黄金のプチねた#111マジックイレイザー
「おじさま、どうかしましたか?」
冬木教会礼拝堂の片隅に、言峰綺礼がしゃがみ込んで何やらやっているようだ。薫は近付き覗き込む。
すると信者が座るベンチの背中に、マジックで落書きがされていた。
「なんとまぁ罰当たりな。油性ですか?」
「そのようだな。さてどうするか。業者を呼ぶほどではないな。薫、学校帰りに紙ヤスリでも買ってきてはくれぬか」
綺礼があごに手を当てている。
「それは構いませんが。あ、ちょっと待ってて下さい」
言って薫はトコトコ走り去り、そしてすぐに戻ってきた。
「これを使いましょう」
差し出したのは練りワサビのチューブとポケットティッシュだ。
「……ワサビだと? まさか魔法薬に加工したものなのか?」
「そんな訳はないでしょう。まぁ見ていてください」
薫はワサビをひとすくいして落書きに塗り付けた。それをティッシュでゴシゴシこする。
なんということでしょう。落書き(油性)がどんどん消えていくのです。
「 ────何故だ?!」
「いや、何をそんなに驚愕しとるのか知らんですが、ワサビに含まれるイソなんとかが油性ペンを消すのに効くそうです」
カラシやマスタードでも消えるそうですよ。
そう言う内にも落書きは消えていき、後にはワサビのツンとした香りが残った。
あとがき
イソチオシアネートが効くのだそうです。三つの中ではワサビが一番強力。でも風合いを出すために塗料が塗られている場合、塗料も落ちてしまうとか。
2010.8/3th