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黄金のおまけ 1.5 呼んでみました。お父さん


「ねえ薫。あなた、綺礼のことは「神父様」って呼んでるの?」
「はい?」
 ここは夜の遠坂邸。遠坂凛の目の前にいるのは、ついさっき連れてこられて弟子にした女の子。
 この子の名前は言峰薫。この春、自分と同じく初等部二年に上がる少女である。
 そしてこの子は凛の後見人となった教会の神父、言峰綺礼の養女でもある。
 聞けばこの間の大火災の被災者であり、最後の戦場となった新都に顕現した炎の中、辛うじて生きていたのを教会に保護していたのだという。
 そして彼女は目覚めていた。
 吹き荒れる炎気。焼かれた犠牲者の怨念。死にたくないという強い衝動。
 そのどれが作用したのかは判らないが、薫の体には「魔術」と呼ばれる神秘の扱いを可能にするエナジーすなわち「魔力」を錬成する「魔術回路」が出来ていた。
 その数はわずかに二本。
 正統な魔術師を目指すにはあまりにも少ない数であり、修練を積んだとしても大成を望めるものではない。魔術の基礎を一通り学んで、それが身に付くかどうかがせいぜいだ。
 しかしそれでも、初めてあったあの時、この子はまっすぐに自分を見つめて魔術の修行を希望した。
 養父となった言峰綺礼が何を考え、薫を養女としたのかは凛にはよく判らない。
 大火災の要因となった戦いの参加者として、犠牲者であるこの子に同情したのか。それとも魔力に目覚めていたからこそ拾い上げたのかも知れない。ひょっとして父である遠坂時臣を失った自分を慰め、悲しみから気を逸らすためであろうか? ……いや、あいつはそんな素敵な性格でもないだろう。

 そう、言峰綺礼が連れてきて、魔術を指導してやれと言って押しつけられたこの少女。言峰薫は数時間前に遠坂凛の弟子となった同い年の少女である。

 魔術回路の起動。そして停止。それから魔力の属性調査。ここまでやって初日の実技は終わりである。地下にある遠坂家の工房からリビングに場を移して紅茶を用意。遠坂の系譜の者となった彼女に対して、遠坂の家訓、魔術師の心得とそのあり方、そして言峰綺礼の性格の悪さを丁寧にレクチャーしている時のことだった。
「あー。そうですね。言峰さんのことは神父様って呼んでますねぇ」
 そういってミルクティーをすする言峰薫。すでに和みまくっている様子です。
「まだ引き取られて間もないし、そういうものかも知れないわね。でもどうかしら? アイツ性格硬そうだから、何もしないとずっと呼び方そのままかも知れないわよ」
 そう言って薫をのぞき込む凛。しかし言われた薫の方はそれを聞いているのかいないのか。
「まー。良いんじゃないですか? 本当なら孤児院に行くところを養女にしていただいただけで御の字です。教会の中ではお師匠さんのような人ですしねー。あー。それにしても紅茶美味しい。くつろぎのひとときって幸せの元ですねぇ」
 などおっしゃる言峰薫(詐称年齢七歳)、ゆっくりと流れる時間を満喫するその様子、凛にはとても同い年の女の子には見えない。
 常に余裕を持って優雅たれ。それが遠坂の家訓であり、尊敬していた父の在り方であり、そして凛の目指すべき生き方でもあった。
 だが戦いに出向いた父は帰らず。一人になって気落ちしていた自分がいた。
 しかし今、目の前には全てを失ったにも関わらず、新しい環境で生き抜かんとしている同い年の少女がいる。悲しいだろうに、余裕を持って優雅に紅茶を嗜む薫という女の子に、凛は少しだけ嫉妬する。
 その小さな感情は、ささやかな棘となって言葉と共に突き出される。思えばそれが悲劇の引き金だった。
「ねぇ、試しに「お父さん」って呼んであげれば?」

黄金のおまけ1.5 呼んでみました。お父さん

 ぶっ。緩みまくった表情でお茶を飲んでいた薫の顔が一瞬で引きつり、次の瞬間、カップを口に当てたそのままの状態でミルクティーが爆裂した。
「きゃあぁぁ。ちょっと薫!」
「げほっ、がはっ、がはぁあ。うごほ! うほぁあ! ほあ! ぐふ! はぁはぁ ぐふぅ!」
「ザクとは違うのかしら?」
 予想外の反応に意味不明な言葉をつぶやく遠坂凛。
 やっと収まった咳、胸を押さえながらもカップをソーサーに戻すが、しかしその手は細かく震えていた。
「凛! 貴方は出会ったばかりの私に死ねと言うのか!?」
「……なぜ?」
 目に涙を浮かべてそんな言葉を言い放つ言峰薫。遠坂凛には判りません。
「なぜ? なぜだって? 想像してみなさい! 私が彼を「お父さん」と呼ぶ! そして言峰神父がそれを聞いてニッコリ微笑むその様を!!!」

 想像してみよう。

 深夜の教会、その一室で言峰綺礼はデスクで書き物をしている。そこに薫が、寝間着の上にカーディガンを羽織って現れる。そして言うのだ。
「お父さん。まだ起きているの?」それを聞いて綺礼は優しげな笑みを浮かべて振り返る。

「「うひぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいい!」」
 凛と薫は、ソファーと床を転がりながら必死に体をかきむしった。さむい! かゆい! そして危険だ! 霊体が異常振動を起こし肉体から離れようとしている! やべぇ、抑えろ、魂消た(たまげた)ままではこの魂が飛んでいってしまうのです。
「はぁはぁ、ごめん薫。私が悪かったわ」
「はぁはぁ。うん、。さすが冬木の管理者(セカンド・オーナー)判ってもらえたようで何よりです」
「あはは。管理者は名前だけで、綺礼にやってもらうことになっているのよね」
 被害は甚大だ。しかし二人は震える体に力をこめて、ソファーを必死によじ登る。
「ふぅ、危なかったわ。まあそれはさておき、やっぱり神父様っていうのは違うと思わない?」
「そうですか? んー。言われてみればそうかも知れないですねー」
 むぅ、と腕を組む言峰薫に、凛は手を叩いて言ってみる。
「やっぱり薫から何か言ってあげればいいんじゃない? 綺礼はカタブツだけど私が構ってあげると喜んでたし、ひょっとしたら子供好きなのかもしれないし。あいつもこの所ずっと仕事に掛かりきりだったから薫が遊んであげればきっと喜ぶんじゃないかしら」
「凛。貴方は凄いですね」
 見ると薫が尊敬の視線を向けていた。凛にはその視線が少しだけ心地よい。
「そ、それほどでもないわよ。それよりも綺礼のことよ。あいつ、ああ見えて実は結構寂しがり屋で……」
 遠坂邸の夜は更けていく。

 タクシーを降りて歩いていく。その先には先日から自分の家となった言峰教会が、その姿を星の光に照らされてたたずんでいる。
 歩いているのは言峰薫。着ている服は紺色をしたシンプルなワンピースで衿のカラーと袖口は白。つまりカソックなどと呼ばれる教会の法衣であった。
 初めて教会から連れ出されたかと思ったら、行き着く先は遠坂邸。心の準備もなしに出会う少女は遠坂凛で、我に返ったときは既に弟子入りが決定されていた。決意表明こそしたものの、ここまで流されるとかえって清々しいとさえ言える。
 自分に魔術回路があったことには驚いたがその数たったの二本。喜ぶべきか悲しむべきか非常に微妙。気功の要領で外気を取り込み、内功の要領で内気を練って流し込んだらそれで良いと言ってもらえた。これなら気功で使う正経十二経や奇経八脈を、メインだかサブだかとして機能させて魔力を生み出させるかも知れない。要、研鑽。であろうか。それはそうと。
「お父さん、ねぇ」
 その笑顔が妖しい波動を撒き散らすあの言峰綺礼、それを父と呼ぶ。まさにホラーだ。
 しかし考えてみればこの身は彼の養女、娘である。納得しているわけではないのだが、戸籍もない、家もない、知り合いもいない、お金もない、私服の一枚もありません。ぱんつはたくさんもらいました。では逃げようもないのだ。
 ……ぱんつを大量に抱えて路地裏で涙する家出少女。我ながらサイテーな想像にちょっと目眩の薫ちゃんです。
 それよりもなによりも、この身は王様の従者である。逃亡などしようものなら王様は従者を赦しはしないだろう。八つ裂きか、串刺しか、今度こそアンデッド人間牧場か、下手をすれば安らかに死ぬことすら許されないのがこの身の現状だ。
 しかし、しかしだ。なんとか仲良くなればどうだろう。王様も暴君なのかもしれないが、かつては世界の全てを統べたともいう英雄だ。言峰綺礼も神に仕える神父である。なんか変な電波に目覚めたっぽいが、それもまだ目覚めてすぐだ。つけいる隙もあるはずだ。
 よし。ぐっと握る拳に力を入れる薫であった。

「王様。神父様。薫、ただいま戻りました」
 二人は居住棟の応接間でくつろいでいたようだ。部屋には落ち着きのあるジャズが流れ、王様は相変わらずワインボトルをずらりと並べてふんぞり返り、今日は綺礼もワイングラスを手にとって揺れる酒の色を楽しんでいるようであった。
「思っていたより時間が掛かったな。ああ、先ほど凛から電話があった。魔術回路は問題なし、属性チェックもつつがなく行われたようで何よりだ」
「はい神父様。これも運命でしょう。せっかくですから頑張って魔術を学んでいこうと思います。それにしてもあの遠坂凛は凄いですね、とても初等部低学年とは思えません」
 薫の言葉に神父は笑みを浮かべる。
「あれは特別だ。父であり師でもあった先代遠坂の当主、遠坂時臣より既に「トオサカ」としての教育を受けていたからな。だがさすがのあれも驚いていた。自分と同い歳にも関わらず落ち着きがあり、そして素人であるにも関わらず魔術回路を切り替えたとな。私から見ても凛は大したものだが、その凛を驚かすとはとても素人、そして凛と同い年の小さな女の子の業(わざ)とは思えぬ、いやいや私も養父として鼻が高いというものだ。我が娘よ。ククク」
「外気(マナ)を取り込んで内気(オド)と併せ、高密度の陽気(魔力)として練り上げる。この辺は気功と共通なんですかね。知らないうちに凛と同い歳になっているし、今日はもうビックリですよ、あはははは」
 皮肉をこめた視線を飛ばすが、綺礼はそれを華麗に受け流す。多少の恨めしそうな視線など、彼の分厚い顔の皮には通じない。このあたりは役者が違うというべきだろう。
「おや。平均身長、平均体重から考えて凛と同じく初等部二年への編入としたのだが、私のミスだったかもしれないな。記憶を失ったお前のために、やはり一年生から始めさせる方が良かったか。ククク。すまない薫、心のどこかでお前を凛と比較してしまったのかも知れん。いやはや一年生か。今からでも遅くはないのかな、どう思うギルガメッシュ」
「ハハハハハ。我(オレ)の従者を侮るなよ言峰。この娘は記憶を失ってなおこの我を王と呼んだ見る目のある者。有象無象の雑種とはひと味違う我が従者だ。例え時臣の娘であろうと遅れを取るなどこの我(オレ)が許さぬ。心しておけよカヲル」
 王様の手によって突き出されたグラスに薫はゆっくりとワインを注ぐ。でもね、でもね。
「王様、それに神父様。私、記憶を失った覚えは無いんですけど、聞いてます?」
「言峰、貴様はもう少しましな酒を用意出来ぬものなのか? ハハハハハ」
「何を言うかギルガメッシュ、それだけ飲んでおいて何をほざく。ククククク」
 聞こえてませんねあなた達。いや、聞いちゃいねーよこの二人。
「まぁ、いくら名門の娘さんと言っても七つの子供に負けたくないといいますか」
 そう。大人の男の誇りに賭けて、七つの子供に負けてどうする礼儀作法と知識教養!
「ハハハハハ。よくぞ言った! それでこそ我(オレ)の従者! 時臣の娘など傘下にしてしまうがいい。この我が許す。ハハハハハ」
 ごめんなさい。王様、それはきっと無理です。
「どうだろうな。凛は並の子供の軽く十年先を学習している。そして魔術師としても奇跡の資質と言っていい複合五重属性(アベレージ・ワン)の持ち主だ。
 おっとそういえば、我が娘も並の子供の十年以上先の先まで学習し、高い知識と人生経験を持つ希有な娘であったような気もするな。くくく。いやいや何という福音だろう、まさに運命の出会いだな。二人の天才少女が切磋琢磨しながら成長していく。ククククク。それを間近で鑑賞できるとは私はこの上ない幸せを感じている。薫、君に感謝だ」
「あはは、何が感謝だこのエセ聖職者。それと鑑賞じゃなくてせめて見守るとか言ってよ、お願いだから神父さん!」
 王様、手にしたワインボトルで殴っちゃダメでしょうかこの男。しかし。
「カヲル。口の利き方に気をつけろと言ったこの我(オレ)の言葉を忘れたか?」
 という王様の言葉を聞いて、薫の体温が二度下がる。
「もっ、申し訳ありません王様、どうかお許し下さい」
 テーブルから大きく二歩は下がって身をかがめる。ワインボトルを抱えてなければ多分、土下座してたと思います。だが薫が改めて王様を見上げてみれば、彼はそう機嫌を悪くしていた様子はない。
「ハハハハハ。許す故、その酒を我が杯に注ぐがいい。我(オレ)は貴様の振る舞いを注意したのみだ。そもそも我(オレ)は見捨てたものには声を掛けたりはせぬ。カヲル。貴様は我の言葉を憶えておけよ。我の従者であるにも関わらず暗愚なるなど許さぬぞ」
「ありがとう、ございます、王様。王様の寛容なるお心遣いに感謝いたします」
「ハハハハハ。良い良い。やはり貴様は良い従者となる資質を持っているようだ。ははは。だがなカヲル。我(オレ)は我の従者が魔術師風情に遅れをとるのを良しとはせぬ。それは憶えておくがいい。
 おっとそういえば、我が従者は何故か小娘に似合わぬ豊富な経験の持ち主であったな!
 我(オレ)としたことがうっかりしていたぞ。ははは。いやいや、カヲルが時臣の娘になど遅れを取るなどありえぬか、そうだな言峰」
「えええっ!」
 薫は悲鳴を上げる。遠坂凛、確か彼女は天才の名に恥じることなき高い才能の持ち主で、十歳未満で魔術協会の本部であり研究者の集う場所である「時計塔」への入学が認められていたような。時計塔を大学レベルと推定すると(多分もっと上だろうけど)凛はスーパー小学生。まずい。七歳の子供に負ける社会人では情けない。
 が、王様も綺礼も笑顔で頷き合うばっかりです。
「いや、それはしかし、ほら、凛は名門遠坂の跡取りですので、私のような一般人では……」
 ちょびっと青ざめる言峰薫に綺礼は優しく語りかける。
「薫。何を言っているのだ? 私の記憶が確かなら、お前は大人であったはずだぞ。いやスマンスマン。養女であり娘となったお前が大人だとか男だとか、そんなはずはなかったな。くくくくく。ふぅ。今夜は飲み過ぎたようだ。娘よ父を許すがいい。くくくくく」
「あぁんもぉお! この人は! この男は! あぁぁもぉぉぉぉ!!!」
 わきわきと指をかきむしる薫に王様も笑顔で語りかける。
「カヲル。貴様、自分の半分も生きていない十歳未満の小娘に、まさか敵わぬなどとはいわぬよな? おっといかん、貴様は我(オレ)が拾ったそのときから時臣の娘と同じ小娘であった!
 この我(オレ)としたことがなんとうっかり! まさにうっかりであったぞ! ハハハハハ」
「ぅぅぅううう。それはぁ。それはぁ」
 王様。薫は優しい王様が好きです。
「薫。ただの少女であるお前が凛と張り合うのは大変かね? いやいや、私はお前を信じているぞ。くくく」
 神父さん、あなた本当に神父ですか? 認定書とかありますか? 認定がバチカンじゃなくてパチカンだったりしませんか?
「カヲル。この我(オレ)の従者が七つの小娘に負ける道理など存在せぬ。根拠など無い。ハハハハハハハハハ。根拠などないのだが、我(オレ)は堅く信じているぞ! ハハハハハ」
 王様、根拠がないのに自信たっぷりなのは何故ですか? 前例がないと言って逃げる。それが日本の心です。
「凛はある意味お前の手本となるだろう。競え、そして二人で立派なレディーを目指すのだ。それが出来ると父は信じている! くくくくく」
「だからそれはぁ。それはぁ」
「カヲル。時臣の娘に負けるなど許さぬぞ。ははは。我(オレ)を失望させぬよう、しっかりと学ぶがいい、あんなことも、こんなことも、そんなこともだ! 逆らうことは許さぬ。ははははは」
「でもそれはぁ、でもぉ」
「「薫・カヲル」」
 来た。そう思っても身をかわすことなど出来ない薫です。
「「ゆーあー、ぁ、りっとるがーる。どぅ・ゆ・あんだすたーん?」」
 がっくりと肩を落として薫は色々諦めた。
「いぇーす。あぃあむ、ぁ、りとるがーる。ぅぅぅ、凛ちゃんのばか。……天才なんか嫌いだ」
「「ハハハハハハハハハ」」

 応接間のローテーブルに沈没していた言峰薫。しかし幽霊船の如く再び浮かび上がって、くらげのようにゆらゆらしながらも王様と神父様の相伴をして時間は過ぎる。
 時計を見れば十時過ぎ、子供は布団で眠りなさいとなりました。
 まだ眠るつもりがないらしい二人に背を向け、寝室に向かおうとした薫だが、ふと思い出して言峰綺礼をじっと見る。
 ワインを口にしながら、どうかしたかと目線で語る綺礼にむかって、薫は試しに言ってみた。

「……お父さんって呼んでも良いですか?」

 その刹那、言峰綺礼の鍛え抜かれた腹筋&背筋そして横隔膜は連動して瞬時に収縮、中国武術八極拳における爆発呼吸に匹敵する呼吸力を生み出した! 瞬間的に吐き出される鋭い呼気。その威力は綺礼が手に持つちょっとリッチなワイングラスを木っ端みじんに吹き飛ばす!
「ぐはぁぁぁっぁぁぁああああああ!!!」
 飛沫となってはじけ飛ぶ、赤い液体すなわちワインは神の血であり、基督教にかかせない聖なる飲み物。神父の口から吐き出された神の血はグラスを一瞬で破壊する恐怖の破壊兵器となることを証明した!
「コトミネ! しっかりしろ言峰ぇぇええ!!!」
 キラキラと輝くワインに尾を引かせて倒れ伏した言峰綺礼に、ギルガメッシュは駆け寄って背中をさすっている。え? と呆然となる薫にギルガメッシュは怒鳴り散らした。
「カヲル! 貴様、自分が一体何を言ったか判っているのか?! 我(オレ)の国の我(オレ)の法において、親殺しはすなわち重罪であるぞ!!! くっ言峰! 貴様はまさに悪党であったが、まさか引き取った養女にその命を砕かれるとはなんたることだ。ともにカヲルで遊ぼうと誓ったあの日の杯。それを貴様は忘れたか?!」
「王様、そういうことは是非、本人のいないところでお願いしたいのですが。その辺の配慮は無理なんですね。王様的に」
 ぴくぴくと全身で生きてますとアピールする綺礼をギルガメッシュは介抱し、薫は納得いかないとばかりに冷めた目で見つめている。
「はぁはぁ、ぐはぁ。何ということか。薫。今のは親子の絆というプリミティブ(根源的)ラインを使った共感呪術。情け容赦ないこの一撃は凛に習った呪いの一撃、そうだな?」
「いや、そんなこと言われても困るんですが、確かに凛のアイデアかも知れませんが、いやでも違うよな。うん」
 ギルガメッシュに支えられて体を起こした綺礼は、その口から一筋の血(ワインです。多分)を流していた。ちょっとワイルド。
「ちっ。さすがは時臣の娘と言うことか。我(オレ)の従者をかどわかし、言峰を亡き者にしようとは恐ろしい奴だ」
「いや、王様。いくら何でもそれは違うと思います。まぁ1%の可能性は否定できない。それが遠坂凛だとは私も思いますが」
「凛。そうか遠坂凛。我(オレ)はその名前を覚えたぞ。同志言峰の仇、必ずやとると我(オレ)は我の名においてここに誓うぞ!」
「王様、とりあえずまだ死んでませんので穏便にお願いします。というか同志っていうのはカヲルで遊ぼう同盟だったりするのかどうか、従者として非常に気になるのですが、そこんとこどうなんでしょうか?」
「「なんのことかな?」」
 泳ぐ視線を向ける先こそ左右に分かれたものの、ちょっぴりシンクロしているマスター&サーヴァント。疑惑は深まるばかりである。

「……じゃあ、パパ?」

「ワハハハハハハハ」
 凛、直伝の呪いの波動(うそ)が、今度はギルガメッシュに襲いかかった。肩を貸して起き上がらせた綺礼を乗せて、その場で見事なバックドロップ。美しいブリッジを体で表現してみせるその姿。まさに王者! それはちょっと近づきたくない男の友情。その被害は甚大である。
「しまった! 言峰! コトミネェエエエ!!!」
 綺礼は仰向けになって頭部からワインを吹き出している。ええ、あれはきっとワインです。飲み過ぎはいけませんね。皆さんも注意しましょう。
「カヲル! 貴様に人の心というものは無いのか?! 王様は許しませんよ!」
「王様、言葉が変になってます。どうか落ち着かれますようお願いいたします。いや本当に」
「ええい! 従順な所を見せておきながら、その実は獅子であったか! この国の民は植物性と聞いていたが偽りか?!」
「あー。古事記によれば日本人は地面から草として生まれた青草人(あおくさびと)ですね、日本人の属性をご存じとはさすが王様です」
「カヲル。貴様は何故に落ち着いている?! 判っているのか? 言峰がいなくなれば貴様もどうなるか判らんぞ。くっ。受肉しても我(オレ)のこの身はサーヴァント。マスターがいなければ安定せぬ。このままでは夢遊病患者のように街をふらつき、魔力を秘めた者を捕まえ「ご主人様になってください」などと言っちゃうかもしれないのだ! 許さぬ! 言っておくがカヲル。そうなったら貴様にもご主人様捜しに付き合うことは確定だ!!!」

 金髪紅眼の青年外国人と日本人の幼い少女の二人連れが、すすっと近づきそしてささやく。

ーー私たちのご主人様になってくれませんか? ーー

 新たな都市伝説を誕生させてどうする。

「まずい! まずいです王様! そんなの私は耐えられません!」
「当然だ! この我(オレ)が雑種を求めてさまよい歩くなどあってはならぬ! 言峰! しっかりしろ言峰!」
「ああ神父様! ごめんなさい! 良い子になります! ぱんつも穿きます! だから死なないでください! 言峰薫には言峰綺礼が必要なんです!」
「言峰! この我(オレ)に供物を捧げる神官は貴様をおいて他ならない! やっと見つけた趣味と悦楽、それをこんなに早く手放すなど許さぬぞ! カヲルにウェディングドレスを着せてやろうとカタログ請求したの思い出せ! あれはまだ届いておらぬぞ!」
「アンタら人が下手に出てりゃあ何やっとンじゃぁぁぁあああああ!!!」
「ええい! 今は些細なことを気にしている時ではない! そんな雑種的センチメンタルは捨てておけ!」
「くぅぅっ! センチかどーかはともかく、今は確かに言峰さんをなんとかしないと。ああ、一体どうしてこんなことに?! 凛?! そうか全ては遠坂凛の陰謀なのかっ?! おのれ遠坂! あくまめっ! あくまめぇぇぇっ!!!」

 狂乱の言峰教会。その頃、遠坂邸で一人寂しい遠坂凛は、お気に入りのネコさんパジャマを着てベッドに潜り込み、うとうとしている時だった。彼女は思う。
(綺礼と薫が仲良くなりますように……)
 彼女は知らない。自分の一言が言峰綺礼と薫。そして知らない王様を窮地に蹴落としてしまったことを。
「……おやすみなさい……」
 彼女の他には誰もいない遠坂邸は、凛の小さなつぶやきが終わると共に静かになった。その一方で言峰教会はと言えば。
「あくまめっ! おにょれ! あ・く・ま・めっ!!!」
「しっかりせよ! 言峰ぇぇええ!!!」
 まだ賑やかだった。

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 あとがき
 01話と02話のつながりが少々強引になるので、ここに1.5話を投入です。
 もともと書く気はあったのですが、ショートショートとして本当におまけにするはずだったのが、随分長くなってしまった。反省。
 ちなみに裏話にしておきたかったのは、薫はもう少しイジラレ役に徹底させたかったからです。
 よって02話では01話に近いテイストになります。南無、言峰薫。
2007.8.15th

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