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 ここは何処とも知れぬ不思議空間。
 タイガとブルマが出現する道場の、恐らくは斜め下にある教室である。
 集まった者達は何故か皆二頭身であり、時代を無視した服装の者がちらほらと集まっている。
 そんな教室の教壇に、金髪を編み込んで後ろにまとめた翠(みどり)色の瞳の少女と、助手の青年が講義内容の確認をやっている。

 ベティヴィエール、ベティヴィエール。気を確かに。世間の冷たい風に負けてはいけません。艱難辛苦を乗り越え、しかし気高く戦い続けることこそ騎士の誉というものです。我々も自身の不遇を嘆くこと無く、……管理人は用済みになってからヤルとして、え? いいから始めろ? 判りました。ふたたび立ち上がる。それもまた騎士の心意気。さすがですベティ。では。



セイバーのアーサー王伝説講義
第八回:ラーンスロット


 アーサー王伝説に登場する人物として、まずは「ラーンスロット」をご紹介致します。
「湖の騎士(Lancelot du Lac:湖のラーンスロット)」の二つ名を持つ非常に優秀な騎士として、アーサー王伝説では大活躍します。
 円卓の騎士、第一の騎士として皆様も名前は聞いたことがあることでしょう。
 しかしです。
 彼は本来、アーサー王伝説には存在しなかった人物であり、つまり二次創作の主人公として誕生し、後に伝説の正規メンバーとして取り込まれたキャラクターであることはご存知でしょうか?
「荷車の騎士ランスロ(Lancelot, le Chevalier de la Charrette」書かれたのは西暦1180年ごろと言われていますが、これが初登場です。
 フランス語で書かれたアーサー王伝説を舞台にしたつまり二次創作で、ラーンスロットと王妃ギネヴィアの相対が初めから盛りこまれています。
 槍の達人、剣の達人、乗馬の達人、馬上槍(ランス)競技で最強・無敵。さらには騎士としての作法は完璧、しかもハンサムといかにもフランス人好みの……げふんごほん。
 つまりフランス人の考えた「最強主人公」です。
 え? 何ですかベティ。言い直している意味が無い? しまった?! 私としたことが。しかし先に進めましょう。
 こほん。
 彼はフランスの地方国家ベンウィックの王バンの息子です。
 このバン王は即位したばかりのアーサー王の支持者となるのですが、長く留守にしたところを敵対者に責め込まれ王家は滅んでしまいます。
 王妃エレインは赤子だったラーンスロットを連れ出すのですが、途中、湖の妖精ニミュエにラーンスロットをさらわれてしまうのです。
 余談ですが、アーサー王伝説に何度も登場する湖の乙女(Lady of the Lake)はヴィヴィアン・ニミュエ・エレインなどと呼ばれますがこれは個人の名前ではなく、種族名・代名詞とも言われます。マロリーの「アーサー王の死」ではヴィヴィアンで統一されています。
 話を戻します。
 アーサーが王として即位した時にラーンスロットはまだ赤子。
 よってアーサーとラーンスロットの年齢差は十五歳以上であり、さらに彼の息子が成人して円卓の騎士となり聖杯をつかみます。彼らの活躍を鑑みると、アーサー王ことわたくしセイバーの年齢は五十歳オーバーであると計算できる訳で────

 む? シロウなぜ床に崩れ落ちるのですか? アーチャーにギルガメッシュまで顎を落としてどうしたのです。なんですかキャスター。年上? それがなにか? メディアはバツイチバツニ、むむっ。バツサン・バツヨンでしたか? それなら私より年上ではないかと……。
 うぉぉおお?! なんと巨大な魔砲を! やめなさい! 作品が違います!

 〜〜しばらくお待ちください〜〜

 ハァハァ。キャスターのマスター、彼女をお願いします。出口はあちらです。

 続けます。
 十八歳になったラーンスロットは武者修業の旅に出ます。ブリタニア(ブリテン島)に渡ったラーンスロットはここでアーサー王と出会い、彼に惚れ込み円卓の騎士となります。
 彼は武勇においても騎士道の具現者としても完璧であり、その人気はーサー王以上となっていきます。
「キャメロンの王者はアーサー王だが、騎士の一番はラーンスロット、ガウェインが二、アーサー王は三番目」と評されます。
 一番人気とも言えるラーンスロットには数多くのエピソードありますので、いくつか上げてみましょう。
 まずは「荷車の騎士ランスロ」の話です。
 とある王子がアーサー王妃ギネヴィアに横恋慕し、彼女と護衛のケイ卿をさらいます。
 ラーンスロットは追いますが、待ち伏せを受けて馬を射殺されてしまうのです。
 重い鎧のラーンスロットは追跡することが出来ません。しかし森で荷車を見つけます。
 当時、荷車は人が乗るものではなく、乗るのは罪人・死体・末期の病人くらいのものだったようです。ただし、この当時とは当時のフランスのことですのであしからず。
 従者に引かせた荷車で移動する彼の噂はたちまち広まり、囚われのギネヴィアも知ることとなります。
 王妃はラーンスロットが騎士道に背いて罰を受けていると誤解します。
 試練を乗り越え、ラーンスロットは王妃を助けだすのですが、なじられてしまいます。
 ラーンスロットは半狂乱になり森を三日三晩彷徨います。なんとか落ち着き、王宮に帰還して王妃と面談、誤解を解いて物語は終ります。
 このようにラーンスロットの物語には始めから王妃とのロマンスが暗示されており、正気を失うFate的バーサーカー属性があったことにもなりますね。
 また「荷車」も重要アイテムなので、ライダーでも面白かったかもしれません。
 荷車に正座して登場する全身鎧のバーサーカー。お笑い宝具になりそうですね。フフッ。
 失礼、げほんごほん。
 彼の物語には恋愛ネタが非常に多く、エレインという同じ名前の女性が次々と登場しますが、なかなか幸せに結びつかないようです。
 母親もエレイン。
 振られて死んで、怨みの手紙と一緒に船でキャメロットに流れ着いたのもエレイン。
 魔法の薬と計略でギネヴィアに化けてだまして身ごもり、後に聖杯を手にするガラハッドを生んだのもエレインです。
 ちなみに、エレインはギリシア神話に登場する世界一の美女「ヘレネー」のフランス語読みです。このため美女というニュアンスがあるので、色々な物語で多用されます。
 まぁ、美人にことかかないといったところでしょう。
 ラーンスロットには身代わりエピソードも数回あります。
 アーサー王の義兄たるケイ卿が旅の途中、多くの挑戦を受けて負傷します。
 そこに通りがかったラーンスロットは彼の武具を借り受け幾多の騎士を退けます。この中にはかのガウェイン卿もいたりしました。
 また、ラーンスロット物語のモチーフ(題材)とも言える「トリスタンとイゾルデ」のトリスタンとも因縁があり、トリスタンと敵対するサラセン(イスラムの騎士)が負傷しているのを見て代役となり、相手の名をあえて聞かずに決闘に出て、結果トリスタンを打ち破ったりもしています。
 このサラセンは後に改宗し、最後までラーンスロットに付き従うこととなるのです。
 そして、ラーンスロットといえば王妃ギネヴィアとの不倫が有名でしょう。
 ある日、二人の密通の現場に十二人もの円卓に騎士に踏み込まれるのですが、ラーンスロットはなんと十二人全員を皆殺しにして逃亡してしまいます。
 そこまでするなら二人で逃げろと思うのですが、一人で逃げます。
 しかし王妃ギネヴィアが不義の罪で火刑になると知るとラーンスロットは舞い戻り、さらに円卓騎士を数多く殺害し、ギネヴィアをかっさらっていきます。
 殺された騎士の中には王妃の断罪に反対し、武装せず平服だった者も含まれていました。わりと見境がありません。
 結果として三人の弟を全て殺されたガウェイン卿は大いに怒り、ラーンスロット討伐を強硬に主張します。
 アーサー王はラーンスロット追討の触れを出しますが、ラーンスロットには人望があり、円卓の騎士の半数がアーサー王の命令を無視します。
 これにより、円卓の騎士は事実上二つに割れてしまうのです。
 戦争になりますが、アーサー王の軍勢はラーンスロットの城を落とすことが出来ません。ラーンスロットも自身の行いに負い目を感じ、一騎討ちには応じず、配下がアーサー王を取り押さえた際にも逃がします。
 教会の仲立ちで王妃を返し、休戦となるのですが、一年後にアーサー王は再び軍勢と共に攻めてきます。
 和議の申し出にガウェインは怒り、ラーンスロットとの一騎討ちを行います。この戦いでガウェインは深手を負います。
 一月が経ち、しかし戦いに進展がないなか本国でモードレッドが反乱を起こすのです。
 ラーンスロットとは休戦とし、ガウェイン卿が先発隊としてブリタニアに戻り戦いますが、傷の癒えないガウェインはモードレッドに敗れ死亡します。
 彼は霊となってアーサーの枕元に立ち「ラーンスロットと力を併せて決戦に挑むべき」と助言します。
 しかしラーンスロットが援軍に来る前に戦いは始まり、アーサーとモードレッドは相打ちとなって果てるのです。
 アーサー王に従った円卓の騎士で生き残ったのはベティヴィエール唯一人とされています。
 責任を感じたラーンスロットはしかし、修道院入りしたギネヴィアを迎えに行くのですが拒絶されます。すると自身も出家し、二人はもう二度と会うことはありませんでした。
 そしてギネヴィアが死んだと聞くと、彼は食事を絶ってその生を終えました。

 二次創作の主人公として生まれたラーンスロットですが、フランスでロマンス担当?としてアーサー王伝説の発展・成長に大いに貢献しました。
 騎士道というものが成立していく中、その思想を体現するものとして彼の存在は手本であり、理想です。
 幸福に生きた人物とは言いがたい彼ですが、その本性は義の人であったことでしょう。
 以上でラーンスロットについての講義は終りです。

 ですがここで少しだけ。
 彼の剣とされる「アロンダイト」について述べましょう。
 ランスロットの愛剣アロンダイトは刃毀れしにくい頑強な名剣で、不幸にもガウェイン卿の弟三人を殺したのもこの剣です。
 ……と、言いたいところなのですが。
「アロンダイト」はアーサー王伝説には含まれないというのが、学術上の決定事項であり定説です。
 つまり、正規とされる「アーサー王伝説」にはラーンスロットがアロンダイトを使用した話は存在しません。ありません。
 ではアロンダイトは何なのかというと、これは三次創作に登場した剣なのです。しかもアーサー王伝説が舞台のものではありません。
 中世が舞台のやや不出来な騎士物語(言い過ぎ)の主人公たる領主の息子が「俺の剣は、かつてラーンスロットが所持していた名剣だ。名前はそう、アロンダイト」とかなんとか言うのが最初であり、つまりアーサー王伝説に含まれない惨事、いや、三次創作的アイテムだったりするのです。
 時折エクスカリバーと関係あるものとされることがありますが、エクスカリバーの兄弟剣はガウェインの「ガラティーン」であり、ラーンスロットの剣は魔剣でもなんでもないというのが正規アーサー王スタンダードですのであしからず。
 ちなみにアロンダイトの名が日本の皆さんに知れ渡ったのは「聖剣伝説」というゲーム用の資料本であるそうですが、よくもまあこんなマニアックな設定を拾い上げたものです。アーサリアン(アーサー王伝説ファン)に謝って欲しいくらいですね。
 しかしアロンダイトは謂わばゲーム設定なのですから、ここは目くじらを立てず、娯楽作品に使用するのもアリではないかと考えます。

 ラーンスロットは二次創作キャラクター。フランス人が考えた最強主人公。ロマンス担当。割と不幸な人生でした。アロンダイトは三次アイテム。この辺りが押さえるツボだと思います。
 では今度こそ今回の講義を終ります。

 ああ、ラーンスロット。貴男こそ私の代理戦士(チャンピオン)でした。私が悪かったのか、貴男が悪かったのか、それとも運命の巡り合わせが悪かっただけなのか、考えずにはいられない。友よ、あなたは善き騎士であったのだ。

 ふらふらしながら溜息を付く少女(推定五十歳以上)を視線で気遣いながら、ベティヴィエールは口を開いた。
「続いて「王妃ギネヴィア」です。不貞の王妃としてやや不人気の彼女ですが、これは伝説の変遷により後付けされてものであり本来は無個性だった。その名前も変化していったことなどが語られる予定です」

07アーサー王の死   09ギネヴィア

あとがき
 アーサー王の年齢を試しに計算したら凄いことに。まぁ、諸説様々ですが。
・アーサー王(年齢差15位?)ランスロット(親子)ガラハッド(騎士となり聖杯に至る)
 15+20(仮定)+18(成人)+α=53+α
 ……SS書くときは忘れることにします(苦笑)
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