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黄金のプチねた#43チケット

「いらっしゃいアルーッ!」
 引き戸を開けると元気な声が木霊した。ここは冬木市深山の商店街、その一角にある中華屋さんだ。
 入ってきた三人を、チビッコ店長とその名も高き魃(ばつ)さんが案内してお冷やを渡す。
 親御さんらしき男からチケットを受け取って、魃さんはニンマリと笑みを浮かべた。
「お客さん、薫ちゃんか綺礼の知り合いアルカ? 判たね。美味しい中華だすアルから楽しみにするネ」
 店長はチケットをグッと握りつぶし、身を翻して厨房へと消えていった。
「わーい、何が出てくるのか楽しみですね。切嗣さん」
「そうだね大河ちゃん。おまかせコースのチケットだけど、社長がくれたんだから期待しよう」
「ちぇー、社長っていっても俺と同じ子供だろ?」
「何言ってるのよ士郎。世の中って言うのはね、厳しいものなのよ」

 ぶーぶーと文句を言うのがまだお子様な衛宮士郎。なだめつつもからかっているのが藤村大河。そんな二人を笑顔で見守るのは衛宮切嗣である。

 切嗣のお勤めも無事に一ヶ月が経過した。だからという訳でもないのだろうが、薫がお食事券をくれたのだ。マウント深山商店街の「紅州宴歳館・泰山」で、コース料理が食えるとか。
 せっかくなので受け取った。士郎と大河を連れ立って、謂わば今日は家族サービス。パパさんポイント・ゲットだぜ。

 —— チケットを渡す薫の後ろ、そこに綺礼とアーチャーが立っていた。その意味を切嗣は思慮するべきであったのだ ——

 金色の茉莉花茶(ジャスミンティー)と点心に舌鼓を打つ。美味い。三人とも箸が進み、笑い声が絶えることもない。
 そして菜(ツァイ:和食の大皿料理、洋食のメインディッシュに相当する)がやってきた。

 —— テーブルに沈黙の帳が降りた ——

 赤かった。
 回鍋肉が、青椒肉絲が、魚香茄子が、乾焼蝦仁が、宮爆鶏丁が、そして中央のマーボー豆腐がどうしようもなく赤かった。
 ゴクリとどこかで音がした。
「きゃーっ! 美味しそうですね切嗣さん!!!」
「「おい」」
 え? と笑顔の藤村大河。しかし衛宮親子はとまどいを隠せない。
 切嗣は想う。様々な料理を食べてきた。しかしテーブルが赤一色に染まったことは一度もなかった。
 士郎は想う。目が痛い。これって本当に食い物なのか?
 魃さんがニコニコ笑う。
「このコースも久しぶりアルネ。これ頼むは綺礼と王様だけかと思てたネ」

 —— この瞬間、切嗣は自分が罠にはめられたことを理解した ——

「また来るよろしーっ」
 数十分後、元気な声に送られて、三人は店を後にした。先頭の大河はとても元気で「美味しかったですね。また来ましょう」などと言っている。
 しかし後ろを歩く男二人は口元に手を当てて、その足取りは重かった。
「親父、俺、みんな同じ味しかしなかったと思う」士郎は顔中に汗をかいていた。
「あはは、あははははは(言峰綺礼、いつかコロス)」切嗣の頬がぴくぴく震えた。

 その頃、教会の礼拝堂で、少女が手を組み、跪き……。
「ごめんなさい」
 申し訳なさそうに懺悔していた。


2008.8.28th
 こうして士郎に「中華はみんな同じ味」という偏見が……(うそ)

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