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SP100a.さくらと矢を撃つお姉さん・後編

前の話へ

 時間は過ぎて夜の九時過ぎ。住宅地の一角にあるちょっとオシャレな一戸建ての玄関前で、木之本桜はどうしようと悩んでいた。
「なー、さくら、やっぱり小僧のところに預けた方が良かったんちゃうかー」
「ダメだよケロちゃん。だってお母さんだもん」
 知世の手作りコスチュームから私服に着替え、パーカーのフードから顔を出したケルベロスに木之本桜は言い返す。
「明日になって会いに行ったら、お母さんがいなくなってたりしたら嫌だよ。私、嫌だ」
「けどなー、お父はんとお兄はんにはどない説明するんや? シャクやけど小僧に来てもらった方が楽やと思うで。香港にはタンキーやフーチちゅうて、死んだ人の霊を自分に降ろす霊媒師がおるんやで」
「でもでも、李くん、何かすごく疲れてたみたいだし」
 さくらの言葉にケルベロスは「あー」と言って苦笑した。

 あの後、薫の携帯電話を知世が調べ『言峰綺礼』に電話した。
 小狼が話をしたのだが、どんどん元気がなくなり泣きそうな顔になっていた。一応の話がついたと代わってもらい、さくらも綺礼神父と少し話した。
 どっしりとした低い声の神父さん。少し怖いと思ったけれど、薫さんを心配していた。
 忙しい人のようであり、自分は行けないが迎えを出すと言ってきたのだが、さくらがこれを断った。
 取り憑いたのは母だと言って、自分の家に泊まらせる。お願いだからと必死になって、強引に頼み込んだのだ。
 すると綺礼神父は家族について質問し、お泊りを許してくれた。
 家に着いたらお父さんと話がしたい。後で電話を入れてくれ。いくつか助言もしてくれて、そして神父は電話を切った。
 憔悴した様子の小狼は苺鈴に支えられて帰途につき、心配していた知世も迎えの車で帰って行った。だからさくらはケルベロスともう一人、母親の撫子が憑いた言峰薫と二人(+1匹)きりだ。
 ああ、だけどどうしよう?
 お母さんが取り憑いたから、女の子を連れてきた。

 電波ではないでしょうか?

「はうぅー」
 さくらは再び頭を抱えた。
 お父さん、木之本藤隆は大学で考古学を教える講師である。
 お兄ちゃん、木之本桃矢は高校生でサッカー部。
 二人とも、魔法使いとかではないのです。おかげでカードキャプターは秘密なので大変です。
「さくら?」
「だ、だだだ、大丈夫だよ! 神父さんも言ってたもん。悪魔祓いとか霊媒とかは教会にもちゃんといるから、お父さんに話しても大丈夫って。綺礼さんは本当にエクソシストのお勉強をしたから嘘じゃないって言ってたし!」
「うーん。バチカンはエクソシスト養成講座とか普通にやっとるから嘘ちゃうけどなー」
 腕を組むケルベロスに、さくらは必死に言い募る。
「うん、嘘じゃないから大丈夫だよね。それにお兄ちゃん霊感強くて、お母さんの霊が見えてたって言ってたよ。魂がキレイになって天国に行ったから見えなくなったって言ってたけど、時々気配がするって話してた。そうだよ。今日はお母さんが見に来てた日なんだよ。大丈夫だよ!」
 しかし言葉とは裏腹に、さくらの表情はテンパっているのが丸分かりだったりする。
「しゃーないな。姉ちゃんとこの神父になんとかしてもらおか。ああ、さくらのお母はん、ワイのことはナイショにしといてなっ」
「はぁーい」
 満面に笑みを浮かべて、間延びした呑気な声で返事をしたのは二児の母親であったはずの撫子さん in 言峰薫。
 小狼と向い合っていた時の鋭さなど欠片も無い。ふんわりとした優しい笑顔がステキです。
((大丈夫かな))
 さくらとケルベロス、ちょっと不安になったのは秘密である。

 そんなことをしていると、カチャリと音を立てて玄関ドアが開けられた。出てきたのは木之本桃矢、高校二年のさくらの兄だ。スラリとしたスポーツマンだが、暗がりの中でもムスッとしているのが判ってしまった。
「さくら!」
 桃矢の発した叱り声に、さくらはビクっと首をすくめる。
「何時だと思ってるんだ、何も言わないで一体どこへ、」
 まくしたてる桃矢に薫がそっと近づいた。
「さくらちゃんを怒らないで、桃矢くん」
 ムッとした桃矢だったが、割り込んだ知らない少女に訝しげな顔になる。だがしかし、すぐ驚きに目を見開いた。
「……母さん?」
「お兄ちゃん凄い! なんで判るの?!」
 さくらが目を丸くした。
「わかるって、え? うぇえ?!」
 めったに見れない戸惑う姿、さくらは拳を握り締める。いつも意地悪なお兄ちゃん、だけどやっぱりすごいお兄ちゃん。さくらは兄を見直した。
「桃矢くん、さくらさんが帰ってきたんですか」
 父、木之本藤隆も家から出てきた。
「さくらさん、こんな遅くに黙って出かけてはだめですよ。おや、そちらはさくらさんのお友達ですか?」
「藤隆さん」
 薫は嬉しそうに微笑んで、藤隆にそっと抱きついた。
「えっと、君は? ……撫子、さん?」
 眼鏡の奥で、お父さんが目を丸くする。自分に抱き着く少女の背中、その寸前で両腕が止まっている。
「お父さんも凄い! やっぱり判るんだ、すごいすごい! 凄いよ!!!」
 思わずさくらは桃矢に抱き着く、兄・桃矢と父・藤隆は、訳が解らず顔を見合わせた。

「おいしいよー」
 薫さんなお母さんが、落ちそうになるほっぺたを押さえている。
 そんな彼女を桃矢が見詰めているのだが、両目を見開き口はOの字、気持ちは判らないことも無い。父、藤隆は受話器をとって、言峰神父とお話ししている。
「この女(ひと)は言峰薫さんで教会の霊媒さん。お母さんが取り憑いた」
 顎を落として動かなくなった兄と父だが、しばらくしてから再起動。薫を家に招き入れた。
 リビングのソファーに座らせて、お父さんの手作りプリンを食べさせる。薫は喜びスプーンを差し込んで、幸せそうに頬を緩める。その笑顔はキッチンに飾られている写真と同じ、お母さん・木之本撫子そのものだ。
(はにゃーん)
 見ているこっちが幸せになってしまいそう。お母さん的な笑顔を堪能する。知世や苺鈴はさくらのことを『ふんわり』とか『ぽややん』とか言うのだが、それはきっとこのことだ。
 そんなことを思いながら和んでいると、お父さんが電話を済ませてやってきた。
「父さん?!」
 お兄ちゃんの驚く声に見てみると、お父さんは冬だというのに顔一面に汗をかき、心臓のあたりに手を当て服を鷲掴みにしている。心臓発作、などという言葉が思い浮かぶが違うみたいだ。汗をかいても笑顔のままで、しかし疲れたように息を吐き、藤隆はソファーに腰掛けた。
「藤隆さん、大丈夫?」
 薫(撫子)さんに心配されて、お父さんは困ったふうだ。
「大丈夫ですよ。えーと、薫さん、ですよね」
「そうだよー、この子は薫ちゃんだよ」
 お父さん、困ってる。さくらはアハハと苦笑した。
「それで父さん、神父さんは何だって?」
「薫さんのお父さん、言峰綺礼さんは神父さんで教会のエクソシスト。これは基督教伝統の悪魔祓い師で、悩みがある人がヒステリー症状を起こしたときに相談に乗って悩みと事件を解決する。今でいうカウンセラーかな」
 そうなんだ。さくらと桃矢はふんふんと頷いた。
「それで薫さんはミディアム、日本語でいう霊媒なんだそうです。死んだ人の霊に体を貸して、生きている人とお話ができるようにお手伝いできる素質があって、修行しているんだそうですよ」
 そういうことにしておくらしい。
「父さん、それじゃこの子はイタコとかそういう奴ってことか?」
 イタコ? さくらは首をかしげた。
「さくらさん、イタコというのは東北地方の恐山にいる霊媒を職業としている女の人達のことですよ」
 日本にもそういう人達がいるらしい。文化人類学ではシャーマンと呼ばれ、神々や自然の精霊、死者と交信してその意志を伝える巫女さんなのだと藤隆は言う。
「明日いっぱい休ませれば薫さんの『心の力』が回復して、目を覚ますだろうと綺礼さんは言っていました。霊を降ろすのはとても大変なんだそうです」
 そう言い藤隆は寄り添い座る少女に視線を向けた。ふんわりと優しい笑顔のその人は、静かに微笑み藤隆の腕に頭を寄せた。
 お父さんは困ってます。
「明日いっぱい……」
 さくらは小さくつぶやいた。しかたがないとは判ってる。この人はお母さんじゃなくて薫さん。冬木にある教会にはお父さんがちゃんといて、帰らなくちゃ駄目なのだ。
 小さな胸に、こみ上げるものがある。でもそれは、桃矢が頭を乱暴に撫でてクシャクシャにしたので出てこなかった。
「お兄ちゃん?! 何するのひどいよ」
 がぉーと噛み付くように怒ってみたが、桃矢はニヤニヤするばかり。やはりとっても意地悪だ。
「ダメだよー、桃矢くん。さくらちゃんにやさしくしてね」
「え? あー、うん。あー、でも、いやしかし」
 困る桃矢に思わずさくらは、ぷぷっと笑う。ムスッと見下ろす兄の視線が「この野郎」と言っている。
 さくらも負けじと睨み返すと、兄妹の間でバチバチ火花が散りました。
「さくらちゃんと桃矢くんは仲がいいんだー。お母さん嬉しいな」
「「えー」」
 ちょっとワニ目で声を揃えた兄妹に、言峰薫は嬉しそうにほほ笑んだ。

 桃矢と肘で突っ付き合っていると、汗を拭いた藤隆がいつもの優しい笑顔で口を開いた。
「それで薫さんのことですが、彼女の意識が戻るまで、うちで預かることになりました」
「お父さん、本当?!」
 さくらは勢い良く立ち上がる。
「綺礼さんも忙しくて、連れて帰っても一緒にいてあげられないんだそうです。だからうちでお預かりすることにしました。明後日は休日だから、もし明日に薫さんが目を醒まさなくても、様子を見てあげられますからね」
「うん、私が薫さんと一緒にいて様子をみるよ。いいでしょう?」
「さくら、明日学校あるだろ」
「あっ?! はぅうー」
 萎れるように座り込む。すると藤隆は眉を寄せて苦笑する。
「さくらさん、明日は学校をお休みして薫さんと一緒にいてくれるかな。僕は講義を休む訳にもいかないし、桃矢くんも学校を休むのは良くないしね。でもお預かりした薫さんを一人には出来ません。さくらさん、お願いできますか」
 さくらは再び飛び上がる。
「うん! 私がちゃんと一緒にいるよ。大丈夫だよ」
 わーいとさくらが喜ぶと、薫も笑顔でわーいと手を挙げた。そんな二人に父と兄は小さくほほ笑む。だがしかし。
「じゃあー、今夜は藤隆さんとお風呂に入って、一緒に寝たいなー」

 リビングルームの時間が凍りついた。

 凍りついた刻の中、撫子さんな薫だけが「あれ?」と可愛く首を傾げる。
「と、父さん」「お、お父さん」
 戦慄する木之本桃矢と木之本桜。子どもたちの視線の先で、父親である藤隆は決して笑顔を崩さない。光を反射する眼鏡の奥で、しかしお父さんは揺るがない!
 彼は静かに立ち上がった。
「ごめんね撫子さん。僕は講義の準備で資料を作らないといけません。今夜は書斎で徹夜です。明日の朝食までには終わらせますから、今夜は子どもたちと一緒にいて下さい」
「えー、残念」
 ごめんね。そっと薫の頬を撫で、藤隆はリビングをあとにした。
(父さん、逃げたな)
(えぇぇええーっ?!)
 藤隆を見送った薫の視線が元へと戻り、今度は桃矢をロックオン。
「じゃあー、桃矢くんとお風呂に入ってー、一緒に寝ましょう? やーん、お母さん恥ずかしい」
 両手で頬を押さえてクネクネする薫さん。桃矢は素早く立ち上がった。
「ごめん母さん。今夜はバイトで抜けられないんだ。さくら、あとはよろしく頼む」
 さわやかな笑顔をみせて、桃矢はリビングから出ていった。
「えぇー。そうなのー」
(お兄ちゃん、逃げた)
 廊下から「ユキ? 今夜……」などと聞こえてくる。雪兎さんの所に行くらしい。ズルイと思う。
 残念がる薫の後ろで、さくらは男の人のズルさを学んで大人になった。

 さくらは薫とお風呂に入って背中を流す。ケルベロスも連れ込んで、今日一日の疲れを落とす。薫の背中の真ん中に、火傷の跡があってびっくりしたが、治療中で少ししたら全部消えてなくなるらしい。
 痛くないから大丈夫。薫の顔で微笑む撫子には、眠る薫のかすかな声が聞こえるらしい。
「さくら、姉ちゃんの背中、よぉ見てみい」
 ケルベロスに促されて目を細める。すると薫の背中に不思議な紋様を感じ取る。
 ケルベロスは語る。魔術師は自分の体に魔術を刻む。自身の体と魂をつなぐ霊体さえも道具とみなし、そこに呪文を叩き込む。
 クロウカードのような道具に魔術を刻んで残すのは、むしろ少数派であるらしい。
 魔術師とはなんだろう? 木之本桜は考える。
 不思議で素敵なクロウカード。冷たく熱い李小狼。優しく激しい言峰薫。そして私、木之本桜。
 よいしょよいしょと髪を洗うお母(薫)さんを見詰めながら、さくらは少し考えた。
「たいへーん?!」
 その声に我に返った。見ると薫が胸に両手を当てて、びっくりしたように目を見開いている。
「お母さん、どうしたの」
 まさかもう、薫さんが目覚めたか?! 
「この子、お母さんよりおっきいかもー」
 むにむに。
 さくらは浴槽の中で足を滑らせ溺れそうになった。

 木之本撫子。生前はモデル業もしていたが、胸は小さい方だった。

「おやすみなさい」
 さくらのベッドで一緒に眠る。腰まで伸びた薫の髪を、撫子はたくさんの三つ編みにしてきつく結んだ。じゃらじゃら揺れる三つ編みたちをシーツに広げて横たわる。恥ずかしがるさくらを抱きしめて、今夜は一緒に眠るのだ。
「さくらちゃん」
 薫の手が優しく頭を撫でてくれる。それは優しい手の動き。三才の時にいなくなったお母さん、さくらはハッキリ覚えていない。だけど藤隆が写真を飾ってくれた。
 モデルであった撫子の写真は全部切り取り集めていたとか。それを額に飾って毎日変える。
 写真の中のお母さんはいつも素敵に笑っていた。その笑顔が今、目の前にあるのがとても嬉しい。
 さくらは薫の腕の中、微笑みながら眠りについた。

 朝がきた。
 目覚めた薫の中身は撫子のままだった。複雑な気持ちを感じたが、それでもさくらはホッとした。
 鏡の前にさくらが座ると、撫子がさくらの髪を整える。
 さくらの髪は短めだ。前髪はきちんと切りそろえ、だけどサイドは耳の前に流して少しだけ長くしている。頭の上をふんわり持ち上げネコ耳風に。そして左右の髪を一摘みずつゴム紐で縛ってとめる。
 いつもの髪型の完成である。
 顔を赤らめたさくらに薫はふふふと笑う。撫子は薫の髪をヘアスプレーで固めるようだ。
 一分ほど経過して、撫子は三つ編みに留めていた紐をとり、指を通して髪を広げた。
「うわー。お母さんだ!」
 癖なく伸びて流していた薫の髪が、ふわふわに波打つ髪となって広がった。これは写真の撫子が、いつもしていた髪型だった。
 お母さんと同じ髪型で、お母さんと同じ笑顔で笑うお姉さん。さくらは少し涙が出た。
「さくらちゃん?」
「なんでもないよ。私、大丈夫だよ。うっく、ひっく」
「……うん。さくらちゃんは大丈夫。お母さん、ちゃんと知ってるよ」
 涙をぬぐうさくらを、撫子はそっと抱きしめた。そんな二人を、引き出しの中からケルベロスがそっと見守っていた。

「お父さんもお兄ちゃんも、きっとびっくりするよ」
 さくらは薫の手を引いて、階段を降りていく。下から漂ういい匂い。お父さんは料理上手だ。
キッチンを覗いてみると、藤隆がスクランブルエッグを盛り付けていて、桃矢がトーストにマーガリンを塗っていた。
「お父さん、お兄ちゃん。おはよう」
「さくらさん、おはようございま……す?」
「うーっす、さくら、おはよ……う?」
 男たちが固まった。
「藤隆さん、桃矢くん、おはよー」
 薫がひらひらと手を振るが、父と兄は固まったままである。ぷぷっと声を漏らすと流石に二人も動き出す。
「さくらさん、薫さんのその髪は?」
「うん! 凄いでしょう? 本当にお母さんだよ」
「マジかよ」
「桃矢くん、本当にお母さんだぞー」
 ふわふわに波打つ髪で、しかし着ている服は教会のシスターな薫がえっへんと胸を張った。
 これに男たちはなぜか頬を引きつらせ、互いの視線を交し合う。
「どうしたの?」
「「いや、なんでもない」ですよ」
 さくらと撫子はなんだろうと首をかしげた。
「そんなことより、冷めないうちに食べましょう」
 藤隆が椅子を引き、自分の隣に言峰薫を座らせた。
「いただきまーす」
 薫は嬉しそうにトーストにかじりつく。そんな彼女を見守る男たちの手は止まり、口を開けて見るばかりだが無理もない。同じ髪型にして同じ笑顔の薫さんは撫子に似ている。
 いや、顔つきなどは違うのだ。しかしその雰囲気が、木之本撫子そのものなのだ。彼女の中にいるのは撫子なのだと、改めて理解させられた。
 霊媒(ミディアム)降霊術(セアンス)神の巫女(シャーマン)そして魔術。世界を歪め逆行させる神秘の業が、過去から撫子を連れてきたのだ。
 おいしそうに食事を頬張る薫を見ながら、さくらは魔術を見直した。

 ──── ぴんぽーん ────

 朝食をやっつけてから少しした頃チャイムが鳴った。インターホンのカメラ画像を見てみると、大道寺知世であった。
((おはようございます))
「知世ちゃん、おはよう。今開けるね」
 玄関へと駆けて行き、ドアを開けると笑顔の知世。そして女の人が立っていた。
「知世ちゃんのお母さん、おはようございます」
 スーツ姿が凛々しい女性は大道寺園美。知世の母で、大道寺トイズコーポレーションというオモチャ会社の社長さんだ。
「さくらちゃん、おはよう。話は聞いたわ。お邪魔するわね。木之本先生! 木之本先生ー!!」
 挨拶もそこそこに、園美はずかずかと踏み込んだ。
「と、知世ちゃん、話しちゃったの? ダメだよ?!」
「大丈夫ですわ。教会の霊媒としか母には話してはおりませんし、薫さんのお父様ともお話して許可を頂きましたから」
「そうなの?!」
「はい。それに母はさくらちゃんのお母様とは仲が良かったと聞いていましたから」
 知世は少しだけ寂しげに眉を寄せた。
 そういえば、母・撫子と園美さんは子供の頃から仲良しだったと聞いたことがある。知世の髪が長いのも、撫子が髪を伸ばしていたのを真似たとか。
「ああっ!」
 そんな知世のお母さんが、薫(お母さん)を見たらどうなるか?! さくらは踵を返して園美を追った。
 彼女はリビングに一歩踏み込んだ位置で立ちすくみ、口元に手を当て震えていた。
 園美の視線の先に言峰薫が立っている。ふわふわに波打つ長い髪。ふんわり優しく微笑んで、ひらひらと手を振っている。
「園美ちゃん。ひさしぶりだね」
 戸惑いも無く、緊張も無く、お日様の下のそよ風のように柔らかく、薫は撫子のように園美の名を呼んだ。
「本当に? ……本当に、撫子なの?」
 園美の目尻に涙があふれる。
「そうだよー。この子は薫ちゃんだけど。私は撫子だよ」
「ああっ!!!」
 園美は駆け寄り薫に抱きつき、そしてわんわん泣き出した。

「痛いところはない? 苦しくないのね?」
「大丈夫だよ、園美ちゃん。もう痛いことはないし、苦しいこともないんだよ。大丈夫だよ」
 ソファーに腰掛けた膝の上、園美が薫に抱きついている。大人と子供の立ち位置が逆ではないかと指摘する、野暮な者はいなかった。
 子猫を守る親のように、園美は薫を守って威嚇する。威嚇対象となった藤隆は苦笑した。そしてテーブルの上におかれたカラーコピーを手に取って、言峰薫と見比べる。

『冠婚葬祭は冬木市郊外、丘の上。冬木教会へどうぞ』
『株式会社キング・グループ事業概要』
『xx年度、活動報告書』
『フリーペーパー、ゴールド・ラッシュ』
 加えて名刺が一枚あり、株式会社キンググループ代表取締役社長、言峰薫。とあり、更に幾つかの役職名が書かれている。

 木之本藤隆がコピーを置いて、薫に抱きついたままの園美に問いかける。
「園美くん。つまり薫さんは社長さんなんですか?」
 園美は泣き止み、クスンと小さく鼻を鳴らした。
「そうよ。電話して話を聞いてビックリしたんだから。火事で家族をなくした災害遺児。教会に引き取られて神父さんの知人の資産家に気に入られて、会社を作ってもらったのが成長したんだそうよ。今ではパリ、ローマ、ロンドンにも支社があるって言ってたわ」
「いや、それおかしいだろ」
 桃矢がつぶやき、さくらが頷く。藤隆も苦笑するが、知世はホホホと笑うあたりやはり大物である。
「そうなんだー、凄いねー」
 薫さん、貴女のことです。さくらは口にはしなかった。

 そろそろ家を出ないといけない時間になった。
「園美くん。僕と桃矢くんはそろそろ出ないといけないんだけれど」
「木之本先生?! 撫子を放っておくつもりなの?!」
 薫の膝の上から身を起こし、飛び掛っていきそうな勢いだ。
「薫さんは、さくらさんに一緒にいてもらいます。僕は大学に行って講義を終わらせたら、図書館で霊媒について調べてみます」
「とうさん、俺も調べてみるよ」
 男たちは頷き合った。
 知世が母に寄り添い提案する。
「わたくしも学校をお休みして、さくらちゃんと薫さんにご一緒したいのですが宜しいでしょうか」
「……いいわ。私も会議をキャルセルしてお昼まで一緒にいます。木之本先生、いい・です・ね!!!」
「ははは。それじゃあ園美くん。知世さんとさくらさんも薫さんをよろしくね。撫子さん。なるべく早く帰ってきます」
「はーい。藤隆さん、いってらっしゃい」
 撫子と藤隆は少しの間、見つめ合う。後ろで園美がキシャアァァアアと威嚇するのも気付かぬようだった。

「で、何でこうなっちゃうのかな。アハハハハ」
 力なく笑うさくらの声は、リビングルームの喧騒にかき消される。
 木之本邸のリビングが、撮影スタジオと化していた。壁は白いシートに覆われて、天井近くに照明さんがスタンバイ。レフ板とかいう鏡を持ってる人もいて、テーブルとソファーは部屋の隅だ。
「いいわよー、撫子。クルリと回って。そこでスマイル!」
「はぁーい」
 電話で呼んだスタッフさんが持ってきた、ドレスに着替えた薫さん。カメラを構えた園美がノリノリで撮影をしています。
「心配はいりませんわ。薫さんのお父様から「かわいい写真を撮ってくれ」と頼まれましたから」
「……知世ちゃん、ひょっとして、昨日のこと怒ってるのかな?」
「何のことでしょう? さあ、さくらちゃんの服もばっちりです。さくらちゃんと薫さんの可愛らしい姿で、撮影ターイム。ですわ。オホホホホホホ」
 ちょっと怒ってるよね知世ちゃん。さくらは言わないことにした。
「あぁーん、もぅ可愛いわ。ちょっと背が足りないけど、撫子の服だとぶかぶかな感じがたまらないわ。撫子が子供の頃みたい。撫子! 次の服はこれよ! さあ脱ぎ脱ぎしましょうねー」
「はぁーい」
「さくらちゃんはこの服で決まりですわ。もちろん着替えはお手伝いいたしますわー」
「えぇぇええ?! 知世ちゃん、大丈夫、大丈夫だから!」
 キラキラした目の大道寺さんズに、さくらと薫は逆らえない。
「次は黒のフリルと白のレースでゴチック風でいこうかしら」
「素晴らしいですわ。髪留めはカチューシャがいいでしょうか? リボンも捨て難いのですが」
「知世。そこは両方よ!」
「さすがお母様ですわ!」
「「オホホホホホホ」」
 二人して、頬に手を当て笑っている。
「わー。園美ちゃん楽しそうー」
「……そうだね。はは、あはははは」
 ついていけないさくらは一人、頬を引きつらせるしかありませんでした。

 お昼になると、園美とスタッフたちは撤収した。大切な打ち合わせで、どうしても抜けられないそうである。薫の手をとり「勝手にいなくなっちゃ嫌よ」と何度も言って、園美は車に乗り込んだ。
 ちなみにリビングは未だにスタジオ状態である。さくらはめまいに襲われた。
 それはともかくお昼である。
 さくらが作ることにして、フライパンを温める。関係者のみになったので、ケルベロスも降りてきた。
「やー。知世のお母はん大喜びやったな」
「園美ちゃん、元気そうでよかったよ」
 撫子がケルベロスと普通にお話してるのは、包容力とかそういうことにしておこう。
「……ほぅ。かわいいですわ(はぁと)」
 頬を赤らめビデオとカメラをチェックする知世が遠い。
 気を取り直してチキンライスを手早く作る。それを卵で包み込み、得意料理のオムライスだ。野菜をちぎってサラダに仕上げ、コンソメスープも用意した。
「どうぞ、召し上がれ」
「「「いただきまーす」」」
 食いしん坊なケルベロスがスプーンで豪快に食べていく。知世は上品に料理を掬い、薫は一口ずつをゆっくりと咀嚼する。
「さくらちゃん、おいしいよ」
 そんな声を嬉しく思う。ほんのちょっぴり胸を張る。料理上手で何でもできるお父さん。意地悪だけどスポーツも勉強もできるお兄ちゃん。二人には敵わなくても、さくらだって頑張っている。
 掃除、洗濯、晩ご飯。当番制でこなしているのだ。
 お兄ちゃんにも褒められる必殺のオムライスに隙はない。みんなで美味しくいただいた。

 食後のお茶を堪能すると、撫子が「散歩がしたい」と言い出した。
 それはちょっとと止めようとしたのだが、この街を歩いて回りたいと言って聞かない。外へと出かけることにする。
 着ている服はシンプルでかわいいジャケット&スカートのツーピース。頭に帽子ものせておく。
 くるくると回りながら街を眺める撫子の、後ろをさくらと知世は歩く。ケルベロスはフードに隠し、いつもの街を散歩する。
 道の途中で歩みを止める。曲がり角で向こうを見渡す。街路樹から差し込む光に目を細め、落ち葉を追いかけつまずき転んだ。
「お母さん?! 大丈夫?」
「大丈夫だよー」
 笑顔なのだがオデコが赤い。そういえば、撫子は運動神経が切れていたと知世の母が言っていた。
 手をつないで公園に連れて行く。水道でハンカチを濡らして絞り、振り向くと、撫子はペンギン大王滑り台に挨拶していた。
「さすがさくらちゃんのお母様ですわ」
 知世はカメラを回している。綺礼さんに送る約束らしい。
「さくらちゃーん」
 滑り台の上で撫子は手を振っている。そして転んだ。
「わーい」
 ヘッドスライディングで滑り台を降りてきた。
「お、お母さん?!」
「あー、さくらのお母はんやな。お父はんは運動神経ええけど、さくらのボケはお母はんか」
「ケロちゃん! それどういう意味?!」
「さーてなー」
「もう! ケロちゃん、おやつ抜き!!」
「なんやてー?! 横暴や!」
 ぎゃいぎゃい騒ぐさくらとケルベロスを、薫は優しい眼差しで見続けた。
 午後の日差しを雲が遮り、風が冷たくなってきた。雨が近づいているのかもしれない。降り出す前に家に帰ろう。
「残念」
 あまり残念そうにも見えない薫の手をとり、さくらは公園を出ようとしたが足が止まった。
「さくらちゃん、どうかしましたか」
 知世の声に、しかしさくらは顔色を悪くして動かない。ケルベロスがフードの中から飛び出した。
「クロウカードの気配や。さくら! さくら!!!」
「どうしよう、お母さんが、お母さんがいるのに、どうしよう?!」
「知世、小僧んとこに連絡しぃや! この気配は昨日の『波(ウェーブ)』や。ここは道路に近すぎる。さくら! 奥に移動するんや、さくら?!」
「ダメ! ダメだよ。今そんなことしたら薫さんが目を覚まして、お母さん、いなくなっちゃう。嫌だ。嫌だよ」
「さくらちゃん」
 撫子の優しい声に顔を上げると、言峰薫が寂しげな顔でさくらを見ていた。
「お母さん、逃げよう。大丈夫、家に帰れば追いかけてこないよ。あとは李くんが捕まえてくれる。だから逃げよう」
「あかん! もう間に合わん!!」
 振り向くと、地面がドームのように盛り上がり、うねり・波打ち・捻れながらこちらに襲いかかった。
「お母さん!」
 さくらは薫を抱きしめて、そして一緒に吹き飛ばされた。

「さくらちゃん?」
 倒れた薫の体の下で、木之本桜は動かない。うめき声を出すだけで、閉じたまぶたが開かない。
「さくらちゃん!」
 薫の顔で、撫子は涙を浮かべる。
 自分はさくらが三つの時に死んでしまった。それ以来、守護霊となって木之本の家を見守った。
 夫の藤隆は泣かなくなった。笑っていないといけないんだと呟いて、子どもたちの前では泣かなくなった。長男の桃矢は強くなった。父を助け、妹を守るため、桃矢はとても強くなった。
 そしてさくらは良い子に育った。明るく元気で真っ直ぐな、愛しく優しい女の子。夫と兄に愛情を注がれて、さくらが大きくなっていくのを見続けた。

 ──── だから、

 地面が大きくうねり、ペンギン大王滑り台が持ち上がる。コンクリート製の滑り台が空中に放り出され、それがこちらに飛んでくる。
 撫子は、言峰薫は、影の中からペンギン大王を見上げて泣いた。

 ──── だから、

 落ちてくる。3トンはあろうかというコンクリートの塊が。

 ──── 助けたい ────
(──── 助けないと────)

 ──── 誰か ────
(──── 私が ────)

 ──── 大切なさくらちゃんを ────
(──── 間桐桜と同じ名前の女の子を────)

「助けるって、決まってるんだよ!!!」
 撫子と薫が裏返った。

 薫は踏ん張り、コンクリートの塊を受け止める。
「強化魔術フルパワー。概念強化(イデア・エンチャント)戦士・英雄・巨人の剛腕・力天使。我に力を! 我に力を!! 我に力を!!!」
 重さに負けて、跪く。
「強化(x2)強化(x3)強化(x4)強化(x5)強化(x6)強化(既定値到達)強化(x8)強化(x9)強化(制御危険域)強化(x11)強化(x12)強化(x13)強化(x14)強化(暴走危険域)強化(x16)強化(x17、概念作用限界点)」
 重さを支える手首が折れる。ベルトが無いため大腸が破裂する。毛細血管が破断し視界が赤く染め変えられる。
 しかしそれでも薫は吼えた。
「ふざけるな! 私(オレ)を屈服させたくば、この三倍の大王様を連れてこい!! そぅりゃぁぁぁあああ!!!」
 掛け声と共に立ち上がり、ペンギン大王を投げ返した。
 地響きを上げて地面にめり込むペンギン大王滑り台。その周囲の地面が波打ち、そこに魔力を感じ取る。
「アッタマ来たぁ! ブチのめす!!!」
 薫はギロリと睨みつけた。しかし黒鍵がない。アゾット剣がない。宝石がない。剣も槍も鎌もない。
 使えるものなら何でも使え、なりふりかまっていられるか!!
「──── 告げる(セット)」
 薫は力強く言葉を紡ぐ。
「クロウカード『THE ARROW』起動・顕現!!!」
 水色の魔力が渦巻き弓となる。しかし薫はそれを頭上に放り投げた。すると弓は魔力にほどけ、十数本の矢となった。
「もっと」
 薫の声に、矢が増える。
「もっとだ」
 その声に、薫の頭上に矢が増える。
「もっと、もっと、もっと、もっと────」
 薫に呼応しクロウカード『矢(アロー)』は無数の矢を生み出した。
 薫の体がゆらりと揺れる。波打つ地面にニヤリと笑う。腕を上げ、指をパチンと弾いて鳴らした。
「狙え、一斉射撃(ゲート・オブ・バビロン)!!!」
 数百の矢が閃光となって地面に突き刺さった。
 そしてケルベロスがビシッと薫に腕を突きつける。
「そやから姉ちゃん! あんた『弓矢』にどないなイメージもってんねーんっ?!」
 魂の叫びだった。

「汝の在るべき姿に戻れ。クロウカード」
 澄んだ音が鳴り響き、地面から光の粒子を呼び寄せる。封印の杖の先で『THE WAVE』のカードが実体化した。さくらの前から遠ざかり、言峰薫が手に取った。
「さくらちゃん」
 薫の治療は終わったようだ。彼女は落ち葉を踏みしめ近付いた。泣きそうな顔だった。
「さくらちゃん。ごめんね」
「ふぇ、うっく、ひっく。うぇぇぇえええーん」
 泣き出したさくらを抱きしめて、薫はそっとさくらの背中を撫でた。

 さくらと知世とケルベロス、そして薫は木之本邸へと歩きだした。
 あの後、李小狼と李苺鈴がやってきて、さくらはどうにか涙を止めた。
 薫のドレスに呆然となるもプッと笑った小狼に、薫がこめかみに青筋を浮かべたのはご愛嬌。小狼と話して時計塔への連絡を約束させた。
 これ以上クロウカードに関わりたくないと言い、カードはさくらに託される。
 ひっくり返ったペンギン大王滑り台どうしようと頭を抱えたが、これはクロウカード『THE POWER』を使った木之本桜が軽々と元に戻した。薫がかなりいじけていた。
 ありがとうと礼を言い、小狼と苺鈴には帰ってもらう。三人+ケルベロスで家に戻ることにする。
「さくらちゃん」
「知世ちゃん。大丈夫だよ」
 心配気な知世の声に、さくらは笑顔で振り向いた。弱々しいが笑っていられる。だからきっと大丈夫。
 後ろを歩いていた言峰薫が歩を進め、さくらに並び、手を握る。
「薫さん?」
 しかし薫は何も言わずに、握ったその手に力を込めた。痛い。痛い。痛いのだけれど。振りほどこうとは思わない。
 知世とケルベロスに見守られ、木之本桜は歩きだした。

「大変ご迷惑をおかけしましたっ! 申し訳ありませんでしたっ!!」
 木之本邸に到着すると、藤隆・桃矢・園美が揃って玄関前で待っていた。
 意識が戻ったことを伝えると、さすがにショックだったらしく、皆一様に悲しげな顔になる。ここは謝る以外にありません。薫は何度も頭を下げた。
「いいえ、君のおかげで撫子さんと話ができました。ありがとうございます」
 藤隆の笑顔は痛々しいが、誤魔化される以外に術はない。
「……撫子」
 泣き崩れた園美を知世が慰めている。しかし彼女が手にする可愛いドレスに体の震えが止まりません。
 ああ、早く冬木に帰りたい。
 不謹慎にもそんなことを思っていると、木之本桃矢が話しかけてきた。
「おい、お前。霊っていうのは好きなときに喚べるのか?」
「は? いえ、基本的には『今、そこにいる霊』を喚ぶのです。まぁ、霊性を把握していれば、場合によっては霊界からでも喚べますが」
 薫の返事に、その場の音が消えました。
「あ、あれー?」
 薫は頭に冷や汗をかいた。
 みんながこちらを見ています。藤隆さん、そんなに見詰められると困ります。桃矢さん、見下ろすその目がガキ大将ですよ。園美さん、口元が笑っているが怖いんですがなぜですか? さくらちゃん、澄んだ貴女の目が眩しい。そして知世さん、オホホと笑ってるのはどーゆーつもりだオイ!
「お前、今夜は泊まれ」
 桃矢が薫の腕を掴んだ。
「薫さん、念のためにあと二日泊まっていきなさい」
 藤隆が反対側の腕を掴んだ。
「もしもし、例のドレス持ってきて頂戴。そうあれとあれ。それからあれも」
 園美がどこかに電話している。
「うわー。薫さん、ゆっくりしていってね」
 いや、さくらさん? お姉さん仕事あるから帰らせてもらえませんか?
「オホホホホホホ」
 その手のカメラを仕舞いなさい! お願いやめて知世さん!
「お盆と彼岸には母さんの気配を感じる時があるんだ」
「そうか、お盆とお彼岸は基督教には関係ないから時間はあるよね」
「もしもし、冬木教会? 綺礼神父ですか? 大道寺園美と申します。先程のファンシーショップの件ですが」
「ちょっとーっ?! 待ってくださいよ。特に大道寺さん! 貴女どこに電話してるんですか?!」
 薫の叫びを華麗に無視し、薫を家に連れて行く。
「さくらちゃん、今晩お泊りしてもよろしいでしょうか」
「うん! 大歓迎だよ知世ちゃん。みんなでいっぱいお話しよう!」
「あのねさくらちゃん、私にも事情とか色々ありまして」
「いくぞ、今夜は好きなもの作ってやる。何が良い?」
「いや、お兄さん。好き嫌いは特にありませんがそうではなくでですね」
「風が冷たくなってきましたね。早く入りましょう」
「そうじゃなくて! そうじゃなくてお父さん!」
「大丈夫よ。おばさん、今度冬木にぬいぐるみショップ作るから。遊びにいくわね」
「それが私にはわからないのです! ちょっとー!!!」
 薫は玄関へと連れ込まれ、パタンと小さな音と共に閉じられた。

 ドアが閉じるその瞬間、やさしい風が家の中に忍び込んでいたのだが、それには誰も気付かなかった。

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あとがき
 なんというかぽややん(苦笑)
 意外と一日というのは長いです。シーンの切り替えが性急過ぎか? しかしだらだら長いよりは、うーん。
 とりあえず、CCさくらはガチ戦闘(殺し合い)と相性が悪いと思います。……いや、それこそ話のテーマと作り方次第なのでしょう。以後、努力。
 初期プロットでは香港に行く予定でした。劇場版ですね(長くなるのでやめました)
2010.6/7th
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