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黄金のおまけ#14.5bマジカルツアー・2日目

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 次の日の朝、薫は起床しグリフィンドールの談話室へと足を運んだ。
 今日からは、ハリーやロンやハーマイオニーら二年生と行動を共にして授業を受けるのだ。ついにきました魔法の授業。何をするのか楽しみです。
「あれ?」
 ハシゴを登って談話室に到着し、暖炉に近づこうとしたところ、ヒキガエルに通せんぼされてしまった。
 まだ朝早く、高緯度のスコットランドは窓の外が真っ暗だ。そして今は冬である。このヒキガエルは冬眠せずにいるよう様子。しばし薫はヒキガエルと見つめ合う。
「Good morning. ヒキガエルさん。あなたは誰かの使い魔ですか?」

 返事がない。ただのヒキガエルのようだ。

黄金のおまけ#14.5bマジカルツアー・2日目

 違うだろ! 心の中で自分にツッコミを入れておく。
 踏み潰されたら危ないので拾い上げ、暖炉前のソファーに連れて行く。一緒に炎で暖まりつつ誰かが来るのを待つのです。
 ちらほらとグリフィンドールの寮生達が動きだし、薫は彼らに朝のご挨拶。やや硬い表情を見せる者が多いが、それでも笑顔を返してくれる。そんな彼らに嬉しく思う。
 薫は今日もローブを羽織った魔女っ子ルックで、廊下などではとんがり帽子もかぶっている。
 尼僧服はバッグの底にしまい込んだが、アゾット剣や聖典の書は持ち歩く。何かする気はないのだが、万が一にも帰れなくなるわけにはいかない。
 何もしないで帰る。それだけで魔法界とのパイプ作りに役立つのだ。出しゃばろうとは思わない。
「おはようカオル。あら、そのヒキガエルはネビルのトレバーじゃない」
 ハーマイオニーがやってきた。
「おはようハーマイオニー。やっぱりこの子は使い魔なのですか」
「使い魔? ううん。トレバーは使い魔じゃなくてペットよ。私、知ってるわ。使い魔は魔法使いに支配されているんでしょう? でもトレバーは服従の呪文が掛けてあるだけだから、使い魔じゃなくてペットよ」
 すみません。違いがよく判りません。
 彼女が言うには魔法界のペットには服従の呪文というのが掛けられており、飼い主の命令に従いちょっとした用を足したり出来るようにしつけてあるとか。爪や髪や宝石を埋め込み支配する使い魔よりは、ずっとマイルドなものであるらしい。
 へー。と薫がトレバーとにらめっこをしていると、ハーマイオニーがネビルが来たと教えてくれた。
「おはようネビル。ちょっと来てちょうだい」
 やって来たのは男子生徒。ぽっちゃりした丸顔でやや小柄。ちょっと弱気そうな子だが彼も二年生なのだとか。
「この子がネビル・ロングボトムよ。ネビル、あなたのヒキガエルがまた抜け出していたの。カオルが踏まれないように拾ってくれたそうよ」
「トレバー!!!」
 薫が蛙を差し出すと、彼はそれを大事そうに受け取った。
「ありがとう。こいつ言うこと聞かなくて何度も部屋を抜け出すんだ。しょうがないヤツだよ」
「ほぅほぅ。トレバー(泣き虫)なのに元気がよいのですね。私も使い魔はヒキガエルなのでヒキガエル仲間です」
 薫の言葉にネビルとハーマイオニーは目を丸くした。
「君、教会なのにヒキガエルなの?!」
「あー、言いたいことは判ります。ええ、私はヒキガエルを使い魔にしています」
「どうしてヒキガエルにしたのかしら。私、知ってるわ。日本ではカラスが神聖な鳥なんでしょう? だからカオルはカラスを使い魔にしてると思ったのに」
 まさか霊媒治療の実験台にしたあげく、生肉集めて作ったフレッシュゴーレムとは言えない。適当に誤魔化すことにする。
「ほら、蛙さんは肌がスベスベして可愛いじゃないですか?」
 ……。……。
 二人の視線が痛かった。

 連れだって大広間へ行きグリフィンドールのテーブルにお邪魔する。
 朝食はイングリッシュ・ブレックファースト。トーストにオートミールやコーンフレーク、目玉焼きとスクランブルエッグ、ゆで卵。ベーコンとキッパー(塩漬けニシンの燻製)カボチャジュースやオレンジジュースが並んでいる。
 好きなように食べてよいとのことなので、オートミールとゆで卵、キッパーとカボチャジュースを取り寄せる。
 悪名高いイギリス料理。しかし朝は素材の味が嬉しい飽きないメニューだ。イギリスに来たら朝食を一日に三度食え、などという言葉もある。
 ああ、魚が美味しい。
 キッパーをかじりつつ薫がのんびりしていると、テーブルに影が差した。見上げると、頭上に十数羽のフクロウが飛んでいた。
「あれはフクロウ便のフクロウよ。ああやって毎朝手紙を届けてくれるの。手紙を出したかったらフクロウ小屋に行くと良いわ」
 ハーマイオニーの説明にひとしきり感心し、再びキッパーをやっつけようと視線を下げて。

 —— テーブルの上でこちらを見詰めるフクロウと目があった ——

 間近で見るとでかいです。猫よりはるかに大きいです。
 薫をジッと見詰めるフクロウに周囲も気付き、その様子をうかがった。そしてフクロウは翼を広げ、
「え? ちょっと、んぎゃぁぁああ?!」
 薫に飛び掛かった。

「カオル、貴女きっと鳥使いの才能があるんだわ。フクロウをペットにしたらどうかしら」
「あはははは。使い魔はヒキガエルで決まりです。良い子ですよ、とても」
 ハーマイオニーに手を引かれ、カオルはよろけながら廊下を移動する。
 あの後、六羽ほどのフクロウにたかられた。どうも飛行魔術「火の鳥」が魔法がかかった鳥を誘引するらしい。全部が寄ってこなかったのはオス限定なのだと思う。いや、考えるのはよそう。明日からは少し早くに朝食をとると心に誓う。それがいい。
 授業に使う教科書をベルトで縛り、薫はハーマイオニーの後を追う。彼女は勉強好きなのか、背中にたくさんの本を担いでいる。
「教室はここよ。1時限目は「変身術」の授業だわ」

 魔法の授業が始まった。

 案内された教室は、やや古めかしいが普通の教室だった。変身術の講師は副校長のミネルバ・マクゴナガルだ。
 今日の課題は「縫い針を孔雀の羽に変えること」そう言い彼女は黒板に魔術式を書き出した。
 数式と文章が入り乱れるそれは複雑で、ロンやハリーが顔をしかめる。ノート代わりの羊皮紙に写しつつ、薫は少し考える。
 数学の本質が数字と数式で思考することであり、代数の変わりに概念や文章を数式に代入するこのやりかたは普通、大学専門レベルの数学だ。宇宙の秘密の証明式ともなれば、時間や空間、計測単位すら式で伸びたり縮んだりする。科学とは、上の方で魔法と大して変わらない。
 これなら「易経」の定型文条件置換言語計算の方が簡単なんじゃ無かろうか。
 これは難しい。などとも思うがそこは魔法の良いところ。全ては「イメージ」で置き換え可能。センスが有れば理論を飛ばして神秘をなせる。
「ではやってみましょう。針を手に持って。杖を向けて。針が姿を変えていくところをイメージして」
 薫は生徒達と一緒に言われるままに呪文を唱える。しかし何も変わらない。
 周りを見ると、ハリーが見事に孔雀の羽を手にしていた。ロンが手にしているのはガチョウの羽か? ハーマイオニーの手にはまだ針がある。やはり個人差があるようだ。

「2時限目は「魔法史」よ」
 やってきた先生は幽霊(ゴースト)だった。青白くて透けていて、音もなく現れた。
 カスバート・ビンス先生。おじいちゃんで唯一の幽霊先生。暖炉の前で眠りこけ、授業に行こうとして体から抜けてしまったらしい。
 さすが魔法学校、もはやツッコミの入れようがない。
 幽霊先生はゆっくりと授業を進め、生徒達は一人、また一人と眠りに落ちていく。こんなところは普通の学校と同じです。

「3時限目と4時限目は「飛行訓練」箒を使って空を飛ぶの。体育の授業の代わりなのね、きっと」
 担当のマダム・フーチは背筋がピンと伸びた凛々しい女性で、金髪を短く刈り込んで軍人みたいな雰囲気だ。
 きびきびと指示を出し、生徒にクィディッチのゲームをやらせている。授業はグリフィンドールとスリザリンの合同で、空に箒に乗った魔法使いが飛びまくる。
 薫はといえば、先日買った魔法の箒クイーンスイープを持ち出して、マダム・フーチに個人指導を受けていた。
「コトミネ、あなたは自分の箒を持っているのですね。クイーンスイープ。それはよい箒です」
 どうやら箒マニアである様子。
「箒の扱い方は知っていますか? 独学で我流? それはいけませんね。いいでしょう、基本からきっちり教えてあげます」
 まず箒を地面に置いて、横に立つ。
「では腕を伸ばして手を開いて。そして呪文を唱えましょう。Up!(上がれ)」
 基礎から教えていただきました。

 お昼になって午前中の授業は終わり。大広間に行き昼食タイム。お昼のメニューは肉料理。
 ……雑でした。焼いてあって塩コショウがしてあれば食べれるけれど、もう少し何とかならないだろうか。お醤油と大根おろしが欲しかった。

「5時限目は「薬草学」よ。温室へ行きましょう」
 ハッフルパプ寮監のポモーナ・スプラウト。小柄なおばあちゃん先生で土まみれ。つぎはぎだらけの帽子をかぶり、薬草の取り扱いを説明する。
 今日はマンドラゴラに風邪を引かないためのマフラーを付けるのだとか。もう色々言っても無駄なんだと悟り出す。
 マンドラゴラは朝鮮人参のことだと思っていたが、見るとメタボなジャガイモ星人みたいなヤツだった。魔法界ではこうなのだと薫は思うことにした。

「6時限目は「魔法薬学」なんだけど……」
 ハーマイオニーが眉を寄せている。勉強好きに思える彼女でも、苦手な教科と言うことか?
「ううん、そうじゃないの。魔法薬学は好きよ。でもねカオル。担当のスネイプ先生はスリザリンの寮監で、スリザリンをひいきするの。それからハリーを目の敵にしてるのよ。何故かしら」
「そうなのですか? まぁ教師といっても人間ですから、好き嫌い位はあるのでしょう。不公平な扱いを受けるのですか?」
「そうじゃないわ。でも、何故かハリーには厳しくあたるのよ」
「ハリーは天才タイプみたいですからね。薬学と言うからには理論が大事なのでしょう。調子にのってカンで調合されてはたまらないとか思っているのかも」
「どうなのかしら。でもカオル、あなた面白い考え方をするのね」
「そうですか?」
 教室は地下にあり、壁面には材料となる妖しげな品々が並んでいた。そこにスリザリン寮監、セルブス・スネイプがやってくる。
 少々暗いここでは、彼はまるで育ちすぎたコウモリのようだった。
 顔色が青白く土気色で、大きなかぎ鼻が突き出している。黒い髪はねっとりとして肩まで伸びたそれを左右に分けて撫で付けていた。落ちくぼんだ目の色は黒で、同じく黒いローブは重たげだ。
 彼は薫にちらりと目をやり、しかしすぐに戻して口を開いた。
「さて諸君、今日はまず魔法薬学についてのおさらいだ」
 低い声が静かに響く。
「この授業では魔法薬の調合という微細な科学、そして厳密なる芸術を学ぶ。
 ここでは杖を振り回すような馬鹿げたことはやらん。これで魔法かと思う諸君も多いかもしれん」
 そう言って、スネイプ教諭は薫を見る。
「フツフツと湧く大釜、ユラユラと立ち昇る湯気。人の血管をめぐる液の繊細な力。心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力。
 諸君がこの見事さを真に理解するとは期待しておらん。しかし我輩が教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえフタをする方法である」
 静かに、しかし力強く彼は言った。だがすぐに頬を皮肉げに歪める。
「ただし、我輩がこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がましであればの話だ。有名なだけでは、———」
 彼は指を左右に振って。
「チッ、チッ、チッ。どうにもならんと覚えておき給え」
 この先生、なんか気合いが入ってる!!!
 羊皮紙の頭の部分に「名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえフタをする」と書いておく。
 薫が一人喜び、顔を上げるとスネイプがこちらを見ていた。なんでしょう? そんな気持ちを込めて首を傾げる。
「コトミネ。君は魔法薬学に関心があるのかね?」
「はい。術者の資質に関わらず、一定の効果を発揮する魔法薬には興味があります」
 ほう。小さくつぶやき、スネイプは笑みを浮かべた。
「君はどうやらウスノロよりは見込みがあるようだ。しかしだ。君はトオサカ門下。かの魔法使い(ザ・ウィザード)の弟子筋として、宝石の魔術を学んでいるのであろう?」
「はい。しかし私はまだまだですので、多くを学ばねばなりません。縁あってホグワーツを訪問できたこと、嬉しく思います」
「励み給え、学び給え、さすれば得るものがあるだろう」
「はい。ありがとうございます」
 それで関心を無くしたように、彼は視線を戻した。少々ざわついた教室を一瞥すると、たちまちに静まった。

 授業が終わる。
 悪戯仕掛け人の双子に追い掛けられて必死に逃げる。全寮制のホグワーツ、その閉塞感を弛める効果があるのだろうが、やられる方はたまりません。
 その後、図書室でハーマイオニーと合流し、魔法薬学の宿題を羊皮紙に羽ペンで書き上げた。期限までにはいなくなるからやらなくても平気なのだがこれも勉強。怠けては、良いことなど起こらない。
 ハリーやロンはクィディッチの練習に励み空をびゅんびゅん飛んでいる。寮対抗戦に向けて特訓期間であるらしい。
 今日も早々と日が暮れて、大広間で夕食となる。並んでいるのはプティング料理。日本ではプリン(カスタードプディング)が代名詞だが、デザート以外にも色々あってメインディッシュにもなるのです。
 和食では茶碗蒸しがあるいは近いかもしれない。煮たり焼いたり蒸し上げたりして「固めた」料理の総称だ。
 ちなみにヨークシャープティングというのは中身のないシュークリームの皮であり、ジャガイモの代わりに肉料理の付け合わせになったりする。
 他にトライフル(英国のケーキの一種)やパイが並んでいる。
 スポンジケーキとカスタードが層を成し、フルーツが散りばめられたトライフルを堪能する。表面はクリームがたっぷりで、きっとカロリー大爆発ではなかろうか。
 スリザリンのテーブルで太った子がトライフルをがっついているのが目に入る。止めてくれる友達はいないのだろうか。頑張れスリザリン。真の友を得るその日まで。フォーエバー♪
 紅茶を飲んで休んでいると、何やら教師の列に動きがある。教師の数は二十数名、うち何人かがあわただしく駆け回る。
 少しするとマクゴナガルが一人の男を連れてきて、薫は紅茶を吹き出した。
 肩より長い黒い髪を左右に分けて、不機嫌そうな顔をしているその男。仕立ての良いスーツを着ているが、ローブだらけの魔法学校では完全に浮いている。
 男は薫と目が合うと、一直線にやってきた。そして彼は手を伸ばし。

 —— びべちっ!!! ——

「のぉぉおお。割れるように痛いぃぃいい。ふぃ、フィジカルエンチャントぉぉおお?!」
 何ごとかと見上げる生徒の視線も何のその、薫に渾身のデコピンをかましたのは時計塔(魔術協会)の一級講師。
 ウェイバー・ベルベットその人だった。

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あとがき
 マスター・V、到着。
 次回、薫vsロックハート。
2008.5.18th

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