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黄金のプチねた#18古傷

 秋も更けて風が涼しくなった頃、地下礼拝堂の掃除を終えた薫が地上に出ると、中庭に出てきた綺礼が歩きながら手をさすっていた。
「どうした薫?」
 薫の視線に気付いた綺礼が尋ねるが、薫は綺礼の手から目を離さない。
「……おじさま、手が痛いんですか?」
 眉間にしわを寄せた薫に、言峰綺礼は苦笑した。
「なに、大したことはない。古傷が少々うずいただけだ。私はここ(冬木)に来る前は代行者として戦いの前線にいたこともあったからな。多少の怪我は経験済みだ」
 それは薫も知っている。僧衣に隠れた綺礼の体は鍛え抜かれた戦士のそれで、傷跡が多く刻まれている。最大なのは衛宮切嗣にライフル弾で打ち抜かれた胸の傷であるが、それ以外にも傷跡は多い。どうやらその傷がうずくらしい。
「そうですか、寒くなってきましたからね。暖かくしないと駄目ですよ、おじさま」
「ほう、暖かくすればいいのか?」
 ええ、と薫は頷く。
「古傷がうずくのは血行障害の一種です。
 まず、肉体が傷付けられると組織が破壊され、それが治るわけですが「復元」されるわけではありません。傷跡がうっすらとしたスジに残るでしょう?
 あれは結合組織が密集して「元より丈夫に」作り替えられた痕(あと)なのです。
 結合組織とは言ってみれば爪とか皮みたいなもので、丈夫ですが伸び縮みしないのです。そして体温とは基本的に筋肉の運動による代謝で作られていてそれが血液によって全身を暖めます。しかし伸び縮みする機能がない傷跡は毛細血管も少なく熱も発生できず、外気温の影響を受けやすいのです。
 よって寒くなったり気圧が下がると影響をすぐに受けて血行が悪くなり「古傷がうずく」という症状を発生させます」
「ほう、そういう原理なのか」
「はい。傷跡は筋肉ではなくなり皮みたいになっていて血管が少なく熱も出さない。だから冷えが入って来やすいってことで。ですからそういうときは温めてやるといいですよ」
 そう言って薫は綺礼の手を取った。大きい手だ。面積比で二倍はあるか? ちっ。まだまだ勝てそうにない。
「ふむ、ではストーヴの用意でもするかな」
「じゃあ手伝いますね」
 二人は居住棟に歩いていった。


あとがき
 切嗣(暗殺者)よりは綺礼(代行者)の方が、きっと体は傷だらけなんだろうなと。
2008.2.29th

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