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 ここは何処とも知れぬ不思議空間。
 虎の竹刀を持つ女性とブルマの少女がいるという妖しげな道場の、恐らくは斜め下あたりにあるのはないかと思われる教室である。
 聴講席の側に集まった者達は何故か皆二頭身であった。紐で吊られた少年。煙草を咥えたやさぐれツーテール少女。青黒い髪のヘタレ少女。他にも時代を無視した装束に身を包んだ者がちらほらと集まっている。
 そんな教室の前にある教壇に、金髪を編み込んで後ろにまとめた翠(みどり)色の瞳の少女が、傍らにいる助手の青年に向かって講義内容の確認をやっている。

 この講義もついに三回目です。我が騎士ベディエールよ。私は今、大いなる喜びを感じています。なにがそんなに嬉しいのか? ふ、サブとはいえ一つのコーナーを受け持つ責任者、それが私です。それはすなわち、一つの国を治めるのに等しいほどの重圧を感じさせるのです。よって……。なんですかその目は! 貴方は少々危機感が足りないのですベディヴィエール! どこぞの裏コーナーでは金ピカが従者を引き連れ、紹介コーナーを始めたというではないですか! 許せぬ処遇です。この戦い、戦士として王として、負けるわけにはいかないのです。ベディ、貴方は騎士です。あの男の従者になど後れをとってはいけませんよ。ごほんげほん。ではそろそろ……

セイバーのアーサー王伝説講義
第三回:最初の剣はカラドボルグ?


 皆さんこんにちは、三回目である今回、そして連続して四回目の講義をもってアーサー王の剣について、そして世界に名高い魔法の剣「エクスカリバー」についての集中講義を、サーヴァント・セイバー。アーサー王ことアルトリアが行わせていただきます!

 さて皆様。アーサー王の剣と言えばエクスカリバー。まさに代名詞的存在です。
 ですが伝説を辿って見てみると、アーサー王の剣がエクスカリバーになったのは実はかなり後であり、様々に変化した果てである。ということが判ります。
 まずざっとその変化を列挙してみます。

六世紀  「カンブリア年代記」アーサーという指揮官登場、王ではない。
剣について記載なし
九世紀 「ブリトン人史」アーサー王登場。剣について記載なし
十一世紀後半 「マビノギオン」ウェールズの伝承書。
アーサー王の剣がカレトブルッフ(Calodfwich)の名で初めて記載される。
賢い(calet)刻み目(bwlch)あるいは「硬い切っ先」(カラドボルグ)を意味するウェールズ語
十二世紀前半 「ブリタニア列王記」ラテン語で書かれていて剣の名前が、鋼鉄を意味するカリュブス(chalybs)に似た音のカリブルヌス(Caliburnus)と綴られる。
このラテン語名から、名詞であるという格変化である語尾の-usをとって、カリバーン(Caliburn)
十二世紀中 ラテン語版がフランスへ渡り、発音がフランス風にカリブール(Calibour)に変化
フランスで多くの騎士物語が追加創作される(このノリは二次創作に近いと思われます)
冠詞(英語で言うa,theなどの意味はないが語句を飾る働きを持つ語)が付き、エス・カリブール(Es calibour)となる(十二世紀後半〜十四世紀)
十五世紀 ブリテン島に逆輸入。当時の英語にはesに相当する語句が無く、音を合わせてesがexになる。カリブールも英語風発音にしてエクスカリボー(Excalibour)に変化
フランス語版では、カリブール(冠詞なし)とエス・カリブール(冠詞あり)の記載が完全に統一されておらず、英語の訳本にカリバーンとエクスカリボーが混在し、混乱を呼ぶ。ここで剣が二本に分かれる。
十五世紀半ば 英国の騎士トマス・マロリーが「アーサー王の死」で様々なアーサー王関連の物語を一つのまとめ、アーサー王伝説がここに(一応)完成。
岩から剣を抜くエピソード。剣が折れるエピソード。新たに剣を得るエピソードがここに揃う。しかし剣の名前はカリバーンとエクスカリバーの厳密な使い分けがされていない。混乱は続く。

 えへん、ごほん。
 実は今でも、岩から抜かれ折れた剣がカリバーン。新しく手にした剣が今の名前エクスカリバーと完全に整理され、理解されている訳ではありません。
 うんちく好きの人々が勝手にそう解釈しているのが現状である、といって言い過ぎでもないでしょう。
 また、どちらもエクスカリバーだと思っている人も多いのです。
 ただ、exには「鍛ち直す・作り直す」という意味もあるので、折れた剣の代わりに受け取った剣「エクスカリバー」というイメージだけは定着していていますね。
 
 つまり、エクスカリバーが折れ、湖の妖精がそれを治して再びアーサーが手に取った。という話。剣はエクスカリバー一本であるという扱い。
 そして、折れたカリバーンは不幸を呼ぶ不吉な剣(本当にそういうイメージがあります)で、エクスカリバーとは別である。という、剣を二本として扱う二つのバージョンのアーサー王伝説があるということです。

 ああ、言っておきますが、以上に述べた変化の流れはこれが確実というものではありません。あくまで一例と思ってください。
 他にも多くの学説が存在します。
 手書き写本なのでスペルを間違えた。とか、冠詞ではなく接続詞et(英語でのand)がカリブールとくっつきEtcalibourがエクスカリボー、エクスカリバーになった。などの説もあります。

 ややこしいので、まとめます。

・初期:カレトヴルッフ(または発音カラドヴルフ。カラドボルグのウェールズ語と全く同じ)
・中期:カリブルヌス・カリバーン・カリブール・エスカリブール(総じて「鋼鉄」の意味を持つ)
・後期:エクスカリボー・エクスカリバー(鍛ち治されたカリバーン)
・末期:勝利すべき黄金の剣(カリバーン)・約束された勝利の剣(エクスカリバー)

 このように、なっ! 何ですかベディ、いきなり立ち上がってどうかしましたか? 顔が真っ青ですよ。なにを? は? 末期のそれは違うだろ? 

 ……ベディヴィエール。



貴方は何を言っているのですか!!! 我々が何処に依存する存在であるかということを貴方は理解していないのですかっ!!! そこになおりなさいっ!!! カリバりますよっ!!!

 我が騎士ともあろうものが何という、え? 判った? 私がどれだけ苦労しているか、本当に判っているのですか? いいから好きにしろ? むむっ。その疲れたような目が気になりますがまぁいいでしょう。 ベディ。後で話し合いましょう。お茶請けにどら焼きを用意しなさい。いいですね。げほんごほん。

 聴講生の皆様、大変失礼しました。不手際を深くお詫びします。
 気を取り直して講義を続けさせていただきます。

 このように、アーサー王の剣がエクスカリバーとなったのは、実は十五世紀です。アーサー王伝説が「神話」ではなく「伝説」とカテゴライズされているのは、やはり成立年代の新しさ故です。
 そして新しいが故に、原型となったと思われる伝説の魔剣、聖剣が存在するのです。

 一本目はケルト神話の魔法の剣「カラドボルグ」
 二本目はフランス騎士文学、ローランの歌の聖剣「デュランダル」
 三本目はイタリア、トスカーナ地方の「岩に突き刺さる聖剣」

 最新の研究ではこの三本の剣がエクスカリバーの原型であると考えられています。
 他にも原型ではないかと思われる剣はあります。龍殺しの剣グラムがその代表でしょうか。
 ただしグラムは今現在、エクスカリバーの原型の候補としては立場が弱いと言えます。これについては後半の講義、トスカーナの聖剣の紹介でまとめて解説させていただきます。

 むむっ。時間がきたようですね。では少々の休憩を挟みます。
 後半の講義内容は、原型である「カラドボルグ」「デュランダル」「トスカーナの聖剣」についてその紹介と、エクスカリバーへの影響を述べていきます。


 ……休憩が入り、雑然とし始める聴講生達。
 そんな喧噪を横目に、セイバーは教壇より降りて講堂脇のデスクに小走りで近寄る。

 ベディヴィエール! 急いで次の講義を用意しますよ! ついにエクスカリバーの真の姿が、この極東の地に知れ渡るときが来たのです! ああ! 全く以て感無量です。というわけでそのお饅頭を寄越しなさい。小腹が空きました。講義に必要なエナジーを今の内に緊急補給します。
 もぐもぐ。そうそう、この粒あんのほのかな甘みが……。はっ。和んでいる場合ではない! さあ次の戦いです! 行きますよベディ!


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