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 ここは何処とも知れぬ不思議空間。
 タイガとブルマが出現する道場の、恐らくは斜め下にある講堂である。
 集まった者達は皆二頭身で、時代を無視した服装の者がちらほらと集まっている。
 教室の教壇に、金の髪を後ろにまとめた翠(みどり)の瞳の少女と、助手らしき青年がなにやら確認をやっている。

 時間になると、しかし少女ではなく青年が前に出た。
「講義の前に、訂正とお詫びを致します。『#07 アーサー王の死』において、サクソン人との戦いは伝説の初期と紹介しましたが、これは誤りでした。ジェフリーの『アーサー王の死』においてはサクソン人との戦いそのものが省略されており、つまり『十二の会戦』の話はありません。アーサー王を認めなかった他のブリトン諸侯との戦いに置き換えられており、異民族(異教徒)と戦うエピソードはありませんでした。お詫びと共に訂正致します」
 一礼し、青年が後ろに下がると少女が沈痛な面持ちで前に出る。

 なんということでしょう。まさか十二の会戦のエピソードがアーサー王伝説の決定版たるかの本に存在しないとは、ぬかりました。以後気を付けましょう。十二の会戦からカムランの戦いまで20年、という物差しはどうすればよいのでしょう? ベティ、大儀でした。


セイバーのアーサー王伝説講義
第九回:ウーゼル王


 今回は、私セイバーことアーサー王の父君、ウーゼル王について講義致します。
 ウーゼル(Uther)はウーサー、ユーサーなどとも表記され『ペンドラゴン』を姓とした最初の人物であり、アーサー王の父親です。
 少々歴史の話を致します。
 まだローマ帝国領であったブリタニアに、ヴォーティガーンという執政者がいました。彼は善き統治者ではなく、組織された多くの反乱軍に攻めこまれ殺されてしまいます。
 ヴォーティガーン亡き後、数人いた諸侯の中にアンブロシウスという男がおり、軍団を率いて戦う彼は竜(騎士)の王(指揮官)つまり『ペン・ドラゴン』という称号で呼ばれていたようです。
 しかしアンブロシウスもまた戦いの中で果ててしまいます。
 そして彼には弟がいました。この弟というのがウーゼルです。
 ウーゼルがサクソン人と戦っている最中、空に二筋の星が走ります。一つはガリア、一つはアイリッシュ海(ブリテン島とアイルランドの間の海)へと落ちて行きました。
 ウーゼルは魔術師マーリンに訪ねます。
「あの彗星は何を意味するのか」
 マーリンは答えます。一つは兄の死を告げている。一つはウーゼルの息子が偉大な王となり、サクソン人に勝利することを告げていると。
 サクソン人を退けたウーゼルは新たなブリテンの王となり『ウーゼル・ペンドラゴン』を名乗ります。彼は火の尾を引いた星を記念し、二匹の黃金の竜を作ったとされています。
 戦乱に見まわれる中、ウーゼルは他国の王妃イグレーヌに恋をします。するとあろうことか妃を奪うためにコーンウォール地方へと攻めこむのです。
 それだけではありません。なんと彼はマーリンの魔術で姿を偽り、イグレーヌの夫君、ゴルロイス王に化けてイグレーヌの寝所に忍び込みます。
 一国の王ともあろう者が一体何をやっているのでしょうか。マーリンも王の相談役でありながら、このような奸計に助力するとはなんと破廉恥な、これだから男という生き物は……、え? 何ですかベティ? 王も男? えっへん、おっほん、げふんごほん。

 先に進めます。

 ゴルロイス王は戦死し、ウーゼルはイグレーヌ妃を手に入れます。結婚し、生まれた子供をマーリンに預けます。この子供というのがアーサーです。
 少し補足いたしますと、敗れた国の王妃、姫君は勝者の側に取り込まれねば死ぬしかありません。そんな現実がそのまま描かれているわけです。
 ウーゼル王についてはこれ以上のエピソードを探すことが難しいのが現実です。
 アーサーが剣を抜き、王として即位する前には死亡しており、その死については詳しく述べられてはおりません。
 つまり彼は『アーサー王』の父という役であり、ペンドラゴン一族物語の主役ではなかったのです。

『ペンドラゴン(Pendragon)』についても説明しておきましょう。
 これは称号の一種であり、dragon:竜は戦士あるいは騎士、Pen:頭は長(おさ)や司令官。
 つまりPendragonとは「騎士長」であり「偉大な騎士」あるいは「王」を意味します。
 私セイバーは『騎士王』の称号を以って呼ばれますが、これは決して偽りではありません。
 さらに話を掘り下げましょう。

 まずは竜の起源です。
 神話の時代。世界に大地が出来た頃、地の底に地震を起こし災厄をもたらす黒い竜がいました。それを水の神であった赤い龍が倒します。世界は平和になりました。
 これはケルトの伝承です。
 ローマ帝国の進行を受ける以前のブリテン島に、ルードという王がいました。
 当時、恐ろしい唸り声が昼も夜も鳴り響くという怪異が起こります。この原因は、大地の守護神たる赤い竜が地の底から舞い上がろうとする雄叫びであり、異民族の守護神である白い竜と戦うための復活の叫び声であると判明します。
 自身の守護神である赤い竜は退治できませんので、二体の竜をまとめて封印することになりました。
 穴を掘り、蜂蜜酒で満たしておきます。
 白い竜が大地に降り立ちます。赤い竜が大地から蘇り、白い竜に襲いかかります。天へと登り、竜たちは激しく戦います。
 深い穴を見つけた竜たちは互いに相手を穴に落とそうとして縺れ合い、蜂蜜酒の中へと落ちてしまいます。
 竜たちは酒に酔い、深い眠りに落ちていきました。
 ルード王は絹布で竜を覆い隠し、二つの石の箱に別々にしまい込みます。そして地中深くに埋めて封印してしまいました。
 守護神である竜を封印されたので、戦乱は一時的に収まったとされています。
 しかしです。封印が解かれるとき、人間たちも戦う運命となったのです。

 ローマ帝国の支配下となり、上記のブリトン君主ヴォーディガーンの時勢となりました。
 彼はサクソン人と戦うために、塔を建てることにしました。ですが土台の工事の折に、地中に邪魔なものがあると知らされます。
 その原因がなにか判るものはいないかと触れを出すと、少年であった魔術師マーリンが現れます。
 マーリンは告げます。地底で戦う二匹の竜のためであると。
 ヴォーディガーンが掘り進めさせると、大きな泉が湧き出ます。水を吸い上げると二つの石の箱が出てきます。
 そして蓋を開けてしまうのです。
 箱よりい出しは赤き竜と白き竜、互いの姿を見ると竜は戦いを再開します。マーリンは言いました。
「赤い竜はブリトン人。白い竜はサクソン人。争いはコーンウォールの猪が現れ、白い竜を踏む潰すまで終わらない」
 結局の所、赤い竜が白い竜を殺してしまうのですが、これは予言であり『コーンウォールの猪』つまりアーサー王がサクソン人を打ち破ることを暗示しているのです。

 この辺り、様々な物語において混乱あるは故意に攪拌していると思われます。
 赤い竜と青い竜になっていたり、赤い竜が敵側の象徴になっていることもあるようです。
 さらに言うならアーサーの二つ名は『コーンウォールの猪』であり、竜ではありません。
 一応言っておきますと、ドラゴンとは基督教において自然の象徴であり、善なる力の象徴ではありません。基督教では自然の力はイコール自然の猛威であり、すなわち悪なる力です。
 自然の恵みは主からもたらされるものであり、自然の猛威は「ありえないこと」悪意ある暴走と考える。これが基督教です。
 反して猪とは豊かで管理された森の象徴であり、人の力によって大いに育つ恵みの肉です。
 自然の猛威を踏みつぶす、人の森の美味しいお肉。竜をも支配し屈服させる。アーサー王を例えるに相応しい獣と言えるでしょう!
 以上で今回の講義を終ります。ウーゼル王というよりアーサー王伝説が始まる前についての解説となった感がありますが、基督教伝来以前の影響が濃く残る所に面白さがあるのではないかと思います。

 どうでしたかベティ、今回はなかなか面白い内容だったと思うのですが。ふふっ、大風呂敷を広げるとはこういうことかもしれませんね。では後は頼みます。

 セイバーは肩を怒らせ、のっしのっしと歩み去った。その背中を微笑ましく見送って、ベティヴィエールは口を開いた。
「次回は「マーリン」についての講義となります。魔術師の代名詞ともいえる彼ですが、それ故にか複雑な経緯の存在であり、その多面性について述べられる予定です」

09ギネヴィア 11マーリン
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