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黄金のプチねた#01「半ズボン」

「こ、これは!」
 薫は自分の目が信じられなかった。教会に引き取られてから数ヶ月、それは一度も手にすることが許されなかった男の証。
 半ズボン。
 入り口が一つで出口は二つ、それは何? そうです。答えはズボンです。
 しかしここは言峰教会、女の子の自覚が足りない薫には、ズボン禁止の命令が出ています。
 ぱんつとスパッツ以外では、腰への着衣はスカートのみで、そうでなければワンピース。おのれ変態・言峰綺礼め。今時の女の子はズボンだって穿くんだよ!
 それから最近じゃズボンじゃくてパンツと言うのだ。ちなみにアクセントは「パ」でなく「ツ」にある。
 パんつ、違う。ぱんツなのです。
 そして目の前に置かれた物体は半ズボン。ショートぱんツ。ハーフぱんツ。やったぜ綺礼。お前はやれば出来る奴だと思っていたぜ! びば! 半ズボン!!
 言峰薫は涙ぐむ。小さくなって数ヶ月、女の子になり数ヶ月、毎日スカートを穿き続けた毎日だった。辛かった。悲しかった。この気持ち判ってもらえますか?
 判る? ふざけるな!!! スカートってスースーして暑いときには快適なんだぞ! それが貴様に判るものか!!!
「ふむ。喜んでいるようで何よりだ。買ってきた甲斐があったというものだ」
 そんなことを言っているのは言峰綺礼。ああお父さん、教会の僧衣姿で子供服を買ってきた貴方の勇気に祝福あれ。ありがとう。この半ズボンは大事に穿かせてもらいます。だから次はジーパン欲しいな。
「ハハハ。気に入ったようだなカヲル。ならば早速はいてみるがよい」
 判りました王様。おまかせください! 言峰薫、立派に半ズボンを穿きこなしてご覧に入れます。スカートに比べれば、ズボンなど敵ではありませんぜ。ふはははははは。
「どうですか?」
 ギルガメッシュと綺礼の前に、じゃーんとばかりに飛び出す薫ちゃん。
 Tシャツの上にパーカーを羽織り、下には真新しい半ズボン。決まったぜ! やはり男は半ズボン。俺の魂は守られた。ありがとう言峰綺礼、僕たちはきっと分かり合えるに違いない。
 王様はハハハと笑い。綺礼はクククと喉を鳴らした。
 だがしかし思い出せ。ここは何処? そうだここは言峰教会。この世界で最も絶望に近い場所なのだ。
 満面の笑みを浮かべる養女・薫に・綺礼は優しい口調で真実を告げた。
「薫。喜んでいるところをすまないが、それは半ズボンではなくキュロットスカートというものだ」
 薫は地獄に突き落とされた。口元は笑顔のままで凍り付く、だけど眉は寄って目は大きく開かれた。
「……半ズボン」
「いや、キュロットスカートだ」
 言峰綺礼。ウソはつかない男である。
「……半ズボン」
「カヲル。それはスカートの一種であるぞ」
 ギルガメッシュ、真贋にはちょっとうるさい王様なのだ。
 薫の視界が歪んでいく。熱い涙が溢れて零れる。ウソだ。こんなのウソだ。
「違うもん。半ズボンだもん。うぇぇぇええええーん」
「「ハハハハハハハハハ」」
 泣きながら走り出す少女、それを神父と王様は笑顔で見送り親指立ててサムズアップ。
 酷い保護者であるのでした。
「うっく、ひっく、えぐえぐ、おじさまのバカ、王様のバカ」
 ベッドの上で枕を抱いて、薫はさめざめと涙を流す。ああ、窓から差し込む光が美しい。神様どうか薫に憐れみを。
 ……金ピカの神様(三分の二)いるんで強力なのをお願いします。ちくしょう。今に見てろよ憶えてろ。
 薫の孤独な戦いは続く。多分。


 あとがき
 本編に入れなかった小エピソードがいくつかあり、少々もったいないなと思いまして載せる場所を作ってみました。
 独立したスピンアウトSSならいいかなー。という感じです。
 本当は、この位のものが「黄金のおまけ」になるはずだったのです。思ったようにはいきませぬ。あはは。
2008.1/10th

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