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黄金のプチねた#114撲殺の口訣

 教室の窓際で、美綴綾子が言峰薫の手首をひねる。綾子は両手を使って力んでいるが、薫は片手で涼しい顔だ。
 そんな二人を横目で見つつ、遠坂凛はやれやれと首を振る。
 クラスメートの美綴綾子。薫と張り合い武術談義を楽しんでいるようだ。
 今日のネタは合気道。手首について話している。
「どうですか? 手首を固めると関節技が掛からないでしょう」
 薫の腕から、綾子はチェッと拗ねた様子で手を離す。
「すごい力じゃないか言峰。参ったね」
 そう言うが、彼女の笑顔はさっぱりしていて男前だ。
 どうやってるんだとの綾子の問いに、薫は得意気に両手を差し出す。そして開いて閉じてをしてみせた。
「美綴さん、拳を握る。拳を締める。拳を固めるというのは判るでしょう?」
「そりゃあ判るさ。アタシは空手もやってる」
 そんな綾子に薫はニッコリ笑う。
「では『手首を握る』『手首を締める』『手首を固める』ことは出来ますか?」
 手首? と彼女は首をかしげた。
「中国武術に鉄砂掌という練法があります。手の平をバンバン打ち付けて、掌打の威力を上げるというのが表向きの効果とされています」
 豆や砂鉄や鉄の粒。そういったものを詰めた袋を手の平でバンバン叩く。軽く内出血させるのを繰り返し、結合組織、つまり皮膚や細胞壁のように肉ではなく皮のような組織を増やすことで痛みを感じにくくする手に作り替える鍛錬法だ。
「でもですね。人を打ち殺すにはこれでは駄目です。本当に鍛えるべきは、手首にある八つの小さな手根骨をギュッと締めて固める感覚を養い、手首と掌底を骨の塊(ボーン・ハンマー)にすることなのです」
「そうなのか?」
「空手の巻藁突きや拳立て伏せも、手首を締めて拳がぐらつかなくするためでしょう? 正拳突きで拳をひねるのも、前腕の撓骨と尺骨を交差させて手首を固めるためですよね」
「ええー。そうかぁ?」
「はい。あれは威力を上げるためではないのです。ボクシングのコークスクリューパンチと違い、素手では捻ったパンチで威力なんか上がらないです。あれは捻ることで手首を固め、それによって力を伝えやすくするためのものなのです。ちなみに頭をゆらせたかったら掌打を使い、手の平で顔を包んでからバレーボールのアタックみたいに振りぬくのがいいですよ」
「なるほど」
 綾子と薫は二人して手刀で空を切り出し、凛はため息を吐き出した。
「あなた達、もっと女の子らしい話は出来ないものかしら」
 呆れた調子の凛の言葉に、武闘派二人は不敵に微笑む。
「アンタだって武闘派だろ遠坂。それに美人は武道をやらないといけないってのが私のモットーだ」
「そうですよ凛。それに武術を修めれば女でも漢(おとこ)になれるのです」
「いや、アンタ達、それはおかしい」
 そう? 首を傾げる美綴綾子と言峰薫。凛は頭が痛かった。


あとがき
 管理人(私)は幼少児に手首を脱臼し、関節が緩んでしましました。以来、左右の手首の緩み具合の差に強い不快感を感じるようになり、バキバキボキボキやってるうちに『手首を締める』感覚を身に付けました。固めて叩くと友人に三割増で怒られます(笑)
 趣味で武術や格闘技の本は大量に読んできたのですが『鉄砂掌の真の狙いは手首を固めて骨の塊にすること。木槌くらいには硬くなるから人が殴り殺せるようになるよ』と書いてある本を読んだ記憶があります。南拳系の人だったと思います。
(あの作者、手が滑ったんだろうな。けどあれ一冊だけ。ガセかしらん?)
 でも石を握って殴るほうが、げふんげふん。
2011.2/25th

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