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Fate/黄金の従者#07魔女たちの夏休み・後編

「うっくひっく、えぐえぐ。桜ちゃんに気付けをしただけなのに……。えぐえぐ」
「薫、アンタはもう少し手段を選びなさい。色々と」
 テーブルに突っ伏してさめざめと泣く薫に、凛は拳を振るわせて言い聞かす。
 この子はもう少し考えて行動すべきだ。まったくもって、頭が良いのか悪いのか判らない。
 物分かりが良すぎると思えば大ボケで、人のことには鋭いくせに自分のことにはニブチンなのだ。なんとなくだが、薫は最後のところで自分を大事にする気がないんじゃないかと思ってしまうときがある。
「あの、私は大丈夫です、から」
 横に座った桜が、小さな声で凛に言う。弱気な彼女を凶暴な薫の横には座らせられない。ここでは私が守るのだ。
「こほん。こんにちわ間桐さん。今日は来てくれてありがとう。驚かしてごめんなさいね」
 そう言って凛は桜に笑顔を向ける、間桐桜は悲しそうに微笑んだ。
「こんにちわ遠坂さん」
 それだけ言って、桜はうつむき黙ってしまう。
 仕方ない。遠坂凛はそう思う。盟約がある。立場がある。お互い魔術師の家の子なのだ、仕方がないと自分に言い聞かせなければいけないこともある。
 だがしかし、それが気に入らなくて仕方がないインベーダーがここにはいるのだ。
 薫はふらりと立ち上がり、向けられる二人の視線を無視してその後ろに回り込む。座った姿勢で自分を見上げる凛と桜の頭に手をやって一気に引き寄せ、頭と頭ををぶつけてやった。
 ごつんと響く鈍い音。のぉぉぉ、痛いぃぃぃ、と唸り涙目になる少女達。
「ちょっと薫、何すんのよ!」
「やかましいわ!! このバカ娘らが!!! なんですか今の余所余所しさがみなぎる会話は? それがお付き合いのある家の子同士の会話だとでも言う気ですか?!」
「「……は?」」
 凛と桜は目を丸くする。何で怒られてるのか判らない。
 遠坂と間桐の家の間には盟約があって、基本的に不干渉なんですけど。言峰さん、貴女もそれはご存じのはずなのですが?
「そういうことを言ってるんじゃありません!!!」
 バンバンとテーブルを叩く薫に、凛も桜も開いた口がふさがらない。
「魔術や神秘は隠すモノ。魔術は自分の工房で。そして魔術師は自分が魔術師であることを隠すこと。それが魔術師の大原則。それが判っているのですか?!」
 当たり前である。何を今さら言われなくてはならぬのか。凛も桜も首をかしげる。
「だったら普段はもっと仲良くしなさい! 聞き込み調査によれば、桜ちゃんが間桐の家に養子に入ったこと、あの辺の家の人達知ってますよ? 当然ですよね、付き合いなくてもご近所さんだし、結界あっても中をのぞけない訳じゃないですから。そうでしょう? なのに二人とも道であっても無視するばかり、だけど目線で後ろ姿を追いかけたりしてるでしょう? 見られてますよそれ。特に凛、あなたですよ」
「ウソ?!」
「とにかく不自然なんですよ。遠坂と間桐の家は何かあるんじゃないかと噂されてますよ。まぁ魔術とか神秘とかを思っていることはないですが、遠坂も間桐も、あの家はちょっと妖しいって思われているのです」
「しょうがないじゃない、ウチの屋敷なんてずっと前から幽霊屋敷って言われてるわよ?」
「凛、だからそうではなくてですね、貴女たち二人が挙動不審で周辺住民の皆様に怪しまれていると言っているのです」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ桜ちゃん。ですからこれからはせめて、桜ちゃんは凛のことを「遠坂のお姉ちゃん」凛は桜ちゃんを「桜ちゃん」あるいは単に「桜」と呼びなさい。付き合いのあるご近所さんなんですからこのくらいが当然です。判りましたね?」
「ちょっと待ちなさい薫。どうしてそんなことを言うの? 盟約があるって教えたでしょう?!」
 遠坂も間桐も魔術師なのだ。薫はそれが判っているはずなのに、どうしてそんなことを話すのだ?!
「盟約はお互いの家に干渉しないこと、でしたね? でもそれは魔術師としての話でしょう? 魔術師だって人間です。冬木市の市民で深山町の町民ですよ。それを理解するのです。お互いに家のことには踏み込まない。家伝の魔術は隠蔽する。しかし外であったら挨拶して雑談くらいはこなしなさい。これは霊地冬木の管理者代行たる言峰からの通達ですので、きちんと守ってくださいね」
「ちょっと薫、管理者代行は綺礼の奴でしょ? アンタ何言ってるのよ?!」
「おじさまが留守の間は私がその代理となります。魔術も使える。黒鍵も扱える。洗礼詠唱もマスターした。何も問題ありません」
 マジですか? 凛はパクパクと口を動かし酸素を補給。聞いてませんよそんなこと。言峰綺礼、帰ってきたらお仕置きよ。

Fate/黄金の従者#07魔女たちの夏休み・後編

 そんなこんなで、ナチュラルな付き合いが出来るようになるための訓練として、三人で夏休みの自由研究をやることになりました。
 仕切っているのは言峰薫。凛と桜は茫然自失、頷くばかりで気持ちが言葉になりません。
「では冬木市昆虫採集マップを作成するということで、採集ポイントはこの海浜公園、深山町の公園、冬木教会前の三カ所で良いですか?」
 薫の問いかけに、こくこく頷く凛と桜。
「じゃあ私と凛が桜ちゃんを迎えに行きますね。集まるのは火、木、土曜の午後、三人集まってから全員で採集に行くってことで。虫は写真に撮ってアルバムを提出で良いですかね?」
 やはりこくこくと動きを合わせる凛と桜。それを見て、薫はよしよしと頷き腕を組む。
 そして薫はテーブルに身を乗り出して二人に近づき、小さな声で囁いた。
「では表向きの宿題はそれでいいとして、私たちに相応しい「研究」もしましょうか」
 凛と桜はぎょっとなる。
「ちょっと薫?! それじゃこれはそのために用意させたの?!」
 そう言う凛の右手は、持ってきたスケッチブックを指していた。
 そうですよと涼しげに答える薫を余所に、桜は訳が判らない。そんな桜に気が付いて、薫はにんまり笑って拳を握る。
「せっかくですからね。魔術回路を使わず、身に宿る魔力と「呪(しゅ)」を使った術式支配。虫を操る「魔女術(ウィッチ・クラフト)」をやろうと思うのですよ。まぁ、監視対象の間桐の魔術を理解するためでもありますが」

 桜は固まっていた。よくも声を上げて逃げ出さなかったものだと思う。喉の奥では、ひっと息を飲んだ桜だが、あまりの驚きにむしろ何もリアクションが取れなかったのだ。
 目の前では薫と凛が話を続けている。
「凛。一通りの術式と呪文は出来ているのでしょう?」
「当然よ。世界の魔術基盤を使わないんで良いんだもの、本能で動く昆虫一匹を対象にした呪縛使役なんてガラスの修復よりも簡単よ」
「あはは。さすがですね、凛。まぁ虫の使役は、アストラルの神殿や宗教基盤から借力したり験力を求める程じゃないですからね」
「ハァ。薫、貴女は私の弟子なんだから、用語は魔術で統一しなさいよ。桜が目を回しているじゃない」
 え? 桜がはっと我に返ると、ムスッとした凛と、眉を寄せて困った風な薫がこちらを向いていた。
「あ、す、すみません」
「桜は悪くないわよ。薫が悪いのよ。薫が」
 凛はそう言い、ジト目で薫を見やる。薫は肩をすくめて話を続ける。
「そうですね。では桜ちゃんに教えてあげましょう。世界の魔術基盤とは、言ってみれば宗教上のお約束、あるいは魔術のルールみたいなものです。
 宗教でも魔術でも思想でも、ああすればああなる。こうすればこうなる。そういう法則性があるでしょう?」
 解説口調でのたまう薫に、桜はとりあえず、うんうんと頷いた。
「それでですね。例えばお寺で特定の神仏に祈りを捧げ続けると、お寺を中心に、思念が異界を形成するのですよ。霊界とか、神界とか、妖精界とか、天狗界とか、固有結界とか、似たようなモノです。そしてこの異界には、人の祈りや思念に反応する「力ある事象」が内包されます。これは魔術でも宗教でも変わりませんね。よって、お坊さんなんかが守護神を選んでその神様や仏様の呪文を唱え続けて、その身を「染める」と、異界に生まれた「仏様(システム)」に祈りが届いて動いてくれます。修験道ではこれを「験力」と呼んでいて、」
「薫、話が逸れてる」薫は凛につつかれた。
「失礼。えー、とにかく世界には有名な神話や宗教、神秘思想、おとぎ話や不思議な話がいっぱいあります。それは世界に重なるような巨大な「場」として存在していて。占星学、ルーン、ヨーガ、カバラ、神仙道、陰陽術、密教、宗教呪術、およそ「術者」を呼ばれる者は皆、学んだ思想やシンボルを使ってこの「世界の魔術基盤」にアクセスし「ああすればこうなる」という反応法則を利用するのです。
 そしてこの世界の魔術基盤は、更にその深奥で「根源」というよく判らない所に繋がっているとされ、神秘行の修行者はそこを目指しているのです」
 言いたいことを言ったのか、ちょっと偉そうにふんぞり返る薫をよそに、凛は冷めた口調で言葉を続けた。
「桜、薫の説明はかなり乱暴だから、適当に聞き流してね」
「凛、それはないでしょう? 私の先生は貴女ですよ。いいですか桜ちゃん。私の話が判りにくいなら、それは凛のせいなのです」
「薫、今夜から占星学とカバラの特訓ね」
「あー。ウソですウソです。凛はとってもいい先生です。時々あくまになるだけです」
「数紋魔術とノタリコン(ヘブル語暗号秘法)も追加するわ」
「鬼! あくま!! 遠坂凛!!!」
「どういう意味よ!!!」

 遠坂凛 vs 言峰薫。第二ラウンド。
 開始28秒、間桐桜によりレフェリーストップ。没収試合。

「はぁはぁ。じゃ、じゃあ私は蝶を一匹、捕まえてきますから、凛は桜ちゃんに呪文と術式の解説をお願いします」
「ハァハァ。わ、判ったわ薫。急がなくても良いから気を付けてね」
 息を切らせながらも、薫はテーブルの脇に置かれた虫網と虫かごを手にとって、桜に笑顔で手を振ってから駆けだした。向こうに見える花壇に舞うキアゲハがお目当てのようだ。
 桜が薫の背中を目で追っていると、凛から声がかけられた。振り向くと、彼女が大きなスケッチブックを開いて手招きをしていた。
「これはね。薫に頼まれて組み上げた「虫を一匹、直接パスを繋いで使役する」ための術式とその呪文よ。
 私はてっきり間桐の監視をしてるんだから、後学のためにかと思ったんだけど、まさかこんなことになるなんてね。
 私は、桜が間桐の家で何を学んで何を身に付けているのかは聞けないけど、これは魔術回路を開いて世界の魔術基盤にアクセスはしない簡単な術式よ。門派の入門試験にもならないような簡単なものだから、三人で工夫しても大丈夫だから安心してね」
「そう、なんですか」
 桜の声は固い。凛は頑張って笑顔を作る。薫、早く戻ってこい。
「じゃあ読み方から教えてあげる。最初は始動キーよ。魔術回路は開かなくても、魔力の感じを掴まないとね。
 ーー Anfang. ーー
 発音はアンファン。ドイツ語よ」
「ど、どいつ語ですか?!」
 桜はぎょぎょっと目を丸くした。凛は少し頬を弛める。そして硬い笑顔が自然に近づくいじめっ子。それがきっと遠坂凛。
 桜はスケッチブックをのぞき込み、そこに書かれた流麗なドイツ語の筆記体記述文に頬をぴくぴくと振るわせる。
「桜?」
「は、はいっ!」元気な返事の桜ちゃん。でも、その目が泳いでる。
「さあ、薫が戻ってくる前に読み方はやっておきましょう?」
「どいつ語なんですか?」
「ドイツ語よ」
 桜の肩に、凛はニッコリ笑顔で手を置いた。

 みーんみんみんみんみーん。セミの声が周囲の会話をかき消して、ここには二人以外の吐息の音は聞こえない。

「桜、それじゃあ、案・不安よ。そうじゃなくて Anfang. アンファン。よ」
「は、はい。えーと。あんふあん。あんふぁんぐ。あーふあーん」
 あぐあぐと、口を開け閉めしている桜ちゃん。凛は優しい顔でそれを見守る。
「まず初めの「ア」を強く言うの。次に「ン」はアを言った後に口を閉じて「ン」になるだけで「んー」とは言わないで。
 「ファ」は口を吐息で丸く広げていくように、ng は「ン」だけ言って g は口の中だけで響かせて外には聞こえないように。
 Anfang. アンファン。 Anfang. アンファン。Anfang. 言ってみて」
「は、はい。あんふあん。あnふぁん。Anふぁんg。アンファン。Anfang. 」
「上手よ。桜。それでいいわ。薫よりずっとキレイな発音よ。あの子ドイツ語下手だから」
「え? あ、はい! Anfang. これでいいんですね?!」
「良かった」
「はい?」
 桜は不思議そうな顔をする。
「……やっと桜が笑ってくれた」
 凛は目尻を弛め、桜の顔が少しだけ、赤くなった。

「ただいまーっ! キアゲハ、ゲェーーーット!!!」
 元気な夏のお嬢さん、言峰薫が帰還した。虫かごには掌に収まるほどのキアゲハ蝶が一匹、その羽を休めている。
「「おかえりなさい」」
 ふんわりとした笑顔で凛と桜は、戻った薫を迎え入れた。瞬間、薫はきょとんとするが、小さく笑顔を浮かべて合流する。
「説明は終わりましたか?」
「終わるわけないでしょう。発音の仕方と単語の意味を教えたところで、薫が戻ってきたの。もっと時間をかけても良かったのに」
 言って凛は桜にねぇ、と同意を求めた。ちょっと困る桜に凛は、微妙にむっと顔をしかめる。
「じゃあ、今日の所は凛に実演してもらって、おやつを食べて解散にしましょうか」
「判ったわ。薫、それ貸して」
 凛の実技が始まった。
 Anfang. 始動キーを唱えて自身に宿る魔力を把握。
 砂糖水に血を数滴垂らし、かき混ぜながら呪文を唱える。キアゲハに砂糖水を吸わせてから、パスを繋げて支配する。
 魔術回路は使わない。その身に帯びた魔力と呪文と術式で、作用をさせる簡易な儀式魔術(フォーマル・クラフト)を展開する。
 桜はそれを凝視する。間桐の魔術とまったく違う。凛のそれは形式的で、ささやかな様式美を持っていた。桜には何と言って良いのか思いつかなかったが、これが「術」というものか。という感慨を、それは桜にもたらした。
 そんな桜の横から、凛に薫の茶々が入った。
「凛。くれぐれも良い格好しようとして魔術刻印を起動しないように。痛むんでしょう?」
「ちょ、薫! 余計なこと言わないの! この程度で使うわけないでしょう?! さすがに刻印は工房の外では使わないわよ」
「工房なら痛みで倒れても大丈夫ですからね。薬もあるし」
「……薫。今夜シメル」
「あはははは。桜ちゃん。呪文というのは大切なんだ。いいかい?」
 凛から顔を背けた薫は、冷や汗を浮かべながらも真面目な顔で桜の肩を掴んで語りかけた。
「桜ちゃん。黙っていたら何も伝わらないよ。思っているだけじゃダメなのです。言葉にするんだ。願い続けるだけじゃ何もしないのと変わらない。伝えたいものがあるなら声に出す。相手に向かってそれをぶつける。それが言葉であり呪文の根本です。オーケー?」
 凛に背を向け桜を見つめる薫の顔が、どうみてもマジだった。忘れないで。憶えておいてと、必死な視線が告げていた。

 ひらひらと、一匹のキアゲハ蝶が、凛の周囲を飛び回る。
 凛が一言ドイツ語で言う度に、蝶が上へ下へと舞い踊る。
 おおーっ、と薫は手を叩き、桜は夢中でそれを見る。桜にはそれが夢のようにも見えるのだ。木陰の中に自分と薫と凛が居て、凛が呪文を教えてくれて、彼女と蝶が戯れる。光は枝と葉の隙間を抜けて、幾筋かの光線となってそれを照らして輝かせる。それはとてもキレイだった。
 そして桜はこう思う。この人達と一緒にいれば、ひょっとしたら、自分もキレイになれるのかと。怖がって声も出せなかった自分でも、蝶を呼んでもいいのかと。

 みんなでおやつのシャーベットを食べたところで、この日の集いは終わりとなった。
 日曜は薫は教会の雑務があり、月曜日は会社で会議と書類処理で来られない。立場上、凛は薫が居ないと間桐桜と接触できないと聞かされて、桜は家に戻っていった。

 その日の深夜、桜は始めて自分から、間桐の屋敷の地下にある魔術の修練所に足を運んだ。今日は何故か、臓覗は呼びに来なかった。
 小さな城にも匹敵する間桐邸、その地下に築かれた空間は生臭い空気に満ちていて、風もなく淀んでいる。
 そして暗闇の中、さらに下に目をやると、床一面に、いや、底面にしつらえられたプールいっぱいに蠢き、うねり、這いずり回る影達が耳障りな音を立てていた。

 ーー キチ・キチ・キチ・キチ・キチ・キチ・キチ・キチ・キチ ーー

 そこに居たのは蟲だった。
 足下に蟲が、その向こうに蟲が、それを覆い尽くす蟲が、そこに被さるように蟲が、飲み込むように蟲が、わき上がるように蟲が、こちらを塗りつぶさんとばかりに大量の蟲が這い回る。それが間桐の魔術修練場。
 すなわち、術者を生け贄とした蟲毒の壺。蟲の倉。
 間桐桜が遠坂から養女に来てから五年間、三日と開けずに放り込まれてきた、ここは、地獄の、蟲の、釜。
 桜は蟲に犯された。
 処女という言葉など知らなかった。純潔と言う言葉は今でも知らない。女とはどういうものも知らなかった幼すぎた五年前、桜はこの蟲の中に放り込まれて、そして。

 多分、蟲の仲間になったのだ。

 ああだけど、思い出す。
 薫は自分の肩を抱いてくれたのだ。水の匂いは素敵だと言ってくれたのだ。蟲の魔術は医療に優れた魔術で、いつか自分を治療してくれと言ったのだ。
 そして今日、凛は蝶を操る術を見せてくれた。あれはとてもキレイだった。だれでも出来ると言って、呪文と形式を教えてくれた。スケッチブックごと、凛は桜にプレゼントしてくれた。
 別れ際に薫は言った。慎二に相談してみろと。言われたとおりに相談すると、慎二はどいつ語を訳してくれた。辞書を開いて、みるみるうちに日本語にしてくれた。魔術書を調べて術式の意味を教えてくれた。自分もこれを勉強して、教えてやると言ってくれた。
 蟲たちを前にして、桜は下を向いて唇をかみ締める。
 私は今まで、何をしていたんだろう。

 思い出す。光を受けて輝く遠坂凛。背筋を伸ばした言峰薫。辞書を手にした間桐慎二。
 そうだ、私は、あの人達と、同じ場所に、いたい。

「 ーー  Anfang.(セット)  ーー 」

 恐ろしい蟲たちが、おぞましい蟲たちが、桜の呼びかけに応えて一斉に動きを止める。
 この小さな力が蟲の女王種としての片鱗だと、桜はまだ判っていない。

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 あとがき
 間桐桜・覚醒(水属性・蟲使い)です。
 努力はしたんですが、どうしてもコメディーにならなくて……(泣)
 テイストがクトゥルーチックな気が……(さらに泣き)
 色々とトンデモ魔術理論が出てますが、あまり気にしないでくださいませ……(マジ泣き)
 管理人(私)がこだわったのは、
・間桐桜に、どうしても自分の意志でAnfangと言わせたかった。
 この一点です。
 他はもう全部おまけと言っていい今回でした。ちなみに「世界の魔術基盤」の利用法については、現実の西洋魔術や宗教魔術(霊術など言わないと拙いな)を参考にしました。
 ああ、前編・後編に分けない方が良かったかな。いや、しかし。
 まぁ、二つ続けて呼んでいただけると、何が書きたかったか判っていただけるのではないかと思います。でもオチが付くのは次回ですね。慎二がぁぁああ。臓覗がぁぁああ。
 これが賛同を得られるものかは妖しいと自覚してます。あはは。

 次回予告「公園の勇者」
 間桐への干渉は一応の決着を付けます。臓覗、そして慎二が……。
 そしてついに衛宮士郎、藤村大河、衛宮切継が登場します。ちょい役ですが。
2007.12/15th

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薫:薫ちゃんのミニミニ王様講座。私、口調が丁寧なのは女言葉を使いたくない言峰薫と。
ギル:我(オレ)の従者に品のない話し方など許さぬ。
薫:礼儀作法にちょっと厳しいサーヴァント・アーチャー。ギルガメッシュがお送りいたします。
ギル:それで今回は我(オレ)の何をとりあげるのだ?
薫:それがデスね。ぷち脱線講座、第二弾として「ビール」だそうです。
ギル:……殺(ヤレ)せ。
薫:お待ち下さい王様。ワインを説明したからにはビールもしておこうというのは割と自然な流れでは?
ギル:ちっ。しかたあるまい。ちなみにビールの起源も我がメソポタミアだ。我(オレ)のいた紀元前2700年前よりもさらに前、紀元前3000年にはメソポタミアから古代エジプトにビールの製法が伝わっていたのだぞ。
薫:メソポタミア&エジプトはローマ(あるいはヨーロッパ)からみて「東方」で、古代オリエントと呼ばれます。
ギル:うむ。この古代オリエントのビールは消化の悪い大麦を、パンに焼いてから水につけて発酵させた飲み物だ。おそらく麦芽の加工を工夫する過程で生まれたのだろうな。昔から「食べ物」に近しい飲み物とされるのだ。
薫:これが後年、北方のケルト人、ゲルマン人に伝わり、パンではなく麦芽の粉を湯に浸して発酵させる醸造法が開発されて。今のビールに近しいものとなりました。
ギル:ちなみにローマ帝国ではビールは野蛮人の飲み物とされ、蔑まれていたようだな。奴らはワインを珍重したのだ。ワインもこの現代のワインとはまた違う。
薫:ちょっと説明しますと、現代に一般流通しているような飲み物なワインは古代では新酒でしか飲めませんでした。すぐに酸っぱくなってしまうのです。
ギル:よってガラス瓶とコルク栓が発明されるまでは、新酒が出来たらすぐに飲み、あとはドロリとした、なんだ、保存の利くカルピスの原液のような濃いワインを湯で割ってコショウを入れて飲んだのだ。
薫:よって年代物のワインというのは古代にはありません。
ギル:話は戻ってビールだが「エール」と「ラガー」の区別くらいは憶えておくがいい。
薫:私たちがビールと呼んでいるのはラガーになります。醸造法(と酵母)が異なります。
ギル:常温で短期間の内に発酵させるのがエールだ。香り高く、コクがある。
薫:短いサイクルで作れるので、作るのが簡単で管理も楽。酵母が上に溜まるので上面発酵と呼ばれます。
 また、ビールは水のようなもの。と言えばこれはエールと捉えて良いでしょう。
ギル:低温で長期醗酵させて作るのがラガーだ。最低でも一冬は寝かせる必要がある。喉ごしの滑らかさが特徴だな。
薫:酵母が下に溜まるので、下面発酵と呼ばれます。私たちがビールと呼んで普段口にしているのはこのラガーです。大量生産に適していると言われます。
ギル:この現代ではエールは趣味人の飲み物となってしまったようだな。何処に行っても見かけぬぞ?
薫:うーん。エールは好事家向けに、ちょびっと生産するくらいになってるみたいです。
ギル:それも時代の流れというものか。
薫:しかし! イギリス産のパスペール・エールを取り寄せてみました!
ギル:おお! でかした!! よしよし、伝統通り冷やさず常温で飲むのだぞ。ごくごく。ぷはー。うむ。このすっきりとした味と、果実を思わせるほどのさわやかな甘い香り。良いエールだ。よし、カヲル貴様も飲んでみるがいい。
薫:はい王様。ではちょっとだけ、……。

 ーー フェードアウト ーー


 黄金の没ネタ・一部
(この程度の小ネタを書きためて、頭の中で全体を構築しながら本文を書いています。没ネタ率は3割くらい?)

 桜ちゃんに魔術を見せてやろうじゃないか! おもちほっぺ。びよーん。(身体変化魔術)
 桜の中の魔術に対するイメージが、ビキッと音を立ててひび割れる。
 ああこの人バカだ。凄いバカ。本当にバカ、きっとバカ、バカ馬鹿ばか。
 涙と笑いが止まらない。
 もう許しひぇー。あははははあはは。凄いバカ。
 薫、、、あんたという奴はぁぁぁあああ。二メートルを超えてやるー!!!

 おやつの前に体質改善薬。桜は泣いてしまう。ぴぎゃぁぁああ。凛、平気で飲む。飲まないと熱出るから。薫も飲んでる。二次性徴までもうすぐですからね、それまでは飲み続けないと。あーやだやだ。時々凄いの飲むよ(神酒とか)もう命がけのやつ。二次性徴。海のバカヤロー
 おやつ、スイカシャーベット
 お菓子だけは甘いものを用意する! それが言峰教会の掟なのです!! お菓子は甘くないとダメなのですよ!!!
 主に薫と王様が。でも綺礼だって甘いお菓子を食べないこともありません。

 お弁当と水筒。サンドイッチとおにぎり。タコさんウインナー。卵焼き、ぶりの照り焼き、中華は冷めたらダメ
 桜に、慎二君がスケベだとか、臓覗のじいちゃんが犬や猫を躍り食いしてないかと聞く。
 凛、エキサイト。桜、してません


 言峰綺礼が教会から受けた新たな指令。それは聖堂教会の権威が及ばない中東の地での悪魔祓いだった。
 幼い少女の中で育まれた真性悪魔は、卵であった少女の体を突き破り、世界に呪いの産声を響かせる。
 そして悪魔はパズスと名乗り、街を火の海に変えていく。
 古代、アラビア半島を焼き尽くしたという魔神パズスを名乗る真性悪魔に、代行者(エクスキューター)言峰綺礼と英雄王ギルガメッシュが戦いを挑む。
 ここに世界は砕け散る!!
 タイトル「アラビアの熱き風」渇いた砂漠に、伝説が吹き抜ける。

 書けるかこんなもんっ!!! 一体何ヶ月かけるつもりだっ!!! お願い、誰か書いてください!!! 掲載させていただきます!!!

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