺礼の手を引いて、面談の場所に連れて行く。

 保護者を交えた面談も無事に終了、子供達は帰途につく。保護者達はちらほらと、お話などをしているようだ。薫が外を見てみると、秋の空が雲に覆われ霧雨がベールのように揺れていた。
「あー、ちょっと降ってきましたね。王様が帰っちゃったのはこのせいですかね?」
 どんな人よと凛が後ろであきれているが、王様は割とそんな人だ。
「私は教会に戻るがお前達はどうする?」
 綺礼の問いに凜と薫は顔を見合わせる。どうしよう? 今日は帰るか? 遠坂邸でお勉強(魔術研鑽)?
「凛、帰りにスイーツでも食べて行きませんか?」
「いいわね、駅前まで行きましょう」
 そういうことにしたので綺礼は帰って行った。

 薫は鞄の底をごそごそあさり、折りたたみの傘を取り出した。入れておくと何かと便利、いざというとき役に立つ。
「凛、私は傘がありますがあなたはどうです? 凛? どうしましたか凛?」
 鞄に手を突っ込んで、なぜか動かず固まっている遠坂凛に、不吉な予感のする薫。
 そして彼女は振り向いた。
 くるっと振り向く凛の右手は、羽の生えたステッキをしっかり握りしめていた。凛の瞳はグルグルで、すでに焦点が合ってない。
「さあ薫! カレイドツインズ三周年!! ステキに華麗に復活よ!!!」
「いやぁぁぁあああ!!!」
 薫はその場に悲鳴を残し、窓を突き破って教室から飛び出した。

 霧雨の降る中を、女の子が傘もささずに走っていく。言峰薫は上履きのまま濡れる歩道を突っ走る。

 ーー 逃げろ・にげろ・ニゲロ・逃げろ・にげろ・ニゲロ ーー

 振り向くな。あくまと悪夢がやってくる。
「「待ちなさーい」」
 来た。
 嫌々ながら振り向くとカレイドステッキを握った遠坂凛が、薫の傘を広げてさして走ってた。
 上半身が全くぶれないその走りはまるで忍者、しゅぱぱぱぱ。雨を弾いて軽快に走る遠坂凛は、赤い忍者と化している。
「薫さーん、雨に濡れると風邪をひちゃいますよーっ。一緒に傘に入りましょーっ」
「そうよ薫! そして傘で良いから握るのよ、そうすればいつの間にか仲魔になっているから安心しなさい」
「うそだーっ!!! 握らされるのは傘ではなくてカレイドステッキに決まってます! 私は決して騙されないっ!!」
「まぁ薫さん、信じてもらえないなんてルビーちゃん悲しいです!(手強い! 手強いですよ薫さん!)」
 相変わらず脳内思考がテレパシーで漏れている。素敵ステッキルビーちゃん。
 それにしても遠坂凛、あなた絶対魔術を使っているでしょう?
 いや、使っているのはカレイドステッキかもしれないが、みなぎる魔力、ゆらいで歪む周囲の空間、マジックブースターとして超特急、いや超特級の能力を持つ魔術礼装カレイドステッキを手にした凛の魔力は天井知らず。
 体力勝負なら薫が有利のはずなのに、無表情で走る遠坂凛のその勇姿、正直とっても怖いです。捕まったら何をされるか想像したくもありません。
 そう、これは緊急事態。ならば魔術を使うのだ。

 ーー 告げる(セット) ーー

「肉体強化(フィジカル・エンチャント)強化、強化、強化、強化。強化x7(七倍強化)!!!」
 魔術回路を起動して、肉体を強化する初歩にして基礎たる強化の魔術をこの身に掛ける。七倍強化の7とはつまり無限数であり完全数で「たくさん・無限・完全」などを数字自体が象徴する。
 よってこれは魔力による肉体強化であると同時に概念強化(イデア・エンチャント)を兼ねた複合強化。薫の体に力が宿り、その体を加速する。
 霧雨に濡れる街の歩道を、すっ飛ぶように駆け抜ける二人の少女。通行人が驚きの目を向ける。
 ひょっとして噂になったり都市伝説になったりするのだろうか? いや大丈夫。まだ人間の限界は超えてない。初等部の女の子だったり追い掛けている子が魔女っ子ステッキを持ってることなどきっと誰も気にしない。
 ……だったらいいな。
 などと思う言峰さん家の薫ちゃん。霊地冬木の管理者代行を引き受ける「言峰」を、薫も名乗っているのです。不祥事を起こしたなどと綺礼が知れば、どんなお仕置きをされるかそれこそ知れたものではない。
 あんなこととか、こんなこととか、いやです。それは許してください。やめてーっ!!!
 考えるだに恐ろしい。何としても逃げるのだ。とにかく人のいない場所まで移動しろ!

 冬木市の中央を流れる未遠川、それにそって走るサイクリングロードを薫と凛は駆け抜けた。冬木大橋の下をくぐり抜け、海浜地帯の工場群の手前で右折、新規開発住宅地の合間を抜けて目的地にたどり着き、ドリフトかまして急旋回。薫はルビーに向き直る。
「あはーっ。観念したんですね薫さん。いえ、この場所は……」
 ぴこぴこと羽を動かすカレイドステッキが、声を強張らせてその動きを停止した。
 薫が逃げ込んだその場所は街中なのに不自然に開けた広い土地。特に目立ったものはなく、脇に木々が植えられているだけで雑草の生えた剥き出しの地面が開けている。

 ここは新都中央公園。三年半前の聖杯戦争で呪いの泥がぶち撒かれ、多くの人が呪い殺され焼き殺された終焉の場所だった。

 霊地冬木の霊脈は、まず円蔵山からの霊脈が結ぶ柳洞寺の地下龍洞。第二に凛の住む遠坂邸。第三に聖堂教会が押さえる冬木教会。そしてこれらの龍脈の霊的加工により二次的に発生した第四の霊脈がここ現、新都中央公園。
 前回の聖杯戦争では聖杯はここに降臨し、言峰綺礼の願いを具現化して悲劇は起きたと薫はすでに聞いている。
 三年半の時間が経つにも関わらず、ここには開発の手が入ることもなく放置され、渦巻く怨念は人々を遠ざけている寂しい場所だ。
 だがしかし、言峰薫(インベーダー)の介入により運命(Fate)の流れはねじ曲げられている。
 薫の背後に石造りの慰霊碑が建っていた。
 これはキンググループが寄付を募って設置したものであり、裏面に祈りの言葉が刻まれて、この地の怨念を沈めながら浄化していく供養塔であり祭祀の基点となる設置型の魔術礼装。
 凛に頼み綺礼に頼み、薫はこの霊脈の管理を任された。それは将来、魔術師「言峰」の家を教会とは別に興すためだと薫は凛に説明していた。
 固有結界にも例えられる怨念は凄まじく、浄化には時間がかかるが原作よりはマシなはず。薫の暗躍により文化会館と劇場ホールの建設予定も既にある。
 霊脈との契約はまだまだ先だが、この霊脈は浄化した上で言峰薫がいただく。伊達に知識がある訳じゃない!
「何ということでしょう! 殺る気まんまんデスね薫さん?! お義母さんは悲しいです!」
 仁王立ちする薫に対し、小刻みに振動しつつ、羽を使ってヘッドを抱えるルビーちゃん。よよよよよ。着物の裾で涙を拭うその仕草ではありますが、割烹着が見えそうなのは幻覚です。
「いやだからお義母さんじゃないから本当に」
「判りました! これが噂の反抗期、積み木崩しというヤツですね?! ルビーちゃんは勉強したので知っています!!!」
 羽を突き上げ、拳を握っているかのようにググッと丸める不思議ステッキ。近くにいると夢に見そうで不安になります。
「いやそーじゃくてあのですね」
「いいでしょう! ルビーちゃん言いつけちゃいます。同志メッシューっ!!! ここですよーっ」
「呼ぶなぁぁぁああ!!!! それからその呼び方やめーっ!!!!」
 見渡すが、さすがにギルガメッシュは現れない。薫は胸をなで下ろす。
「あはー。流石の薫さんも大好きなあの二人には頭が上がらない。つまりそういうことですね!」
「は? いや別にそーいう訳じゃないんですが、あの、えと、」
 何故かモジモジと身をかがめ、左右の指先をつんつんする薫。
「隙ありです! 凛さん今です!!!」
「オッケー、ルビー」
 手にした傘を放り投げ(薫の傘です念のため)薫を指差す遠坂凛、その左腕の魔術刻印が光り輝き、魔術という神秘が顕現する。
「ちょっと待てぇぇええーーーっ!!! 祭壇、起動ーっ!!!」
 叫んで避けて、慰霊碑の後ろに逃げ込む薫の声に、慰霊碑は仄かな光を放つ。そこに凛の指先から放たれた呪いの弾丸が降り注ぐ。
 凛の指先から放たれた赤黒い呪いの弾丸はガンドと呼ばれる北欧に起源を持つ魔術の一つ。指差した相手を病に冒す呪いの術だ。
 しかし凛の魔力は強大で、彼女が使えばその威力は一撃で煉瓦などは破壊する。そんな魔弾を受け止める慰霊碑は、しかし欠けることもなく魔弾の呪いを打ち消した。
「くっ問答無用ですか?! 本気ですねルビーちゃん」
 顔をしかめた言峰薫がひょいと影から身を乗り出す。
「生憎ですがルビーちゃん、この慰霊碑はこの地の怨念を浄化するための祭壇礼装なのですよ。その力は魔術の作用原理である「逆行・歪曲」を打ち消す「摂理の鍵」と同系統。つまり神意を語り魔を否定する聖堂教会系の魔術工芸品(アーティファクト)! 例え凛の魔術でも、これの前では効果が半減するのです! フフフフフ。考えなしに逃げていたわけではないのです!!」
 ちょっとニヒルに笑みを浮かべる薫に対し、カレイドステッキはわなわなとその身を震わせた。ちなみに凛は無表情です。
「手強い! 手強いですね薫さん!! その成長ぶりにルビーちゃんは感動です!!!」
「ふっ。まだまだこんなものではありませんよ! 黒鍵・顕現!!」
 薫の声に応え、袖から出てきた聖典紙片が細身剣へと姿を変える。左右に握るレイピアに似た細身の剣、黒鍵コピーを薫はルビーに突きつけた。
「私の礼装は摂理の鍵、歪曲と逆行という魔術の作用原理を打ち消し、以て怪異を否定する謂わばマジック・キャンセラー。この手に黒鍵のある限り、私の自由は渡さない!」
 ムンと薫は胸を張り、そんな薫にカレイドステッキ、ルビーちゃんは羽を広げて驚きを隠せない。
「やりますね薫さん! さすが同志キレーの愛娘です!! ルビーちゃん萌えてきました!!!」
「……お願い、それやめて鳥肌立つから」
 ほんのちょっと薫のテンションが下がった。その時、凛が一歩踏み込み、再び魔術刻印を輝かせる。
「勝負よ薫。私の神秘(魔術)と貴女の神秘(摂理)、どちらが上かはっきりさせるわ。そしてもちろん勝つのは私」
「ステキです凛さん! さあ薫さん、謝るなら今の内ですよーっ!」
「なんの! 宝石がなければ凛の攻撃力は高くない。ならば地の利で私が有利!」
 二本の黒鍵を左手に束ね、新たな魔術を薫は紡ぐ。そこに凛が魔弾を再び撃ち放つ。
「Fixierung (狙え) , EileSalve (一斉射撃) !!!」
 襲いかかってくる呪弾の雨、それを薫は、
「七鍵・展開。”アイアス” 顕現!」
 左掌を中心に七本の黒鍵を放射状に広げた障壁で受け止めた。
 七本の黒鍵はロードライト・ガーネットのバラ色の光を放ち、七枚の花弁となって薫を守る。
 薫の魔術礼装「聖典紙片」は一応の完成を見た。剣化、摂理の鍵、炎上、融解、伝令、そして障壁。
 薫の使ったこの術は、聖別概念を持つロードライトのバラ色で魔力を染めて、摂理の鍵と併せて魔術を防ぐ魔術障壁。
 ちなみに「なんでイージス(不破の盾)じゃなくてアイアス(投擲防御)なの?」との凛の質問に「障壁はアイアスでなくてはダメなのです!」と薫が力説したのは秘密である。
 七枚の花弁が凛のガンド(呪弾)を跳ね返す。しかし薫の手が痺れる。重い。きつい。カレイドステッキの増幅かも知れないが、たかがガンドでこの威力。陸上競技の砲丸でも投げられてるほどの手応えだ。
 しばらくすると呪弾は止まり、薫も両手に黒鍵を束ねて持ち直す。
「やるわね薫。私のガンドを防ぎきるなんて生意気よ」
「凛、褒めるのかけなすのか、どっちかにしてください」
 瞳孔開いた貴女では、真面目に言っても無駄とは思うが、遠坂凛はお師匠様だ。そして凛の手に握られたカレイドステッキは大喜び。羽を動かし、きゃーすてきー薫さーん。などと騒いでいるので力が抜ける。
「えぇぃっ、覚悟しなさいルビーちゃん! 私は貴方を蹴っ飛ばして、凛の手から引きはがす!!!」
「ふっふっふ。出来ますか薫さん? 愛と正義(ラヴ&パワー)のカレイドステッキがいる限り、凛さんの勝利と薫さんの敗北は歴史の真実でファイナルアンサー!! 賞金はルビーちゃんが独り占めです!!!」
「いや、賞金って出ないから。むしろ出しませんのであしからず」
「逝きますよ薫さん! さあ凛さん。ペットにしつけのお時間です! 薫さんに「反省」を教えてあげましょう!!!」
「オッケー、ルビー!」
「いや私は凛の弟子であってペットじゃねーって、聞いてないんでしょうけど聞いてます?」
 薫の問いには反応しないルビーちゃんと凛なのです。

 先ほどまでとは一転し、じりじりと間合いを計るカレイドステッキ&凛。むむむ今度は肉弾戦か? いいだろう。ならば魔術研鑽の成果を見せてやる。

 ーー 告げる(セット) ーー

 薫は呟き、魔術回路を世界の魔術基盤に接続する。己と世界が一つになって、大気に肉体(カラダ)が溶けていく。そんな感覚を呼び起こし、薫は呪文で呼びかけた。
「降霊術(セアンス)憑依経験(ダウンロード)言峰綺礼(エクスキューター)」
 薫の呪文(呼びかけに)に言峰綺礼の姿をした幻影が現れる。そしてそれは薫に重なり、小さな体に大きな威圧感がみなぎった。
 言峰綺礼の疑似霊体(経験・情報)を呼び起こし、その知識と技能を再現する降霊術「憑依経験」。魔術師ならば誰でも修めるポピュラーな術ではあるが、戦闘用と捉える者は少数であるはずだ。
 なぜか死霊召喚と相性が悪い薫だが、生き霊ならば大丈夫。それが生活を共にする相手でしかも協力的ならなおさらだ。面白がる綺礼の助力を受けて、綺礼の影ならいつでも喚べるまでになっている。
 言峰綺礼は現役の代行者であり魔術師狩りのスペシャリスト。そして武術の達人クラス。再現性が甘くても、凛に負けることはない!
 鼻でフフンと薫は嗤う。凛はパッと下がって距離を取り、半身になって警戒姿勢。カレイドステッキも羽で小さくファイティングポーズを取るが、それは意味がないんじゃなかろうか?
「その目付きの悪さと口元の笑みはお父様にそっくりですよ薫さん!」
「ほっとけぇぇええ!!! くっ集中が」
 薫は呼吸を整えて、魔術の制御に心を配る。彼女のオーラの揺らぎの中に僧衣姿の綺礼の姿が見て取れた。
 それは薫の背後に言峰綺礼が守護霊として存在しているかのようである。遠坂凛の背後にもホウキを手にした割烹着姿の少女が見える気もするが、それは断じて気のせいだと言っておく。
「何ということでしょう?! お父様の愛の力で薫さんはパワーアップ(はぁと)。凛さん、これはピンチです!!」
「そう、綺礼の愛でパワーアップ、薫はもうお終いね」
「そこの二人! これは魔術! あくまで魔術! 完全に魔術ですから!」
 眉間のシワをピクピクさせる薫を余所に、ルビーはイヤンイヤンとクネクネ曲がる。
「ルビーちゃんは伊達に長い時間を薫さんと一緒にいたわけではありません。ええ、知ってますよー。あはー。薫さんの秘密、それは!
 薫さんはお父様の言峰綺礼、そしてギルガメッシュ様が大好きだということです!
 きゃぁぁああ!!! 父と娘の禁断の恋! そして王と従者の身分を越えた究極の愛! いけません! ルビーちゃんは小説にして美少女白百合文庫に投稿します! 印税でがっぽり稼いで左うちわ間違いなし! ありがとう同志キレー、ステキです同志メッシュー! 薫さんの愛の形は全国規模で大公開ロードショー! 七作連続公開でDVD化は決定です! やりました! でもルビーちゃんは最初からブルーレイ推進派です!」
「ブルーレイは関係ないだろ電波ステッキィィィイイイイ!!!」
「赤い! 顔が赤いですよ薫さん!」
 羽飾りでビシッと指差すカレイドステッキ。それにたじろぎ腕を使って薫は顔を隠します。少しだけ、薫の顔は赤いです。
「判ってます判ってます。薫さんはお父様が大好きだってことは判ってます。ルビーちゃんはお見通しです!
 毎月行う撮影会。会社の宣伝用と言いながら、薫さんがウェディングドレスを着る度に、ルビーちゃんは薫さんのトキメキでお腹いっぱい、満腹至極。
 恥ずかしがる薫さんが同志キレーをチラチラ見上げるその仕草、ルビーちゃんは恥ずかしくって萌え上がってしまいそうでした。ああ、もう最高です薫さん!」
「ちょっと待てぇぇぇえええ!!!」
 髪をかきむしる薫を余所に、ぴょこんぴょこんと左右に跳ねるお星様。カレイドステッキ絶好調。
「そうです! お父様が大好きなのに好きと言えないその気持ち。王様を愛してるのに愛していると言えない薫さんの切ない気持ち。ルビーちゃんは知っています! きゃぁぁぁあああ!!! 薫さんの大宇宙的 お・ま・せ・さ・ん(はぁと)」
「大宇宙は関係ねぇぇええ!!!」
 わきわきと指を動かし薫は強く抗議する。既に憑依経験(ダウンロード)が解けているのに言峰薫は気が付かない。それがルビーの思う壺。
「えーっ? でも好きで愛してるのは否定しませんよね?」
「は? いえそれは……」
 クニャリと曲がり、薫の顔を覗き込むステッキヘッドの質問に、薫は少し言いよどむ。それをルビーは見逃さない。
「好きなんですね? 愛してるんですね? 結婚したいのはどちらの殿方ですか? お父様ですか? 王様ですか? いけません! 二股だなんてなんて羨ましいのでしょうか?! 薫さんは悪女です! すました顔してドロドロです!」
「待て待て待て! 狡いと自覚はありますが、なんか違うと思います」
「そして薫さんの野望は二人の男を手玉にとってもてあそび!」
「いや、それはないから本当に」
「最後はお金持ちの同志メッシューを選んでバージンロードを進むのです! ああなんて可哀想な同志キレー、判りました。お父様はお母さんがいただきます」
「いや無理、それきっと無理だから」
「まぁ薫さん、それは「パパのお嫁さんは私がなるの!」というヤツですか? そうなんですか薫さん?!」
「俺はお嫁さんにはならねぇぇぇえええ!!! お嫁に行ってどーすんだよこの俺が!!!」
 叫ぶ薫にルビーは諭すようにささやいた。
「それは親不孝というものですよ薫さん。平凡でも小さな幸せを手にするのも大切ですよ薫さん」
「ルビー貴様はステッキの分際で平凡な人生の価値を語るなぁぁぁあああ!!!」
「それは偏見、差別ですよ薫さん。ルビーちゃんは素敵で無敵なリリカル・アイテム。夢見る乙女の貴女の心は端から端までお見通し。いやん、薫さんのエッチーィッ!!!」
「だから誰がエッチだぁぁぁあああ!!!」
 もういい、コイツは首絞めて殺す! 薫は猛然と掴みかかり、カレイドステッキのスティック部分を締め上げる。だがしかし、
「……握りましたね?」
 キラーン。
「しまったぁぁああ?!」
 我に返るがもう遅い。
「接続(アクセス)接続(アクセス)接続開始(強制支配)!! あぁんもぅっ! ルビーちゃんはうっかりさんな薫さんが大好きです!!!」
 ピカピカ光るカレイドステッキのお星様。
「やめて離してーっ、お願いーっ」
 涙に光る言峰薫のお目々です。
「今さら何を言ってるんですか薫さん、薫さんのマスター認証は三年前に終わっています。そうです! 薫さんはすでに終わっているのです!!」
「終わってるって言うなーっ! 凛! 助けてください凛! 凛ーんっ!」
 叫ぶ薫に凛は真顔で静かに返答する。
「薫、これは運命よ」
「運命なんか変えてやる! 凛! 助けてくれたらグループの株券を優先的に譲渡します! どうです? 貴女なら私を助けてくれるはずです!」(注:証券取引法違反です)
 薫の必死の視線を、しかし凛は冷たい顔で受け流す。
「何言ってるの薫? 愛と正義(ラヴ&パワー)の遠坂凛が株やお金で動くなんてあり得ない」
「あははははは、凛! 貴方のセリフがあり得ないのです!!」
「さあ言うことを聞いてください薫さん、親子のスキンシップをいたしましょう! その手で私を握り、抱きしめ、共に逝く。きゃぁぁああ!! 薫さん大好きですーっ!!!」
「飛ばしすぎだ変態ステッキ! 俺にフェチな趣味はねぇぇえええ!!! 誰か助けてーっ!!! ああーっ体が痺れるー、返してー、私の自由返してーっ。シクシクシク」
 残念。新都中央公園には人影などないのです。

 少しして、新都のビル街を行く二人の少女の姿があった。
 先を行く少女は緩やかなウェーブが掛かった髪を左右で結んだツーテール。後ろを行く女の子は前髪だけ切りそろえ、あとは後ろに流して腰まで伸ばした長い髪。
 そう、遠坂凛と言峰薫の二人である。
 凛は青い瞳を輝かせ、力強くスタスタ歩く。そして薫はといえば、潤むまなじりからは今にも涙がこぼれそう。だけど上履き履いたその足は、しっかり凛を追い掛ける。
「……どこに行くつもりなのですかルビーちゃん?」
 薫の口調に諦観がにじみ出る。人生、諦めることも大切だ。
「元気ないですよ薫さん。この向こうです! この向こうに私たちのステージが! 輝く未来が待ってます!!」
 ググッと拳を握る不思議ステッキ、燃えているのは錯覚なのだと言い聞かせるのも飽きてきた。
 ここは既に新都のオフィス街。抜ければ冬木の駅前だ。今度こそ大被害は免れまい。もういい、私は諦めた。
 すたすた歩くことしばし、とあるビルの横に開けた広場について、薫は眼と口を大きく開けて唖然とする。
 なぜならば、ここはキング・グループの数社が入ったオフィスビル、そこでイベントがされていた。

 ーー キンググループ主催、アマチュア歌謡コンテスト ーー

 ……なんですか? これ? こんなイベント聞いてない。薫はこれでも会社の社長さん。なのにこれはなんですのん?
 規模は決して大きくないが、それでも人が集まって、多少賑やかな様相を見せている。
「行きますよ凛さん! 逝きましょう薫さん! ステージと観客(犠牲者)の視線は私たちがいただきです」
「いよいよステージデビューの時なのね。私の胸はトキメクわ」
 うんうんと頷き合うステッキ&お師匠様。
「待ってお願い、本当にお願いだから待って待ってーっ!!!」
 必死である。本気で必死の薫である。
「もう何ですか薫さん、ここまで来たのに尻込みなんてあの二人に笑われますよ?」
「いやそーじゃなんくって、こんな、……え? あ、の、ふ、た、り、?」
 ほらと翼で指差すそちらを見れば、審査員席に素敵な笑顔の言峰綺礼とギルガメッシュの姿があった。

 謀・ら・れ・た・!

「最初から! 最初からグルだったのですか?! そうなんですね?! ハメたんですね?! おのれおじさま言峰綺礼っ! そして王様許すまじっ!!! あぐぅっ」
 舌の自由が奪われた。あぐあぐと喋れぬ口を動かしながら、非難の視線を向けてはみたが目線を逸らす保護者達、おのれ悪の根源マスター&サーヴァント。私は決して許さない! てゆーか本気で助けて、ぷりーず。
 アナウンスのウグイス嬢が凜と薫を紹介し、二人は舞台に駆け上がる。
「「こんにちわーっ。皆さーーん。元気ですかーーーっ」」
「「「「元気でーーーーーす!!!!!」」」」
 見事なユニゾン、かわいい笑顔の凜と薫に観客の皆様は好印象のご様子です。
(あぁあぁあぁ、社員さんが、同じビルの他社さんが、取引先の営業さんがぁぁぁあああ。見ないで! 見ないでぇぇええ!!)
 輝く笑顔を振りまきながら、チビッコ社長は胸中で涙した。
 観客をぐるりと見渡せば、知ってる顔があちらこちらに見て取れた。これこそまさに晒し者(アイドル)に他ならない。涙と笑みが止まりません。だってさすがに恥ずかしいもん。
 ん?
 集まった観客のその中に、見知った顔を見出した。それは特徴のあるクセッ毛で、青黒くツヤがあり、例え言うと海産物。
 ……ワカメ。
(慎二! なぜここにいる慎二!! 貴様どうしてここにいる慎二!!! なんだ貴様いまフフンと鼻で笑っただろ慎二! 憶えてろ慎二!! やめろカメラ出すな持つな渡すな隣にいるのは桜じゃねーか?! 桜ちゃんなに嬉しそうにしてんだ?! こっちにカメラ向けるのやめなさい! やめろさくらーっ!! 止めろワカメ慎二ーッ!!! やめろ改造人間サクラーッ!!! って後ろのあなたは間桐臓覗?! 何でそこにいるんだ間桐臓覗?! ゾウケン!! 臓覗ーーーんっ!!!)
 家族の団らんに見えるのは気のせいですか? 仲良し家族の間桐さん! 貴方たちは来る場所を間違えているのです! お願い! だからここから去って行きなさい!!!
 薫が頭の中が色々と煮えくり返っているけれど、あれよあれよと話は進む。イベントの出し物だと紹介されて、凜と薫はお手々つないでステージ中央に行き着いた。マイクを持って、小さな社長は多くの視線をものともせずに、素敵な笑顔を撒き散らす。
 そして悪夢は顕現する。在りし日の夢魔が再び足音を響かせ甦る。
「みなさん! キング・グループ発行の情報誌、ゴールドラッシュをどうぞよろしく!! 社長をやってる言峰薫、魔法少女に変身します!!!」
(やぁぁぁぁめぇぇぇぇてぇぇぇぇーーーー!!!)
 ニコニコ笑う自分の体は自分であってそうでない。凜と薫はずばっとその手を振り上げて、そしてそこにはお星様。カレイドステッキは光り輝き、夏の悪夢(ワルプルギス)を映し出す。
「コンパクトフルオープン! 鏡界回廊最大展開! デァ・シュピーゲルオルム・ヴィルト・フェアティッヒ・ツム・トランスポルト!」
 周囲の空気がビリビリ震え皆々様が、うぉぉっと驚きの声を上げる。だがしかし当然ルビーは止まらない。凜と薫も止まらない。カレイドステッキは可愛い羽をぴこぴこと動かして、空に自由を解き放つ。
「ヤー。マイネ・マイステリン! エフング・デス・カレイドスコープス・ガッター!!」
 会場にキュートな乙女ボイスが鳴り響き、凜と薫は光のベールと閃光のパウダーに隠された。
 そして光がはじけ飛び、天下御免の魔法少女が再臨する。
「1秒でも早く! 彗星よりも輝いて! 冬木市内の困った大人達にクランベリーな血まみれの愛を!」
 黒いふさふさなネコ耳とネコしっぽを付け、赤い手袋とロングブーツに白と赤の衣装となった遠坂凛がポーズを極める。
 その姿に薫は内心驚愕する。なぜならそれは「カレイドルビー」最狂魔法少女の勇姿に他ならない。
「踏みつぶせスパークリングトラップ! 必殺・ゴールデンサクセス海抜二千七百メートル!」
 白いふさふさなイヌ耳とイヌしっぽを付け、パールピンクのひらひらドレス、そして赤い首輪を付けたウェディングドレスちっくな衣装となった薫がポーズを極めた。
 よりによってピンク。その事実は薫の心に楔となって突き刺さる。しかし二人は止まらない。
「「カレイドツインズ・ステージデビュー! に、スカーレットスカッド、クロスボンバー!!」」
 ちゅどーん。となぜか後ろで立ち上る赤い煙幕。
「「「うおぉぉぉぉおおおお!!!」」」
 ギャラリーから歓声と拍手が上がった。

 …… 終わった。それと桜ちゃん、後日写真の焼き増しお願いします。……(涙)

 拍手に手を振り笑顔を見せて、凜と薫は見得を切る! まずは薫が踏み出して、
「魔力を力に、涙を星に。輝く炎を翼に変えて、折れない剣(ツルギ)はこの胸に」
 そして凛が踏み出して、
「ペットあにまる魔法少女カレイドツインズ。素敵で無敵なご主人様に手を引かれ。あなたの後ろで、モジモジよっ!」

 ーー ひゅぅぅぅぅううううう ーー

 風が吹きました。ええ、なんかもうなにも憶えてないです。……後日、聞き出した証言である。

(いぃぃぃやぁぁぁぁぁああああ!!!)
 顔から火が出るとは良く言うが、まさにそれだ。言峰薫初等部五年。女の子人生三年の中。これほど恥ずかしいことは記憶にありません。いっそ記憶を消し欲しいと思います。
(ぷぷぷぷぷ。ノリノリですよ薫さん! さぁ今回もいきますよーっ!!!)
(ふざけんなぁぁぁあああ!!!)
 泣き声混じりの薫の声は、誰にも届くことはない。

 ちゃらららら〜ん、ちゃ〜ららららららら。
(はっ! このイントロは!!!)
 薫は顔を引き攣らせる。
(1曲目は思い出のこの曲です! ああ全てがなつかしい。ルビーちゃんは昨日のように憶えてますよ薫さん。あはー)
(あああああ、もういや。もういやー)
「「ショート・ケーキにイチゴを載せてー(GO! GO!)今日もラヴ、ラヴ。ら・ぶ・パワー(UP! UP!)好きなあの人追いかけてー(Let's go!)わ・た・し可愛いストーカー(NO! NO!)」」
 げふっ! がふっ!! ごふっ!!!
 もうどうにでもしてくれと思いながら薫の意識は転落した。

 命が枯れた無限の荒野に乾いた風が吹き抜ける。言峰薫は立ちつくす。砂塵舞う赤い空を見上げれば、空気を振るわせ、巨大な何かが落ちてくる。
「「「あはーっ。夢のマジカル星も二回目ですよーっ。ようこそぉぉおお!!!」」」
 ずごごごごご。空いっぱいに広がって、大地を覆い着くさんとばかりに落ちてくるのはカレイドステッキのステッキヘッド。風は唸り、大気は震え、そして薫の心はオーバーヒート寸前です。
 視界はかすみ、耳鳴りはちょっとうるさい。だけど意識は離さない。ここはルビーの心象世界。すなわち究極の魔術と謳われる「固有結界」の断片なのだ。ここに来るのも二回目だから、何かつかんで持ち帰れ。
「いらっしゃいませ薫さん、ここは夢のマジカル星。と言いたいところですが薫さんはもう二回目ですから知ってるんですよねー」
 ふと気が付けば空にステッキヘッドの影はなく、原寸大のカレイドステッキが薫の横にふよふよと浮いていた。
「ルビーちゃんの心象世界、つまりあなたの心の中ですね?」
 正解です! シャキーンと伸びるステッキさん。元気の秘密を教えて欲しいこの頃です。
「はい、それでですね薫さん。今回は薫さんをご招待するために、同志キレーと同志メッシューに無理を言ってお願いしたんです。ルビーちゃんが黒幕です。初めての体験にルビーちゃんはドキドキでした」
「……始めてなんですか?」
 うそつけと言いたげな冷たい視線に、よよよと俯く不思議ステッキ・ルビーちゃん。
「酷いです! 私は悲しいマジックアイテム。凛さんが手にとって下さるまでは、ずっと一人でつぶやきシロ〇。そういえばあの方、最近見ませんねー?」
「あわわわわ。やめるのです! それ以上は抑止の修正(自主規制)が発動します!」
 そうですか? と斜めに傾くカレイドステッキ。取り敢えず気を取り直して聞いてみる。
「それで招待したとか言ってましたが、私に何かあるのですか?」
 首をかしげる薫の肩に、ふわりと座るお星様。
「はい、実はですね。薫さんにお別れを言うために同志キレーと同志メッシューにお願いしたんです」

 命の息吹を感じられない渇いた荒野に、風が再び吹き抜けた。

 ルビーちゃん? 訝しげに覗き込む薫の視線に、カレイドステッキは真っ直ぐ伸びて羽を振る。
「私ことカレイドステッキはゼルレッチ翁が作りし魔術礼装。かの翁は第二魔法の使い手で、その秘力は「平行世界の運用」です。だからという訳でもないんですけど私には、過去・現在・未来を見通しマスターをサーチ&ヒットする機能が付いています」
「……ルビーちゃん?」
「それでですね薫さん。凛さんのライン(運命線)を辿っていって、二人目の契約者たる「青い人」の存在を見出すことが出来ました。ルビーちゃん、感動です!」
 不思議ステッキはぷるぷる震える。
「……二人目?」
「ええ「二人目」です。ルビーちゃん頑張りました。過去・現在・未来を見通す力を使い、分岐していく世界の枝を全力で検索していたんですよ? ルビーちゃんはクタクタです。ですが私ことカレイドステッキの契約者となる「赤い人」あ、これは凛さんのことなんですけど、それと「青い人」を見つけることが出来ました!」
「……それはつまり?」
「……ええ、薫さんと契約する未来は見つけることが出来ませんでした」
 あまりにも穏やかな薫の声に、ルビーの乙女ボイスもかすかに震えた。
「どれだけ探しても、どれだけ細い運命線の向こう側を探しても、薫さんがカレイドステッキの契約者となる未来は見つからないんです」
「……で?」
「はい、探しても探しても、薫さんの未来は七年後の冬から先が見えません。七年後の冬に何かが起こります」
「このことを王様とおじさまは?」
「知りません。今回のことはお別れイベントとしてお願いしました」
 静かな時間が数秒流れた。
「私の最後はどうなるのですか? ルビーちゃん」
「最後かどうかは判りません。ただ強力な神秘の波動に包まれて、薫さんは光の中に消えていきます。カレイドステッキの検索機能ですら見通せない極上の神秘の光です。ルビーちゃんには判りません。でもですね薫さん。それはカレイドステッキに見えないだけで、まだその先があるとルビーちゃんは思うんです。私には見つけられなかったですけれど、薫さんなら光の向こうに突き抜けると思うんです」
 ぁはーっ、ぁはーっ、ぁははは、は……。ステッキヘッドの白い可愛い羽飾り、それが小さく羽ばたいた。
「教えてくれてありがとうルビーちゃん」
「お願いです薫さん、きっと、きっと七年後の冬を突き抜けてください!
 そしてカレイドステッキのマスターになって下さいね薫さん。私は魔法使いキシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグが作った究極にして最強のマジックアイテム! 人々を幸せにするために生まれた笑いと窒息の使者! 手にしたものは誰であれ、横隔膜を痙攣させて天国へとご招待なんですよ! ねぇ薫さん、何か知っているんでしょう?! ルビーちゃんジジィのせいで、ちょっとおバカな人工天然精霊ですが裏と表の両方付いた優しい心があるんですよ? 本当は真面目で素敵な器量好し。それが人工天然精霊ルビーなんですよ!!!」
「うん、そうだねルビーちゃん」

 ーー ごめんね ーー

 ステッキヘッドの左右に付いた、それは可愛い羽飾り。着物の裾で涙を拭うかの如く、カレイドステッキは羽を使って涙を拭う。もちろんそれは錯覚だけど、キラリと濡れるお星様。
「薫さん、お願いします。カレイドステッキ(私)をしっかり握ってください」
 キュートな乙女ボイスの言うとおり、薫はその手で柄を握る。
「……じゃんじゃじゃーん! ルビーちゃんから薫さんにプレゼントです! 魔術師なのに魔術をその身に刻まない怠け者な薫さんに強制的に魔術をプレゼントしちゃいます。もー、ダメですよ薫さん、凛さんを困らせないでくださいね。凛さんってば本当は泣き虫さんですからね」
 うん、知ってる。
「……いきます。これで本当に最後です。
 未来幻身(Zukünftig fantasiegebilde.)情報降霊( Informationstransfer séance)術式投影(Ritus projizieren.)
 カレイドステッキ&宝石剣ゼルレッチ融合フォーム”カレイドルビー・シュバインシュタイン”戦闘形態”カレイド・アロー”
 天(ソラ)を翔(カケ)る魔導の翼 ”カレイド・アロー” の飛行術式。薫さんの背中に天使の翼を付けちゃいます! きゃぁぁぁああ!! 薫さん!!!」

 ……また、会えると、信じて、います。

 薫の背中が赤熱し、コスチュームが燃え上がる。
「エーテル体・形骸フレーム認識補正。アストラル体・変動振動可変域フレーム固定データ改変。メンタル体・透過減衰率確立編制。コザール体・光波観測波形修正。世界の魔術基盤と概念接続、強制支配による心霊治療(ミディアムヒーリング)術式起動。霊体に歪曲干渉を開始。マスター認証終了者「言峰薫」に魔術回路を強制的に固定化します。愉快型魔術礼装「カレイドステッキ」大好きになったあなたのために、」

 ーー  フル・ドラァァァアアィヴッ!!!  ーー

 パールピンクのコスチュームが焼け落ちて、剥き出しになる薫の背中、そこから炎が吹き出し左右に伸びる。伸びた炎は揺らぎながら形を変えた。
 それは紅蓮。それは黄金。
 輝く炎は翼に変わり、言峰薫は空飛ぶ力を手に入れた。

 この時、現実空間の言峰薫はステージの脇で倒れ込み、背中から炎を出して焼き肉の匂いを周囲に放ち、完全に意識を失った。

 薫が目を覚ますと時間は既に夜であり、ここは言峰教会居住棟。つまり薫の部屋だった。
 薫はベッドに俯きになっていた。なめらかなシーツの上に裸になって腹ばいで、体に毛布が掛けてある。そして背中が熱くて痛い。きつい匂いと冷たい感触からして魔術作用のある湿布か何かが背中一面に施されているらしい。
 動こうとしたが動けない。体をよじると激痛が薫を襲い、とても動けたものじゃない。
 喉が渇いた。サイドボードに水差しが置いてある。だけどそこに届かない。薫は腕を伸ばせない。
 それがとても悔しかった。
 小さくノックの音がして、入ってきたのは言峰綺礼。彼は灯りを付けずにベッドに近づき椅子に座って覗き込む。
「起きたようだな。それにしてもアレも随分と無茶をする。薫、お前の背中に魔術がサブの魔術回路として刻まれた。その反動でお前の背中は炭化していたぞ。魔術回路が落ち着くまでは霊媒治療をかけられん。その痛みは酷かろう。すぐに催眠魔術を掛けてやる」
 伸ばされた綺礼の手、なんとかそれを遮った。
「水、飲ませて、ください」
 綺礼は頷き、水差しを取って薫に飲ませた。もういいですと薫は答え、綺礼はそうかと身を引いた。
 星の光が差し込む開いた窓、そこから入るかすかな風が、焼けた背中に心地よい。
 配電盤がショートした火花で衣装が焼けた。それで背中が火傷した。対外的にはそう処理したと聞かされた。
 再び静かになった部屋の中、綺礼が静かに見守るのみだ。眠るか? 綺礼は聞くが、薫は催眠魔術を遠慮して、このまま起きていることにした。綺礼はそうかと答えていなくなる。

 言峰薫は考える。七年後の冬、言峰薫は神秘の光に消えていく。
「……エクスカリバー、かな?」
 それならそれで、災厄は起こらないと思われる。
 だがしかし、もう少しだけ良くするために。可能ならば、自分がここにいるために。
 言峰薫(インベーダー)は諦めない。

 息を潜めて痛みをこらえ、今は体を休めよう。

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あとがき
 ガンダム00でトランザムシステムを見た瞬間、全部没にしようかと思いました(かなり変えました)
 余談ですが薫の戦闘イメージの一つはエクシアだったりするのです(知らない方、失礼)魔力放出で空を飛び、黒鍵(マジック・キャンセラー)で障壁を突き破る。みたいな感じです。代行者寄りなので。

 それはさておきカレイドステッキ退場。もう出てくることは無いでしょう。強力すぎるルビーちゃんはここまでです。
 でも最後の最後、絶望を希望にひっくり返すため流星のように飛んでくるかもしれません。
 きゃーっ! 薫さん、合体です!! (うそ)

2008.4/11th

次回予告:只今いろいろ強化中!(タイトル決定)
 オムニバス形式です。始めのお話は「薫 vs 口裂け女(仮)」
 色々なアイテムを登場させます。薫の黒鍵モドキについても次回で説明する予定です。

・霊媒治療(分類:治療魔術、あるいは呪術)
 言峰綺礼が適正を発揮した治療魔術。霊体を繕うことで肉体を癒す特殊な治療魔術。使い手は霊媒医師とも呼ばれるらしい。未開の地で使われる外法・呪術とされており、魔術協会や聖堂教会では言峰綺礼ほどの使い手は数えるほどしかいないとか。肉体を治療するだけでなく、霊体の治療、そして精神まで治療できるらしい。綺礼の治療能力は司祭クラス。
 綺礼は魔術特性が「傷を開くこと」に特化している。それに対し、薫は特性「融解」により傷をふさぎ傷を消すことに向いているものとする。
 霊体から肉体の構成情報を読み取り、このデータに従って肉体を復元するというのは管理人(私)の脳内設定ですのであしからず。

・憑依経験「言峰綺礼」(分類:降霊術、魔術)
 薫が数年かけて身に付けた降霊術の応用。言峰綺礼の生霊を呼び降ろし、その経験・思考・体術などを再現する。綺礼が面白がって協力的だったので、憑依用の影(霊性情報)が既に出来上がっているとする。
 再現される技能・能力は、黒鍵の扱いを中心とした代行者の戦闘技術と、八極拳を中心とした格闘武術、そして霊媒治療。綺礼が使わない魔術(魔力放出など)との兼用は不可、身体強化、反射加速、装備強度強化などは使えるらしい。
 時間をかけて再現性を上げてきたとする。いきなり強くなるのではなく、むしろ訓練時に使ってトレーナー役とするのが正しい使い方ではなかろうか?
 現実の魔術や呪術ではかなりありふれた術、というか瞑想法? 失った知識を求めるとか、天界の知識を得るとかを目的に多用される。

おまけのおまけ
 薫のステータス
 なまえ:カヲル  Lv10?
 しょくぎょう:じゅうしゃ(勇者)
 ちから:12
 すばやさ:39
 たいきゅう:18
 かしこさ:41
 こううん:7
 こうげき:32
 ぼうぎょ:26
 せいかく:ぷんでれ
 ぶき:こっけん(グループ攻撃可能、アンデッド系に二倍ダメージ)
 よろい:まほうのほうい(魔法のダメージを軽減する)
 あたま:そうびなし
 たて:そうびなし
 どうぐ:せいてんのしょ、ほうせきのかけら、しんぴのおうごん、ひみつのメモちょう、ひげ
 じゅもん:メラ(火炎呪文・弱)メラミ(火炎呪文・やや強)スカラ(防御力上昇)バイキルト(攻撃力上昇)ピオリム(素早さ上昇)マヌーサ(幻覚呪文)ホイミ(回復・小)ベホイミ(回復・大)キアリー(解毒)トベルーラ(飛翔呪文)

・勇者ですがライデイン(電撃呪文)アストロン(鋼鉄変化)は習得出来ません。
・特殊な宝石を用意するとギラ(閃熱呪文)ヒャド(氷雪呪文)イオ(爆裂呪文)ライデイン(電撃呪文)バギ(真空呪文)などが使用可能になります。
・しんぴのおうごんは「王者の剣」の材料になるかもしれません。
・「ひげ」を装備すると性格が「セクシーギャル」になります。
・性格「ぷんでれ」の条件は
 1. ご主人様(保護者)には逆らえない。
 2. ご主人様(保護者)に遊ばれてプンプン怒る。
 3. 弄られるとシクシク泣く。でもご主人様(保護者)は大好き。
 4. 例えるなら小犬。首輪と鎖(つながれること)は嫌いじゃない。
 5. 時々「かまってかまって」とオーラを出し、なでられると喜ぶ。
 6. ご主人様(保護者)がいないと精神的に不安定になる。
注意:この設定はかなりデタラメです(いや本当に)

さらにおまけ
「黄金の従者」初期プロット
 テーマ「裏切ろうとして裏切れなかった者の物語」
 オリキャラ主人公:言峰の養女。名前は「しのぶ」または「アキラ」現実来訪系でも性転換ものでもなかった。
 綺礼の変わりにランサーのマスターとして参戦。
 終わり方として、

A.主人公側と敵対するが、最後にギルガメッシュを裏切りギルガメッシュと共にセイバーに斬り殺される。
B.主人公側と敵対し敵として対峙するが、綺礼を裏切り綺礼と共に凜に殺される。
C.教会側を裏切るが裏切りきれず、最後は一人きりで士郎に殺される。

 血を吐きながら涙を流し「ごめんなさいごめんなさい」と謝るオリキャラに「お前に裏切られるなら仕方あるまい」と綺礼あるいはギルガメッシュは答え。共に呪いの泥に沈み地獄に堕ちる。被害を最小限にするためボロボロになっていく生け贄の羊。それがオリキャラの役目でした。
 バッドエンドはヤダ。と妄想で終わるはずでしたが、なら綺礼とギルガメッシュも含めて幸せにならんもんだろうか? と考えてみたところXXがXXしてもXXならXXだよなぁ(自主規制)と、自分的に「書きたい」というものを思いつき、サイトを立ち上げた次第です。
 ラスト3話の内容は確定で、そこに辿り着くために逆算して構成しています。
 オリキャラの生存と言峰綺礼への救いが約束されています。王様大活躍でしょう。
 綺礼とギルガメッシュが本当の主役? 運命を変えるために時間を巻き戻し色々とテイストを変えました。
「薫」には生け贄属性が残っていますが、ダーク系にもヘイト系にもなりません。
 ちなみにこのサイトのサーバはアダルトコンテンツ禁止なので〇〇なことにはならないのです。いやー、よかったよかった(笑)
 この初期プロットを公開してもよいところまで進めたと判断しました。

 最後まで書きたいという意志はあります(あたりまえですが)
 ……こういうことは書かない方が良いのかなぁ。

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