黄金のプチねた#106火力上昇
新都郊外の冬木教会。その地下には秘密の礼拝堂がある。聖杯戦争を監視するために聖堂教会スタッフが活動拠点にする場所だ。
しかしそのイベントは六十年に一度だけ。よって平時は閑散としているはずだった。
昼なお暗いその場所で、シスター姿の一人の少女が赤い炎の翼を広げる。
傍らには神父が寄り添い呪文を唱え、少し離れて金髪紅眼の少年がベンチに腰掛けて見守っていた。
少女の足元には魔法陣。占星術記号が散りばめられた天球儀展開図に、天使の名がラテン語で書き込まれている。名のある天使は惑星に対照し、星の秘力(フォース)を司る。
火星の印契(シジル)を観想し、火の天使サマエルを幻視して、己の魔力を火に染める。
それを神父が呪文で支え、司祭となって儀式を助けた。
鳥・翼・天使・不死鳥・火の鳥・火炎・流れ星。
関連する象意を含む飛行魔術の炎の翼が、その輝きを強くした。熱気が渦巻き空気が焼ける。少女の体のあちこちに、小さな火種がチラついた。
「……セラフィム」
それは天使学での第一位。炎の蛇を意味し、六枚の翼を持つという織天使だ。
背から生やした二枚の翼(飛行魔術)と、足首から広げた左右一対、四枚の翼(空中歩行)の計六翼。
これをセラフィムのイメージで安定させる。
大きく広げた翼は火の粉を散らし、朱に輝いて瞬いた。そして────
一時的に上昇した火力によって、少女の服が焼け落ちた。
「ぎゃぁぁあああ?!」
しゃがみこんだ薫に、今日は小さな王様ギルガメッシュが上着をかけた。しかし小さくため息ひとつ。
「カヲル、せめて「ぎゃあ」ではくて「きゃあ」と言いなさい」
「申し訳ありません。王様」
涙目の薫にギルガメッシュはやれやれと眉を寄せ、言峰綺礼は苦笑した。
あとがき
第一位織天使は、神を裏切ったルシフェルがいた位階です。セラフとも。
2010.6/8th