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黄金のおまけ#14.5bマジカルツアー・1日目

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 イギリス、ブリテン島を北に行ったスコットランドの湖水地方、とある湖の近くに廃墟の城が立っていた。城は半ば崩れ落ち、近づくと「崩落危険・立入禁止」の札がある。
 しかしそれはまやかしだ。
 目をこらして見るが良い。石造りの城は崩落などしておらず、夜にもなれば多くの灯りが灯される。

 —— Hogwarts School of Witchcraft and Wizardry(ホグワーツ魔女術魔法学校)——

 妖かしのこの城は、魔法使いの子供達が集まる学校だった。

黄金のおまけ#14.5bマジカルツアー・一日目

 冬にもなれば、スコットランドの日暮れは早い。三時を過ぎれば陽が落ちて、五時にはどっぷり暗くなる。城の中では、馬車も通れる幅と高さの廊下の壁に燭台が飾られ光を放つ。城の大扉を入って直ぐの大広間を、古風な鉄のシャンデリアのロウソクが明るく照らす。
 教会の礼拝堂よりなお広い広間には、学校の生徒たる魔法使いの子供達。その数は千人ほどであるだろう。
 ワイシャツとベストの上に黒いローブを着込んだ魔法使いの少年少女は、四つに分かれた長テーブルのベンチに座る。この学校は全寮制で、広間は食事の場所となる。
 しかし今日はいつもと違う。普段は食事の時間に全員集まることはない。場所はここだが時間については大らかで、決められた時間内ならいつ来て食べて、いつ出ても構わない。
 しかし今日は何かあるらしい。一年生から七年生まで全生徒に出てくるようにと声がかかった。ついでに言うとまだテーブルには食事が用意されていなかった。
 ひそひそ話す生徒達に、年老いた魔法使いが呼びかけた。
「諸君」
 楽しげな明るい声に、生徒達の視線が集まる。魔法使いの名はアルバス・ダンブルドア。ホグワーツの校長だ。
 背が高く。笑みを浮かべた顔の上、半月型の眼鏡の奥でブルーの瞳がキラキラ光る。長い鼻が少し曲がっているのはご愛敬。髪は長くヒゲもまた長い、銀色に色あせたそれらは細かくちぢれてモジャモジャのフワフワだ。
 これで真っ赤なパジャマを着ればサンタクロースだが、ここは魔法学校ホグワーツ。ダンブルドアも黒いローブをひるがえす。
「ディナーの前に紹介しよう。ホグワーツにお客様がやってきた。なんと驚くことに日本からじゃ。極東からやって来た彼女はもちろん魔法使いじゃが、実は秘密が沢山ある。そんな彼女を皆に紹介出来るのは喜ばしい。ミス・コトミネ、前に」
 ハイ。英語ならざる返事と共に、一人の少女が前に出る。
 艶のある黒髪は腰まで伸びて、クセもなく絹糸のように真っ直ぐだった。欧州では天然でウェーブが掛かった髪が多いため、滑らかな黒髪はエキゾチック(異国風)に見えるのだ。切りそろえた前髪の下、鳶色の目が宝石のように濡れていて、肌は溶かしたチーズのように滑らかな黄色人種。
 そんな彼女が魔法使いのローブを羽織り立っている。中に着ているベストはクリーム色で、スカートはタータンチェックのワイン色。シルバーのネクタイを締めて頭にとんがり帽子を乗せていた。
 ざわめく生徒達に一礼した少女の横に、副校長のミネルバ・マクゴナガルが並び立ち、パンパンと手を叩く。
「皆に紹介します。彼女はミス・コトミネ。時計塔に所属しています。つまり魔法界の魔法使い(a wizard)ではなく魔術協会に属する魔術師(a magician)です」
 生徒達のざわめきが大きくなった。同じく社会の裏側に隠れ住むが、在り方が異なる魔術師たち。その一人がやってきた?
「静かに、静かに」
 マクゴナガルが手を挙げて生徒を制する。
「ミス・コトミネは日本で霊地を管理するセカンドオーナーに師事する魔術師ですが、お父上は聖堂教会から出向で魔術協会に所属している元代行者です」
 マクゴナガルが紹介すると、天井近くから悲鳴が上がった。
(( ひぃぃいい。聖堂教会のエクスキューター、教会の殺し屋だぁぁああ?! ))
 生徒達が見上げた先に浮かぶ青白い半透明な小男、ホグワーツに住み着く幽霊がグルグル回りながら壁に突っ込み消えていく。
 エクスキューター?! 殺し屋?! ねぇ聖堂教会って何? 君、知らないの?!
 たちまち騒ぐ生徒を無視し、マクゴナガルは先を続ける。
「彼女は魔術師として修行を積む一方、お父上より厳しい訓練を受けているそうです。そんな彼女ですが、魔術協会と聖堂教会の橋渡し役を務め、双方の穏健派を繋げる仕事をしています。これは私たち魔法界に暮らす者にとっても大変意義のあることです。彼女を数日間ではありますが、このホグワーツに迎え入れ、生徒として暮らしてもらいます。コトミネ」
 名を呼ばれ、薫は改めて前に出て一礼した。
「言峰薫です。日本の霊地冬木の管理者(セカンドオーナー)遠坂門下、宝石の魔術を学んでおります。短い間ですが宜しくお願いいたします」
 とまどう様子はあるものの、生徒達から拍手が起こり、言峰薫は微笑んだ。
「本来なら生徒は組み分けを行いますが、彼女はグリフィンドール二年生に預かります」
 四列あるうちの一列、グリフィンドール寮のテーブルから拍手が起こる。
「ではコトミネ。今からあなたはホグワーツの生徒です。ウィーズリー。パーシー・ウィーズリー」
 マクゴナガルの声に一人の生徒が立ち上がり、手招きして薫をいざなった。彼はひょろりと背が高く、赤毛(明るい茶髪)で顔はそばかすだらけ、四角い眼鏡を掛けている。
「はじめまして。ミス・コトミネ。君も今からホグワーツの生徒だ。コトミネと呼ばせてもらうよ。僕はパーシー・ウィーズリー。グリフィンドール寮の監督生の一人だ」
 胸を張った彼のローブに、寮の監督生のものだというバッジが光る。よろしくと頭を下げる薫に彼は微笑み、グリフォンドール寮のテーブルへと連れて行く。
 この学校は全寮制で、一年生から七年生までいる生徒は四つの寮に属しているのだそうだ。

 グリフィンドールのシンボルカラーは真紅と黄金。勇猛果敢で騎士道をもち、勇気あるものが集う寮。
 ハッフルパプは黒とカナリアイエロー。心優しく勤勉で、忍耐強い者が集う寮。
 レイヴンクローは青と銅。知恵と知識を重んじる、学問好きが集う寮。
 スリザリンは緑と銀色。手段を選ばす狡猾で、しかし真の友を得る寮だとか。

 グリフィンドール(黄金のグリフォン)ハッフルパフ(怒って頬を膨らます)レイヴンクロー(カラスの爪)スリザリン(ずる賢い者)以上、四つの寮が互いに競いながら学んでいくのがホグワーツだと薫は聞いた。
 本当は、入学時に「組み分け帽子」というマジックアイテムによって資質を読み取り、寮への振り分けをするのだが、薫はこれを辞退した。
 仕組みも知れない走査魔術で知られたくないことを読み取られてはたまらない。こんな素敵な場所に来たのにバカになれない自分が悲しいが、まぁ仕方がないだろう。
「コトミネ、カモン(こっちだ)おいロン、ハリー。それにグレンジャー」
 彼女の面倒見てあげて。パーシーの呼びかけに男子二人がこちらを向いて、女子一人が手を挙げた。
「こっちよ」
 言われるままに薫は進み、女の子の隣に座る。その子はしゃべり出そうとしたのだが、ダンブルドアが話し出して口をつぐんだ。
「では諸君。お待ちかねの夕食じゃ。今夜はニッポンのスシとテンプラ、ミソスープを用意させたぞ。そぉれ」
 ダンブルドアが楽しげに杖を振るうとテーブルに料理が現れた。
 海苔が中に巻かれてお米の白が眩しいサラダ巻き。フレンチフライ(フライドポテト)も混ざった天ぷら色々。そして妙に具沢山で何かが違うお味噌汁がずらりと並んだ。
 こちらの感覚ではライスは野菜の一種である。さしずめスシはオシャレなサラダディナーなのだろう。生徒達は喜んでいるようだ。
 しかし何とも魔法の無駄遣い。だけれどそこに痺れます。
 色んな意味で薫が感心していると、ダンブルドアがグラスを掲げた。
「ではワシからこのめでたい日に一言。こーら、わっしょい。こらしょ、どっこいしょ。
 ———— 以上じゃ」
 薫はベンチからずり落ちた。

 転けた薫を女の子が助けてくれた。周囲から生暖かい視線が来る辺り、校長のファンキーな挨拶はいつものことなのだろう。さすが魔法学校、油断大敵である。
 ベンチに座り直した薫に、隣の女の子が話しかけてきた。
「あなた大丈夫? 私、ハーマイオニー・グレンジャーよ。言いにくかったらハーミーって呼んでくれればいいわ」
 こちらの学校は九月から始まるが、同級であるらしい二年生、十二才の女の子。
 前髪は眉の上で切られているが、長くてボリュームのあるフワフワな栗色の髪の持ち主だ。ぱっちり開いた目で薫を見つめ、真っ直ぐこちらを向いている。
「はじめまして。私は言峰薫。カオルと呼んでください。よろしくハーマイオニー」
 笑みを浮かべた薫に彼女、ハーマイオニーも笑顔を見せた。
「OKよ。カオル、あなた英語とても上手ね。でも言いにくかったら無理しなくても良いのよ」
「あはは。日本人は母音を連続で発音するのは得意です。No problem.」
 ハーマイオニー、実は微妙に言いにくい名前である。場合によってはHer(彼女の)My(私の)Knee(膝)などと言って誤魔化すことになる。「っ」を除けば全ての音にアイウエオの母音が含まれる日本語は、実は希有な言語なのだ。
 ちなみにアラビア系の人と英語で話すと母音が聞こえず恐ろしい思いをするでしょう。
 それはともかく。
「私、知ってるわ。時計塔の魔術師は杖が無くても呪文を使えるんでしょう? 素敵だわ」
 彼女は好奇心おう盛らしく、次々に質問を浴びせてくる。そんな彼女と話をしていると、向こうの男子が割り込んできた。
「ハーマイオニー、君って本当に怖いもの知らずだよな。あんなに勉強してるのに聖堂教会を知らないなんて信じられないよ」
「あら、ロン。話はちゃんと聞かないとダメよ。カオルはお父さんが教会から時計塔に出向していて、彼女は魔術師の弟子だって聞いたでしょう?」
「そんなの判るもんか。エクスキューターは恐ろしいものなんだ!」
 男の子の物言いに薫は苦笑する。言い争いでも始めそうな雰囲気なので、薫は彼にもご挨拶。
「はじめまして。言峰薫です。貴男は?」
 薫の問いに男の子はギョッとなり仰け反った。そんな彼にため息ついて、ハーマイオニーが教えてくれる。
「彼はロン。ロナルド・ウィーズリーよ。それからその向こうはハリー。ハリー・ポッターなのよ」
「始めましてウィーズリー。ポッター。……well. ロナルド、ハリーと呼ばせてもらって良いですか?」
 しばし待つ。しかし彼女と彼らはポカンとした顔で固まった。なぜだろう?
 ロン、ロナルド・ウィーズリーが口を尖らせ言ってくる。
「コトミネ、君ひょっとしてハリーのこと知らないのかい?」
 三人がジッと見ている。薫は首を傾げた。
「知らないと拙いのですか? 正直、魔法界のことは全然知らないのです。どれくらい知らないかというと、今日の朝までアルバス・ダンブルドアも知らなかった位なのですが」
「「「えええっ?!」」」
「君、魔女じゃないの?」
 クセッ毛な黒髪で、緑の目に丸眼鏡を掛けた少年、ハリーが聞いてくる。
「あいにくとウィッチクラフト(魔女術)やソーサリー(血の儀式を含む妖術)はそれほど詳しくありません」
「うそだろ?! ダンブルドアを知らないなんて信じられないよ」
 赤毛で顔はそばかすだらけのロナルド、そう言えばさっきのパーシーと同じウィーズリーだ。兄弟だろうか?
「判ったわ。カオルは日本人で時計塔の魔術師だものね。私もホグワーツから入学許可書が来るまで魔法界のことは知らなかったもの。だからそういうこともあるのよ」
 一人納得するハーマイオニー。
 聞くとハリーはYou know who.(例のあの人)とかいう闇の魔術師と因縁があるらしい。
 しかし薫はそんなことは知ったことではない。ふーんと適当に相づちを打っていた。これになぜかハリーは喜び、ロンが納得いかない顔をする。
 明日からは彼らと行動を共にして授業を受けるはずなので、友達になっておく。
 サラダロールをつまみつつ、ロナルド改めロンにパーシーが兄弟だと聞いていたところ、後ろから声が掛けられた。振り向くと、またも赤毛でそばかすまみれの男子生徒が二人いる。双子らしく顔はそっくり。薫では見分けかつかないくらいだ。
 二人はフレッド、ジョージと名乗り、ロンの兄でありパーシーの弟でグリフィンドール寮生四年だと教えてくれた。
 パーシーやロンがひょろっとした体格であるのに対し、彼らはがっちりとした体育会系の体付きで少々小柄。しかし薫よりは背が高い。そんな二人は満面に笑みを浮かべ、薫に向かって大げさに一礼した。
 彼らに薫は感じるものがある。そうです。にやけ具合がどこぞのマスター&サーヴァントと同じ種類の顔なのです。
 判定、愉快な危険人物。距離をとらねば遊ばれるに違いない。うんざりしたロンの表情が「正解」と告げていた。
 さりげなく距離をとろうと後ずさる薫ちゃんに、フレッドとジョージは顔を近づける。凄い笑顔に嫌な予感が止まらない。
「僕はフレッド」「僕はジョージ」
 見分けがつかない二人は大きく腕を広げて薫を決して逃がさない。
「「僕たちは、その名も高きホグワーツの悪戯仕掛け人」」
 ……退学にしろよ。
 心の中で呟いた薫に罪はない(多分)
「「ところでプリンセス・カオル」」
 その一言で、薫の顔が盛大に引き攣った。ハーマイオニーやロン、ハリーが目を丸くする。
「僕たちは君のことを聞いて直ぐに調査を開始したんだ」
「短い時間だったけど、君がキンググループのプレジデントだってことはすぐに判ったよ」
「それで僕たちは思ったんだ」
「これはもう、君をプリンセスと呼ぶしかない!」
「そして僕たちが全身全霊で執事を務め、楽しんで貰うしかないと!」
「「ということで姫、なんなりとお申し付け下さい!!!」
 ニンマリ笑う双子の兄弟。カオルはよろけ、テーブルに頭を打った。
「「ああっ! 姫、大丈夫ですか?!」」
「プリーズ(お願いです)……そっとしておいて下さい」
 精神的ダメージに目眩を覚えた薫が突っ伏すが、フレッドとジョージは嬉しそうに声をかけ続ける。見かねたハーマイオニーが追っ払ってくれるまで薫はぐったりとしてままだった。

 食事が済むと、生徒達はそれぞれの寮へと移動する。
 グリフィンドール寮は城の一角、グリフィンドール塔の中にある。入り口は大きな絵画に隠されて、合い言葉なしには通れない。絵の中にいる「太った婦人」に言葉を伝えて通してもらう。
 あちこちに飾られた絵の中を、描かれた人物像が移動する。この城では絵画までもが魔法の品で、耳を澄ませばお茶会を楽しむ絵の人物から囁き声が聞こえてくるのだ。
 隠し扉の向こう側のハシゴを登ると、そこが寮の談話室。暖炉があってソファーやテーブルが置かれている。シンボルカラーの真紅と金のカーテンで飾られて、派手だが暖かな雰囲気を醸し出していた。上級生と下級生が入り乱れ、お喋りを楽しんだり宿題をやっつけたりする場所なのだとか。
 寮分けといい上級生が下級生を指導するあたり、パブリックスクールと同様だ。
「コトミネ、君、大丈夫かい?」
 ぐったりしている薫を気遣ったかロンが声をかけてきた。
「だ、大丈夫ですよ。アハハハハ」
 薫の微妙に渇いた笑い声に、ロンとハリーが気の毒そうな視線を送る。
「それにしてもコトミネ、君、大変なときに来ちゃったね」
「ロン!」
 眉を寄せて小声で言ったロンをハリーがたしなめた。
「何かあるのですか?」
「何でもないわ。カオル、あなた明日から私たちと一緒に授業を受けるんでしょう? なら予習をしておいた方が良いと思うの。私が教えてあげるわ。テキストは持っているのかしら」
 話の流れをさえぎるように、ハーマイオニーは薫ににじり寄る。
 薫はロンとハリーの様子を訝しむ。しかし自分が関わるべきことでもないのだろう。そう考えて、ハーマイオニーに授業のことを教えてもらうことにした。

 夜も更けてきた頃に、マクゴナガルが薫を呼びに来た。ハーマイオニーらと別れ薫はマクゴナガルに着いて行く。導かれた先は校長室で、薫はそこでアルバス・ダンブルドアと向かい合う。
 そんな薫の肩には不死鳥が乗っており、クチバシを薫の髪に盛んに擦り付けていた。この不死鳥の名はフォークス。アルバス・ダンブルドアの使い魔だ。
 幻想種フェニックス。薫などは不死鳥は赤か金の孔雀を想像していたのだが、この不死鳥はパッと見た目はワシか鷹。全身が朱色の羽毛で覆われて、喉と胸に鮮やかな黄色の羽がある。そして頭にトサカはないが、たてがみのような見事な飾り羽根が見て取れる。
 そんなフェニックスのフォークスだが、薫がその存在に気が付いたときには翼を広げた状態で、目があった次の瞬間、薫に向かって飛んできた。思わず逃げそうになった薫だったがフォークスは薫の肩に静かに着地。調子っぱずれな声で鳴いたきり大人しい。
 その様子にマクゴナガルとダンブルドアが驚きつつも関心し、そして薫は顔を引き攣らせた。
 薫ちゃんは考える。フェニックスは衰えると自ら炎に飛び込み再生する。つまり卵を産まないはずだ。オーケー、お友達でいられます。
 本物のフェニックスに直に触れるという貴重な体験をさせていただいた。概念の把握に役に立つ。不死鳥フォークス、ありがとう。
 伸ばした薫の指先を、フォークスが軽くかじり出す。不死鳥に遊んでもらいながら、薫はダンブルドアに話を聞いた。

「スリザリンの継承者による生徒の石化、ですか」
 ソファーに深く腰掛けなおし、薫は顎に手をやり眉を寄せた。
 ホグワーツでは事件が起きていた。スリザリンの継承者を名乗る正体不明の存在が、用務員の猫や生徒を石にしたらしい。石になった者達は、それでもまだ生きている。魔法植物マンドレイクが収穫され次第、魔法薬で治療の予定なのだとか。
 さきほどロンが言おうとしていたのはこのことだろう。それにしても石化とは恐れ入る。
 石化の呪文は強力な上級呪文。薫ではとてもじゃないが手が出ない。
 石化の魔眼は伝説クラスだ。真っ先にメデューサを思いつく。あとはコカトリスかバジリスク位なものだろう。
 土葬式典。あれも石化の効果があるが、薫は未だに使えない。
「それで、犯人の目星はついているのですか」
「それなのじゃが、ハリー・ポッターが継承者ではないかと疑われておる」
「はぁ?! ハリーがですか?! いや、それはないんじゃないかと思うのですが」
 目を丸くした薫に、ダンブルドアは苦笑しながらヒゲをしごいた。
「まったくじゃな。ワシらもハリーが継承者だとは考えてはおらんよ。じゃがハリーはパーセルマウスでな。疑われておるのじゃよ」
 パーセルマウスとは蛇語使いのことであり、蛇と会話が出来る能力の持ち主なのだという。
 グリフィンドールは獅子、ハッフルパフは穴熊、レイヴンクローは烏、そしてスリザリンは蛇をシンボルとしていることもあり、パーセルマウス(蛇語使い)の力を持つハリーは疑われているのだとか。
「はあ、そうなのですか」
「コトミネ、貴女は信じていないように見えますね」
 マクゴナガルの言葉に薫は頷く。
「ハリーはそんな風には見えませんでした。それに日本では猫語や犬語の翻訳機も売ってますし、たかが蛇語が話せるくらいで石化と関連づけるのは無理があると思います」
「日本にはそんな魔法の品があると?!」
「アルバス、話が逸れていますよ」
 目を輝かせた校長を、副校長がたしなめる。
「いえ、マジックアイテムではなくて電化製品、いや電子玩具? おもちゃですね」
「ほお、おもちゃで犬語や猫語がのう。欲しいのぅ。じゃがホグワーツにはマグル(人界)の機械が動かなくなる魔法がかけられておるからのう。……欲しいのぅ」
 残念そうに呟く校長に、マクゴナガルと薫から冷たい視線が注がれた。

 結局の所、特に事件について協力を求められたりはしなかった。
 薫は貴賓室に案内されて、ホグワーツに滞在中はここに寝泊まりしろと告げられる。内装の整えられた客室に落ち着いて、薫は一人考える。
 生徒を石にする謎の存在。疑われるハリー。石化を治療する魔法薬。材料のマンドレイクは収穫が近い。ならば遠からず事件は動くのだろう。だが自分はそこまで付き合えない。
 ……寝よう。
 依頼もなく要請もない。なんら期待されることもないのだ。大人しく、数日間を楽しもう。
 薫は自分に言い聞かせ、一人ベッドの上で丸くなった。

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あとがき
 情報量が多い。人が多い。でも、手を抜くことと判りやすく書くことは違いますよね。
 小説は人に読んでもらうための作品形式、読み手のことを考慮しないなら小説ではない。作者が楽をすると読者が苦労する。指南本などには大抵書かれていることですが忘れていたようです。気を付けよう。
 次回、授業風景です。
2009.5.18th
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