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黄金のプチねた#71マジカルツアー

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 アインツベルンでの用事を済ませ、切嗣には一足先に日本へ帰国してもらう。
 薫は一人、ドイツからフランスへと戻る。そしてパリの駅から国際高速鉄道ユーロスターに乗り込んだ。
 列車は最高時速300km/hで突っ走り、ユーロトンネルをくぐり抜ければそこは英国。
 正式名称 United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland.
 グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国。
 パリを出発して2時間と33分。思ったよりも早くロンドンのセント・パンクラス駅に到着する。
 一度駅の外に出て、コンコース(中央ホール兼通路)を通って地下鉄へ、キングズ・クロス・セント・パンクラス駅から地下へと潜る。
 ザ・ロンドン・アンダーグラウンド(ロンドン地下鉄)の丸いトンネルなども観賞する。地下鉄の愛称「ザ・チューブ」(ジ・アンダーグラウンドとも呼ばれる)はこのトンネル形状が大本だ。
 チューブを乗り換え、ピカデリー線ラッセル・スクウェア駅で下車し地上に上がる。
 見上げた空の天気は曇り。日本と違って冬でも適度な湿気があった。ボストンバッグを肩から提げて、修道服を着た言峰薫は、うーんと大きく伸び一つ。ロンドンの空気を胸一杯に吸い込んだ。

黄金のおまけ#14.5ロンドン

 ロンドン(London)は U.K. とイングランドの首都であり、王国の王都である。
「シティ・オブ・ロンドン」または単に「シティ」と呼ばれる地域を発祥とし発展したロンドンは、欧州の中でも歴史ある都市であり、中世や近世からの建造物が数多く残されている。
 人口は750万人を超え、都市圏では1300万人以上、欧州連合において最も人口が多い都市だ。
 地理的にはイングランド南東部にありテムズ川下流沿いに位置している。市の39%が緑地として整備され、都会でありながら緑が多いのも特徴である。
 緯度は樺太中部と同程度。夏は夜9時頃にならないと陽が落ちず、冬は三時を過ぎると暗くなり出す高緯度帯だ。西岸海洋性気候の恩恵で、温暖かつ適度な湿度で比較的暮らしやすいと評される。
 ただし一年を通して小雨や曇天が多い。特に冬場の晴天は貴重である。

 ロンドンの起源はローマ帝国によるブリタニア支配にまでさかのぼる。
 ローマ人がイングランド南部を征服し、西暦43年にテムズ川の北岸、現在のシティにあたる場所にロンディニウムを建設してブリタニアの首都とした。
 街を建設したのはローマ人だが、それ以前にも周辺にケルト人が居住していた。
 西暦61年には女王ブーディカに率いられたケルト族がロンディニウムを襲撃し、ローマ人から都市を奪還したという。遺跡からはこの戦争のものと見られる焼けた木材なども出土している。
 以後、ローマ、ケルト、サクソンなど、様々な勢力により覇権が争われた場所なのだ。

 そんな歴史に思いをはせて、薫は前に歩き出す。10分ほど歩くと進む先にギリシャ神殿が現れた。そこが薫の目指した場所で、そこが大英博物館。
 大英博物館(The British Museum)はロンドンにある博物館。本館施設はギリシャ神殿を模していて、世界最大級の規模で巨大かつ広大だ。
 古今東西の美術品や書籍など約700万点が収蔵され、常設15万点の所蔵品が展示されている。
 美術品や書籍のみならず、遺跡や標本、硬貨や工芸品、世界各地の民族誌資料など多岐に渡る品々を価値あるものとして保存、展示することをその存在意義としている。
 余りに大規模なため常設展示だけでも一日で見ることは不可能だと言われている。

 見渡すと、観光客が非常に多い。来館者の半分は外国人観光客ではなかろうか?
 サインボードは複数の言語で書いてある。入り口横の売店には日本語のガイドブックも売っている。
 お値段は6£(ポンド)今は買わずに進みます。
 古代ギリシャのパルテノン風な入り口から中へと入る。入館料は無料である。
 大英博物館の収蔵品は、個人収集家の寄贈によるものが多いのだとか。
 その始まりは個人収集家であったハンス・スローン卿の遺言からだ。
 彼は収集した美術品や稀覯書8万点を、一般人でも利用出来るようにして欲しいと遺言を残した。
 管財人はイギリス議会に働きかけた。議会は国家が所持していた蔵書に加え、当時売りに出されていた蔵書を入手し、これら全てを収容する博物館を設立することを決定する。
 設立は博物館法が定められた1753年。一般向けには1759年1月15日に開館された。
 それ以後、何度も規模を拡大し、途中で図書館機能が博物館より分離したりしながら今に至る。

 神殿の中に進むと大広間に光が差している。正しくは屋根付きの中庭だ。
 旧図書館の書庫を取り払い、天上をガラスとフレームが美しく覆うその場所は、現在は博物館各室を繋ぐ自由通路で、ショップや料理店が並ぶ中庭「グレート・コート」と称されている。
 創設以来、入場料は無料であり、特別展示コーナーは有料の場合もあるが、国籍、人種、宗教などで人々を分けることなく、全ての人に文化的価値を提示することをモットーとする。
 ただし寄付は受け付けており、館内には募金箱があったりする。
 ちなみに、何処の国のお金でも入れていいよ、と色々な言語で注意書きがありました。

 正面入り口からグレートコートへ。そして左側の展示室群、古代ギリシャと古代エジプトのコーナーへと薫は進む。
 入って直ぐの展示室を左に進み、30メートルほど奥に人だかりが出来ていた。
 薫もそこに寄っていく。人混みに分け入ると、ガラスケースに収められた石版が見て取れた。
 観光客のお目当ては、この石版「ロゼッタ・ストーン」なのである。
 暗色の花崗閃緑岩の石版は、縦114.4cm、横72.3cm、厚さ27.9cm。重量は760kg。
 1799年7月15日、ナポレオンがエジプト遠征を行った際にフランス軍の大尉が港湾都市ロゼッタで見出し持ち帰った。
 古代エジプトのヒエログリフ(神聖文字)古代エジプトのデモティック(民衆文字)そしてギリシア文字(ギリシア語)を用いて同じ文章が記されている。
 内容はヘレニズム期のエジプト、プトレマイオス王朝プトレマイオス5世エピファネス施政下の紀元前196年。メンフィスの宗教会議の布告である。
 ギリシャ語の文章は次のように始まる。
 Basileuontos tou neou kai paralabontos tén basileian para tou patros...
(新しい王は、王の父から王位を継承した....)
 この対訳石版を手がかりに古代エジプト語の解読が大いに進み、古代エジプト文明が解明される入り口となったのだ。
 いわば「古代への鍵」ともなった歴史的遺物がこれなのだ!
 ガラスケースの横にはロゼッタストーンの説明やヒエログリフの簡単な解説などが書かれている。

 薫はキラキラとした目でロゼッタストーンを仰ぎ見る。
 かつて遺跡は価値を認められてはいなかった。
 金銀財宝は潰され売られ、像は首を切られて売り飛ばされた。
 多くの国でゴミ扱いだった遺跡を調査し、人類共通の貴重な遺産として保護し、展示し、研究する。
 イギリス人でも「泥棒博物館」などと呼ぶ人もいるのだが、人種、国籍、宗教を問わず無料で公開を続けるその行為に、薫は大いに敬服する。
 人類の「叡智」に対して最大の敬意を示す場所がここにある。

 薫は顔を上気させ、ユラユラしながら博物館を歩いて回る。あるモノ全てが素晴らしい。
 石版が、像が、紙片が、装飾品が、うち捨てられていた先人の財産が価値を見出され、莫大な手間と予算を掛けて展示されている。
 万人に開かれて、外国人である自分もこうして見れるのだ。しかも無料。凛、ここはきっと君に優しい。留学が楽しみですね。
 地球の裏にそんなテレパシーを送っておく。
 展示物が放つ歴史の息吹に酔うように、言峰薫はさまよい歩く。効率などは、気にするつもりはありません。
 そこかしこに放たれる神秘の波動、叡智の輝き、妖しい引力、そして魔力。それらを閲覧者が放つ好奇心が押さえ込む。
 複雑怪奇な思念の力場は、しかし暴走することはない。思念、概念、理念に歴史。感心、関心、好奇心。様々な波が入り乱れ、奇妙な均衡を保っている。
 そんな空気に言峰薫は酔いしれる。
 決して悪い気分じゃない。過ぎ去った人達が残した芸術に、今を生きる者達が心を寄せる。
 歴史を学ぶ。それは時間を超えて過去を現代に呼び起こす奇跡の業だ。
 先人の叡智を学ぶ。それは過去に存在した天才達の知恵を継ぐことだ。
 それこそが、あるいは人間のみに許された大いなる能力なのだと薫は堅く信じている。

 ボストンバッグの重さによろけ、ふらふら歩く薫だったが立ち止まる。
 そして小さくため息を付いた。笑みが嘲笑へと変わり、目付きが少々冷たくなった。

 ……誰かに見られている。

 ぐるりと周囲を見渡せば、百人を超える来館者。
 しかし視線はそれじゃない。こんな場所で背筋が凍るような視線で見られる覚えなど、無いと言いたいところだけれど、そうとは言えない自分が悲しい。
 興が冷めた。薫は出て行くことにした。
 大英博物館。
 ここの地下には「時計塔」と呼ばれる魔術協会の本部がある。一応は魔術師とはいえ、聖堂教会の洗礼詠唱を身に付けた自分だ。上(地上)はともかく、下(地下)を覗いて生きて帰れる自信はない。

「おかえりなさい。お客さんが来ておるよ」
 ここはロンドン某所のパブである。薫はホテルに泊まらずに、ここに部屋を取っていた。二階に泊まることも可能な古き良き大衆酒場だ。
 魔術師たちが集うストリートで買い物をして戻ってみると、バーテンが声を掛けてきた。
 ほら、そこにいる男だと言われて見ると、一人の男がこちらに向かって歩いてくる。
 年齢は二十代前半か? こちら(欧州)の人で髪は黒。長く伸ばして左右に分けて、無造作に流しているようだ。ムスッとした不機嫌な顔をしている。
 着ている服はスーツにタイでジャケット、コート。一見して高そうなものに見える服装が、このお店では浮いている。
 薫は思わず口にする。
「……マフィア? あだっ?!」
「誰がマフィアだ」
 近づいた男は薫の額に素早くデコピンを叩き込んだ。クリティカルヒット! 薫はおでこを押さえて呻いている。
「のぉぉぉおお。痛いじゃないですか?!」
「やかましい。こっちに来い」
 男は薫の腕を捕り、テーブルに無理矢理連れて行く。しかし薫は逆らわず、バーテンに紅茶をポットでオーダーした。
「おひさしぶりです先生。ご活躍は風の噂に聞いております」
 薫の言葉に、男はフンと不機嫌に鼻を鳴らした。
 この男、時計塔に所属の魔術師だ。四年前には冬木市にいたことがあり、薫は彼に英語やフランス語を教えてもらったことがある。
 彼は睨み付けるように薫を見やり、そして小声で聞いてきた。
「まず教えろ。お前の王様はいないだろうな?」
「いませんよ。王様は冬木で、孤児院の子供達をみてくださっているはずです」
「本当だろうな」
 睨む男に、薫は笑顔のままで頷いた。ふぅと男は息を吐く。額の汗を拭い、琥珀色のウイスキー・グラスを手に取り煽る。
「コトミネ・カオル、お前何しに来た」
「いや、そう警戒されても困るのですが」
「ふざけるな。物騒な男を連れてフランス旅行。それからドイツでアインツベルンと接触だ。時計塔の監察部が空気を悪くしていたぞ」
「あれ? 先生は監察部なんかと関係があるんですか?」
「ないんだよ! なのにオマエが来たせいで、聞いてこいと突かれたんだ!!!」
「あー、それはすみませんでした」
 ペコリと小さく頭を下げる。そんな薫に、しかし男はしかめた顔を弛めない。
「判っているのか? コトミネ・カオル。お前の名前は協会に登録されてはいるが、ファーザー・コトミネ、つまり元代行者・言峰綺礼の娘なんだぞ。遠坂のコネを使ったキンググループの窓口は、貴重な表の交渉ルートとして重宝されてはいる。だがな、お前は「コウモリ」呼ばわりされている。信用されてはいないんだぞ。極東で大人しくしているから大目に見られているだけだ」
 それを聞き、薫はあははと苦笑する。
「来るなら遠坂の娘と行動を共にしろ。遠坂は魔法使いの弟子筋として、時計塔では名が通る。英国を歩きたかったら、教会からは距離を取れ」
 判ったか? 言って男は腕を組んだ。薫は彼にニッコリ笑う。
「心配してくださってありがとうございます。そうそう、マッケンジーさん達は元気にしてますよ。顔を見せに来てはどうですか? って、待ってくだ、ふぎゃっ!」
「余計なことは言うな」
 2発目のデコピンが炸裂していた。
 のぉぉおお、威力が上がってる?! などとのたうつ女の子。
「おのれ。レディーファースト文化圏の住人のクセになんたる所行。それでも貴男は英国紳士か?」
 恨めしそうな薫の視線。しかし男はそっぽを向いて、反省の色など欠片もない。
「で? どうなんだ」
「どうなんだと言われましても、ここへ来たのは100%観光なのですが。雰囲気を堪能し、本とかグッズとか買いあさっているだけです。あ、杖も買ったんですよ。ほらほら」
「チッ。まあ良いだろう。時計塔には言っておく。用が済んだらさっさと帰れ。そして二度とロンドンに上陸するな」
「ひどっ! それは酷いですよ先生。全世界二万人の信者にダメージです」
「信者なんぞいてたまるかバカ。いいか? 時計塔に比べれば、まだこの辺りの連中の方が安全だろうがな。それでも何が起こるか判らん。油断はするなよ」
「判りました。ああ、何か言ってましたね。えーと」
「ふん、頭に入っていないならそれでいい。むしろ入れるな」
「なんですかねそれは。大丈夫ですよ。さすがに問題起こすつもりもないですし、それに」
 言峰薫はその口の、左右を釣り上げ裂けたように広げて嗤った。
「私のような子供に、遠くからしかちょっかい出せない小物に用はないですよ」
 そう言って、東洋人の少女はクククと喉を鳴らした。
 それを聞いた男は不機嫌そうな顔を更にしかめる。調子に乗った小娘に、もう一発デコピンをお見舞いした。

 魔術協会、最大の拠点である通称「時計塔」は、時計塔とは呼ばれるものの、ビッグ・ベン(時計塔)の地下でなくて、大英博物館(ブリティッシュ・ミュージアム)の地下にある。
 敷地面積5万7千平方メートルの地下には何層にも渡る階層が設けられ、地下へ向かって深く深く掘り下げられている。
 ここだけで大学キャンパス以上の規模があり、多くの講堂、複数の図書館、資料室。研究室に実験室。その他にも管理業務のための詰め所や講師のための職務室、研究員の宿泊所、貴賓室や会議室、パーティーサロンやダンスホール、セクションごとの業務室、特待生のための個人工房、武闘派魔術師が使用する闘技場と訓練所、戦力である楽団(魔術詠唱・聖歌隊)騎士団達の設備までもがここにある。

 上(ミュージアム)と同じく芸術様式で整えられた地下の通路を、歩く男が一人いた。
 屋内にもかかわらず、長く伸ばした金髪にシルクハットを載せている。仕立てのいいスーツはジャケットもパンツも赤であり、男を煌びやかに見せていた。ステッキをクルクルと振り回し、鼻歌交じりで御機嫌だ。
 男は軽やかに歩を進め、個人工房(アトリエ)の前に来た。手を伸ばすその前に、内側に扉が開かれた。
 中から出てきたのは不機嫌そうな顔の男だ。彼は小さく黙礼し、通路の向こうに姿を消した。
 赤い男はそれを見送り、小馬鹿にしたかのように鼻を鳴らした。改めてドアへと向き直り、ノックも無しに押し開く。
「アオザキ!」
 赤い男が満面の笑みを向けたその先に、黒檀の髪を長く延ばした二十歳前後の女が一人。
 アオザキ。すなわち蒼崎橙子は来訪者を確認し、掛けていたメガネを外して机に置いた。
「何のようだアルバ。他人の工房にノックも無しとは行儀が悪いぞ」
 まだ十代のあどけなさを残す顔で不敵に笑う。影の中にありながら艶やかに咲く花のごとき華麗さを持つ彼女に、コルネリウス・アルバは笑いかけた。
「ハハハハハ。いやね、アラヤが破門になって、君が寂しがっているんじゃないかと思ってね。日本人は細かいことを気にする民族らしいから。心配になったんだ」
「フン、余計なお世話だよコルネリウス」
 橙子は蛇のように目を細めた。強い視線にコルネリウス・アルバは一歩引く。
「ああ、それなら構わないんだ。ところでアオザキ、今この部屋から出て行った男はあれだろう? ついこの間、一級講師になったあの男だ」
「ああ、エルメロイ派のベルベットだ。穏健派派閥の言峰の娘がロンドンに来ているらしいぞ」
「ハハハ、私は詰まらないことは気にしないタチでね。そんな名前は聞いたこともないな。その何とかと一級講師ふぜいが、君に何のようだったのかなアオザキ」
「オマエが興味を持つほどの用事ではないさ。同郷のよしみで援助をしようかと言ってきたらしい。私も名前が売れてきたかな。お近づきに何かをもらったよ」
 橙子は机の上に置かれた小箱を静かに撫でた。
「ほぅ、君に目を付けるなんてそのコトミネってヤツは見る目があるな。それとも島国生まれの者同士、助け合おうということかい?」
 コルネリウス・アルバと蒼崎橙子は、顔に笑みを貼り付ける。そのまま互いに笑いあう。
「生憎と私は全ての借りを返した身でね。やっと身軽になれたんだ。これからは本気で研究に没頭するさ」
 ニヤリと笑う蒼崎橙子。それを見てコルネリウス・アルバは青ざめた。
「そ、そうか。それは楽しみだなアオザキ。じゃあ私は失礼するよ。研究が忙しくてね。君も体には気を付けるんだぜ。bye bye.」
 赤い男が扉の向こうに消えるのを見送って、蒼崎橙子はフンと笑った。
 さて、このプレゼントはどうするか。身一つでやってきた魔術協会、時計塔。多くの借りを数年がかりで全て返した。これからは思う存分、自分のための研究に打ち込める。要求付きの援助など、今の自分には邪魔なだけだ。
 箱を開けると手紙が一枚。そしてアクセサリーが数点入っていた。イヤリングにペンダントなど、そこにはオレンジ色のガーネットがはめ込まれている。
 へぇ、と橙子は頬を緩ませた。
 蒼崎の「ブルー」ではなく、橙子の「オレンジ」を届けてくるとは気が利いている。
 橙子は手紙も読んでみる。ちょっとした挨拶と、応援しているとの文があるだけだった。これは少々、拍子抜けだ。本当に日本人だと応援しているだけなのか?
 だが添えられた写真を見て、橙子はその目を鋭くさせた。
 まっすぐ立って背筋を伸ばし、前で手を組む女の子。尼僧服を身につけて、場所は教会礼拝堂であるようだ。
 そんな写真を彼女はジッと見つめる。
「この小娘、黄金か? まさかな」
 黄金比を体現した人間など、そう見いだせるものじゃない。もしもそうだとしたのなら。
「……欲しいな。だが手を出すわけにもいかんか」
 言って彼女は目を細め、その唇をぺろりと舐めた。


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あとがき
 まだ会うときではありません。今回やりたかったのは「観光」だったりします。
 管理人(私)はファンタジー小説などで、しっかりした街の描写があると嬉しくなる人です。
 ガイドブックなどを書いてる気分になりました(ダメですが)
2009.3.6th

追記:黄金のプチねた「マジカルツアー」と内容がリンクします。

次回予告
 封印指定の執行者、バゼット・フラガ・マクレミッツは指名され、とある魔術師のサポートの任務を受ける。
 待ち合わせ場所に現れたのは尼僧服姿の東洋人。コトミネ・カオル。
 不吉な予感を抑えつつ、行動を共にしたバゼットが聞かされたのは、逃亡したホムンクルスの処分依頼への協力で……。
 Special篇のラストはバゼット&薫vsアインツベルンのホムンクルスx2。
 スペックだけなら人間を超えサーヴァントにも匹敵する二体の人形。バゼットと薫はどうやって対抗するか?!
 次回「人形(ホムンクルス)狩り」

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