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 ここは何処とも知れぬ不思議空間。
 虎の竹刀を持つ女性とブルマの少女がいるという妖しげな道場の、恐らくは斜め下あたりにあるのはないかと思われる教室である。
 聴講席の側に集まった者達は何故か皆二頭身であった。紐で吊られた少年。煙草を咥えたやさぐれツーテール少女。青黒い髪のヘタレ少女。他にも時代を無視した装束に身を包んだ者がちらほらと集まっている。
 そんな教室の前にある教壇に、金髪を編み込んで後ろにまとめた翠(みどり)色の瞳の少女が、傍らにいる助手の青年に向かって講義内容の確認をやっている。

 資料の用意はいいですかベディヴィエール、何事も最初が肝心と言います。この極東の地では、まだまだ我々の伝説は知られてはいません。嘆かわしいことです。この企画はそれを打開し、我が栄光の騎士達の活躍と栄光、そして悲運を知ってもらう絶好の機会なのです。聞いているのですかベディヴィエール。準備万端で心配はない? 油断はいけませんベディヴィエール。一時の油断が危機を招く。貴方も騎士ならそれが真理であると戦場で嫌と言うほど……、なんですか? 早く始めろ? まぁいいでしょう。後でじっくり話し合いましょう。そもそも貴方は、え? 待たせてはいけない? おお! 私としたことが、つい熱くなってしまったようです。さすが我が騎士。的確な助言でした。げふんげふん。では……。

セイバーのアーサー王伝説講義
第一回:伝説の背景


 皆さんこんにちは。私が本講義「アーサー王伝説講義」を担当させていただきます「Fate/stay night」のサーヴァント・セイバー。アーサー王ことアルトリアです。どうか以後もよろしくお願いします。
 さて、この講義の目的を最初に説明させていただきます。
「アーサー王伝説」ヨーロッパ最大の伝説であるこの物語ですが、小説やゲームの題材として広く用いられ、また知られている現状に比べ、その中身、つまり実際の物語としてそして伝説としてのアーサー王伝説は何故か知られてはいないのではないでしょうか。
 そもそもアーサー王伝説はヨーロッパ文化圏において最大規模の伝説であり、ギリシャ神話やローマ神話のボリュームや知名度を遙かに超えている。などといったこともご存じないのではありませんか?
 よってこの講義では知ってるようで知られていない「アーサー王伝説」について、その内容と変遷。背景知識と雑学などを取り上げていきながら皆さんに知っていただこうというモノです。
 今回は初めてということもあり、まず伝説が語られる世界背景についてお話しいたします。

 アーサー王伝説の舞台は日本人が言うところのイギリス(現地の人は自分の国をイギリスとは言いませんが)、フランス、そして今で言うイタリア半島というかローマ帝国の首都ローマです。
 アーサー王伝説の背景を理解するためには、まずローマ帝国の歴史について述べなければならないでしょう。
 まず一世紀に、当時のローマ皇帝が遠征を行い、ブリテン島の南半分を領地にしました。これがローマ帝国最北の州「ブリタニア」と呼ばれるようになりました。
 ちなみに北半分はサクソン人やピクト人と呼ばれる異民族。つまり基督教を信仰しない民族の勢力下で、この境界線としてブリテン島のほぼ中央、島を横断するように長城が作られました。東洋で言う万里の長城のようなもので、今でもその一部が残っています。

 え? なんですかベディヴィエール。話がそれている? この位は許容範囲でしょう。ごほんげほん。

 ブリタニアはローマ帝国の侵略以前はケルト人の勢力範囲でしたが、ローマ帝国の支配は異民族に対してそれなりに寛容であり、帝国の支配と国教となった基督教を認めれば独自の文化や信仰を許容するものでした。
 これによりケルト人は分かれます。
 すなわち、ローマ帝国の支配を受け入れブリタニアに暮らすようになったローマンケルト(ローマ化しローマ人と混血が進んでいく)。そして帝国の支配と基督教を拒否し、ローマ帝国の支配が及ばなかったウェールズ地方やアイルランドを主な勢力下とするケルト人です。
 成立直後からブリタニアは、ケルト人、サクソン人、ピクト人と時折戦争を繰り返していきました。
 そして偉大なるローマ帝国にも衰退の影が忍び寄ります。
 東から勢力を広げたゲルマン人に、ガリア平原の支配権を事実上奪われます。また中央から離れた州での異民族との戦いにローマ軍を送ることが難しくなっていきます。
 ちなみに「ガリア」とは今で言うフランスを中心に東は現ドイツの一部、西はスペインの半分ほどをしめるヨーロッパの大平原だと思ってください。ただし平原といっても大部分は当時森ですが。
 話を戻します。ブリタニアにとっての運命の五世紀。ローマはブリタニアを切り捨てます。
 ローマ帝国はブリタニアに対して自治を行えとの宣言を出し、軍隊を引き上げます。この宣言以来、ローマの公文書からブリタニアの記述が消えます。
 一応、独立自治を認めるとの体裁を取ってはいるのですが、これは事実上、ローマ帝国がブリタニアを放棄したことを意味します。
 見放されたブリタニアでは混乱が起こります。ブリタニア州の守備をしていたローマ軍は引き上げてしまう。異民族は攻めてくる。州の各地の領主が勝手に王を名乗り、ブリタニア内での戦争を繰り返す。国内にまとまりはなく、まさしく麻のように乱れた暗黒の時代となります。
 余談ですがヨーロッパにおける「中世」とはまさにローマ帝国崩壊から始まっており、五世紀から十五世紀までの実に千年間を中世と呼ぶようになるのです。
 そしてこのブリタニア暗黒の五世紀後半〜六世紀前半がアーサー王伝説の舞台になっています。

 そうです。この、ブリタニアの誰もが不安におびえていた時代に、多くの王達をまとめ上げ、ブリタニアを統一し、異民族の脅威をはね除けるべく現れた救国の英雄王。
 それが「アーサー王」なのです!

 こほん。以上を以て第一回「伝説の背景」の講義を終わります。以後もアーサー王伝説を知ってもらうべく、簡易でユニークな講義内容を心がけますので、皆さんどうかまた聴講に来てください。

 どうでしたかベディヴィエール、つかみはオッケーというやつでしょう? ええ、私は早速次の講義の準備に入ります。後は頼みますよ。

 講義を行った少女セイバーは教室を出て行き、聴講席に着いていた者達も動き出す中、ベディヴィエールと呼ばれていた青年が声を上げた。
「次回の講義テーマは「聖剣ではありません」です。なぜか聖剣と述べられることが多い王の剣エクスカリバーですが、実際のアーサー王伝説では聖剣ではありませんし、ヨーロッパでも聖剣と思う人はいません。どうして聖剣と呼ばれるようになったかは我々は知りませんが、真実あるいは伝統を知ってもらうために次回からは「聖剣」そして「エクスカリバー」についての講義になります」

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