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 少女は立ち上がり、頬に付いた粒あんを素早くぬぐい取った!
 まとめられた金糸の髪は一筋の乱れもなく、見開いた緑の瞳は強い意志に輝いている。
 まさに今こそ天王山。いざ! 我らの戦場へと駆け上がらん!!

 行きますよベディヴィエール。我に力を。

 では講義を再開し! 説明を続けます!!!

セイバーのアーサー王伝説講義
第四回:誕生! エクスカリバー!!!


 さて、アーサ王の剣「エクスカリバー」世界に名高いこの魔法の剣について、その原型と影響を解説いたします。
 まず、原型となったと思われる伝説の魔剣、聖剣を列挙いたします。

 一本目、ケルト神話の魔法の剣「カラドボルグ」
 二本目、フランス騎士文学、ローランの歌の聖剣「デュランダル」
 三本目、イタリア、トスカーナ地方の「岩に突き刺さる聖剣」

 まずはカラドボルグについてです。
 カラドボルグ(Caladborg)はケルト神話のアルスター伝説に登場する剣で、アイルランド語で「硬い稲妻」を意味し、ウェールズ語はカラドヴルフ。エクスカリバー(カレトヴルッフ)のウェールズ名と同じとなります。
 現代英語に無理矢理あてはめるならコールド・ボルト、と言ったところでしょうか。

・コールド(硬く、冷く、鋭く尖った)ボルト(一撃、電撃、瞬間圧、鋭い切っ先の突き)
(注:単語に含まれる意味が英語と日本語で異なることに留意してください。また、学術解釈とは異なります)

 カラドボルグは「剣」です。王に仕えるケルトの戦士は軽装で、従者に戦車(チャリオット)を引かせて自分は槍を投げる。という戦闘スタイルでした。剣はサブウェポンで両刃の片手剣だと思われます。
 戦士フェルグスがこれを振るい、三つの丘の頂を切り落とした。といエピソードがあります。
 また、エクスカリバーと同じ特質として「その剣で斬りつけられると、稲妻に撃たれたかのような衝撃を受け、石になったかように固まった」という表記があり「たいまつを束ねたように光り輝く」というやはりエクスカリバーと同じ形容がされているようです。
 年代的にはカラドボルグの方が当然古く、当時のブリテン(ブリタニア)ではローマンケルトすなわち基督教に改宗しながらケルト神話も語り継いでいる国民が多かったわけですので、カラドボルグのイメージがアーサーの剣に投影されたのは無理のない話と考えられます。

 次にデュランダルについて述べます。
 デュランダル(Durandal)は十一世紀フランスの叙事詩「ローランの歌」の主人公ローランが持つ架空の剣です。
 フランク帝国の王シャルルマーニュの甥で、辺境の伯爵ローランの愛剣として描かれるこのデュランダルは、まさに聖剣中の聖剣。
 当時、剣の主流はロングソード。これは馬上で片手、地上では両手でも使える物です。言っておきますがバスタードソードとは違います。本物のロングソードには両手持ちできる物も多くあります。
 黄金の柄をしており、柄の中に多くの聖遺物が収められています。
 聖母マリアの衣服の一部、聖デュニの毛髪、聖バジルの血、聖ピエールの歯、これだけの聖遺物が収められたデュランダルは、その黄金の柄のこともあって「黄金の聖剣」といいうイメージを持ちます。
 また、最高の聖剣といえば、やはり一般的に言ってこのデュランダルがそれだと言えるでしょう。
 物語の終盤において、瀕死となったローランが、剣が敵に奪われるのを恐れ、剣を折ろうとして岩を叩くが岩を両断し、最後は河に投げ捨てられた。というエピソードを持ちます。
「河に投げられた聖剣」のイメージがエクスカリバーに取り込まれるのですが、それは後で説明いたします。

 そしてイタリア、トスカーナ地方の「岩に突き刺さる聖剣」。
 イタリアのトスカーナ州、シエナという町の聖ガルガノ修道院に、岩に突き刺さったままの剣が、中世より実在します。
 別名「トスカナのエクスカリバー」聖剣と扱われる実際に存在する剣です。
 十二世紀、騎士ガルガーノがフィアンセに会うため移動していると、馬がいななき振り落とされる。そこに大天使ミカエルのビジョンが出現し、岩に剣を突き立てるように命じます。
 ガルガーノは、そんなことは出来ないと思いながらも剣を刺すと、まるでバターに刺しているかのごとく根本まで突き刺さり、これに畏怖して彼は剣を捨てて隠者となってそこに死ぬまで住み続けます。
 そして修道院が建てられ、今でも剣が保護され、観光名所にもなっているのです。
 かつては観光用の偽物では? と思われていたのですが、検査の結果、剣は十二世紀の物と判ります。また剣の刺さった岩のしたに空洞があって墓ではないかと言われています。
 岩に十字架のように刺さった聖剣。このイメージもまた、エクスカリバーに取り込まれます。

 それぞれが神話、伝説、伝承に歌われし剣ですが、ここで「魔剣」についても述べさせていただきます。
 基督教文化圏においては、教会の祝福がされていない「不思議な剣」「異教の神が与えた剣」「妖精が与えた剣」「魔法使いが作った剣」「名高い名剣」などは全部、魔剣(マジック・ソード)と呼称します。

 基督教の剣。それは聖剣。基督教以外の剣。それは魔剣。

 神が作ろうが魔法で作ろうが鍛冶屋が作ろうが、有名で不思議な剣があり、それが教会の祝福を受けていないのならば、それは魔剣。マジック・ソード、魔法の剣と呼ぶのです。
 多神教世界の住人である日本の皆様には、共感しがたい考え方だとは思いますが、一神教とはこのように考えるのがむしろ当然ですのであしからず。

 さて、アーサー王の剣は、第一の魔剣カラドボルグを原型として誕生した訳ですが、この頃のアーサー王のイメージは「救国の英雄王」でした。
 現地の住民はローマンケルト系が多く、基督教を信仰しながらケルト神話も語り継いでいます。
 そのため、アーサー王がケルトの英雄達が使用したカラドボルグに似たカレトヴルッフを振るっても、それは喜ばしいことですよね?

 しかし伝説が海を渡りフランスで発展していく内に、アーサー王の性質が救国の英雄から「基督教徒の理想の王様」に変化します。
 すると彼の持つ剣が異教のマジック・ソードでは困るわけです。
 そこで、フランスの詩人達は当時最新の流行である騎士物語から、基督教の聖剣の伝承を取り込み、アーサー王の剣に基督教的イメージを加えたのです。

 すなわち「湖に捨てる」話を入れて、河に捨てられた聖剣デュランダルのイメージを連想させる。
 そして「岩に刺さった剣」の話を入れて、トスカーナの聖剣を連想させる。

 これにより、エクスカリバーは「魔剣」でありながら基督教の理想の王、アーサーが持つにふさわしく、つまり「他の有名な聖剣と同じエピソードを持つ剣」へとそのイメージを変えられていったのです。
 魔剣グラムがエクスカリバーの原型ではないと考えられるのはここです。グラムは選ばれた者しか刺さったリンゴの木から抜けない。というエピソードを持ちますが、当時はトスカーナの聖剣が有名になっていますので、わざわざ魔剣グラムのイメージを取り込む害悪は必要ない。というのが学術的な見地となっております

 まとめます。

 ブリタニア救国の英雄王アーサーの魔剣、光り輝くカレトヴルッフは、ラテン語で鋼鉄のカリバーンになった。
 海を越えたフランスで、キリスト教徒の理想の王がもつに相応しくなるべく、他の聖剣と同様のエピソードを加えられた。
 そしてブリテンに帰ってから、折れた呪われしカリバーンと、王の真なる剣エクスカリバーに分かれた。

 こうして現代にまで語り継がれる王の剣「エクスカリバー」が誕生したのです!!!

 最後に、
 伝説に歌われし王の剣エクスカリバーは、さらなる変化を続けています。様々にその姿を現しては、その姿形、その性質、その役割を変えて、物語に彩りと輝きを与えていく。それはきっとこれからも変わらないでしょう。そうです。伝説は生きているのです。

 以上を以て、第三回「初めの剣はカラドボルグ?」第四回「誕生! エクスカリバー!!!」の講義を終わります。ありがとうございました。礼。

 ああ、ベディヴィエール。ベディヴィエール。ふぅ。私は今、胸一杯の充足感に満たされています。え? 日本語おかしい? ふふふ、さすは我が騎士。そうですね。戦いなき時こそ、騎士はその教養を示さねばなりませんね。気をつけましょう。それにしてもお腹が空きました。どうしましたベディ? 頭で壁を叩くのは感心しません。物は大切にしなさい、判りましたね。では後は頼みましたよ。

 セイバーの退室を見送って、ベディヴィエールは頭をさすりながら口を開いた。
「次回の講義テーマは「鞘とその他の装備」です。アーサー王は、王の剣エクスカリバー以外にも剣を持ちますし、短剣、槍、鎧、盾、馬なども名品、名馬を持つのです。よって次回はエクスカリバーの鞘と、これら副装備品についての講義になります」

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