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 Fate/黄金の従者#10只今、いろいろ強化中!

 冬木市は、その名のわりに冷え込むことが珍しい。
 しかし暦の上では冬となった十二月初旬のその夜は、弱くはあるが北風が吹き込んで、帰宅を急ぐ人達を足早にさせていた。
 冬木市新都のビジネス街は、夜もふけて人影もまばらとなっている。動くのは風に揺られる街路樹のみで、灯りは枝を照らして不気味な影を地面に映す。
 そこに女が一人、ゆれている。
 少しだけ背が高く、髪は長く、白い顔の口元をマスクで隠す。外套は着ておらず、くすんだ白い上着とスカートを身につけて、足はパンプスを履いている。
 ゆれている。ゆれている。
 女はゆらゆらゆれていて、誰かを捜すように周囲を見るが、誰も視線を合わせない。
 女は想う。この身は人に求められてここにある。なのに誰も自分を見てくれない。私を見て、この目を見て、話を聞いて、そして■肉■■喰■死■ーーーっ。
 マスクに隠れた口元の、上に輝く両のまなこはギラギラと異様に光り、話し相手(獲物)を物色する。

 ーー お話しましょう。ああ、誰か私の問いかけを聞いてちょうだい。そうすれば……。■肉■■喰■死■ ーー

 人が少ない、人がいない、誰も話をしてくれない。家に帰るサラリーマンは誰も自分を見てくれない。ああ、寂しいわ。寂しいわ。そして何だか悔しいわ。それから何故かお腹が空くの。あれれ? お腹が空くのは良かったかしら?
 人影が消えていくオフィス街。そこから女は歩き出す。歩いた先のその場所には淀んだ空気が臭い出し、悪意が溜まり、恨みが渦巻き、妄念が吹き溜まる。
 ぽっかりと開けた公園にマスクの女は辿り着く。その場所は彼女の生まれた揺りかごだ。
 そこは冬木市新都中央公園。
 かつて「この世、全ての悪(アンリ・マユ)」という極大の呪いが泥となってぶち撒かれ、数百人の住人が呪い殺され狂い死にした場所だった。
 女は公園に足を進めた。マスクに隠れた彼女の顔が、歪んで嗤う。冷えた空気と耳をくすぐる怨嗟の声が、彼女の胸には心地よい。
 だがしかし、愉悦を示した女の眼。それが怒りに釣り上がる。呻き声さえ上げながら見やるその先に、祈りを捧げる一人の少女が跪く。
 公園の片隅には慰霊碑が建っていた。そこに教会の尼僧服を着た少女が身をかがめ、両手を組んで目を閉じて、静かに祈りを捧げている。
 それが女には気に入らない。
 少女は祈り、祈りに応えて慰霊碑は仄かに光を放つ。そして瘴気が消えていく。渦巻く怨みが薄れて消える。それがどうにも気に入らない。
 どうしてキレイにしてしまう? 汚れているのは悪いこと?
 穢れていると心が安らぐ。女は汚い心で汚く顔を歪めて嗤う。

 ーー だからお前も、■汚■穢■腐■ ーー

 女は少女に近づき背後にまわり、爪を伸ばしてヒヒヒと嗤う。振り上げた腕にめきめきと力がこもり、まさに振り降ろさんとしたその時に、祈る少女は目を開き、凛とした声で言い放った。
「雑念から生まれた妄念の分際で、呪詛を吐いて生者を害するその在り方、断罪に値します。我が祭壇に跪き、摂理に従い消えなさい」
 振り下ろされた狂爪をかわして背後に駆け抜け、少女、すなわち言峰薫は剣で女の胴を貫いた。

 *** 1 都市伝説(クロウリング・レジェンド)***

 言峰薫はふむと頷く。その視線の先ではレイピアに似た細身剣「黒鍵」で身を突かれた女が苦悶の声を上げている。
 げぇぇええええええ。ぎゃぁぁぁごぉぉおおがぁぁああ。ひぇえええぁぁぁあああ。
 およそ人とも思えない絶叫に、しかし薫はひるまない。
 だが怪異(ホラー)は世界を歪める。
 刺された女は血を流さず、傷口から黒い煙を吹き出した。黒い煙は女の体にまとわりついて、その身を黒く穢していく。
 呪われろ。呪われろ。呪われろ。私、私、私、私はそのためそのために……。
 体をよじらせ、びくびくと肉と肩を振るわせて、人にあらざる女は薫に向かって問いかけた。
「わ・た・し・キレイィィ、ィイーー???」
 マスクが落ちて露わになったその口は、頬の肉が大きく裂けて耳までぱっくり広がった。
 人を喰う者という本性を現した怪異を前に、薫はその手に黒鍵を握り突きつけた。
「都市伝説(クロウリング・レジェンド)”口裂け女”。霊地冬木の管理者代行「言峰」の名において、その存在を浄化します」
 ぐげぇぇええええーーーっ
 人々の噂が形となって顕在化する怪奇現象「都市伝説」、色々あるが、まずこれだ。

 ーー 私、キレイ? ーー

 と尋ね、答えを聞くと口元を隠していたマスクを外し、耳まで裂けた口で人を喰う者。口裂け女。
 世界を歪める歪芯霊脈が走る霊地冬木だ。人々の妄念が姿を成して、時に街を徘徊する。噂を耳にしたのは数日前だが、おそらく数週間は実在したと思われる。
 遠坂に代わりこの地の怪異を管理するのが代行たる言峰の役目であるが、祭祀で鎮めず戦闘に持ち込んだのは薫の趣味で、経験を積むための戦闘訓練だったりする。
 むろん凛には秘密である。祭祀をしてますと言ってある。
 公園の瘴気を取り込み、一回り膨れあがった口裂け女は鮫の様な口を広げて飛び掛かる。薫はそれを、体から魔力を吹き出し、加速し避けて距離を取る。
 ハッという気合と共に黒鍵が飛び、口裂け女の足下に突き立った。
「泥葬式典。起動・顕現!」
 薫の声に応えて黒鍵は仄かに光り、瞬時に地面がドロリと溶けた。液状化した地面は口裂け女の足を沈めて動きを止める。
 それを見て言峰薫はニヤリと笑う。
 薫の使う魔術礼装「聖典紙片」は一枚の紙(マジック・スクロール)が剣へと変ずるものであり、いくつか機能を付けてある。
 剣化、炎上、摂理の鍵。以上を基本に工夫を重ね、完成させた決定版には、泥葬、伝令、障壁の術式が加わった。
 そしてこれは「泥葬式典」薫の魔術特性「融解」を写し、刺した大地を概念干渉で液状化させて敵を飲み込むフィールド系の変化魔術だ。
 本当は聖堂教会の正規品、対象を石化する「土葬式典」をコピーしたかったのだが無理だった。だから発想を逆転し、融かして埋めることにした。効果範囲はおよそ直径二メートル。まだまだ狭いが人型ならばこれで充分。弱い奴ならおぼれさせ、強い奴なら足止めさせる。
 それなりに使えると薫は思う。
 怪異はわめき。呻いて腕を振り回す。薫は両手を広げて女神の如く笑みを浮かべる。そして、
「剣群、顕現」
 衿から、袖から、スカートの中から聖典紙片を撒き散らし、二十を超える黒鍵の群を空中に生み出した。
 薫は腕を伸ばして手のひらで、口裂け女をつかむが如く虚空を握り、呪文(コマンド・ワード)を唱える。
「挽肉に・なれ!」
 グッと握った拳の動きに導かれ、全ての剣が獲物に向かって襲いかかった。
 ひゃぁぁぁあああ、ぎゃぁぁあああ。
 裂かれたような悲鳴が上がり、口裂け女は身をよじる。だが薫は顔をしかめて浮かない顔だ。
 殺し(滅ぼし)きれない。
 妄念が実像を結んだ「都市伝説」という怪奇現象、黒鍵の「摂理の鍵」を以てすれば霧散させるのは容易いはずだがまだ消えない。半端に傷付け、怨念の吸収を許したせいで力を上げてしまったようだ。見れば体が膨れている。
 そして一斉射撃も半分以上が外れて落ちた。正直、手で投げた方が威力もあるし命中率も高く、しかも連射できるのだ。
 だが薫もサーヴァント・アーチャーと共に暮らす者、刀剣の一斉射撃をしてみたい。威力と精度を工夫中だ。
「ギぃぃいい、レぇぇええ、イぃぃぎぎーっ。わ・た・し、きぃれぇいぃ?」
 どぼんどぼんと泥の中で足踏みを繰り返し、串刺しにされた口裂け女は壊れたように呪詛を吐く。
 ……気に入らない。
「キレイキレイと気安く呼ぶな、それは私の父の名だ! 戻れ!! 伝令式典!!!」
 腕を振るって帰還を願うと黒鍵は紙片に戻り、さらに白い鳩へと姿を変える。鳩は羽ばたき薫の元へ舞い戻る。
 伝令式典。教会に飛ぶ白いハトをイメージし、主に「眼」となる偵察術式。ではあるが、
 ぽっぽっぽーっ、くるっくーっ、ぽっぽっぽーっ、くるっくーっ。
 戻ってきたハトにたかられ、薫は少し幸せな気分になった!
「……、違う!」
 伸びた髪をかき乱すようにして、薫はハトを紙片に戻す。

 ーー オオオォぉおオぉォ悪お怨ぉぉォオお穢おォおォおオ怨ーーーーン ーー

 薫が和んだその隙に、怪異は公園の怨気を吸い上げ、さらにその身を大きく変じた。
 髪は長くざんばらで、その口は人の頭を軽く丸呑みに出来そうだ。目付きは既に獣のそれで、とても理性は感じられない。背丈は軽く二メートル。体は膨れて筋肉質か? そして両手の指がかぎ爪と化している。
「悪鬼と化してしまいましたか、遊びすぎましたか、ねっ!!!」
 薫の手から剣が飛び、それを悪鬼が手で弾く。その隙に距離を取り、薫は自分を抱きしめた。
「いくよ、ルビーちゃん。飛行魔術、術式 ”火の鳥” 起動・展開」
 薫の背中に刻まれた、それは七本の魔術回路。
 メインに対するサブではあるが、既に魔術が刻まれているサブ回路は大源(マナ)を吸い上げ小源(オド)へと変じ、幻想の翼を作り出す。
 それは炎、それは黄金。
 薫の背から赤く輝く翼が伸びて、広がり羽ばたき黄金の火の粉を散らす。
 愉快型魔術礼装「カレイドステッキ」に授かった飛行術式、言峰薫は空飛ぶ魔術を展開した。
「てややぁぁぁああーっ!」
 拳から三本の剣を生やして、薫は悪鬼に突撃する。
 赤き翼は羽ばたいて、少女の体を加速する。その速さは悪鬼の腕をかいくぐり、胸を剣で貫かせた。しかしそれで止まらない。顔をしかめて腕を押さえた薫の体を、羽ばたく翼は後押しする。悪鬼は踏みとどまれはせず、よって地面の上を滑るように吹き飛んだ。
 薫が剣を刺したそのままで。
「ぐぉぉおおお」
 薫は歯を食いしばり、必死に剣の柄を握る。
 この術式は推進力が強すぎる。今まで使っていた魔力放出が姿勢制御スラスターなら、この飛行術式はロケットブースターか何かだろうか?
 魔力を吹き散らす「オーラバースト」とは違い、世界の魔術基盤から概念干渉・概念加護を受けて飛翔する飛行魔術。翼のこれはその出力が一桁違う。下手をすると音速を狙えるか?
 死ねる。
 しかし使うのはメインの魔術回路が二本の薫。とても制御しきれない。空を飛ぶなど無謀に過ぎる。直線ダッシュ魔術にするのが現時点では精一杯だ。頑張るからねルビーちゃん!
「だぁぁぁあああ!!!」
 薫は地を蹴り、強引に力を空へと向ける。翼の力は上へと向かい、薫と悪鬼を持ち上げた。減速せずに空へと昇り、低いビルなど視界の下だ。そこで薫は手を離し、離れて翼を収納した。
 地上より風がうるさい上空およそ40メートル。重力に引かれて落ち始めた口裂け女と言峰薫、だが薫の体から火属性の魔力が吹きだし、魔力放出(オーラバースト)で薫は悪鬼に突き進む。
「告げる(セット)! 一番・二番・三番・四番、連続開放!! 祝福神音(カノン・ロードライト)!!!」
 バラ色の魔力に輝く四つの石が薫の手から投じられ、口裂け女に着弾した。光が空に大輪の花を咲かせ、悪鬼は無念の叫びを上げた。
 ロードライト・ガーネット。神秘、友愛、聖別の概念を持つこの石に込められた魔力が一気に開放され、直撃を受けた怪異の体躯を聖概念が焼き尽くした。

 はぁはぁはぁ。
 薫はなんとか無事に着地を果たし、地面に両手を付いて荒い呼吸を整える。
 はぁーっと、大きく息を吐いたところに拍手の音が鳴り響いた。人除けの結界に覆われた公園への侵入者に薫はしかし、一度立ってから跪く。
「ご苦労様でした。カヲル」
 にこやかな笑みを浮かべて現れたのは、薫と同じか少し年上の少年だ。金髪紅眼の容貌と立ち姿からは王気(オーラ)が放たれ、少女が跪いてもおかしな風には感じない。
「王様、どうでしたでしょうか?」
 薫の問いに、にぱっと無邪気に笑うのは小さな王様ギルガメッシュ。
「まだまだですね。カヲル、貴女の戦いには余裕が足りない。余力を感じさせつつ、それでも敵を圧倒し、常に威力と威風を示すのが王の戦いというものです」
「えーと、王様。私は王様の従者ですが、代行者のタマゴで見習い戦闘魔術師といったところだと思うのですがどうでしょう?」
 あははと笑うが頬の引き攣る薫を余所に、ギルガメッシュはふふんと笑い眼を細める。
「カヲル、貴方はボクの従者ではありますが、同時にボクと共に国(会社)を治める王(社長)でもあります。王には王として相応しい振る舞いというものがあると、ボクは教えたはずですよ?」
 なんだか凄いことを言う子ギルであるが、言われた薫は眉を寄せ、腕を組んでむむむと唸る。
「それは例えば、 Let's rock !(ハデにいくぜ)  Sweet... Baby!(最高だぜ、カワイコちゃん) Shake it up a BABY !(ケツを振りな、ネエちゃん) Ah...Hum...(あはーっ) という感じでやれということでしょうか?」
「あはははは。ぜんぜん違います。カヲル、貴女はまず翼を使いこなしてボクが自慢できる鳥になりなさい」
 笑っているが、瞳の奥が氷点下。王様は、小さな時こそ怖いと思う薫です。せめて人間扱いして欲しい。あははと笑いながらも肩を落としてしまうのです。
「それにしてもカヲル、翼はともかく武器をどうにかした方が良くはないですか?」
 すました顔で、ギルガメッシュは己の従者に問いかけた。
「王様もそう思われますか? 聖典紙片はかなり練れたのですが、どうにも強度不足ですね。「火の鳥」で突撃を仕掛けると崩壊しそうになるのです。まぁ私のは元が紙ですから強化してもアレですし、いい加減、本物の武器を作るべきでしょうか」
 うーんと唸る薫ちゃん。
 魔術礼装「聖典紙片」には満足なのだが、やはり元は紙である。色々機能を付けては見たが、武器としての強度に問題有りだ。それでも投げて使い捨てるのにはよいのだが、切り結ぶとなると心許ない。
 もっとも薫に言わせれば、サーヴァントと斬り合う時点で死亡フラグだ、しかしその発想は薫的に秘密である。何はともあれ丈夫な武器、そしてこれを極めるという武器を選ぶ時期かもしれない。

 薫は少し、考える。
 剣。それはセイバーに殺される。剣技で対抗するなど無謀に過ぎる。
 弓。近距離なら黒鍵を投げる方が融通が利く。遠距離ならライフル使って狙撃したほうが魔力を感じさせない分、有利な気がする。地平線の向こうからミサイルという手もあるだろう。距離と破壊力なら現代兵器だ。
 宝石。未だに自身と等倍の魔力しか込められない。万の魔力を込められる凛の魔弾は作れない。
 乗り物。魔術回路が二本の薫に大型礼装は厳しい。
 銃。きっと凛は怒る。それに綺礼とギルガメッシュにも怒られそうな気がする。なんとか説得するとしても主武器にするのは魔術師的にだめかもしれない。
 魔女っ子ステッキ。作ってどうする! そんなもの!!! となると……。

「槍。スピア(短槍)ジャベリン(投擲槍)ランス(突撃槍)なんかが良いかもです。どうでしょうか王様?」
 見上げて尋ねる従者・薫にギルガメッシュはニコリと笑う。
「そうですね。槍がいいんじゃないですか? カヲル、貴女は体が小さい。まだ大きくなるとは思いますが女性ですし日本人ですから成人しても小柄でしょう」
 ちなみにライダーの身長170センチというのは西洋人女性としては「普通」の域である。
 関係ないが、パリコレかなにかのモデルだったら175で小柄、180でまぁ普通。185でやや高い。だったような気がします。
 いいなライダー。薫は思う。別に美女になりたい訳ではないが、すらりと伸びた手足と高めの身長には憧れます。
 くそぅと思う従者であるが、王様は笑顔で見ないふり。
「両手で槍を使えば間合いを制し、剣を相手に力負けすることもないでしょう。それに貴女は「火の鳥」だ。空を翔(カケ)つつ黄金の槍で突撃するのは絵になりますね」
 武器が金ピカなのは王様的に当然のことらしい。取り敢えずツッコミは自粛する。
 それにしてもだ。黄金の槍と聞くとギルガメッシュの宝具を思ってしまうがどうだろう? あれも形状はランスに見えなくもない。さすがに実物を見せてもらったことはないのだが、複製を作らせてもらうわけにはいかないだろうか?
 無理だ。
 贋作(フェイク)を嫌うギルガメッシュだ。複製を作らせてくれなどと言ったら、どれほど怒り狂うか判らない。
 乖離剣・エア。
 全てが混然としていた太古の世界を切り裂き、天と地を分けたとする「法典宝具」剣という概念すら存在していなかった原始の世界を裂いたギルガメッシュの究極の一。
 一度じっくり見てみたい。薫はため息つきました。
「どうしました、カヲル?」
「いえ、何でもありません。そうですね。おじさまの使う八極拳も槍術から生まれたものですし、槍なら「魔法使いの杖」になるかもです。凛に聞いてみます」
 拳を握ってよしと意気込む薫を見やり、ギルガメッシュはふふんと笑い眼を細める。
「励みなさい、カヲル。ひょっとしたらボクに宝具をねだってくるかと思っていたんですけどね」
「あはは、それは王様怒るのではないかと」
「当然です。カヲル、貴女はまだ戦士として未熟です。ボクの宝を欲しがるのは早いと言わざるをえませんね」
「えーと、もしおねだりしてたらどうなっていたのでしょか?」
「おしおきです」
 頭を鷲づかみにされました。どっと汗かく薫です。
「欲しいんですか?」
「欲しいんですけど身の程を知っていると言うかなんというか」
 あはははは。うふふふふ。
 ギルガメッシュは薫を見下ろし乾いた声で笑います。薫は頭をつかまれて、心の中でひぃっと思いながらも頑張って笑顔を作るのでした。

 *** 2 火傷の跡(ヒート&ウェット)***

 次の日の夜、遠坂邸の地下工房には小さなベッドが設置され、真っ白なシーツの上に一糸纏わぬ姿となった言峰薫が俯せに横たわる。
 足にはタオルが掛けてはあるが、丸いお尻は丸見えだ。腰まで伸びた彼女の髪は三つ編みにして肩の向こうに転がされている。
 そして薫は腕を広げて死んだふり。
 ……ではなくて。
「凛、まだですかーっ? ちょっと寒いんですけどーっ」
 エアコンないのが地下工房。回路(カラダ)の検査をしてるので、魔力で寒さを弾けません。暖炉にたき火が燃えてるけれど、ちょっと遠くて寒いです。
「もうちょっと、もうちょっと、……」
 凛は薫の背中に手を当てて、突っつき、つまみ、なで回す。薫の肌は溶けたチーズのようになめらかなのだが、肩甲骨の辺りから尻の上までケロイド状の火傷痕が伸びていた。
 凛は何度も顔をしかめる。しかし作業を続けてサイドボードに手を伸ばす。
 ボードの上に置いてあるのはメモ帳、羽ペン、インク壺。タロットカードにウイジャ盤。水晶玉に魔法の振り子。呪刻された小粒の宝石。ダウジングロッドにホロスコープまで操作して、患者(薫)の容体を分析して記録する。
 ふぅと小さくため息付いて、魔術解析を停止した。凛はりりしい眉を寄せ、務めて真面目に解説する。
「これは魔術回路と言うより魔術刻印に近いわね。鳥・翼・天使・不死鳥・火の鳥なんかの概念が読み取れる。あと流星なんかの事象との結びつきもあるかもしれないわ。メインの魔術回路に対して下位に位置して制御下に置かれているから、確かにサブ回路と言っていいし、乱暴に使わなければ暴走もしないでしょうね。
 でも薫、あなたこれで「火」関係の概念から力を呼び込みやすくなったはずよ。前と同じ調子で「火」を喚起すると危険だから気を付けなさい」
「判りました凛。確かに火炎呪文の火力が上がっています。外界への干渉力が上がったのは嬉しいのですが、火は火ですからね。強力な攻撃魔術が欲しいとは思ってましたが究極的にはマシンガンでも使った方が、イタイ痛いです凛」
 凛は薫のお尻をつねる、お師匠様はおかんむりだ。
「薫、あんたはもっと自分が魔術師だって自覚を持ちなさい!」
 斜め上から鋭く見下ろすお師匠様の視線を受けて、弟子は神妙に頷いた。
「判りました凛。つまり銃を使うくらいならメラゾーマを撃て、そういうことですね? 痛い痛い、ジョーク! イッツ・イタリアン・ジョーク!」
 どこがイタリアンなのよと怒られて、ついでにお尻を叩かれた。服着ていいかと尋ねるのだが、それを許して貰えない。
「まだ駄目よ。次は「翼」を見せてちょうだい」
 極めて真面目な凛の言葉に、しかし薫は顔をしかめた。
「うー、これは私の切り札なので、内緒にしたかったのですが……」
 魔術は元より秘匿するもの見せぬもの。師匠といえど隠し事など当たり前。知られて困ることなど沢山あって頭が痛い。
 歯切れの悪い薫にしかし、凛はニッコリ微笑んで、お尻をなでてやさしく言った。
「お尻、割るわよ? 真っ二つに?」
「Yes , Ma'am. 術式「火の鳥」展開します」
 彼女の眼が本気(マジ)だった。
 魔術回路に火を入れて、刻まれた術式(プログラム)を走らせる。炎のような真紅の翼が背から伸び、広がり羽ばたき黄金の火花を振りまいた。
 ちなみに魔力放出と飛行魔術、どっちも「火の鳥」だと紛らわしいので、飛行魔術を「火の鳥」、魔力放出を「オーラバースト」と呼ぶこととなっていた。見た目優先の結果である。
「凄いわね。カレイドステッキから授かった「火の鳥」か。間違いなくランクA、ひょっとしたらA+の飛行魔術の術式ね、精巧かつ緻密、正直言って薫にはもったいないわ」
 そう言い凛は、眩しそうに眼を細めた。
 薫はちょっと考える。たしか魔術でランクAだと、宝具評価でランクCだったはずである。おお! 結構凄い!! だがしかし。
「凛、正直言って制御しきれないのですが」
 ちょっと情けない声を上げた弟子・薫に、師匠・凛はぷんぷん怒る。
「当たり前よ! 飛行魔術って言うのはただでさえ難しいのよ。まあ今時は交通手段使った方が、早いし安全だし安上がりだから修練する魔術師もあまりいないんだけどね。私も試したことがあるくらいで使えるとは言えないわ」
「難しいのですか?」
 薫は寝たまま首をかしげた。カレイドステッキはいつもふよふよ浮かんでいたので簡単なのかと思っていたが、世の中甘くないらしい。
 薫は憶えていないのだが、天才「蒼崎橙子」ですら飛行用魔術礼装である「箒」がなければ飛べないのだ。意識しての飛行成功率は三割程度なのだとか。とはいえ「意識しての飛行」が何の事象を意味することか……。
 難しい顔の薫に、凛の説明が続けられる。
「多分、魔術の発動自体は失敗しないわ。飛ぶこと自体は100パーセントよ。問題は制御ね、これは今の薫の手に余る。でも体に刻まれた以上は身に付いているわけだから、練習次第で使えるようになるはずよ。今時は飛べたところで魔術協会じゃ評価されないけど頑張ってみる?」
「やります」
 凛の言葉に薫は頷く。空が飛べるというのは大いなるアドバンテージ(有利点)だ。アーチャーとは相性最悪だが、それ以外なら戦術の幅が大いに広がる。
 それはともかく、せっかくなので聞いてみる。
「そういえば飛行用の魔術礼装って、ホウキの他には何がありましたっけ?」
「まず一般的なのは魔法の箒で、あとはギリシャ神話から羽付サンダル。イスラム系なら魔法の絨毯。あとはそうね魔法のパラソルか空飛ぶマントかしら?
 魔法の箒(フライ)羽付サンダル(エア・ウォーキング)魔法のパラソル(レビテーション)。飛行魔術は難易度高いけど、魔術の勉強もかねて一通り試してみる?」
 天井をピッと指さし笑顔を見せて、遠坂凛は先生モード。
「おお! やりますやります!」
「薫、あなたこうゆうのは好きよねー。さっきも言ったけど交通が発達した現代、飛行魔術の研鑽なんて心の贅肉だと思うけど?」
 あきれた顔の遠坂凛、しかし薫の瞳はキラキラしている。
「何を言いますか! 空が飛べるとはまさに魔術!!! それに贅肉は大事なものなのです。女性ホルモンは脂肪でも作られます。だからダイエットのしすぎでガリガリに痩せると脂肪で女性ホルモンが作られなくなって見た目が老けます。
 ま、それ以前に運動で汗を流し、筋肉付ける重要性から目を逸らして「痩せればキレイになる」などと思ってる性格ブスに救いはないですけどね。男でも女でも体重より体型を気にすべきですよ。美しいボディラインを作ろうと思ったら筋肉こそ重要ですから。あっはっは」
「薫、話逸れてる。それからあんたイエローカード」
 凛にお尻をつねられた。

 翼を羽ばたき動かして、魔力を通し火の粉を散らし、そんなこんなで検査は続く。
「それにしても宝石剣と合体機能を持つ魔術礼装が存在するなんて知らなかったし、正直今でも信じられない」
「うーん、どうでしょう?」
 張り詰めた口調の凛の言葉と、間延びした薫の声が地下工房に静かに通る。
「何言ってるのよ、この飛行術式ってカレイドステッキと宝石剣の融合フォーム「シュバインシュタイン」のものなんでしょう?」
「えーと、たしかそんな名前だったはずですが」
「信じるわ。これは薫じゃ十年掛けても組める術式じゃないもの。飛ぶこと自体は「魔法」じゃないけど、この術式は並の魔術を遥かに超えてる」
 そこで凛はため息ひとつ。
「猫に小判でキチガイに刃物よ」
「待ちなさい凛。一つ目はともかく二つ目は納得いきません」
「何言ってるの、あんたみたいな鉄砲玉に羽が生えたら、どこに飛んでいくか判らないじゃない」
「あー、そういう意味ですか。納得です」
「納得しない! 自覚を持って反省しなさい。反省を! 羽が生えて鳥頭になったりしないでよ?」
「あるいは幸せかも知れないですね、鳥頭。痛い痛い嘘です、反省してますお師匠様」
 人のお尻だと思って何度もつねるのやめて欲しい。ジンジンします。
「まったく、早く火傷の跡も消しなさい。貴女と綺礼の霊媒治療なら難しくないでしょう?」
「これをマスターするまで消しません。いつになるかは判りませんが、早急に使いこなして火傷跡は消して見せます」
「はぁ。まあいいわ。服着て良いわよ」
 諦観の滲む凛のため息、それにはあえて無視をする。よっと薫は体を起こし、椅子の下着に手を伸ばす。
「それにしてもカレイドステッキか、強力な魔術礼装なのは判ったけれど、弱い術者じゃ支配されて遊ばれちゃうなんてとんでもないわね。さすが大師父の礼装だわ」
 がっくりとベッドに倒れる遠坂凛。そしてじたばた暴れ出す。
「ああもうっ! 桜と慎二に笑われるなんて末代までの汚点だわ! おのれ慎二!」
「写真撮影は桜ちゃんですよ」
「桜も桜よ! あんな奴の手先になるなんて許せない! そのうちギャフンと言わせてやるわ! 判ったわね薫?!」
「いや、そこで私の名前を出すのはどーゆーことなのか説明して欲しいなーなどと思うのですがどうでしょう?」
「何言ってるの?! 貴方は生まれたときから遠坂チームよ!」
「まぁ待て、落ち着こうぜ遠坂凛。まずはミルクティーだ。応接間に行きましょう。ふにゅっ」
 ベッドの上をずるする移動し襲いかかったお師匠様に、薫のほっぺが伸ばされる。
「何を落ち着いているのこの口はっ?!」
 薫のぽっぺを伸ばす凛は涙目だった。
「べひゅに、落ちふいへる訳ひゃないれふよー」
「あんな醜態をさらすなんて考えられないわ! あぁもぅ、人の噂も七十五日って本当かしら? 薫あなたどう思う?」
「いや、ですから落ち着きましょう。冷静に対処すれば解決できないトラブルはないのです」
 頬をすりすりする薫に対し、凛は頭を抱えてのたうった。
「何よ?! 綺礼の奴に魔女っ子ライブのマスターテープを握られている私の気持ちなんて貴方には判らないわ!!!
 ああもぅ! 教会に火を付けてやろうかしら……」
「まちなさい凛、それはナチュラルに犯罪です。万が一成功したら、私とおじさまは遠坂邸に居候しますよ」
「言峰一族は冬木大橋の下で寝ればいいのよ!」
「まてやこら」
 そんなことにもなればギルガメッシュの激怒は必至、冬木市壊滅である。
「いい薫?! テープを破壊するのよ!」
「無理です、おじさまと王様におしおきされます」
「師匠より保護者をとるつもり?!」
「なら貴方が教会に乗り込んでください。成功を祈ります」
「何言ってるのよ、私は教会に行けないわ。だから失敗しても薫が一人で責任取るの。薫ももう子供じゃないんだから。お赤飯炊かれたんでしょう?」
「それを言うなぁぁあああ!!!」
 涙目の薫がブラを付けていた。
 ぶらじゃー。それは戦士の胸を守る胸部装甲。……自分にうそ付くのも限界です。涙で視界が滲みます。
 付けたくないかないんです! まだ付けなくても問題なんかないんです! なのになのに! 自分で付けないと付けようとする変態保護者がいるんです! そう、それはマスター&サーヴァント。
 おのれ変態・言峰綺礼、金ピカ暴君・許すまじ!
 ついでに凛! お前もだ!!! 貴様にブラの付け方を習うほど、俺(胸)の未来は(あっはーん)で(うっふーん)の(いやーん)じゃないんだよ! 判ったかこの大平原の小さな(自主規制)め!!!
 涙ぐみつつ歯ぎしりしながら下着を身につけ、尼僧服をかぶって頭を通す言峰薫11歳。もうすぐ初等部六年生。とうとうお赤飯を炊きました。本気で諦めようと思います。もう戻れないと思うのです。

 *** 3 呪歌の杖(ガルドル・ガンド)***

「凛、話は変わりますが相談があるのですが」
 お皿の上にカップを載せると紅茶の香りが鼻をくすぐる。所変わって応接間。二人の少女はソファーに並び座ってティータイム。
「杖で槍? あるわよ、そういうの」
 薫の問いに割とあっさり頷いたのは、さすが魔術の名門遠坂の後継者。
「ルーン神官やドルイド僧が持つ魔法の杖、呪歌の杖(ガルドル・ガンド)ってやつね」
 腕を組み、上を指さし、凛は再び説明モードだ。
「北欧神話の大神オーディンが持つグングニル(大神宣言)っていう槍があるでしょ? 当たれと命じて投ずれば、必ず命中する魔法の槍なんだけど、オーディンって神様だけど魔術師なのよ」
 魔法の槍「グングニル」は使い手の言葉(願い)を叶える魔法の杖でもあるのだとか。
 願いを叶えるという「宣言成就」の側面が後に魔法使いの杖となり、必ず当たるという「呪い」が魔の槍になって概念が分化したのだと凛は言う。
「そもそも「魔法使いの杖」の原型はいくつかあるの。古代エジプトの王(ファラオ)が持つ「支配の王錫」や、預言者モーゼの「蛇に変わった杖」もそうだと言われるわ。
 けど、いわゆる「魔法使いの杖」の直接的な原型は、古代ヨーロッパのドルイド僧やルーン神官の杖だと言われているの。どっちの杖も儀式の補助や魔術の力を高めて術者を助けるためのもので「祈願成就・宣誓成就」の力を持つ「願いを叶える魔法の杖」なの。そしてその原型、または頂点とも言えるグングニルは槍だから、願いを叶える槍は作りやすいのよ」
 因果逆転などに比べれば、祈願成就は簡単らしい。
 なぜなら「必ず当たれ」などの願いなら、手で持って当たるまでしつこく追い掛けるのと究極的には変わらない。諦めずにやり続ければいいだけの話なんだと説明された。
 言われてみればそりゃそうか。込めた魔力が続く限り、命令を実行しようと努力する。そういう小人さんが入っていると考えよう。そもそも電撃を放つ杖などよりは、追い掛け続ける槍の方が現実的と言えるだろう。
 あるいは槍の形の使い魔が、命令を実行しようと頑張るようなものだろう。
 ただしこれだと魔力が尽きると願いを叶える機能が止まってしまい、つまり力尽きてしまうから確実性は低いのだとか。
 それはともかく、
「なるほど、それなら「宣言成就」の魔術礼装を杖や槍で作るのは……」
「そう、割と在り来たりね。ホウキなんかも杖になるわよ。魔力を込めて「お掃除しなさい」なんていうのもアリね。これも「宣言成就」でしょう?」
「おお、それは魔法の箒っぽいですね」
「一応言っておくけど、人形やゴーレム使って教会の掃除をさせたりしないでよ? やるなら低級霊かそれこそ魔法の箒に手入れをさせなさい。魔術隠蔽の必要性を考えれば低級霊が良いわね、貴方、死霊降霊は苦手だけど」
「くっ。ならば生き霊でなんとかします。おじさまの生き霊を使うとか、凛のそれを使うのも良いですね。ウフフ」
 調子に乗るな。ぽかりと頭を叩かれる。
「殴ったね? おじさまにも殴られたことないのに?!」
「あんたしょっちゅう半殺しにされてるじゃない」
「いえ、始めての時は殴られる前に剣で刺されて蹴られましたから」
 目眩でも感じたのか、凛の体がぐらりと揺れた。
「……、あんたは武器の前に防具をなんとかしなさい」
「鎧はプレートメイルを発注済みです。魔術付与は自分でやりますが、聖堂教会系の魔術工芸品になる予定です。凛には悪いのですが」
「いいんじゃない? 聖堂教会の騎士団や代行者は鎧も使うんでしょ? 死徒(ヴァンパイア)を相手にするための鎧なら頑丈なのが出来るでしょ」
「そうですね、おじさまにはホーバーク(チェインメイル)とサーコート(軍衣)それにハルバード(斧槍)とロングソード(騎士長剣)といった聖堂教会の正規装備を取り寄せて頂きましたから、それも参考にします。
 対・吸血鬼、対・魔術師用なので凛には面白くないと思いますが、命が掛かってますので許してください」
 ごめんなさいと薫は頭を下げておく。凛はもちろん魔術師で、遠坂の大師父ゼルレッチは魔法使いで吸血鬼だ。
 凛はふんとそっぽを向くが、何も言いはしなかった。

「それにしても薫は杖(槍)に何を願うの?」
「そうですね「その心臓、貰い受ける」とかどうでしょう?」
 因果逆転は無理でも、狙い続け、追い掛ける槍にはなるはずだ。世界の魔術基盤との接続が細い薫では、発揮される神秘の格は低いだろう。多分、数度の軌道変更で動きは止まる。
 しかし作る価値はある。せめて動作時の魔力を強くするため宝石でもはめ込もう。
 隣の凛がため息付くが、諦める気はさらさらない。

 *** 3.5 一般常識(エデュケーション)***

 薫はくるっと振り向いた。その顔が満面の笑みを浮かべているのを見た凛は、思わずゲゲッと身を引いた。
 この子の瞳が輝くと、大抵ろくなことなどないのである。一体何を言い出すやらだ。
「そういえば凛、都市伝説(クロウリング・レジェンド)を使い魔として使役するのは可能でしょうか?」
 そんなことを言いだした。
「薫、あんた手を伸ばしすぎ」
 凛は目眩に襲われる。子供かお前は。いや、初等部五年は立派な子供、しかしその発想は男の子的ではなかろうか?
 もっと女の子らしくさせるにはどうすれば、などと非情な考えに頭を巡らす凛であったが、そんなことは知らない薫はしつこく尋ねる。
「なんとかならないですかね? こう、カプセル怪獣みたいに」
「カプセル怪獣?」
 なにそれ? と凛が首をかしげると、薫はうっと唸って仰け反った。
「むぅ、ジェネレーションギャップが。あー、そうですね。ポケモンみたいにしたいということでどうでしょう?」
「ポケモン? 何それ?」
 再び首をかしげた凛に、薫はぽかんとした顔になったがだがしかし!
「凛、貴様それでも日本人かぁぁぁぁああああ!!!」
「??? 私が怒られなくっちゃいけないの?」
 激昂した薫に胸ぐらつかまれ揺すられる。凛には訳が判らない。

「教育してやる!」
「何を?」

 *** 4 アゾット剣(オカルティック・ダガー)***

 凜と薫のティータイムはまだ続く。
 空になった凛のカップに薫が紅茶を注ぎ込み、ミルクをどうぞとポットを勧める。
 ありがとうと凛は応えて、己のカップにミルクを注ぐ。それをひとくち口にして、さてと頷き薫を見やり、彼女が今までに作った魔術礼装(ミスティック・コード)を思い出す。

・宝石(魔弾・魔力タンク):ただし薫は魔力を自身と等倍しか込められない。
・聖典紙片(マジック・スクロール):やっと仕上がった。しかし魔術礼装と言うより聖堂教会の秘蹟武器(サクラメント・ウェポン)になってしまった観がある。
・魔導書(小型魔力炉・聖典紙片封印礼装):凛からすれば微妙に過ぎる。ないよりマシだが儀式魔術(フォーマルクラフト)には必要ない。
・公園の慰霊碑(怨念浄化用祭壇礼装):あれは聖堂教会の術式をコピーしたものだとか。

 この子も頑張っているのだが、もう少し真面目に魔術師をして欲しい。だから凛は言ってみる。
「箒や杖も良いけど「アゾット剣」作ってみない? 薫、あなた鉱物の加工には向いているんだし、宝石で飾ったアゾット剣なんてステキじゃない?」
 凛が向けた視線の先で、薫が目を開け口を開け、ぽかんとした顔となっていた。たっぷり五秒はそのままで、やっと彼女は動き出す。
「あ、アゾット剣ですか?! しかし凛、あれは一人前の証とか卒業証書のようなものなのでは?」
 良いのですかと聞いてくる、薫に凛は苦笑する。
「勘違いしないで、薫、あなたはまだまだよ」
 そうですか。薫はしゅんと小さくなった。
「でもまぁ、見習い修了。小さな魔術師として、これからも頑張りましょうってことでどうかしら?」
 薫・復活! おおっと声を上げて立ち上がる。
「貴女が作るなら飾る宝石はルビーかガーネットになるのかしら? ロードライト(聖概念)アルマンディン(血・生命)イエロー・ガーネット(地)ルビー(火・支配・王権)それにサファイヤ(氷・支配・王権)までは使えるわよね?」
「全部使って万華鏡(カレイドスコープ)なんちゃって」
「出来るわけないでしょう!!! 力の混合は禁呪の領域よ! 死にたくなかったらやめなさい!!」
 うっとたじろぐ言峰薫をソファーの上で正座させ、ごめんなさいと言わせておいた。冗談だとは判っていたが、異なる魔力の掛け合わせは本当に危険なのだ。
 綺礼にもらったアゾット剣を取ってくると、ソファーの上で弟子が体を小さくしてました。一応は反省したと判断し、もういいからと戻させる。
「これがアゾット剣よ。そういえば薫あなた、一本くらいは持っているんだっけ?」
 ローテーブルに置かれたのは全長二十数センチの両刃短剣。鍔元と柄頭に宝石がはめ込まれ、柄頭の紅玉の中に「läßt」の文字が見て取れる。
「いえ、持ってませんよ。聖典紙片を設計するときに見せてもらって参考にした位じゃないですか?」
「ああ、あったわねそんなこと。じゃあ念のためにもう一度説明します」
 どこからともなくメガネを取り出し、凛はすちゃっと装着した。
「アゾット剣は、医学の父とも呼ばれた錬金術師にして魔術師パラケルスス。本名フィリップス・アウレオリス・テオトゥラス・ボンバストゥス・フォン・ホーエンハイムが持っていたことで有名になった礼装で、」
 ぐぅ。
「寝るな!」
「長いですよ、その名前!」
「魔術を学ぶならパラケルススの名前くらいは覚えておきなさい! いいわね?!」 
 はぁいと言いつつ眉を寄せる不出来な弟子はさておいて、説明を続けよう。
「こほん。パラケルススは万物が形而上で影響し合うという「照応論」をまとめた人物で、魔術の理論化・言語化に貢献した人物よ。その功績をたたえ、見習い段階を修了した弟子に師匠が魔術師の証としてアゾット剣を授けるの。必ずそうするって訳じゃないけど、格式って奴も大事でしょう?
 特に私たち魔術師は、この星の意識に刻まれた伝説・伝承から加護を受け、力を引き出し魔術という神秘を使うんだから、格式(フォーマル)と伝統(トラディション)には敬意を払いなさい。判りましたね言峰君」
「はい、判りました遠坂先生」
「宜しい。このアゾット剣はお父様が加工した物で、遠坂の宝石魔術を活かした魔術礼装よ。容量が小さいけど宝石に魔力が貯められて、魔力を開放しても宝石は壊れないという優れものよ。それほど魔力は籠められないけど」
「おお! 壊れないのは良いですね。地球に優しいアゾット剣なのですね?」
 ほほぅと感心した顔になる薫に、凛はちょっと違うんだけどなと思いつつ先を進める。
「この文字はドイツ語でläßt(レースト)意味は「〇〇させる」三人称単数形で、原型だとlassen(ラッセン)」
「うーん、聞いたことある気がするのですが」
 なんだっけ? と腕を組む薫に、凛は頬を弛ませる。よしよし少しは憶えているようだ。
「それはきっと「Es läßt frei. Eilesalve.(エス・レースト・フライ。アイレ・ザルヴェ)」じゃないかしら? ガンドを撃つとき使う呪文ね」
「それです! ええと確か「解放、緊急一斉射撃」という意味でしたっけ?」
「そうね。エス・レースト・フライで「解放する」っていう訳になるわね。要するに「やるぞ」っていう意志に反応するって感じの礼装よ」
 ほほぅと再び感心し、薫は剣を手に取り光に照らして観察している。興味津々と言った顔であったがそれが不意に真剣なものへと代わり、体ごと凛に向き直る。
 どうかしたのかと訝しんでいると、薫は迷いがちに聞いてきた。
「凛、アゾット剣に「支配・王権・法の執行」といった概念を持たせて「王の剣」を作ることは可能ですか?」
「はぁ? 王の剣? 珍しいこと言うわね、何? キングさんにプレゼントするとかは駄目よ? 百歩譲って見せるまで、これだってキングさんが聖堂教会の人じゃないっていう貴女の言葉を信じてのことなんだからね?」
「あはははは、大丈夫ですよ。王様は本当に教会の人じゃないですから。それより、どうなのですか? ルビーと黄金、あとはラピスラズリで飾るとかすればよいと思うのですが」
 珍しいことを言う。薫が使う魔術概念(シンボル)は基督教と教会文化に近しいものが多い。聖堂教会の「摂理の鍵」との相性を考えてのことである。それを無視して「王権」の魔術礼装とはこれいかに?
 いや、主を王に見立てているだけか? 天の父と地上の王、両方の権威を認め、政教分離をローマ帝国時代から提唱していたのが基督教だったりするのだが、薫はそれを判ってない?
 しかし宝石のチョイスは悪くない。ルビーは多くの王家で王冠に使用されている。黄金は古代より支配者が身に纏い、ラピスも同じく王の権威を象徴するパワーストーン。併せて作ればなるほど、それは「王の剣」になるだろう。
「いいんじゃない? その組み合わせなら王の剣として機能すると思うわよ」
 凛は薫に頷いた。
 魔術師は儀式に際し、己を神や王と同一視することが少なくない。神や王の権威を借りて、天使や精霊、悪魔召喚などをこなすのだ。霊的存在に命令するための指令杖。それを剣で代用するのも珍しいことじゃない。要するに降霊や召喚といった儀式魔術に使いたいのだこの弟子は。

 言峰薫は英雄王ギルガメッシュに起源を持つ神秘の黄金を持っている。遠坂凛はそれを知らない。

「それとも変身礼装を作ってみる?」
「あはは。魔女っ子礼装は全力でお断りします!」

 *** 5 鎧と蛇(アーマー&ヴァイパー)***

 冬木教会。通称、言峰教会の裏手にある開けた空き地に剣戟の音が何度も響き、闇に火花が舞い踊る。
 冬の星座が瞬く空の下、組み合っていた二人は同時に飛び退き、構えを整え睨み合う。
 ハルバード(斧槍)を手にしてどっしりと重心を下げているのは言峰綺礼。ホーバーク(チェインメイル)でその身を包み、さらにサーコート(軍衣)を羽織っている。腰にはロングソード(騎士長剣)を差していた。
 ホーバークとは長袖長裾フード付きの鎖帷子。十字軍でも多用されたチェインメイルの代名詞的鎧である。
 サーコートは陣羽織のような物。長い長方形の布の中央に開いた穴に頭を通し、体の前後に布を垂らして帯で止める飾り布。トランプの兵隊を連想させなくもない。
 これらは聖堂教会の騎士達が使用する祝福された武具類だ。綺礼は鎧を着込んで戦うことを好まないが、乞われれば手本を示す程度は出来る。
 言峰綺礼は呼吸を沈め、眼前の相手を静かに見やる。
 両の拳から三本ずつ黒鍵の刃を伸ばしているのは言峰薫。尼僧服を着て体の前面にプレートアーマーを付けている。
 その鎧は横長の鋼板を縦に連ねたエプロン型で、首元から胸部、腹部、更に下の膝近くまで伸びていた。黒い金属光沢を放つエプロンは戦車のキャタピラのようにも見える。これはこれで実用品だ。
 下げた両腕をやや広げ、人を迎えて抱きしめるかのような構えを見せるが視線は鋭い。
 フン! と綺礼が鋭く呼気を打ち、ハルバードに付いた槍先が空気を抉る。
 ハッ! と気合の声を上げ、薫がそれを黒鍵の爪で絡め取り、押さえて滑らせ間合いを詰める。
 すると綺礼が柄を引いて、斧頭に薫の背中を襲わせる。薫は素早く横に飛び、後ろに飛んで距離を取る。
 はぁはぁと呼吸の乱れた薫に視線を送り、綺礼は相好を崩してニヤリと笑う。
「どうした? 私も今日は鎧をつけている。お前の攻撃が当たったとしても大した怪我にはならないだろう。本気でやって構わないぞ」
 綺礼の言葉に、薫はクッと歯を食いしばる。もちろんこれは嫌味である。
 薫は女で体も子供。身体強化(フィジカル・エンチャント)強化x7(七倍強化)を掛けて、やっと綺礼と釣り合う程度。まだまだ地力で及ばない。
 しかしそれでも綺礼と薫の攻撃力は、互いに必殺の領域には届いているので本気で組み手が出来なかった。殴り合いならともかくとして剣を使えば即死もあり得る。さすがに殺すのはまずいし死ぬわけにもいかないと、実戦形式は実力が突き抜けているギルガメッシュが担当していた。
 なのであったが、薫の希望で騎士の武具を取り寄せた。教会の正規品を与えるわけにはいかなくて、防具を考える参考にするとのことだが丁度よい。これで本気でやり合える。殺すわけにはいかないが、そう簡単に殺させてくれるほどウチの娘は弱くない。

 フン! ハルバードでの巻き込みが、薫の黒鍵を吹き飛ばす。
 ハ! 払い除けが、薫を突きを受け逸らす。
 イヤァ! 綺礼の突きが、よろけた薫を大きくぶっ飛ばした。

 綺礼はホーバークのフードをはね除け一息ついて、もじゃもじゃの髪を空気にさらす。冷たい冬の風が熱くなった体に心地よい。
「こ、殺す気ですか、おじさま? 最後の突きは殺す気だったでしょう?」
 充実感を味わっていたお父さんに、養女は恨めしげに声を掛けてきた。見ると薫の腹部、鳩尾辺りの鋼板が砕けて欠けていた。
「ふっ、根性のない鎧だ」
「鎧に根性なんかあるかぁぁぁあああ!!! うぐっ、お腹が、お腹がぁぁぁ」
 薫は地面にぼてっと頭突きをかまし、その場に小さくうずくまる。すこし刺さったのかも知れません。いつものことでお父さんは心配なんかしないのですが。娘さんは泣いてます。優しい言葉を待ってます。

「女性が体を冷やすのはよくないな。今日はこの位にしておくか」
 ちょっと優しいその言葉。しかし薫はシクシクと肩を振るわせる。どうも「女性」という単語がサクッと刺さった様子です。熱い涙が止まりません。頑張って諦めよう。運命なんか大嫌いだ。
 拳で涙を拭っていると手が脇に差し込まれ、薫を持ち上げ立たせてくれた。
「ありがとうございまふ、王様。……くすん」
 立たせた薫の頭を撫でて、フンと鼻を鳴らすのは大きな王様ギルガメッシュ。
「なに、貴様如き小娘を持ち上げるなど容易いことだ。だがカヲル、貴様はこの我(オレ)の従者。疾く槍を憶え、綺礼など這いつくばらせてやるがいい」
 そうだった。元より今夜は言峰綺礼に槍の動き見せてもらうはずだったのだが、いつの間にかぶちのめされた。
「ふむ。つい熱くなってしまったようだ。どうだ? お前は離れた位置からの剣の投擲と隙をついての突撃を主戦法としているが、間合いの長い槍で初動を押さえられ、先手を打たれるのは歯がゆかろう?」
 綺礼の言葉に薫はむむむと眉を寄せます。
「それだけじゃないです。長い分だけ切っ先のモーメントは大きいし、絡め取ろうにも巻き込みで吹っ飛ばされるし、しごくように突かれると予備動作が見えなくて反応しきれません」
 そこまで言って薫はハァとため息を出しました。
「私の槍術は拳の理をそのまま使った真似事のようなものだぞ? もっとも八極は槍法から生まれたというがな。そして西洋の剣術もまた槍の使い方を剣に応用したものではないかと私は思う」
「あー、フェンシングとか半身だしそうかもですねー」
 フェンシングでは突きを主体とし、斬擊は突きの変化として放たれる。
 日本の剣術は逆に斬擊を主体とし、突きは斬擊の変化形として放たれる。日本剣術での身体操作法は薙刀のような「斬る」長柄武器には向いているのだが、槍のように「突く」武器では体の使い方を切り替えていることが少なくない。
 薫が習った剣術は教会に伝わっている騎士の剣術。使う得物は騎士長剣(ロングソード)と盾であった。
 薫の主観では日本の剣道などよりは中国の刀術や剣術に近いと感じられた。攻撃には基本的に突きを使い、刃が欠けようともがっちり受けて、そこからくるりと回して斬り返す。切り裂く技もないではないが、突き出しながら押して斬るのを多用する。
 両手に黒鍵を持つのを基本としたため盾はあまり持たないが、訓練だけはしてるのだ。
 薫と綺礼が剣と槍の違いについて話していると、ギルガメッシュが冷笑した。
「フン。小賢しくも小手先ばかり器用になりおって。戦いなどというものはな、使い手の殺気が武器を伝わり獲物の命を砕けばよいのだ。カヲル、敵を倒す力が欲しくば気概こそ刃に籠めよ。さすれば武具は貴様と同化し、敵の首を刎ねるであろう」
 ギルガメッシュの王様節に綺礼と薫は苦笑する。
「えーと、王様の仰ること、もっともだとは思うのですが、そのやり方は王様くらい強くないと無理なんじゃないかと」
 英霊には凡人の悩みなど判らんのですよ! くそぅ。
「ハハハハハハハハ。そうかもしれぬな! 我(オレ)としたことがうっかりであった。慢心・横暴は王の習いだ。許すがよい」
「いや、それはなんか違うと思います。手本となって規律を示すのが騎士ならば、超然として威風を示し不動を以て民を支えるのが王ではないかと思ったりしますがどうでしょう?」
「ハハハハハハハ! カヲル!! 貴様も言うようになったではないか!!! いつまでも小娘ではいられぬと悟ったか?! 良きことである! 貴様も我と共に国(カイシャ)を治める「小さき王」だ。これからは我に使える術の他にも王の儀礼を身に付けよ。良いな?」
 胸を張って目を見開き、その口元を笑みで歪めたギルガメッシュに薫は威儀を正して跪く。
 望むところだ。弱いままではいられない。もっと力を付けるのだ。運命の流れを破壊するそのために。この場所に居るそのために。

 そのためならば騎士にでも王にでもなってやる。

 決意にその目を輝かせる薫を見下ろし、ギルガメッシュは凶暴凶悪な笑みを浮かべる。だがしかしそれも束の間。フッと彼は気を緩め、嘘臭くも軽やかに己が従者に微笑んだ。
「おっと、そういえば我が従者はめでたく女の資格を得たのだったな。さて、これからどの様に躾をしたものか、なぁ綺礼?」

 待ってくれ。
 お願いだから待って、ぷりーず。マイ・キング。

「……、ふぅ」
 なにため息なんか付いてんだよ綺礼テメェ! 通販雑誌で女物の服をチェックしてるの知ってるだからな!! 服はシンプルなので勘弁してください本当に。ゴスロリとかフリフリとか、絶対に着たくないのです。神に仕える言峰薫は清楚でいこうと思います(大嘘)
「ククククク」
 ああ王様。あえて無礼を申し上げます。貴男のその目がスケベです。
 服の上から視線を感じる女の体が恨めしい。でもですね、そんな強力視線の持ち主は、二人しかいないのです。
 言峰綺礼! お前だよ!! そして王様ギルガメッシュ、犯人をあなたです!!! ついでに小ギルを共犯です!
 身の危険を感じても、どこにも逃げる場所はない。かわいそうな言峰薫は男の視線に怯えつつ、ここで暮らしていくより他にない。お父さんは大丈夫、この男は根は真面目で堅物だ。せいぜい可愛い服でも身につけ笑わせてあげればいいだろう。
 問題はギルガメッシュでございます。薫は背中に汗をかく。
 頼むから、魂「男」のこのボクを、妖しい場所に連れ込んだりしないでね? 王様は立派は王様。英霊の頂点に立つ黄金のギルガメッシュともあろうものが小間使いの子供なんかに手を付けたりしないよね?
 変な具合に焦る薫に保護者二人はフフフと笑う。楽しそうですマスター&サーヴァント。
「まあいい。この件については酒を飲みつつ存分に語ろうではないか、良いな綺礼?」
 ふんぞり返るギルガメッシュとそれに頷く言峰綺礼。言峰薫は納得がいきません。
「それよりカヲル、そのような安い鎧と服など使い、我が案をくれてやった装束を着ぬのは何故だ?」
 ギルガメッシュの目が細められ、淫猥さを感じた薫は綺礼の後ろに隠れます。
「王様がデザインしてくださったドレスと鎧は魔術加工の途中なのです。体の前面ほとんどを覆うプレートメイルですし、本気で処理してますので時間が掛かります。
 それにあのドレスと鎧は魔力放出と飛行魔術を邪魔しないように背中が大きく開いてます。「翼」を使いこなせるようになるまで火傷の痕を消さないと決めたので、あの装備だと見苦しいものを晒してしまいます。まぁ、それも何ですのでしばらくはこの「鋼のエプロン」で訓練して、鎧の重さと槍と翼に慣れた頃に黒騎士装備は使おうかと」
 十字軍姿の男の影から頭を出す尼僧服の女の子。微妙な光景にギルガメッシュは笑みを浮かべる。
「王が下賜(かし)してやった衣装をしまい込んで使わぬなど、本来なら縛り首にでもするところだがまぁ許そう。カヲル、貴様の決意、我だけは褒めてやろう。だが我は貴様がいつまでものたうつことを良しとはせぬ。玩具の残した傷跡など早急に消せるよう精進するがよかろう。ルビーもそれを望んでいるはずだ」

 はい。と応える薫を余所に、ギルガメッシュは口の中で小さく嗤う。
 この者の在り方は偽物だ。だがしかし足掻く姿は本物で、その生き様は鑑賞に値する。だからギルガメッシュは心の中で、己の従者にエールを送る。

 ーー もっと我(オレ)を笑わせろ ーー

 その眼差しは蛇に似ていた。

 *** 6 存在を示すもの(バースト)***

  数日後の夜、教会裏手の森の空き地にギルガメッシュと薫の姿があった。
 ギルガメッシュはスポーツカジュアルに身を包み、手には宝剣を握り豪奢な盾をかざし持つ。
 薫は両の拳に黒鍵を挟み持ち、尼僧服の上に黒光りする鋼のエプロン鎧を付けている。
 いつもならば薫が激しく動き、ギルガメッシュがそれをあしらうのだがこの日は違う。飛行魔術の翼を広げた薫をギルガメッシュが追い掛け打ち込み、薫の体を吹き飛ばす。
「ハハハハハ、どうしたカヲル?! 貴様も我(オレ)と共に組織を治める長たる者だ!! 下がることはあっても逃げることはあってはならぬ!!!」
 目を見開き、口元を歪めたギルガメッシュが手にした剣を翻し、受けた薫の黒鍵が砕け崩壊する。薫は剣を新たに作り、続けざまに放たれる剣撃を、かわして逸らして受け流す。
 逃げられない。薫は歯を食いしばる。
 今の課題は戦闘中での飛行魔術の展開維持。翼を展開したまま強化の魔術と魔力放出を併用し、さらに黒鍵を使って攻防をそつなくこなせ。それが綺礼とギルガメッシュから言い渡された最新課題。
 正直に言ってかなりきつい。
 ”火の鳥”は半霊体で半実体。透けて見えるが触れる程度に身があった。よって空気抵抗が発生する。加速時には揚力を生み出し飛翔を助け、急旋回を可能にするが接近戦では素早い動きを阻害する。現時点ではアクセルワークが雑すぎて、微妙な加減が難しい。使いこなせば身のこなしのスピードは上がり、空中戦でアドバンテージが取れるはずだが飛行魔術はじゃじゃ馬だ。力めば体を空に浮かせるし、予想よりも加速してすっ飛ばし、止まりきれずにすっ転ぶ。
 制御に意識を集めすぎれば剣の扱いが雑になり、受け流せずに黒鍵が砕かれる。
 苛立つ気持ちを薫は必死に押さえ込む。
 身体強化と魔力放出、そして聖典紙片に慣れたと思っていたけれど、この体たらくとは情けない。
 魔術の制御に気を取られ、自身の統制がまとまらない。
 自分を上手く扱えなければ敵の行動予測などには気が回らない。自分と相手のことが手に取れなければ戦況予測もクソもない。駆け引きはおろかフェイントの一つも使えない。
 沸き立つ焦りと悔しさが、薫から冷静さを失わせる。
 背中で渦巻く火の魔力をねじ伏せながら、薫は歯を食いしばる。呼吸を整え姿勢を正し、型を正して心を騙す。
 せめて落ち着いたふりをしろ、体が落ち着けば心も釣られて落ち着くものだ。武術でも魔術でもそれは同じ、同じはずだと己に向かって言い聞かす。
 距離が開いて見てみると、ギルガメッシュは笑みを浮かべてこちらを見ている。あの顔は物足りないという顔だ。もっと貴様は出来るはずだと紅玉の瞳が告げている。
 歯がゆい。そして悔しい。
 言峰綺礼もギルガメッシュも、そしておそらく遠坂凛も、小細工などせず真っ正面から敵と戦い叩き潰す正統派。真に強いからこそ許される、それは王者の戦い方だ。力の弱い言峰薫はそれでは勝てない。
 本当は胸を張って堂々と戦いたい。しかし非力なこの身がその願いを許さない。
 ギリリと音が立つほどに、薫は歯を食いしばる。
 この身はきっと偽物で、この心すら存在してはいけないと、どこかで判っているのだけれど。
 それでもしかし! だがしかし!! 背筋を伸ばせ、胸を張れ、目線を下げずに前を見ろ、目の前にいる男と戦えるのなら、私(オレ)は運命(セカイ)を変えられる!!!

 ーー 変えられるに違いない ーー

 一気に間合いを詰めてきたギルガメッシュの一撃に、薫はしかし反応できず、胸の鋼板を砕かれながら吹き飛ばされた。

 今日のところはここまでか。ギルガメッシュは詰まらなそうにフンと小さく鼻を鳴らした。
 魔術などという手品如きに手間取りすぎだ。鳥は飛ぶのに翼を道具と思うことなどないだろう。
 カヲルには何より慣れが足りない。翼を広げたままで訓練を重ねれば、遠からず天(ソラ)を翔(カケ)つつ剣を撃ち、槍を携え飛来する天翔る騎士となるだろう。女の身故、力強さに欠けるのは仕方がないが、ならば美麗に仕上げたい。
 ギルガメッシュは白皙の顔を笑みで歪ませ、喉を鳴らしてクククと笑う。
 まったくもってこの親子は我(オレ)を飽きさせることがない。
 魂を焦がしていくような綺礼の求道、己を削りながら挑み続けるカヲルの足掻き。そのどちらもが本物だ。
 理念もなく、燃焼も足りぬヌルイ者ばかりの雑種共。その中にあってこの二人は燃えている。燃えているのは魂なのか命なのかは知ったことではないのだが、その輝きは傲岸不遜な彼にさえ目映いモノだと思わせる。
 胸の奥で何か沸き立つモノがある。この喜び、この愉悦。熱くて甘く、苦くともとろける情念という名の美酒。これほどの味わいもそうはあるまい。

 ーー 熱い ーー

 その想いがギルガメッシュの口元を歪ませる。
 
 ーー 苦しい ーー

 ああ綺礼よ、人の苦悩を糧とする貴様の気持ち、この我は理解するぞ。
 視界の端で、四年前に拾い上げた小さき者が立ち上がろうともがいている。弱いのは嫌だと言い、この我より強くなるとほざいた小娘は、今も変わらずに挑み続けている。
 体が震える。熱いモノがこみ上げる。口を開けば喉から火を吹けそうだ。だからギルガメッシュは震える喉を押さえつけ、歪んだ笑みをねじ伏せる。
 カヲルはやっと立ち上がり、肩越しに視線を向けてくる。その瞳の輝きは屈せぬ者の魂のみが放つモノ。その輝きが愛おしい。その在り方が狂おしい。
 ギルガメッシュは宝剣を握りしめる。

 やってられるかっ!!! 薫は心中で絶叫する。
 背中が熱い。背中が熱い。背中が熱い。渦巻く魔力に気が削がれれば、とたんに動きが止まって吹き飛ばされる。
 もう今日はリアルタイムでの飛行制御は諦める! 翼は出てるだけで良い!! 飾りなんですお偉いさんにはそれが判らんのですよ!!! 嘘です。いずれ使えるようにするので今は消えなきゃそれで良い。
 ちょっと弱気になりつつも、薫は黒鍵(ツルギ)を持ち直す。
 まだいける。もう少しだけ頑張れる。せめて一泡吹かせたい。ギルガメッシュに「ほぅ」とひと言いわせたい。喜んでもらいたい。
 ……それはちょっと違うよな。
 薫は小さく苦笑した。いつの間にか肩の力が良い感じで抜けている。そんな自分に呆れてしまう。果たしてこれで良いのかな?
 まぁいい。先のことより今のこと。笑みを浮かべて待っている、あの王様を驚かせてあげましょう。ネタはある。手順を踏めれば”火の鳥”だって使えないこともない。

 ギルガメッシュの目線の先で、薫が黒鍵を振りかぶる。槍投げを思わせるその型は全力投擲の構えであった。
 何をするか思えば剣の投擲、やれやれ今日はもう終わりにしても構わぬか。
 ギルガメッシュは落胆するが、薫の翼が大きく羽ばたき黄金の火の粉を辺りに散らす。魔力が渦巻き力を貯める。そして剣も同じく魔力を宿し、仄かに輝き空気を揺らぐ。
 これがおそらく最後の一手、さて何を見せてくれるのか?
「いきますよ王様、上手くいけばこれはきっと驚きますよ」
 少女にあるまじき不敵な笑みで、薫はふふんと笑って見せた。そんな従者にギルガメッシュもニヤリと笑う。
「来るがいい。その一撃、この我(オレ)に届くなら何か褒美をくれてやる」
 その言葉に薫は頷き、虚ろな目になり呼吸を整える。そしてカッと目を開き、全身から魔力を吹き出した。
「ハァァァァアアアアアーーーッ」
 翼から魔力を吹きだし、黒鍵にも魔力を集めた薫を見て取り、ギルガメッシュは盾をかざした。
 何だ詰まらぬ。察するにいつものように剣を投じてからの突撃か。苦しいときには慣れた技。その選択は間違いではないのだが、期待はずれでもあった。
 しかし薫は「普通」とは言い難い。その力は弱くても、ズルイことも出来るのだ。
 黒鍵は放たれた。魔力を散らして手から離れるその瞬間、ギルガメッシュは薫の口が、こう囁くのを読み取った。

 ーー キョクシ ーー

 薫の姿がぶれた。そして見る。翼を広げた薫が身を捻りながら飛翔して、投げた黒鍵に追い付いた。
 盾は黒鍵を受け止めて、それを軽く跳ね返す。その動作に意識を向けたギルガメッシュは動けない。薫は頭上で逆さになって、彼の頭をハシと掴んだ。
 剣の投擲と同時に自身が飛翔し、これに追い付き、防御に気を取られた敵の頭を掴んで……。
 薫の手に力が込められていくのをギルガメッシュは感じ取る。そしてその意図を理解した。

  ーー 我(オレ)の首をねじ切るか?! ーー

 背中に冷たいものが疾るが次の瞬間!
「七ぁぁぁぁぁーーあああああああーーああぁぁぁーーっ?!」
 薫の手はすっぱ抜け、遥か後方に跳んでいき、派手にゴロゴロと転がった。あれは受け身が取れてない。数秒待つが動かない。
 まさか死んではいないであろうな? ちょっとだけ心配になりギルガメッシュが近づくと、薫は地面の上で腕を伸ばしてこう言った。
「ぅぅぅ、くそぅ。手が小さくて頭がつかめません、もぅヤダ……」
 みしっ。
 ギルガメッシュは剣を握りしめた拳の音を確かに聞いた。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーーっ!!!」
 言峰綺礼が雑務を済ませて見に来てみると、薫の泣き声が耳に届いた。
 一体何をやらかした? 初めてというわけでもないのだが、これは本気で泣いている。
 ささいなことで気分を害したギルガメッシュが、躾と称して薫を泣かせることもないではないが、それはいつものことであり、家族間のスキンシップであるとお父さんは信じて微塵も疑わない。
 それはともかく、一体何がどうしたのやら。あれは予想の斜め上を行く。何をしたのか楽しみだ。
 藪を抜けてギルガメッシュと薫を発見すると、倒した丸太に腰掛けたギルガメッシュの膝の上、薫は跨るように座らされており、足を開いた状態で後ろから抱きすくめられていた。
 やってるやってる。
 しょうもないことを思いながら頬を緩ませ綺礼は近づき、それに気付いた薫が叫ぶ。
「助けてーっ! おじさま助けてください!! セクハラですパワハラです八つ当たりです無実なのです弁護士を呼んで、むひゃぁぁああああああ&%$$#”!?」
 更に近づき見てみると、ギルガメッシュが薫の耳の穴に指を入れていた。おかしな顔になった薫はぴくぴくとしか動けない。久しぶりのお仕置きMAXレベル。さすがにこれは哀れであろう。
「ここまでやるのは珍しいな。ギルガメッシュ、薫は何をしたのだ?」
 綺礼の問いにギルガメッシュは暗い笑みを浮かべるが、視線を薫から放さない。
「何をしたかだと? カヲルはな、よりにもよってこの我(オレ)の頭を鷲掴みにしたのだぞ。王冠を掲げるべき王の頭に手を掛けるとはまったくもって許し難い。我が認めた従者でなければ即刻に首を刎ねるところだ。だがカヲルは躾の最中であるからな。こうして罰を与え事の是非を教えている」
 そうかと綺礼が応えると、涙を浮かべた薫が非難の視線を綺礼に送る。この年頃は躾が大事。お父さんは華麗に視線を無視します。
「う、あ、だって、あれ、」
 それでも何か言おうとする薫をギルガメッシュは抱きすくめ、鎧の上からその身を撫でる。薫はひっと息を飲み、むずがるように眉を寄せて強張った。
「良いことを教えてやろう」
 ギルガメッシュの邪悪なる囁きにも、薫はあまり動けない。涙ぐみつつ頑張って後ろを見やる。
「ある本で読んだのだがな、こうして耳に指を入れて押される痛みというのは処女を散らされるときの痛みに似るのだそうだ」
「助けて! パパ助けて!! パパーッ!!! ぱぱぁぁあああ!!!」
 薫はマジ泣きした。

「クククク。その位で勘弁してやれ、私の心臓が弾けてしまいそうだ」
 胸を押さえてうずくまる言峰綺礼。マスターに逝かれては困るので、サーヴァントたるギルガメッシュは己が従者を解放する。すると薫は飛び退いて、綺礼の影に隠れて服を掴んで泣き出した。
「王様がスケベです。王様がエロスです。しくしく」
 無礼なことを口にしているが特別に許そう。ギルガメッシュは秘かに思う。
 翼による飛翔により、カヲルは投げた剣に追い付くという芸をしてみせた。子供の手では大人の頭を掴みきれずにすっぽ抜けたが、そうでなければ首の骨がボキリと音を立てていたかも知れない。
 宝具に等しき神秘でなければ霊核を砕けはしない。おそらくカヲルでは首を折るなど無理であったことだろう。
 しかしこれは一つの奇跡だ。
 養父に泣き付く小娘は可能性を示して見せた。ならば褒美をくれてやるのが主にして王の務めか。
「カヲル」
 ギルガメッシュの呼びかけに、やっと薫が顔を上げるが、その目は涙に濡れている。さすがに少々やり過ぎか? しかし彼は最古の英雄王。その辞書には「許す」とあっても「許してね」などは存在しない。それが王様クォリティ。
 ちょいちょいと手招きすれば、カヲルがとことこ歩み寄る。
 もう許すが故、泣き止めと頭を撫でると未だ小さな従者はえへへと笑う。綺礼に目配せしてみると、カヲルの後ろで苦笑していた。思わずギルガメッシュも苦笑する。何をやっているのやらだ。
 なんですか? と首をかしげる従者にギルガメッシュは真面目になって言い放つ。
「カヲル、貴様は何を焦っている?」
 薫は顔を強張らせた。

 焦っている? そうか、私は焦っているのか。ギルガメッシュの言葉に薫は力が抜けた。
「我の目は誤魔化せぬぞ、察するに”火の鳥”に手こずるが故であろうがな。だが気にすることでもあるまい。確かに使いこなせてはいないがそれは時間の問題だ。いずれは翼も貴様に馴染む。制御しようなどとは思わずまず慣れよ」
 はい、と応える自分の声が、少し遠くに聞こえてしまう。力が抜けて、薫はその場にへたり込む。
「やはり貴様も綺礼の娘。お前達の挑む姿はこの我に無聊を忘れさせる。だがなカヲル、貴様には決定的に足りないものがある」
 何だろう? あまり凄いことを言われても対処に困る。なにせ王様はギルガメッシュ。神代には世界の全てを掌握していた半神半人の魔人である。
「貴様に足りないのは「法」だ。己の在り方を定め、立ち振る舞いを定める自律のための「法」それが貴様には足りぬのだ」
「は?」
 思わず薫は呆けてしまう。それはなんでございましょうか? つまりマイ・ルールを作れとかそう言うことか?
「たわけ、そのような遊びと一緒にするなど許さぬぞ。よいかカヲル、世界に対し法を唱え、以て支配するのが王の役目でありすなわち神の務めであると、これは貴様も理解しているな」
 薫は頷く。古代にあって王とはつまり神であり、領地に法をしくのは神の業と同義であった。基督教がローマ帝国で皇帝の権威を認め、政教分離を唱えるまでは、神と王とは同じような存在だったと凛からも聞きました。
「故に我(オレ)は世界を定義し王の在り方を定めた法典を持っている。貴様が見たがる「乖離剣」がそれだ」
 剣という概念もなかった原始の地球、その天地を切り裂き世界を定めた創世の神器。天地開闢の物語が記された法典にして神々の祭器。それがギルガメッシュの最強宝具「乖離剣エア」の本質なのだと彼は言う。
「カヲル、貴様は「書」を持つが、それは綺礼の奉ずる神の式典であり、貴様が仕える我の名を記したものではない。そうだな?」
 不機嫌そうに言うギルガメッシュに薫は頷く。聖典紙片も聖典の書も聖堂教会のシンボルを多用した礼装だ。魔術礼装ではあるけれど。
「それが我には気に入らぬ。カヲル、貴様は我と共に会社という国を修める王の端くれ、偽物でない己の法典を書き記しても良い頃だ」
 法典ですかと薫が首をかしげると、ギルガメッシュは寒気がするような壮絶な笑みを見せた。ひっと薫は息を飲む。
「故にだ。貴様が以前より閲覧を望んでいた乖離剣・エアを見せてやろう」
「本当ですか?!」
 薫は勢いよく立ち上がる。マジですか?! 乖離剣ですよ乖離剣! エクスカリバーをも上回る究極火力、本気で使えば世界が砕ける(推定)神霊の祭器の乖離剣。それを見せて貰えるのか?!
「ハハハハハ、現金な奴め。急に元気になりおって!! まぁよかろう。宝を見たがる者に一つ二つ見せびらかすのも王の器量というものだ。……見るが良い、これが「エア」だ」

 ーー ギルガメッシュが虚空に伸ばした手の先に、光の波紋が波打った ーー

 ーー 宝具「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」の力により、黄金の都の宝物庫に次元はつながり ーー

 ーー 乖離剣・エア。創世の物語”エヌマ・エリシュ”が記された法典を、黄金の英雄王が抜き放つ ーー

 体が熱い。心臓の鼓動がうるさく響く。熱病にかかったように意識がかすむ。ついに見ることが許された乖離剣を前にして、薫はカチカチと歯を鳴らす。
 どうだ? とギルガメッシュが乖離剣を一振りしただけで、エーテルが渦を巻き、風の魔力が大きく乱れる。
 凄い。やばい。周囲の大源(マナ)が震えている。激烈な神秘の波動に魂が悲鳴を上げる。薫の中の酒器宝具「黄金の林檎酒」が波動を受けて鳴動している気さえする。
 そして何より恐ろしい。これがギルガメッシュの乖離剣、世界の在り方を定めた法典宝具?!
 思っていたより長くない。全長だいたい1.2メートルくらい? その握り柄は黄金の護拳に覆われる。刀身に当たる部分は三分割され赤い刻印が輝く黒い円筒により構成されている。そして先端には削岩機のドリルを思わせる切り込み先が付いていた。
 よく見ると刀身の円筒がゆっくりと回転していた。その動きは世界の動きと同調しているのだと、なんとなく理解する。
「どうだ?」
 ギルガメッシュがこちらを見ている。
「いや、どうと言われましても、筆舌に尽くしがたいというか何というか……」
 薫はゴクリと唾を飲み、ギルガメッシュはハハハと笑う。
「さてカヲル、貴様をこの「エア」をどう読み取る?」
 は? と見上げると、ギルガメッシュが面白そうにこちらを見ている。どう読み取るとはどういう意味か? 以前から特徴や働きなどは尋ねてみたりしていたので大体は知っている。これを真似て魔術礼装を作れないかと考えたこともあるので色々と考えた。
「許す。貴様が思ったことを語るがいい」
 えーと、では失礼して。
「まず装飾の黄金と青の瑠璃は王権を示し、使い手は王でなければならないのかなと思います。円筒の部分が法典であり、天の創世と天の神々。地の創世と地の神々。この二つについての法典が先端と根本で順回転し、これを以て世界を象徴するのだと思います。そして中間にある円筒に王の権威と物語が記されていて、これが逆回転して王(神)による天地の分断、世界の開闢を象徴するのではないかと……」
 薫の理解はこんな感じであった。あくまで本質は創世の法典であり、世界を切り裂いたという伝説が剣の姿をとらせているのだろうと思っているのだ。
「ククククククク、ハハハハハハハ。この我を前にしてよくぞ言った! その行為、本来ならば極刑に値するぞ!! ハハハハハハハ!!!」
 こちらを睨み付けつつギルガメッシュは高らかに笑う。拙かったかもしれない。ひょっとしてDie・ピンチ?!
「ハハハハハハハ、……さて」
 笑いを収めたギルガメッシュは冷たい視線でこちらを見やる。
「カヲル、貴様に褒美をくれてやる。貴様は我(オレ)に仕える者として、己の法典を書き記せ。この乖離剣を手本にすること特別に許そう」
 ナンデスッテ?!
「何を呆けているのだ? この我が下賜する恩賞ぞ。よもや気に入らぬなどと、」
「いえいえいえ、滅相もございません!!! しかしよいのですか?! 王様は贋作とか嫌いじゃないかと思うのですがどうでしょう?」
「馬鹿者。誰が贋作を作れと言った?! 我は貴様の法典を記せと言ったのだ。我の言葉を貴様は理解できぬのか?」
「つまり法典として形は真似てもよいが、書き込む文章と内容は自分で考えろと、そういうことですね?!」
 ギルガメッシュは頷いた。
 そして、同じ物は許さぬ。貴様は槍を使うのだ。ランスとかいう突撃の槍にするがいい。などと言う。

 ーー ドリルランス!!! ーー

 ブラボー!!! あまりの浪漫に言峰薫は大喜びです! 生まれ変わってもうすぐ四年。まさかドリルを手にするときが来ようとは!! お天道様でも思うまい!!!
「魔術礼装だと法典礼装? 魔導書の一種? 儀式魔術用の祭器になるのか? くっ、儀式と祭儀の理解が足りない。金とラピスで装飾するのはいいとして、心棒は鋼にすれば「刃金」だから切り裂くものとして属性と統一できるよな? 円筒は何がいい? 隕鉄なら外宇宙から来た「空を裂くもの」というシンボルが使えるか? 碑文はアルマンディン・ガーネットにすればパスは……」

 ぶつぶつと独り言を言って動かなくなった薫をその場に置いて、ギルガメッシュは身を翻した。そして教会居住棟へと歩を進める。その背中に綺礼から問いが放たれた。
「良いのか? お前は偽物を毛嫌いしていると思ったが」
「たわけ、我(オレ)はカヲルに己の法典を記せと言ったのだ。写本を作れと命じたのではないぞ。カヲルは我の従者だ。その法典が我の乖離剣を手本とするのは当然だ。だがそれはあくまで装丁の話に過ぎん。カヲルは我に仕える自分の物語を刻む必要がある」
 言峰綺礼は苦笑した。
「やれやれだ。薫は私の娘であり、私は神に仕える神父であるのだが、それを理解しているか?」
「ハハハハハハハ! 綺礼、貴様の神など我(オレ)の知ったことではない!! 貴様こそ忘れるな。カヲルの神は王であるこの我なのだ!!! ハハハハハハハ」
 笑い声をその場に残し、ギルガメッシュは戻っていった。綺礼が薫に振り抜くと、座り込んだままだった。あーでもない、こーでもないと唸っている。
 綺礼は再び苦笑する。
 薫は自分の養女であるのに、あのような男を神と呼ぶなどけしからん。真実の神はいつも一つ! 自分のことは棚に上げる言峰綺礼。

 夜も更けて風も冷たい。薫を連れて戻るとしよう。綺礼は薫をつまみ上げた。

 *** 7 夜の邂逅(サプライズ・パーティー)***

 冬も終わりが近くなり、あと数日で暦の上では春になる。しかし新都中央公園に吹く風は未だ冷たく、耳を澄ませば幽かに聞こえる怨念の声と合わさって、訪れる者に寒気を与えることだろう。
 人除けの結界に囲まれた夜の公園、その中央で今夜も薫が怪異と対峙する。
 薫は尼僧服の上にエプロン型のプレートアーマーを身に付けて、背からは赤い翼を広げていた。そして脇に挟んだ白銀の短槍を右手で握り前を指し、左手の拳に三本の黒鍵を挟み持つ。
 槍の穂先が指し示す、先の地面に何か伏せる者がいる。
 それは犬。大きな犬。しかしどこかおかしかった。グルルと低く唸りながら身をかがめる犬の体は人間の大人ほどはあり、体表が筋肉により盛り上がっているようだ。だが何にもましてありえないのはその顔だ。
「見テンジャネェヨォォオオオ」
 犬の体に人の顔が付いていた。
「俺ダッテ辛インダヨォォォオオオ」
 言葉と共に、口から黒い瘴気を吐き出している。

 ーー 都市伝説(クロウリング・レジェンド)「人面犬」 ーー

 野良犬などに人間の怨念・妄念・悪気が取り憑き狂わせて、人語の呪詛を吐く妖(モノ)と化した都市伝説がこれだった。
 薫は左腕を翻し、黒鍵を続けざまに投げつける。一つ、二つ。続けて三つ!
 しかし人面犬はゲェエと呻き、瘴気を吐きつつ黒鍵を裂けて駆け回る。
 薫はチッと舌を打つ。当たらない。こちらが動くと向こうも動く、撃とうとする時に動かれてしまうと当たらない。人間型と違って四本足はやりにくい。的が小さく素早くて、その上動きも読みにくい。
 薫の黒鍵投擲は殺人レベルではあるのだが、それも当たればの話。当てよう投げようとする瞬間に動くという、獣の本能的な回避反射に追いつけない。
 既に地面のあちらこちらに黒鍵が突き立ち、数カ所は泥葬式典により軟化した跡もあるのだが、四つ足で素早い犬を捉えるまでには到らなかった。泥葬式典はあくまで地面を液状化させるだけであり、捕縛概念があるわけではない。
 飛び行く黒鍵を人面犬は素早く避けて、飛び退き、地に伏せ、力を貯めて、反撃しようと牙を剥く。
 人の顔にも関わらず、口からはみ出る牙は大きく鋭い。一噛みされれば肉は裂かれ骨は砕けてしまうだろう。
 薫が僅かに怯んで下がるとその刹那、犬は強く地を蹴り飛び掛かる。
「アイアス顕現!!!」
 聖典紙片が瞬時に剣へと姿を変えて、七本の黒鍵がバラ色に輝く花弁となって薫を守る。人面犬は弾き返され上に跳ぶ。
「はぁぁああーっ!!!」
 気合一閃、薫は翼で羽ばたき空へと昇り、右手の槍を突き上げる。しかし人面犬は身をひねってこれをかわして、 
「ゲェェェェエエエエ!!!」
 すれ違いざま瘴気と悪気を吐いて薫に浴びせた。離れた位置に薫は着地し、ゲホゲホと咳をする。
 薫は口元を拭ってよだれを拭き取った。瘴気を喰らって気持ちが悪い。吐き気と目まいを気合で耐えて、なんとか跳んで距離をとる。
「何ダヨテメェェェエエエエ」
 人面犬が吠えている。生意気だとか気色悪いとか言う前に、こいつは手強い。
 こちらに合わせて動かれる。動きが速く追い込めない。ただそれだけだが攻撃を当てにくく、魔術の範囲にいてくれない。
 それならば丁度良い。ガルドルガンドを試してやろう。
「告げる(セット)」
 右手で掲げた白銀の短槍に、薫の魔力が注ぎ込まれる。槍が仄かに光を帯びた。
「礼装起動。祈願成就、宣言成就……、」
 薫の祈願呪を受け、槍は静かに鳴動する。向こうの犬が、顔をしかめて吠えている。うるさい、少し黙ってろ。

 ーー その心臓、貰い受ける ーー

 敵を貫く槍の姿を幻視して、薫は魔力を収束する。
「我が願いを成就せよ! 飛べ!! ガルドル・ガンド(呪歌の杖)!!!」
 人面犬に向かって薫は槍を投げつけた。しかし同時に犬は地を蹴り横に飛ぶ。撃つと同時に動かれると当たらない。射撃は正確なほど避けやすい。
 しかし魔術は事実を歪め、今を過去へと逆走させる。
 宣言成就の力を持つ槍は、魔術によって飛び行く途中で軌道を変えた。穂先はひるがえって狙った敵を、追い掛け追い付き突き刺さる。
「痛ェェェェエエエエ!!!」
 人面犬は叫び声を吐き出した。げげぇと黒い息も吐き、歪んだ顔をさらに歪めた。顔の造形は崩れて狂い、犬とも人とも言えぬ醜いものと変わっていく。
 しかし絶命にはほど遠い、槍は願いを完全に叶えることはなく、心臓ではなく腹に刺さっただけだった。苦しいのか人面犬はのたうち暴れ、汚い言葉を口にする。
 イテェ、チクショォ、ナンデオレガ、オデワルクネェェエエ。
 それらの言葉は犬ではなくて人のモノ。人が垂れ流した「汚いモノ」に他ならない。汚れた心の持ち主が吐いた汚れた言葉。それは雑念となって街の空気を汚していたのだ。
 のたうつ犬を少しだけ哀れんで、薫はスカートに手を入れアゾット剣を取り出した。
 薫お手製のアゾット剣第1号。黄金、ラピスラズリ、ルビーで装飾された鋼の短剣は使い手、薫の手の中で魔力を漏らす。
「クンジャネェヨォォォオオオ!!!」
 腹を刺されて地に伏せて、汚い顔で呪詛を吐く人面犬に薫は一気に突撃。手にした短剣を叩き込む。吐かれた瘴気は身から吹き出す魔力で弾き、アゾット剣に意念を注いだ。
「läßt(レースト)!」
「グゲェェェェエエエエ」
 薫の声にアゾット剣に籠められた魔力が解放されて、都市伝説(妄念)を内側から吹き飛ばした。

 ハァハァハァ。静かになった公園に薫の吐息がうるさく響く。
 気持ちが悪い。濃縮された人の悪意を浴びせられたのだ。凛のガンドよりは遥かにマシだが、呪われたようなものだった。
 ゲホゲホと咳をしながら、薫は槍を拾い上げた。
 使い手の言葉を叶える「宣言成就」の力を持つ槍「ガルドル・ガンド」危惧していたより使えるようだ。心臓狙って腹に刺さる辺りはご愛敬、薫としては追い掛けてくれるだけで御の字だ。
 銀とサファイヤによる装飾を施したこの槍には「摂理の鍵」も組み込めた。充分に役に立つ。
 そしてスカートの内に吊したアゾット剣。ルビー、ラピス、黄金で飾ったこの剣も「支配・王権・法の執行」という概念を持った礼装として機能している。試作第1号としては申し分ない性能だ。
 よしよしと思いながら歩いていた薫だったが小石につまずき、そのまま転んでしゃがんでしまう。
 こほんこほんと咳をして、立ち上がろうとするのだが、足に力が入らない。腕にも力が入らない。誰もいない公園の真ん中で、薫は動けなくなってしまった。
「……くそぅ、」
 薫は冷たい地面に爪を立てた。地面は固いが、冷えた指先は特に痛みも感じない。

 色々と頑張って、新たな道具も手に入れた。しかしそれが何だというのだ。

 薫は歯を食いしばる。
 本当に何をやっているのだろうか? 対人戦なら軍隊式に訓練してマシンガンでも使う方が絶対に強いのに。
 魔術を憶え、乏しい才能で魔術礼装を工夫する。弱くはないと思いたいが英霊には届かない。魔術戦では凛に勝てる見込みもない。爆薬で吹き飛ばせば何とかなるかもしれないが、だからそれなら軍人か傭兵になればいいのだ。魔術や秘蹟を修める必要はない。
 洗礼詠唱も霊媒治療も身に付けた。しかしそれでどうだというのだ。それは長所で便利なのかもしれないが、それでもきっと敵わない。サーヴァントには敵わない。
 会社を作って社長になって、綺礼とギルガメッシュを巻き込んだ。パリに欧州支部まで設置して、魔術協会と聖堂教会にパイプも出来た。むこうの運営は放ったらかしだが構わない。そこまで手など回らない。三人で大株主となれただけで充分だ。伝手が出来ればそれでいい。だがそれでどうしたとも思う。面倒ごとが増えただけだと思うときもある。

 頑張っている。頑張ってはいる。初等部の子供にしては優秀だと言われるだろうし、普通に生きるだけなら勝ち組か?

 でも、だから、それで、なに?

 薫の視界が涙でにじむ。
 あと六年。原作通りならあと六年で、いや起動だけならもっと早く、聖杯戦争システムは動き出す。
 そしてこの身は光の中に消えていく。
 言峰綺礼とギルガメッシュ。この二人と共にいる自分が消えるなら、きっと悲劇は起こらない。起きないだろうと、そう思う。

 ーー ああ、だけど ーー

 泣きたい気持ちをかみ締めて、叫び出したい想いを食いしばり、助けて欲しい気持ちを諦めて。
 薫は冷たい地面の上に体を投げ出し、それでも前に進み出す。泥が付いてもなんのその。軍隊行動の基本はほふく前進。いちに、いちにと心の中で数えていく。
 前に進むと決めた。辛くても苦しくても、このままで、進んでいくと決めたのだ。
 公園の外れに自動販売機の灯りが見える。あそこまで行き着こう。暖かいハチミツレモンがあるはずだ。甘くて酸っぱく暖かい。なんだか冷える今日なので、きっといいぞハチミツレモン。
 薫はゆっくりズルズルと、地面の上を這いずり進む。しかし途中で止まってしまう。

 ……小銭がバッグの中だった。

 タオルと礼装を運んできたバッグは向こうのベンチの上でした。行かねばお金がないのです。
「ぅ、ううう。……ひっく」
 薫はめそめそと泣き出した。一体自分は何なのだ。頑張っている。これでも頑張ってはいる。
 でもきっと届かない。このままでは届かない。力が欲しい。運命を変えるほどの強い力が何より欲しい。なのにどうしてこんなに半端なのか?!
 魔術回路は僅かに二本、魔術特性は加工向きで戦闘向きとは言い難い。魔術刻印などは当然持てず、預かる宝具は酒器宝具。共有の魔術が上手になれば、魔力タンクになるかも知れぬがまだ出来ない。空が飛べるようにはなりました。でも急加速するとゲロ吐きそうです。
 洗礼詠唱は使えるが黒鍵はバッタもん。代行者になれるほどの信仰は見込めず、聖骸布などの遺物もなければ聖典なども貰えない。
 無力なわけでは決してない。しかし願いに届かない。届かないかもしれないと、焦る気持ちが止められない。
 戦うと決めた。避けられない破滅が待っていようと戦おうと決めた。そんな感じのセリフはセイバーだよね?
 だけどこの身は「言峰」で、主にして神たる王はギルガメッシュなのである。
「ぅぅ、う、……くっ、ぅぅぅ」
 だめだ、疲労と瘴気の影響で思考が悪い方へと傾きがちだ。やはり王様の言うとおり、焦っているに違いない。
 立てない薫は倒れたままで、腕で拭って涙を隠す。泣いてはダメだ。それはきっとダメなのだ。色々と狡い言峰薫は悪者だ。だから泣いてはダメなのだ。
 ああだけど。
 立てなくて、倒れた地面は冷たくて、小銭もなくてハチミツレモンも買えない自分が情けない。
 取り敢えず、進もう。
 前に、進もう。
 バッグを置いたベンチに向かって方向転換。薫はほふく前進を再開しようと顔を上げたその時だった。背後というか、頭上から、両手が脇に差し込まれ、薫の体を持ち上げる。
 薫は、わっと小さく驚き身を縮めた。ここは人除けの結界に囲まれた夜の公園、ならばこんなことをするのは関係者。綺礼かギルガメッシュの二択である。ちなみに凛では倒れた薫は持てません。
 マズイ、倒れていじけた姿を見られたならば、きっと帰ってお仕置きコース。特訓ならば良いけれど、貴婦人講座なんかは嫌なのです。
 あははと苦笑し、薫は後ろを振り向いた。そして笑顔は凍り付く。
「こんばんは」
 居たのは言峰綺礼ではなくて、ギルガメッシュでもなくて。
「薫ちゃん、で、いいんだよね?」
 体つきは中肉中背、しかし少々痩せていて、やつれた感じのその顔は人生への疲れを思わせた。髪は伸びてちょっとボサボサ、ネクタイを締めてはいるが横に曲がってマイナス点で、着ているコートはよれよれだ。
 呆然として身じろぎもしない薫に男は笑顔を作り、静かに薫を立たせてくれた。
「君は僕のことを知っているよね?」
 男の問いに薫は頷く。
「衛宮、切嗣、さん、です、よね?」
 とぎれとぎれの薫の声に、男。衛宮切嗣も頷いた。

ーー そして運命 ( Fate ) は交錯する ーー


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都市伝説(2008.5/17th)火傷の痕(2008.5/22th)呪歌の杖(2008.5/22th)一般常識(2008.5/22th)アゾット剣(2008.5.31th)鎧と蛇(2008.5.31th)存在を示すもの(2008.6.14th)夜の邂逅(2008.6.25th)

あとがき
 とうとう衛宮切嗣との対峙となりました。あさっての方向へ物語は加速する!(ギャグ&シリアス路線ですが)
 そしてついに書いてしまったB級装備の第1弾。ドリル! やっちまった、ドリル! しかし後悔はしていない。回せ回せ!
 そもそも二次創作でドリル使いが見あたらないのは何故だ?! 納得出来ん!!!(聞き流してくださいませ。偽・螺旋剣もドリルですし、将来ドリル対決など……) 
「ぷち金ピカ」として薫の装備を増やそう。という話なのですが、嘘臭くならないように細かな描写が多くなりました。一度はこういう話も入れておかないと、以後オリジナル要素を出したときに嘘臭くって自分が嫌になりそうで(苦笑)
 もっとライトにも出来たのですが、細部を省くと薄っぺらい作品になるのではないかと。
 いや、その手抜きあるいは省力が出来るのが二次創作の楽な所ではあるのですが、そーゆー書き方を自分がやるのは嫌なのですよ。人がやるのは別に良いのですが。
 管理人(私)は二次からTYPE-MOON作品を知った人なので、原作を知らない人でも読めるものにしたいというのもあります。
 それはともかく、ぷちアーチャー(ギル)であり、ぷちセイバーであり、ぷち綺礼であり、実はぷちカレイドルビーでもあるという中途半端さと弱さが薫らしさなのですが、
 ……そういうことは本文で表現すべきでしょう。以後、努力。
 この回、全体としては思ったように構成できたのですが、長すぎる(と思います)簡略化にも配慮しようと思います。分けた方が良かったかもです。

次回予告:嘘と盟約
 衛宮切嗣と綺礼&ギルガメッシュ&薫の会見、そして契約。
 第二部終了です。
 このメンツで会談とは、我ながらチャレンジャーだと思います。会見だけじゃないですが。

路線変更のお知らせ。
 当初の構成では第二部の後に多作品とのクロスオーバーに移行しようと考えていたのですが、やめます。
 やめる理由
 1.予定より進むのが遅れている、クロス編は全体が「おまけ」なので書きたかったら本編終了後にでも書けばいい。
 2.クロス先を途中で抜けるので、やはり中途半端だろう。
 3.正直、ネギ〇のノリにはついて行けない(関係ないし、嫌いじゃないんですけどね、あはは)
 と言うわけで、第二部後にSpecial編を経て書かないはずであった「月姫」に繋げようと思います。どーせなら型月世界で遊ばせていただきます。

 Special
・綺礼&ギル&凛&切嗣&薫「ハイウェイ・スター」ありえないオールスターお祭りアクション?
・綺礼&バゼット「魔術師狩り」多分ギャグ。先に謝っておきます。すまんバゼット。
・切嗣&薫「アインツベルン氷雪結界攻防戦」
・バゼット&薫「人形(ホムンクルス)狩り」
 おまけでいくつか増えるかも。

おまけのおまけ
 妄想(オリジナル設定)データ

〇薫の魔術礼装:聖典紙片
 いわゆるマジックスクロール。厚めの和紙に宝石で術式を書き込み作成するものとする。
 聖堂教会の基本武装「黒鍵」のコピー改ざん品。オリジナルは剣の柄から半霊体の刀身を伸ばすが、薫のこれは一枚の紙が一本の剣になるとする。
 一枚の紙片に以下の術式が集積化されている。数回の使用には耐えるが、基本的に消耗品。
・剣化術式:細身剣(レイピアに類似)に形を変える。全長約1メートルとする。結構長い。
・摂理の鍵:聖堂教会の術式で「神の御業を記した聖典に、そんな怪異の記述はない。よってオマエは存在しない」という神の摂理(ルール)を押し付け、型月世界における魔術の作用原理「歪曲・逆行」を否定、怪現象を打ち消す。魔術・超能力・吸血鬼の異能など天敵(のようなものだと仮定する)
・炎上式典:薫の魔術属性「火属性・炎上」を写したもの。紙片が発火し炎上する。これだけだと火力は弱い。
・泥葬式典:薫の魔術特性「融解」を写したもの。黒鍵が刺さった周囲を液状化させ、ずぶずぶと敵を沈める。概念干渉によって液状化させるので熱くはならない。魔術・異能を持たない敵や理性のないバーサーカーなどの足止め用。
・伝令式典:紙片が白い鳩になる。ぽっぽっぽー、くるっくー。と鳴く。偵察用。攻撃力ほぼ無し。幸せな気持ちになる?
・魔術障壁”アイアス”:七本の黒鍵を左手を中心に放射状に展開、ロードライトのバラ色で魔力を染めて、聖概念&投擲防御概念で障壁を展開する。凛のもつ10年ものの宝石は防ぎきれずに1、2秒で崩壊する。魔術であって宝具ではない。
 (遠坂凛の宝石魔弾の強さですが、超の付かない「普通」の強さ(ランクA)と仮定しています。Zero後の弱くなった切嗣が士郎に見せた風の攻撃魔術(長文呪文詠唱あり)と十年物の宝石一個がほぼ同等の破壊力であり、宝石がすごいのはそれを一瞬で撃てるからだ。とかなんとか言っていたので。でも同時に複数使えるので強いとは思います。そうすると障壁魔術ランクC位になるのかな? ……強すぎるかもしれない。いやしかし黒鍵を核にしてるんだから、……うーん)

〇魔術礼装:薫の宝石
 薫と等倍の魔力が封じられた宝石。凛の魔弾には遥かに及ばないが、自身と等倍の魔力を瞬間解放できるというのはそれなりに強いのではないかと思われる。
 ルビー(火)サファイア(氷)ロードライト(聖)アルマンディン(血・伝達)イエローガーネット(地・力)エメラルド(風・治療)アクアマリン(水・治癒)などと仮定する。
 薫の加工した宝石には自然霊が宿っておらず、刻印を刻んで属性を固定している可能性有り。ま、そこまで細かいことはどーでも宜しい。
(設定は、あくまで話のために作られるというのが管理人(私)のスタンスです)

〇飛行魔術 ”火の鳥”
 カレイドステッキの置きみやげ。薫の背中に七本の魔術回路(サブ)として焼き付いたものとする。
 術式を起動すると背中から赤い炎の翼(霊体)が広がり、周囲の魔力を吸い上げ飛翔する。
 魔力放出(技能)ではなく飛行魔術(術式)これにより「魔法の箒、羽付サンダル、魔法のパラソル」などの飛行用魔術礼装がなくても薫は空を飛べる。
 世界の魔術基盤から「鳥・天使・翼ある者・流星・雷・不死鳥・火の鳥」などの概念加護を呼び込み、術者を滑空させるものとする。天翔るもの。
 魔術評価でランクA。他の魔術との併用によりランクA+。
 サーヴァント用ステータス評価で魔力放出ランクC、他の魔術との併用により敏捷はCの上位になるとする。
 魔術回路の起動、翼の展開、魔力の吸収、飛翔。という手順をとるので瞬時の使用は不可。派手に魔力をかき回すので奇襲・隠行は絶望的。移動用なので攻撃力・防御力は上がらない。
 元ネタはカレイドステッキと宝石剣ゼルレッチの融合フォーム「カレイドルビー・シュバインシュタイン」における白い翼(タイプムーン・キャラクターマテリアルより)戦闘機並みの飛行能力だそうです。ただし薫のそれは性能が劣り音速を超えられないとします。
 ちなみに今までの魔力放出はランクE。空中では自転車(ママチャリ)ていどの速力しかなかった。また、吸収しておいた魔力を放出して加速するだけのシンプルで低レベルな魔術だったとします。

〇魔術礼装:ガルドルガンド(呪歌の杖)
「魔法使いの杖」の原型の一つ。主に北欧神話の神官・魔術師が持っていた魔法の杖。
「この願いを叶え賜え」などと願いを掛けると、その願いを叶えようと動き出す、みたいなもの。
 世界中の伝説、伝承に似たような物が沢山あると思われる。
 薫はこれを槍の形で作成し「祈願成就・宣言成就」の杖として使う。それほど凄い物ではなくて、魔力が尽きると動きは止まる。
 作成には凛の助力を得ている。長さはスピア(短槍)に相当し、薫の身長よりやや長いくらいであるとする。
 きっと「お掃除しなさい」などで性能テストされている。

〇魔術礼装:乖離法典デミ・エア。あるいはフレア。
 乖離剣エアを手本に作ることが許された法典礼装。長さ約三メートルで形状はランス(突撃槍)に分類されるとする。
 魔術礼装であって宝具ではない。本来は儀礼用の祭祀礼装であるとする。
 三分割された刀身の円筒に「天の創世」「王と従者の物語」「地の創世」が記されており、天と地が順回転、中間の「王」の円筒が逆回転し「天地を切り裂く」という概念を発生させて効果範囲の物体を概念干渉で破壊する。
 魔術評価でB−(B+)。宝具評価でD−(D+)。とします。神秘の格は高いが、使い手の素質が低い。
 王気(オーラ)により強さが変わるのでギルが使った方が薫が使うより強い。ただし薫には「世界をかき乱す者」というインベーダー属性があるのでそれに気付けばあるいは……。
 天地乖離ス開闢ノ星(エヌマ・エリシュ)に相当する全力全開には耐えられず、一撃でぶっ壊れる。
 きっとドリル、ドリルランス、薫のドリル。などと呼ばれることになる。凛には秘密。
 心棒は鋼(刃金)、円筒は隕鉄、碑文はガーネット、護拳と握り柄の装飾は黄金とラピスラズリで出来ている?
 ちょこちょとと作り続け、完成に数年はかかるでしょう。使用は当分先。しかしやっと書けた。

 こういうのは本文に練りこむのが基本ですが、管理人(私)は設定とか好きなので(苦笑)
 本文より設定が充実するような本末転倒にならぬよう、気をつけます。

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