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 ここは何処とも知れぬ不思議空間。
 タイガとブルマが出現する妖しい道場の、恐らくは斜め下にある教室である。
 集まった者達は何故か皆二頭身だ。紐で吊られた少年。煙草を咥えたやさぐれ少女。青黒い髪のヘタレ少女。他にも時代を無視した服装の者がちらほらと集まっている。
 そんな教室の教壇に、金髪を編み込んで後ろにまとめた翠(みどり)色の瞳の少女と、助手の青年が講義内容の確認をやっている。

 くっ! 我ら主従の渾身の講義ですが、どうも軽んじられている気がしてなりません。やはり本編に私が乗り込むべきでしょうか? ふふふ、いつまでも金ピカの時代ではありませんよ……。さあエクスカリバーを振りかざし、今こそ……。なんですかベティ? え? 貴重なマイ・コーナーで喧嘩を売るな? はっ! 私としたことが!! 貴方のいうとおりですベティ。まず己の責務を果たす。それでこそ騎士! さすが我が騎士です。どこぞの従者など足元にも及びませんよ。え? いいから始めろ? むぅ、賞賛は受けるのも礼節というものですよ、まぁいいでしょう。では……。

セイバーのアーサー王伝説講義
第六回:その人。アーサー


 さて、六回目にもなりました今回の講義は、人としてのアーサーについて述べていこうと思います。

「かつて存在し、未来に復活する王」と謳われるのが「イングランド」の伝説的英雄「アーサー王」です。
 ヨーロッパ文化圏における最大にして最も有名な伝説で、その知名度はギリシャ神話やローマ神話、ケルト神話など他の神話の追随を許さない、名実共にナンバーワンの伝説群。それが「アーサー王伝説」です。
 あえて付け加えますと、伝説であって神話ではありません。基督教の普及がもう少し遅ければ、アーサー王は神と呼ばれ神話になっただろうとも言われます。
 しかし、アーサー王伝説が今日のような発展を見せたのはやはり彼が人間の王として描かれていたからで、だからこそ詩人達は運命に揺れる多くの騎士達を歌い上げ書きつづったとも言えるのです。
 こほん。
 アーサー王は騎士の代名詞として知れ渡る英雄ですが、モデルとなった人物が実在したとされています。
 そのモデルとなった人物は「戦いの王(Dux Bellorum)」と呼ばれた軍の士官であるといわれており、二人いたとされています。
 まず一人は当時のブリタニアの支配階級であるローマ人のアルトリウス。
 そしてもう一人、その土地の言わばイングランド人(土着のケルト人、あるいは市民階級のローマ人、または混血)であるアーサー。
 この二人の活躍を一人のものとしてまとめたのがアーサー王伝説の原型ではないか? という意見が有力です。他にも諸説あります。ちなみに二人とも将軍であって王ではないようです。
 そして実は民族的には現代のイングランドとは関係ありません。ローマ系あるいはローマンケルト系なので、むしろイングランドとは敵対……げふんげふん。先に進めます。

 様々な活躍がうたわれておりますが「アーサー王」としての偉業は何と言いましても「ブリタニア救国の王」というものです。
 アーサー王の戦歴を述べますと。

・選定の剣を抜き、王の名乗りを上げる。
・ブリタニアを平定し、王の中の王となる。
・ブリタニアに侵入してくる異民族と十二の会戦を行い常に勝ち、和睦を結ぶ。ギネヴィアと結婚。
・スコットランド、アイルランド、ノルウェー、ルーマニア、フランス。その他を侵略、征服。 
・ローマ皇帝からの貢ぎ物を出せとの命に従わず、友軍を募りローマを征服、ローマ帝国皇帝となる。

 ……これが私ですか? え? なんですかベティヴィエール? しっかりしろ? ああ、そうですね。貴方の言うとおりです。

 そしてこのローマ遠征へ出た時に、国を守っているはずのモードレットが反乱を起こし、結果カムランの戦いでアーサーの命運が尽きるわけです。
 ちなみに聖杯探索には正式に参加したのは数名の騎士であり、アーサー自身は特に関与しておりません。盛り上げている割りに、途中にとってつけたような話となっております。

 ブリタニアをまとめ上げた王の中の王。ブリタニア救国の王。
 やはりここまでがオリジナル、あるいは原型のアーサー王伝説なのでしょう。十二の会戦とは後期のアーサー王伝説では冒頭の戦いに過ぎません。
 また、王の中の王とは王達のまとめ役、議長役のようなものであり、ブリタニアには他にも王達がいました。
 しかしいつの間にかただ一人の大王になり、他国に侵略を開始し、皇帝になってしまいます。
 ローマ皇帝の座に着くというのは後生「キリスト教徒の理想の王」というイメージが後付けされた結果、付け加えられたものなのでしょう。

 ブリタニアに始まり、支配民族が変わりイングランド、そして輸出されてフランス、逆輸入されてイギリスへ。幾多の民族に語り継がれ変遷を受けた伝説の王、アーサー王は複雑な性格を持つに到っているのです。

 簡単ではありますが、以上を以て「その人。アーサー」の講義を終わります。モデルは一人ではなく、王でもなかった。十二の会戦は伝説の初期。実は征服王。ちゃっかりローマ皇帝。この辺りが抑えどころかと思います。
 ……納得いきませんが。では、失礼します。

 くっ! アーサー王伝説を紹介するのが本意ではありますが、まさかローマ皇帝になっていたとは!! え? 自分のことだろう? それはそうなのですが、自分であって自分でないとでも言いましょうか。……複雑です。後は頼みます。

 しょぼくれたセイバーが教室から出て行き、聴講生が動き出す。ベティヴィエールはつとめて平静に口を開いた。
「今回の講義を以て、アーサー王伝説講義は第一クール終了となります。伝説の概略と成り立ち、原型と変遷の触りを知っていただくには充分だろうとのことです。再開の時期などは判りかねますが、あるいは形を変えて説明がされるかも知れません。関心を持たれた方は書籍を手にし、原文に目を通してみてはいかがでしょうか?」
 では、と彼が挨拶すると、教室の灯りは落とされ静寂が訪れた。

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