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 ここは何処とも知れぬ不思議空間。
 タイガとブルマが出現する妖しい道場の、恐らくは斜め下にある教室である。
 集まった者達は何故か皆二頭身であり、時代を無視した服装の者がちらほらと集まっている。
 そんな教室の教壇に、金髪を編み込んで後ろにまとめた翠(みどり)色の瞳の少女と、助手の青年が講義内容の確認をやっている。

 ふふふふふ。さぁベティヴィエール、第二クールの始まりですよ。これよりは我が栄光の騎士達を紹介するとともに、アーサー王伝説のついての詳細に踏み込みます。この極東の地で我々の伝説を知る者が増えていく。ああ、感無量です。
 む? 微妙に人が少ないような? むむむ?! シロウと凛が一番後ろの席にいるとはどういうことか?! 前に連れて……。え? 止めろ? 勘弁してやれ? おかしなことを言いますねベティ。まぁいいでしょう。貴方のことです。きっと深謀遠慮があるのでしょう。では……。


セイバーのアーサー王伝説講義
第七回:トマス・マロリー「アーサー王の死」


 第一クールにおいては、アーサー王伝説の概略と成り立ち。皆様が関心を持っているであろうエクスカリバーなどに焦点を置いて講義をさせていただきました。
 続きますこの第二クールでは、伝説に登場する「人物」について掘り下げて紹介していく予定です。

 しかしです。

 アーサー王伝説には様々なバージョンがあり、時代と共に多くの書籍があるのです。よって全てについて述べることなどとても出来ません。それらについては興味を持たれた皆様が、面白そうな本を手に取っていただくことに期待いたします。
 そしてここではアーサー王伝説の集大成とも言われる「Le Morte D' Arthur(邦題「アーサー王の死」)」を基本といたします。
 そのため、今回はまず「アーサー王の死」について概略を述べさせていただきます。

 イギリスから海を渡ってフランス・ドイツへ、そして再び海を渡ってイギリスへ。
 五世紀が舞台とされるアーサー王伝説ですが「アーサー王の死」が書かれたのは十五世紀となります。
「アーサー王の死」は歴史書ではなく、アーサー王伝説を題材とした多くの物語を、トマス・マロリーが一つの騎士物語としてまとめ上げたモノ。いわば「伝説から娯楽へ」変化したアーサー王物語です。
 これが印刷業者ウィリアム・キャスリンにより編集され、二十一巻で出版されました。
 以下に内容を簡単に列挙します。( )内が巻数です。

・アーサーの誕生秘話。ログレス国王アーサーの即位(1)
・アーサー王の戦い(2)
・ギネヴィアとの結婚。その他(3)
・集まる騎士達のその活躍など(4)
・ローマ帝国との戦い(5)
・ランスロット卿の冒険(6・7)
・トリスタンとイゾルデの恋(8)
・ケイ卿の活躍。ラ・コート・マル・タイユ卿の活躍(9)
・トリスタンとイゾルデの逃避行。円卓の騎士達の馬上試合。モルガンの暗躍(10)
・ランスロット卿の物語(11)
・ギネヴィア王妃との密通は結果としてランスロットを狂気に堕とす(12)
・ランスロットの子ガラハットが円卓の騎士となる。聖杯の出現(13)
・聖杯探索の開始、アーサーは不参加(14)
・聖杯探索編、ランスロットの場合(15)
・聖杯探索編、ボールスとパーシヴァル(16)
・聖杯探索編、完結編。聖杯とロンギヌスの槍はガラハットと共に天に帰る(17)
・ランスロットとギネヴィアの密通が露呈。円卓の騎士同士の諍い(18)
・火炙り寸前のギネヴィアをランスロットが助ける。フランスの故郷に逃げる(19)
・モルドレッドが反逆。カムランにおける最後の戦い(20)
・アーサー王の死。ギネヴィアは修道院へ、ランスロットは隠棲し王妃の死後に絶食し死亡(21)

 どうでしょうか? このようにアーサー王伝説はボリュームがあり、現代日本の文庫に加工したとしても、一巻ごとが本になる程度の内容を持つのです。
 では更に、全体のあらすじを解説いたします。

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「アーサー王の死」by トマス・マロリー。

 5世紀のブリタニア、南西部のコーンウォール地方に、一帯を治めていたゴルロイス公という王がおり、 その王妃イグレーヌはとても美しく聡明であると有名でした。
 ログレス王国の国王ウーゼルはイグレーヌを欲しがり、彼女を奪うべくコーンウォールに攻め入ります。魔法使いマーリンの魔法でゴルロイス公に姿を変えてイグレーヌを欺き床を共にし、ゴルロイス公は戦死します。
 この後、ウーゼルとイグレーヌは結婚。生まれた子供はマーリンの助言に従い彼に預けます。その子供がアーサーです。

 マーリンによりアーサーはウーゼルの臣下エクター卿にあずけられ、彼の息子ケイと一緒に育てられるとことなります。
 アーサーが15歳になった時、カンタベリー大寺院の前に不思議な石が現れます。石の上には鉄床が置かれて剣が突き刺さっており、剣にこう書いてありました。
「この剣を抜いた者は全イングランドの正当な王としてこの世に生まれたものである」
 何人もの騎士や諸侯が試しましたが誰もこの剣を抜くことができませんでした。
 ある日、馬上槍試合で近くに来ていたケイは、自分の剣を忘れたことに気付きます。
 供をしていたアーサーは剣を取りに帰ろうとしましたが、何の気なしに石に刺さっている剣を抜いてケイに持っていきます。 ケイは驚くものの、父エクターに自分が抜いたと嘘をつきます。しかし嘘はすぐにばれ、アーサーが抜いたことが判明します。
 これによりアーサーはイングランドの正当な王として即位し、都をキャメロットと定めます。

 アーサーはこのように王となったのですが、近隣の王達は彼を認めませんでした。すぐ戦争が始まります。
 戦いのさなか、アーサーは自分の剣を失います。するとマーリンはアーサーをとある湖に連れて行き、湖の中から伸びた乙女の手に握られている剣を見せます。
 この剣がエクスカリバーです。アーサーはエクスカリバーを手に入れます。
 その後、アーサーは戦争には常に勝利し、皆臣下にしてしまいます。
 更にはアーサーは人食い巨人を倒したり、多くの国を征服したり、果てはローマまで遠征してローマ皇帝に即位したりしています。

 このあたりでランスロット。トリスタンとイゾルデ。ケイなどの話が語られます。

 アーサーが遠征から帰ってくると、オークニー領ロット王の妃モルゴースがキャメロットに訪れ、アーサーは不倫をしてしまいます。モルゴースはアーサーの実の姉なのですが、アーサーは知らなかったことになっているようです。
 その時できた子供が後に王国を滅ぼすモードレッドとなります。
 なお、モルガンとモルゴースは別人ですが、よく混同されたり同一人物と扱われたりします。
 マーリンはこの子供が破滅をもたらすと預言し、アーサーは五月一日生まれの子供を海に流すように命じます。しかしモードレッドは海岸に流れ着き、修道院で育てられることとなります。後に彼は優れた騎士として円卓の騎士の一員となります。

 戦争が終わり、諸侯が次々と挨拶に来る中にサナム公の王女ライオノースがいました。 ライオノースはとても美しく、アーサーは一目で気に入り床を共にし、男の子が生まれます。結婚はしませんが。

 そしてアーサーはロデグランス王の王女グィネヴィアに一目惚れします。
  マーリンは反対しましたが、アーサーはグィネヴィアを妃として迎えます。
 グィネヴィアの嫁入り道具の1つに円卓がありました。 この円卓は故ウーゼル王の持ち物だったという説もあります。
 大きさは資料によって様々で、1600人が着席できるとか、150人だとか、 24人だとか、13人だとか色々です。

 多くの騎士を迎え、円卓の騎士団が結成されます。その中にフランスから来た騎士ランスロットがいました。
 ランスロットは強く、美しく、聡明であったので、多くの者から尊敬と恋慕の情を集めます。
 ですがランスロットとグィネヴィアは恋に落ち、これが後に破滅を呼びます。

 ランスロットは旅の途中、竜を退治し、呪いの熱湯で茹で続けられている美しい姫、エレインを助けます。
 エレインはランスロットに愛を告白し、父親のペレス王もランスロットと娘の結婚を望みます。
 しかしランスロットは王妃への愛を貫き、求婚を拒否します。
 そこでペレス王は魔法でエレインをグィネヴィアの姿にし、ランスロットは魔法にかかり彼女を抱きます。
 翌朝、魔法が解けてランスロットは激怒しますが、エレインとペレス王を許します。この時できた子供が後に聖杯の騎士となるガラハッドです。
 ランスロットがエレインに子供を生ませたという噂は王妃のもとにも届きます。王妃は怒り、ランスロットを不実と罵ります。しかし、ランスロットがいきさつを説明すると、王妃はこれを許します。

 ある時、アーサーは大宴会を催します。するとエレインも来場となりました。王妃はランスロットに、夜は必ず自分の部屋に来るようにと約束させます。
 一方、エレインも王妃に嫉妬し、再び魔法で王妃の姿に変身し、先回りしてランスロットと過ごします。王妃と一緒にいると勘違いしたランスロットは、寝言でそれを大声で口走ります。
 隣の部屋にいた王妃はそれを耳にし、まただまされたランスロットは部屋を飛び出す。
 廊下で王妃と顔を合わせ「裏切り者、二度と顔を見せないで」と罵られ、ランスロットは発狂してそのままどこかへ行ってしまいます。

 2年間、ランスロットは発狂したままで森をさまよいます。ある日ランスロットは偶然、エレインのもとに現れます。エレインとの静かな暮らしでランスロットは正気に戻り、しばらく隠れるようにして暮らしていました。 息子のガラハッドが大きくなり、ランスロットはガラハットと共にアーサーの元へ戻ります。
 ある時アーサーはキャメロットで馬上槍試合を催します。ランスロットはキャメロットに行く途中で身分を隠し、ベルナルド卿の城に立ち寄ります。
 ベルナルド卿の娘、エレイン(上記のエレインとは同名の別人)は彼にひとめ惚れしてしまい、求婚します。ランスロットは未だに王妃を愛していたので断ると、エレインは失望のあまり病にかかり死んでしまい、その遺体は遺言により小舟に乗せられテムズ川に流されました。
 するとキャメロットにこの小舟が流れ着き、人々は大変同情しました。

 この場面は「赤毛のアン」で、小船が沈没してギルバートに助けられるエピソードの元になっているそうです。
 え? それは関係ないだろう? 良いではないですか。これもアーサー王伝説の懐の広さを示すものですよベティ。げふんごふん。失礼。

 ガラハッドは成人し円卓の騎士の一員となります。
 ある日、王宮に雷鳴と共に聖杯の幻影(?)が出現します。 聖杯は豪華な料理や飲み物を騎士たちに与えると消えてしまいました。
「聖杯」はキリスト処刑の時、流れた血を受けた器だとされますが、原型はケルト神話におけるアンウンの大釜コルドロンだと言われます。いわゆる「魔法の大釜」で、豊穣をもたらす大地の力を象徴するようです。食べ物が出てきたり、中の薬で死者が生き返ったりします。

 アーサーは円卓の騎士たちに聖杯の探索を命じます。自分は探索には行きません。
 多くの騎士たちが空振りするなか、ランスロット、ガラハッド、パーシヴァル、ランスロットの従兄ボールスは聖杯の安置された城に辿り着きます。
 しかしランスロットは王妃との不義の罪により聖杯を手にすることはできませんでした。 ガラハッド、パーシヴァル、ボールスはそれぞれ聖杯に辿り着きますが、持ち帰ることにはなりません。
 そして神に選ばれたガラハッドは、聖杯と共に天に昇って戻ってくることはありませんでした。

 聖杯探求から帰ったランスロットはまたグィネヴィアと逢瀬を重ねます。ランスロットのことをよく思っていないモードレッドとアグラヴェインは、 夜、ランスロットが王妃の部屋に入ったところを取り押さえます。
  ランスロットは逃げるのですが、不倫の発覚したグィネヴィアは法により、火炙りにされることになってしまいます。
 処刑の寸前、ランスロットは王妃を救い出します。しかしその際、円卓の騎士ガレス、ガヘリスというガウェインの兄弟を殺してしまいます。
  ランスロットは祖国フランスへ逃げますが、2人の弟を殺されたガウェインは怒り、アーサーに戦争をするよう進言します。

 ガウェインの怒りは収まらず、アーサーはしかたなくフランスへ兵を進めます。
 ランスロットはアーサーと戦う気は無く、和睦を申し入れグィネヴィアをアーサーの元へ送り返しますが、ガウェインの怒りは静まりません。
 そんな時、留守を任せていたモードレッドが反乱を起こします。 アーサーは急ぎキャメロットに戻り、モードレッドと戦います。
 これ以上戦えば両軍ともに全滅するかという状況となり、和睦を結ぶことをなりました。ところが1匹の蛇が騎士の1人に近づき、その騎士は剣を抜いてその蛇を殺してしまいます。
 そして剣を抜いたことで戦が始まってしまったのです。アーサーはモードレッドを殺しますが、同時に致命傷を負ってしまいます。

 己の死を悟ったアーサーは、ベディヴィエール卿にエクスカリバーを湖に投げるよう命じます。何度かの迷いの後で剣を投げ、ベディヴィエールが元に戻ってくると、海に小船が浮かび、そこには喪服を着た妖精の貴婦人たちがいました。 アーサーはその小船に横たわり「私はこれからアヴァロン島へ行き傷を治すのだ」と言い、 小船は岸を離れ霧の中へ消えていきます。

 アーサーの死後、グィネヴィアは修道院で尼となります。ランスロットはモードレッドの反乱を聞き駆け付けましたが時既に遅く、全てが終わった後でした。
  グィネヴィアが尼僧になったことを知り、彼は隠遁生活を送ります。やがてグィネヴィアはこの世を去り、その後ランスロットは食を断って祈り続けながら死を迎えました。

 そして偉大なるアーサー王の墓にはこう書かれているといいます。
「ここに過去の王にして未来の王、アーサーは眠る」
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 これが「アーサー王の死」のあらすじで、アーサー王伝説のスタンダードとして扱われているお話です。オリジナルはしっかりと書かれた文学作品ですので、機会がありましたら原典に当たるのもよいでしょう。
 再開1回目の講義はここまでといたします。
 次回よりこの「アーサー王の死」に登場する騎士たちを紹介していくこととなります。では今回はこれで失礼いたします。

 どうですかベティヴィエール、数多くある異なる物語の中からこれだという基準を選定し、その実像と内容を紹介する。再開の一手、まずは上々でしょう? ふふん。私とて頑張っているのですよ。
 ……しかし私も含め、騎士達の名前が資料によって大きく違う。人物や円卓の登場タイミングなども様々です。どれで統一すべきか頭の痛いところです。ふぅ。では後は頼みましたよ。


 講師たる彼女が出て行くと、公聴席から大きなため息が聞こえてくる。中には祈りを捧げる者もいた。ベティヴィエールは「大丈夫です。大丈夫です。もう黒くないです」と聴講生に声を掛けてからこう言った。
「次回は騎士ランスロットと王妃グィネヴィアについてご紹介いたします。ランスロットは元はアーサー王伝説に居なかった人物であり、王妃グィネヴィアは時代により性格が変わっていった。などということが解説される予定です」

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2008.10/4th

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