黄金のプチねた#121宝具目録
「撮りまーす」
言って薫はシャッターボタンを押し込んだ。パシャリと音が小さく響き、ジーッとモーター音がする。そして写真が吐き出された。
ポラロイドカメラです。
画像がクッキリ出るのを待たずして、薫は次から次に撮影を続けていく。夜空に瞬く星より明るく、カメラのフラッシュがピカピカ光る。写した写真はシートの上に並べ置き、薫は「よし」と満足気に頷いた。
「王様、次をお願いします」
その言葉に鷹揚に頷いたのはギルガメッシュだ。彼がパチンと指を鳴らすと、背後に光が波を打つ。そして黄金の造形物が姿を表した。
「王様、これはいかなる宝物でしょうか?」
光り輝く黄金の槍? 四角いツインドリル? 刺の生えた金ぴかミサイル?
そんな感じのものだった。
「うむ、これは電光の宝具であるぞ。世界にあまねく存在する稲妻の鉾や槍、そういった物の原型(アーキタイプ)だな」
「えーと、電光の宝具、と」
薫はそれをメモに取る。そしてパシャパシャと撮影する。
王の宝剣。分裂する無限の槍。攻撃を反射する鏡の盾。心を凍らせる指輪。人形に命を吹き込む虹色の宝石。姿を隠す透明マント。
神話や伝承に登場するありとあらゆるマジックアイテム。その原型、アイデアの元。まだ誰も手にしていない『未使用宝具』をギルガメッシュは所持している。
世界の全てを統べ、ありとあらゆる宝を所持していたとの伝説がある英雄王。宝物庫を鍵で開けば、あらゆる魔剣・宝剣・妖刀・神槍を呼び出せる。
そんなギルガメッシュだが、溜息を漏らして気怠げだ。
「カヲルよ、まだ続けるのか? 我(オレ)は正直飽きた」
「えええっ?! 宝具を写真に撮って目録を作れと言い出したのは王様ですよ!」
「そうであったか?」
そうです。
薫がジト目で見上げると、髪を掻き上げ視線を遠くに飛ばすギルガメッシュ。
「撮影器具が発達したこの時代なら目録も手早く出来るかと思ったのだが……。カヲル、いま幾つほどだ?」
「ナンバー2,658番です。王様、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の中にはあとどのくらいの宝具があるのでしょうか?」
「判らぬ、あらゆる宝があったと言っても、億千万は超えぬと思うのだが。カヲル貴様どう思う」
「いや、どう思うと聞かれましても。中を覗くわけにもいきませんし」
顎に手をやり、ギルガメッシュは何やら考える。
「よし。カヲル、中を見てくるが良い。我(オレ)が許す」
「は?」
薫はカクンと顎を落とした。
「宝物庫(ゲート・オブ・バビロン)の中を見てこいと言ったのだ」
「さーて、今日のところはここまでですね。撤収、撤収」
「待て」
教会へと歩き出した薫ちゃんは、鎖に足を取られて転んでしまうのです。
「何処へ行くのだ。我が特別に宝物庫の閲覧を許すというのだぞ」
ギルガメッシュは笑顔で鎖を手繰り寄せるが、薫は必死に抵抗する。
「王様! 異次元空間は勘弁して下さい!! 本気で怖いです! 嫌です! おじさま助けてー!」
雑草にしがみついてもなんのその。王様は従者をグイグイ手繰り寄せていく。
「心配するな。貴様は既に我の宝具を宿す者。弾かれることはない」
「違うのです! そういう事を言いたいのではないのです! アーッ?!」
勢い良く引かれた鎖が空に舞い、一緒に薫も空に舞う。
きゃぁぁああ。──ポチャン、ふぉぉおおん。
余韻を残し、言峰薫は不思議空間に飲まれて消えた。
・宝具目録。分類:極秘資料
ギルガメッシュの宝具を撮影し、数枚の写真と解説文をページに構成した宝具の目録。一日十数個ずつを撮影。フィルムは魔術で処理した特別製で、波動とか波長とかを焼き付けているものとする。魔術師・言峰薫の家宝になる予定だが、多分、完成しない。
2011.7/13th