黄金の従者#76キャッチ&リリース
「もぉぉぉおおお! 馬鹿ぁーっ!!!」
冬木市の海岸線。港から少々離れた岩場から、海に岩が投げられた。
人の頭ほどもある岩を投げ入れたのは薫である。一体何があったのか、口はムスッとへの字型。目が少し赤かった。
くすんと小さく鼻をかむ。空を見上げたその後に、街の方へと身をひるがえそうとしたのだがつんのめる。
「えええええ?!」
海面に、人間らしきものがぷかぷかと揺れていた。やばい?! 潜っている人がいて当たったか?!
飛び込もうかと身を乗り出したが、あれっと薫は静止した。
「で、連れてきた。と」
遠坂凛はこめかみを揉まずにいられない。
場所は変わって遠坂邸の応接間。緊急事態と連絡受けて、待っていると弟子が何かを持ってきた。
大きなタオルで体を巻いた、ちょっと小柄な女の子。しかしである。
「やめてー、うちは脂乗ってへんから美味しゅうないー」
タオルを巻いた中から魚のシッポがはみ出ていた。
「助けてお父ちゃーん、うちはまだ初恋もまだですよって、後生やー」
額にたんこぶのある人魚の少女を、この馬鹿弟子は持ってきた。
「どうしましょうか凛。新古今和歌集か宇治拾遺物語には人魚を食べて「美味しかった」との記述があったように思うのですが」
やめてー、かんにんしてー。
「薫、それは猿ぐらいの小型人魚よ。人型の大型人魚の話じゃないわ」
こわいよー、おとうちゃん、おかあちゃーん。
「そうでしたっけ? それはともかくどうしましょうか。教会に持っていくと問答無用で活け作りになりそうなのですが」
真面目な顔でとんでもねーことを口にする薫と、泣きながらピチピチと尻尾を振る人魚の少女。
遠坂凛はため息をついた後でこう言った。
「捨ててきなさい」
あとがき
瀬……いえ、なんでもありません。冬木市がどんどん不思議空間になっていきます(笑)
2009.6.6th