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黄金のプチねた#61虚言

「王様、おじさま。……お聞きしたいことがあります」
 帰宅して、キッチンに直行した薫がニコニコ顔で歓談室に姿を出した。
 そこにいるのはこの教会の専任司祭たる言峰綺礼と、ギルバート・キングを偽称する大きな王様ギルガメッシュの二人であった。
 夕暮れ前の気だるい時間。仕事を片付け、ホッと一息ついてる。
 いつもならギルガメッシュが勝手に酒蔵(ワインセラー)を物色し、テーブル上にボトルを乱立させる。だが今日は酒瓶の一本も置かれておらず、二人して紅茶をすすっていたりする。
「どうした薫、見ての通り私はこの紅茶を満喫している。何か相談事でもあるのか?」
「なんだカヲル、我(オレ)も今はこの紅茶の香りを楽しんでいるところだ。王のくつろぎを邪魔するなど無粋であるぞ?」
 言峰綺礼とギルガメッシュ、二人はカップを離さない。そして目線を寄越さない。
「今日、食べるはずだったダークチェリー・パイが無いのですが、ご存じ……」
「「なんのことかな?」」
「……今シーズン最後で、みんなで食べようって言いましたよね?」
「うむ、しかし薫。私は何のことか見当が付かない」
「うむ、カヲルよ。我(オレ)にも何のことかサッパリ判らぬ」
 言って男二人は紅茶をすすった。

 —— 沈黙が訪れる ——

 凛と薫がよく通う、洋菓子店の季節モノ。酸味がステキなチェリーパイ。今期ラストを買い付けて、一緒に食べるはずだった。
 疑惑の視線を薫は向ける。男二人は相変わらずに、静かに紅茶をすすっている。二人とも、なぜにこちらを見ないのか?
「王様、おじさま。口元にお菓子のカスが付いてますよ」
 薫の言葉に、男二人はハッとその手を口に運んだ。

「……嘘です」

 ふっふっふっふっふ。口で笑ってしかしその目が笑っていない。そんな感じの薫である。
「くっ、カヲル貴様、王である我(オレ)を謀るかっ?! その不敬! 断じて許さんっ?!」
「神に仕える私に嘘とは、娘よ。私はそんな子に育て覚えはない。そうか、衛宮切嗣。奴の仕業か」
「おのれキリツグ、猟犬の分際で我の従者を誑かすとは許せんな。よし、この我自ら誅罰を与えてくれるわ」
「待て、私も行こう。あのような男に娘を任せた結果がこれだ。奴には地獄が相応しい」
 頷いて、共に立ち上がる彼らはマスター&サーヴァント。だがしかし。
「……言いたいことはそれだけですか?」
(マズイな、誤魔化せると思ったのだが)
(どうするのだ綺礼、だから我(オレ)は止めておけと言ったのだ)
(何を言う、発案者はギルガメッシュ、お前だ)
(ぬかせ、貴様マスターだからといって調子に乗っているのではあるまいな?)
(私はマスターである前に神に仕える神父である。常に真実のみを語る者だ)
(ハハハハハ。やはり貴様は道化師の才がある。更に我を笑わせろ)
 男同士で視線を交わす。そうです。マスター&サーヴァント。
「もう知りませんっ!!!」
 そう言って、薫はその身を翻した。
 その場に残った男二人は、ふぅと息をついて額の汗をぬぐい取った。
「カヲルの奴め、どうも最近、我に対する敬意が薄れている気がするな。それもこれも綺礼、貴様がいかんのだ」
「何を言う。ギルガメッシュ、そもそもお前が悪い。そんなことは自明の理だ」
 むむむと睨み合っていると、薫がボストンバッグを片手に出て行くところが目に入る。
 出かけるのかと尋ねると「今日は帰りません」と背を向けたままで返事が聞こえた。

 —— きぃ、ぱたん ——

 居住棟の大扉が開いて閉じた。
「「なに?」」


あとがき
 プチ家出編。とは微妙に違いますが、数話続きます(笑)
 個人的な意見ですが、プチ家出は否定派です。逃げ出して、つかめる物など何もない。みたいな。
 とはいえ、虐待を受けているときは警察へ。何かつかむ前に命を取られるわけには行きません。相手は既に「犯罪者」です。
2009.1/19th

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