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カーニバル・ファンタズム記念:ファンタズムーンvsカレイドルビー?

「タ〇プムーン・タイプム〇ン。身体は何でできている?」
 アルクェイド・ブリュンスタッドは変身する。
 振り上げたピンクの杖は魔女っ子ステッキ。しかしプラスチックのオモチャの杖は光らずに、彼女の身体が光り輝く。光の粒子が振りまかれ、ピンクの光が帯となって身を包む。
 光が弾けた。
 金の髪に飾られるのは欠けた月。肩と背中を大胆にさらした白いウェアは胸のラインを強調し、短すぎる青いプリーツスカートはお尻のラインを如実に描く。白と金の長手袋とロングブーツが素肌を隠し露出度を下げてはいるが、大胆かつセクシーで、ついでに言うなら恥ずかしい。
 彼女は笑顔でポーズをキメる。
「口八丁手八丁、月面に咲いた一輪の花。────ファンタズムーン!!!」
 名乗りと共にステッキを振り下ろすと、やっと杖は輝き三日月が描かれる。

 巷で話題の趣味と実益の助っ人魔法少女、ファンタズムーンが現れた。

「な、なんなんですか、あれは?」
 げんなりしているのは眼鏡を掛けた女子高生(に擬態中の)シエルだった。その視線はストーカー男に蹴りを入れるファンタズムーンに釘付けだ。
「シエル先輩、なんだって、どっちですか」
 眼鏡を掛けた高等部生徒。遠野志貴はシエルの横で、しかし後ろを向いている。
「先輩」
 志貴がシエルを呼ぶものの、彼女は後ろを見ようとしない。引き攣る彼女の眼鏡の奥で、青い瞳が右に左に泳いでいる。
「先輩、こっち見てください。シエル先輩」
 志貴に頼まれシエルは嫌々振り向いた。
「「「ルートはいやぁー! る・う・と・は・い・ゃ・あ・あ!!!」」」
 怪獣が暴れていた。
「遠野くん! 何ですかあれは?!」
「俺に聞かないでよ先輩?!」
 五階建てのビルより高い怪獣はデフォルメされた少女のような風体で、頭上に闇の塊のようなものを浮かべている。
 のっぺりとした顔の上にはスライムを塗って伸ばしたような髪の毛らしき触手が足までベロンと伸びている。からだはゼリー状で、形はてるてる坊主によく似ていた。
「「「ルートはいや・ルートはいや」」」
 怪獣(?)は悲しげに大通りを行進していく。
「先輩、あれもアルクェイドが?」
「どうなんでしょう。彼女(真祖)の力(空想具現化)は自然現象の書き換えに限定されていて、あのような怪生物はつくれないはずなんですが」
 志貴とシエルは顔を見合わせる。その向こうでは怪獣が「ルートはいや」と繰り返しながら進んでいく。
「あー面白かった。ねぇ志貴、シエル。あれなぁに?」
「「「知らないんですかアルクェイド?!」」
 気がすんだのか戻ってきたアルクェイド。だが彼女には怪獣の心当たりがないようだ。
「そうよ。私はガイア(自然)側なのよ? あんな妄念の塊なんて作れる訳ないじゃない。失礼しちゃうわね」
 ぷんぷん怒っている。シエルは志貴と一緒に頭を抱えた。そんな二人を目にした彼女は言った。
「判ったわ。怪獣はファンタズムーンがやっつける!」
 数日前に観たという子供向けアニメ映画がよほど気に入っているらしい。
「そこまでよトラウマ獣!」
 あ、そういう名前だったんですね。シエルは深く考えるのを放棄した。
「心の隙間に付け入られた可哀想な貴女。その辛い思い、私が忘れさせてあげる。いっくぞぉ! マジカルサーキット・フルカウント、マーブルファンタズム!!」
 ポーズを決める。絶対領域に守られながらミニスカートをヒラヒラさせる吸血鬼に、シエルの頭痛が悪化する。
 かつて月を具現化し地表に落としたという超級の超抜能力『空想具現化(マーブルファンタズム)』だが、まさか真祖達も魔女っ子に変身するために使われるとは思ってなかったことだろう。
 アルクェイド、もといファンタズムーンが良く判らない光芒を怪獣に撃ち放つ。
 しかし光はかき消された。
「効かない?! そんな、どうして?!」
 愕然とするファンタズムーン。怪獣の髪がたなびきうねり、ファンタズムーンを吹き飛ばす。
 悲鳴を上げて空中に飛ばされる。しかし彼女を空で受け止めた者がいた。
「え? 誰?!」
 緩く波打つ黒髪をサイドアップテールに結んだハイティーン。笑みに緩む頬の上で青い瞳が優しく光り、身を包むのは真紅のドレスと白く眩しい肩掛けマント。ネコ耳を頭に乗せて、ネコのしっぽがお尻から伸びている。
 手にしているのは魔女っ子ステッキ、金の星を収めた白い輪っかに翼が生えて、ピンクの握り柄が伸びている。
「愛と正義の執行者カレイドルビー。別の世界からやってきた、もう一人の魔法少女!」
 手にした杖を一振りすると、キラリと光りピコーンと音が鳴る。
 アルクェイドはキラキラとした目を向けた。
「私の他にも酔狂な人がいたんだ」
「酔狂とか言わないでくれる?」
 カレイドルビーさんのテンションが一気に下がった。しかしルビーはくじけない。
「あいつは私の街から逃げ出した怪物よ。一緒に戦いましょう」
 ルビーが拳を握りしめた。
「えー、あれアンタの敵なんでしょう。わたし関係なーい」
 あさっての方に顔を背けるファンタズムーン。カレイドルビーは言葉を失った。
 ひゅぅぅうう。砂埃が舞い上がる。
「一緒に戦いましょう!!!」
 カレイドルビーは負けなかった。手を取り顔を近づける。
「うーん」
 しかしそれでもムーンさんの反応は鈍かった。
「────ねぇ?!」
 ルビーの顔に浮かぶ汗のしずくが、焦りと意思に輝いた。
「ぁぁ、ハイハイ」
 あんた言うとおりにしないと酷いわよ。そんな心の声が聞こえたか、ファンタズムーンは頷いた。
 二人は並び、そろって杖を振り上げる。
「愛と正義の執行者、カレイドルビー」
「白き月姫、ファンタズムーン」
 輝く杖を突きつけた。
「「合体魔術! マーブル・ファンタズマルフォース!!!」」
 現れる二筋の光の柱、無数の三日月と十字架が奔流となって放たれる。混じり合った極光は黃金の光輝となって、怪物を貫いた。
『『お願い。悲しみの連鎖を止めて』』
 魔法少女の祈りが光と共に、怪物の内へと染みていく。その直後、バラ色の閃光がトラウマ獣の身体を引き裂き、内側から吹き出した。
 光のなかに、祈る少女の姿が浮かぶ。
(攻略ルートなんていらない、だって私はインベーダーだから……)
 少女は涙を流しながら切なげに微笑んだ。
(ごめんなさい)
 流れ落ちた涙を残し、少女は光と共に薄れていく。

 そして、消えた。

 夕焼けに染まった街に背を向け、カレイドルビーはつぶやいた。
「さよなら、聖杯モンスターになってしまった私のXXX。二次創作が招いた悲劇だったのね」
「お祭りだと思ってメタなこと言うの良くないわよ。作品の質が落ちるわ」
「また会いましょう。もう一人の魔法少女ファンタズムーン! とうっ!!」
「スルーかよ」
 ファンタズムーンの言葉はカレイドルビーの背中にあたって跳ね返された。ルビーは空に飛んでいく。
 飛び去る魔法少女を遠野志貴は見送った。
「カレイドルビー、一体何者なんだ?!」
「いえ、遠野くん。それはこの際どうでもいいんじゃないでしょうか。むしろ私の出番これだけですか?!」
 シエルはガクッと肩を落としてうなだれた。


あとがき
 カーニバル・ファンタズム、月姫系で一本。……を書こうとしたのですが、短い小話だとアレンジが難い。TakeMoon.カーニバル・ファンタズムEXをアレンジしてみる。基本、絶対に使わないと誓っているメタな発言も入れてみました。
2012.1/16th
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