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黄金のプチねた#82憶えていますか?

 教会裏手の開けた土地に、温い夜風が吹き込んだ。星明かりが照らすその土地に、短剣、刀剣、槍や大鎌といった武器類が突き立てられていた。
 それら剣林を囲むように、円状に溝が掘られて少女がそこに油を注ぐ。少女、言峰薫は溝の油に火をつけた。炎は走り、薫と武器たちを取り囲む。

 今ここに、薫と武器しかいない閉じた世界(結界)が形成された。

 アゾット剣、騎士長剣(ロングソード)、騎兵刀(セイバー)、細身剣(レイピア)、短槍(スピア)、投擲槍(ジャベリン)、処刑鎌(デスサイズ)、斧槍(ハルバード)、突撃槍(ランス)など、大地に突き立つ武器の大半は、薫が作った魔術礼装。
 しかしそれ以外にも武器はあり、日本刀や薙刀、素槍やランサー(ドイツ式十字槍)、大型戦斧(バルディッシュ)などもある。

 結界の中心で、薫は一人、心を静める。
 見渡せば、ここは炎に囲まれた武器の世界だ。そこに立つ己という観察者の視点を以て、この情景を世界と見なす。燃え上がり、揺れる炎は世界の果てで、炎に照らされ光る武器が世界の住人。そして言峰薫こそ、この世界を作り上げた神にして支配者だ。
 薫は世界に呼びかける。

──── I am the born of my sword.(カラダはツルギで出来ている) ────

 自身の心象世界を以て、現実を浸食して塗りつぶす固有結界。その断片に、薫は何度か抵触している。
 マジカルルビーの心象世界。切嗣が使う固有結界の亜種たる固有時制御。
 それらの感触を頼りにし、禁呪の領域を探求する!
 薫は額に汗を浮かべ、目を閉じ唇をかみしめる。
 己の属性たる「火」を以て領域を設定し、自分が生み出した武器たちを支柱と成して形成したのがこの世界(結界)だ。
 しかし二本しかない魔術回路が悲鳴を上げる。結界内に充満する自分の魔力が荒れ狂う。サンプルとモデルとなるイメージはあるものの、薫の資質が求めるものに届くことを許さない。
 薫は閉じた目を開ける。手にしたのは祭器たる乖離法典。天地を定めた神話の記述、其れを以て結界という閉じた世界を支配する力と成す。
 もう一度呪文を唱えてみる。

 ──── I am the born of my sword.(カラダはツルギで出来ている) ────

 しかし呪文は空回りするばかり。
 当然だ。この世界もこの呪文も借り物で、決して自分のものじゃない。せめて異界化して支配下におけないものかと頑張ってみたのだが、どうにも適正がないらしい。
 薫は、ふぅと溜息ついて結界を解除した。炎も消えて、再び夜風が吹き抜ける。
「体は剣で出来ている。か」
 薫はもう一度、小さく溜息をついていた。
「……だめだ、もう。最後に“アンリミテッドブレイドワークス”っていうのしか思い出せない」
 だめだこりゃ。頭を振りつつ、薫は武器を片付けだした。


あとがき
 管理人(私)もあの呪文を覚えてはいません(笑)
2009.7/19th
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