00 それは終わり。そして始まり。




 現在(いま)から十年前の冬。地方都市、冬木市で起こった戦争は終局を迎えていた。
 平和に暮らす人々は誰も知らず、そして常のものではない戦いだった。
 たった七人の人間と、存在しないはずの七体の亡霊が一つの宝を求めて殺し合う。それはそんな戦争だった。
 七人の人間とはすなわち魔術師。世界の真実と真実の向こう側にある秘密の真理を求める探求者達。
 七体の亡霊とはすなわち英霊。多くの人に英雄と讃えられ、神霊にも等しい神秘へと祀られた過去の英傑。
 七人の魔術師(マスター)はそれぞれに英霊(サーヴァント)を従えて、平和な街の裏側で半月にわたって戦い続けた。

 サーヴァントとして現界した英霊達は、その神秘の力を以て戦った。

 剣兵(セイバー)の英霊(サーヴァント)は、その剣の一振りで海を割り、
 槍兵(ランサー)の英霊は、槍の一突きで決して癒えない呪いの傷を残した。
 弓兵(アーチャー)の英霊は、聖剣、魔剣、霊剣、妖刀を弾雨と降らせ、
 騎乗兵(ライダー)の英霊は、神獣の引く戦車で稲妻を撒き散らして空を駆けた。
 魔術師(キャスター)の英霊は、手にした魔導書にて悪魔の軍勢を呼び起こし、
 狂戦士(バーサーカー)の英霊は、手にしたあらゆる物を、己の武器と染め上げ使いこなした。
 そして暗殺者(アサシン)の英霊は、一体にして百の顔を持ち、多数の影と分かれて襲いかかった。

 マスターとして参加した魔術師達も、その秘奥を尽くして戦った。

 ある魔術師は、己の起源を弾丸に込めて銃にて撃ち放ち、敵の魔術師生命を打ち砕き、
 ある魔術師は、命ある水銀で身を守り、そして敵を切り裂いた。
 ある魔術師は、十年以上の時を掛けて魔力を封じた宝石を手に掲げ、
 ある魔術師は、歯を食いしばりながら己のサーヴァントと共に戦場を駆けた。
 ある魔術師は、死にゆく我が身を必至に支えて戦い続ける。
 しかしある者は、己がマスターであることも理解できずに、サーヴァントと共に享楽に狂い、
 そしてある者達は、切実に救いを求めて戦ったが、手にしたものはただ失望と絶望。……あるいは悦楽。
 それはそんな戦争だった。

 戦いは始まり、終わりの時は来た。
 その戦いに参加した者達がこぞって求めた、たった一つの宝が現れる。
 だがしかし、それを手にするべきは勝ち残った一組の魔術師と英霊でなければならなかった。
 時が満ちたとき、未だに二組が睨み合い、雌雄を決するためにぶつかり合う激しくも最後の戦いのただ中にあった。
 そして時は満ちる。
 神秘の力を持つ魔術師と英霊達が、殺し合いをしてまで求めたその宝は力を解放する。
 あらゆる望みを叶えるための願望器。すなわち「聖杯」は、しかし望みを正しく叶えることはなく、天空に暗い穴を開け、呪いの泥を吐きだし炎を作り、街の一角に地獄を生み出した。

 後に謎の火災とされたこの戦いによる死傷者は、判っているだけで八百人以上、炎上し倒壊した家屋は百五十近く、中心となった住宅地の三割を焦土と化して「聖杯戦争」という名の戦争は終わった。

 ……多くの犠牲者を出して、一人の勝利者を出すこともなく。

   〜 Fate/黄金の従者 START 〜

01 炎の海とクマさんパンツ

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